驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで 作:八幡悠
昼頃。京都、伏見。
「まもなく目的地周辺です。案内を終了します」
「終わるな終わるな。古いカーナビじゃないんだぞ」
「当然冗談。そこの坂の途中を曲がってすぐだから」
私とウオッカは京都駅で新幹線から電車に乗り換えたあと、直接京都レース場へ向かわず途中下車して神社にお参りに訪れていた。
ジャーニーさん謹製の旅のしおりには、京都駅から昼食や観光などのこのあたりの行程はあえて詳しく記載されていない。
それもこれもなぜか私がこの辺りを庭としていることがジャーニーさんに知られていたからなのだが……深くは追及するまい。
なのでまあ、適当にやることにした。
1時間ほど前、京都駅。
「ちょっと早いけど、お昼ごはん何がいい?」
「何、って言われてもなぁ……」
「カレーか麺なら?」
「麺だな」
「うどんかラーメンか」
「ラーメン」
「しょうゆ、豚骨、家系」
「ならしょうゆで」
「おっけー、じゃ電車乗ろっか」
それならあそこかな、と店を決める。
こんな感じでゆるく昼ごはんを決め、来ていた電車に乗り込んだ。
『この電車は、竹田より先京阪線大阪中之島方面に参ります快速急行九条ゆきです。本日トゥインクルシリーズ開催のため、京都レース場前淀に臨時停車いたします。停車駅は竹田、丹波橋、中書島、京都レ──』
車内は日曜の昼だというのに席が埋まる程度には人がいた。
「お、これそのまま乗ったら京都レース場か。結構近いんだな」
「そだね。これは直通するやつだから15分ちょい。乗り換えても20分ちょいで着くかな」
レース場そのものも駅直結だし、公共交通機関で一番遠征しやすいレース場だろう。
今日は途中の駅で降りて、並足で目的のラーメン屋さんに向かう。
ラーメンにチャーハンと唐揚げというレースまで2か月あるからギリ許されるギルティメニューを平らげた。
「京都って言うからもっとあっさりしたのかと思ったら、意外と濃厚な感じなんだな」
「それは“京風”であって京都のラーメンじゃないんだよね」
濃口醤油のスープに浸かった麺をすすりながら話す。
そもそもこってりで有名な某チェーンからして京都発祥だし、“京風”があっさりというのはメディア向けの顔に過ぎない。
伝統だなんだというイメージは強いが、思われているより京都人はミーハーで新しい物好きだ。
「例えば、パンの消費量1位は神戸市だけど2位は京都市だったりね」
「なるほどな。おすすめのパン屋さんとかあったりするのか?」
「そうだね。時間があったら寄ってみよっか」
食べ終わると、腹ごなしに走りながら目的地へ。
車が行き違えないような裏道を走り抜ける。
「なんかさー、思ったより碁盤の目じゃないんだな」
「そら伏見は京都じゃないからね」
歴史的にというか成り立ち的にというか。
一応区画は四角いが道は東西南北方向には走っていないし、斜めに交差する通りもある。そりゃ府中と比べたら碁盤の目だが。
そんな他愛もない話をしつつ、道中でたこ焼きを買い食いしたりしつつ、目的の神社へとたどり着いた。
その社は戸建てと商店が並ぶ下町といった地域の中に建っていた。
「へぇ、ここが案内したかったっていう神社か」
「勝運とウマ娘の社、今の私たちにピッタリじゃない?」
今から約千八百年前、時の皇后によって創建された古社。
「
「いいの。ちゃんと効き目はあるんだから」
そう、効き目はあるのだ。
だからこそ、今日はこうしてお礼参りに来ているのだから。
木々の間を通り抜けて境内へ。
両側を木々に囲まれたトンネルは、京都のうだるような暑さの中で清涼な空気を醸し出していた。
境内へと向かう道の大部分は固められた路盤ではなく、土のバ場となっている。
春の祭りではこのバ場で神馬役のウマ娘が神事を行うという。
「駆けウマ神事、ねぇ」
「5月のゴールデンウィークシーズンにやるらしいよ」
「5月の京都……春天かぁ」
そのバ場の脇には柵で囲われた生け垣がある。その立て看板には
「この神社、あじさいでも有名なんだって」
「ああ、あの生け垣ってあじさいの生け垣だったのか。けど6月かぁ」
「その時期は阪神開催だから
そう、あじさいの見ごろの時期には京都でレースはやってないのである。
我ながら無粋の極みだが、我々競争ウマ娘にとっては季節行事よりレースカレンダーのほうが大事なのだ。
なんて言うと
そんなことを思いながら境内を進む。
日曜日だとはいっても境内にはそこまでの人出はない。あくまで静かな雰囲気が漂っている。
手前にあった公園にも何組かの親子連れがいた程度、あとは地元の参拝者がメインで観光客らしき姿は少数派だった。
丁度よく
上を見上げると、屋根の傾斜の内側に張り付けるようにウマ娘の絵姿を描いた額が収められていた。
どうやらここは単なる休憩スペースではなく、奉納された絵額を飾る奉額殿も兼ねていたようだ。
「トウカイテイオーにナリタブライアン、アドマイヤベガ、ナリタトップロード……クラシックを勝った先輩ばっかりだな」
「こっちはレースのやつかぁ、奉納 藤森特別 勝運祈願、だって」
屋根の内側には勝負服を纏った先輩方の立ち絵姿やレースの戦勝祈願の額が所狭しと並んでいる。
これを描いた人は、どんな思いを込めてこれを奉じたのだろうか。
いつか私たちもこれぐらいは、いや俺はレース場に銅像が建つぐらいには活躍して見せる、と2人で決意を新たにした。
「でも銅像ってどうやったら建ててもらえるんだろね?」
「建てるだけならテイエムオペラオー像とかあったけどな」
「それは撤去されたじゃない」
自分で建てるならともかく、レース場に建ててもらえる級となるとよっぽどの功績が必要だろう。
それこそシンザンに並ぶほどの。
三冠……はもうお互い無理だから、それに類するような功績が。
そして向かいの宝物殿が無料公開中だというので寄ってみた。
「宝物殿って言ったら刀とか鎧兜とか掛け軸とかだと思うじゃんか……」
「半分ぐらいはそうだったよ。もう半分も刀だった。なんか人間になってたけど」
「ほとんどタペストリーとかぬいぐるみとかのオタクグッズばっかりじゃねーか。なんでも擬人化すりゃいいってもんじゃねーぞ」
「軍艦とか流行ってるもんねぇ。にしても公式が全力で乗っかりすぎだけど」
名刀鶴丸国永の写しの横にそれを擬人化したオタグッズが詰め込まれた棚が並んでいるというのは壮観だった。
写真撮影OKだったので思わず撮ってしまう。
なんでもコラボグッズやコラボ御朱印まであるというのだからもう……言うことはない。
あとは境内の湧き水で喉を潤してみたり。
その水は1000mの地下から湧き出ており、勝運のご利益があるという。
「冷たくて旨んめぇなぁ!」
「きっとこんなおいしい水があるから酒づくりが盛んなんだね」
そうやって境内を観光して回る。
とはいっても住宅街の中の小さな神社、一周見て回っても1時間もかからない。
いよいよ今日のメイン、本殿でお参りを行う。
参道が突き抜けている神事の舞台となる拝殿を過ぎ、奥の本殿へと向かう。
その最中には願い事が奉納された札がたくさん吊るされており、学業成就家内安全といった普通のものに加えてレース関連のものが散見されるのがこの神社の特徴と言えた。
社殿の前に立つ。
二拝二拍手一礼。ウオッカと2人並んで手を合わせた。
境内には蝉の声だけが響いている。
胸の中でそっと言葉を結ぶ。
夏にお願いしていた通り、ウオッカは無事に遠征から戻ってくることができました。ありがとうございます。
──夏合宿の後、空港でウオッカを見送って実家に帰ったタイミングでそのようにお願いした。その願いは叶ったのだ。
引き続き、秋華賞を含めて全ウマ娘の無事をお祈り申し上げます。
──全ウマ娘無事。幾多の悲劇を超えて安全対策は年々強化されている。それでも事故は完全には防げない。だからこそ、祈るより他無い。
私の走りをどうかお見守りください。
──勝たせてくれ、と願わないのは私の小さなプライドのようなものだった。
こんなところだろうか。
なんとなく、勝ち負けを神仏に祈るのは違うよね、と思ってしまう。勝運とウマ娘の社に来ておいてそれはどうかと思わないでもない。
だけども、走るのは私自身だし、みんな勝ちたくて走ってるのだから。
隣をちらりと覗き見る。
目を閉じて真剣な表情のウオッカ。
やっぱりこうしてると顔がいいよね、と思いつつ再び目を閉じる。
──理想を、超えるために。
そうして私たちはお祈りを終えた。
【フレーバー】レヨネット(主人公妹)の戦績【興味本位】ストーリーには影響しない&現時点でプレイアブルのネームドキャラの勝ち鞍には影響しないんで雰囲気で選んで大丈夫です。後選ばれたら絶対こうみたいな話でもないです。
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最低保証
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つよい
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すごい
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すごくすごい
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ヤバい