驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで 作:八幡悠
参拝の後、参道の石畳を歩きながら、そういえばといった様子でウオッカが口を開く。
「すごいよな、トレセン学園を出てからここまで誰にも声をかけられなかったぜ」
「ね。フライトさんもメジャーさんもすごく協力してくれたもんね」
そう、こうして出かけてくるにあたって、私たちは変装をしていた。
たづなさんが言うように、そのまま制服で出歩いて騒ぎが起こってはことだからだ。
とはいえお互い変装の心得なんてない。
どうするんだ、と集まったのが数日前。
「つってもどうすんだよ変装なんて」
「大丈夫、プロにお願いしといたから。先生よろしくお願いします」
「変装ならオシャレ番長ノースフライトにお任せ!」
そうしてやってきたのはトレセン学園のおしゃれ番長ことノースフライトさん。
使える人脈は使うべきだ、ということで、フライト先生にご相談してみたのだ。
「そうだね、やっぱり世間の2人のイメージは勝負服のワイルド系やフォーマル系に引きずられるから、そこをガラッと変えれば本人だと思われづらいかな」
「あの、俺、あんまり小遣いに余裕がないっていうか……できるだけお金を掛けないほうが嬉しいっす」
「まかせて! お金を掛けるだけがオシャレじゃないよ!」
ここまでが出発の数日前、ウオッカが帰国してすぐのこと。
そしてその結果が今日のお互いの姿だ。
「髪降ろすだけで結構イメージ変わるんだね」
「服もギム先輩から借りたからな!」
普段は括っている後ろ髪はおろしてなびかせている。
服も勝負服や彼女の私服のようなワイルドでスポーティなものではなく、ギムレットさんから借りた紫系のしっとりとした色気のあるワンピースを着用していた。
なんでも、フライトさんとギムレットさんに前日何時間も弄くり回された結果だとか。
特徴的な流星もうまくスタイリングされ、その姿にはフジキセキさんすら一瞬たじろぐほどの変わりようだった。
「お前はアレだよな、双子コーデってやつ?」
「メジャーさんと体型は一緒だからね。服の趣味は違うけど」
翻って私は、ウオッカと逆に後ろ髪を括ってテールヘアーにしていた。
そのテールは白いクローバー型のアップリケがついた青いキャップに通している。
これも含めて、メジャーさんの公式ファングッズやその元となった彼女の私物で全身固めている。
要するに露出が多くてお腹とか太ももが大胆にさらけ出された格好ということだ。
私の私物は、唯一カバンにつけた“一緒にお出かけぬいシリーズ『ダイワメジャー&ダイワスカーレット勝負服Ver』”だけ。これも本人たちに貰ったサンプルだが、これだけは彼女が身に着けない代物だった。
それにしても……。
「マ子にも衣装とはこのことかぁ……」
「ギム先輩みたいなこと言うなよぉ。そっちだって随分気合入ってんじゃねーか」
「メジャーさんも一回やってみたかったんだってさ」
素材がいいと何着ても似合うなぁ、としみじみ言うと、ウオッカは顔を赤くして恥ずかしがる。初心だなぁ。
そしてメジャーさん曰く、友人たちとはやりたくても体型が合わなくて、スカーレットも本格化前後は体形が合わず、最近は反抗期気味で拒否されてできていなかったらしい。
全身メジャーさんコーデが完成すると、感無量といった様子で2ショットやらたくさん写真を撮られた。
「いやぁ、なんか、こう、クるものがあるなぁ。今度お前のも貸してくれよ。そんで一緒にお出かけしようぜ」
「いいですよ。あ、写真のアップは帰ってきてからにしてくださいね」
じゃないと変装した意味がない。
それにしてもあの人、毎日王冠、秋天、マイルCS、有馬ってローテだったはずだけど、どこでお出かけ挟むつもりなんだろうか。
あ、そうだ。
「ねー、ツーショ撮ろツーショ。
「いいぜ! んー、どこがいいかな。あのウマ娘像前でいいか」
2人で身を寄せ合って、ついでにウオッカの肩に腕なんか回しちゃってパシャリ。
こうしてみると、今の私は髪色も栗毛で近いのもあって顔以外ほぼメジャー先輩なんだよね。
すると今度はメジャー先輩と間違われて変装の意味がない。
なので、バッグを“Major”と大書されたメジャーさんのグッズ(サンプルを借りた)にして、さらにぬいぐるみや缶バッジを共産圏の将軍のごとくゴテゴテと取り付けた。
これで本人には見えまい。名付けて“ダイワメジャーが好きな私は!”作戦である。
だいたいやることは終わったので、最後にお土産を物色する。
社務所の横の売店には、お守りやキーホルダーといった定番のものから扇子や手ぬぐいといった外人が好きそうな和のものまでが取り揃えられている。
「なんだこれ。馬が逆になってる」
そんななか、ウオッカがとある商品を手に取る。
それはストラップに将棋の駒の形の根付がついてるのだが、馬の字が鏡文字になっていた。
「それは左馬っていいまして、縁起物なんですよ」
売り子の巫女さんによると、金運、商売繁盛、技芸向上、勝負運等にご利益があるらしい。
「さらにウマ娘さんの場合、ウマ娘の左に立てという故事があることから転じて、ずっとそばにいるという意味を込めて恋愛運にもご利益があると言われていますよ」
ふぅん。確かにそういわれてみればトレーナーさんが私の横にいる時はだいたい左側な気がする。
あれはそういうことだったのか。
「じゃあひとつ貰おうかな」
「お? 誰かあげる相手でもいんのか?」
「トレーナーさんに。最後まで私の左隣に立つのはトレーナーさんだけだから」
「……そうか。いや、うん、そのほうがいいよな」
そう答えると、ニヤッとしていたウオッカの表情がわずかに曇る。
なにかおかしなことでも言ってしまっただろうか。
「……どうかした?」
「いや、別に。ただ……まあ、色々あんじゃん。うん」
要領を得ない返答だが深くは追求しない。
きっと何かあると直感が囁くが、濁しているのにわざわざ聞くのもなんだから。
そして、直後に横から話しかけられたからでもある。
「もしかして……メジャー姉貴推しですか!? そのキャップ、既製品じゃないですよね!?」
そこに居たのは若いヒトミミの女性。
淡いベージュの半袖ニットに、薄手のデニムジャケットを腰に巻いている。下半身は白のフレアスカートにスニーカー。
ここまでは普通だ。
だがトートバッグにはゲートを模したケースに収まったメジャーさんとスカーレットのぬいぐるみ、頭にはMajorの刺繍とクローバーのアップリケのついた青いキャップ。
ダイワメジャーファン(本物)がそこに居た。
「あ、えっと……」
「やっぱり! それ姉妹G1制覇記念の勝負服モデルお出かけぬいですよね!」
彼女は私が振り返ったタイミングで目に入ったカバンのぬいぐるみにも食いつく。
早口でまくしたてる様子は“ホンモノ”感がある。
いやこれ大丈夫か? そう気が気でない私に対して隣のウオッカが少しずつ距離を取りながら、絶対バレるんじゃねーぞ、とでも言いたげな視線を送る。
フライトさん曰く、容姿的に特徴が多く身バレしやすいのはウオッカの方、ということで並んだ時に視線を吸収するよう派手めな被害担当艦役を引き受けているというのに薄情なことだ。
「あなたもこれから京都レース場に? 私も指定席の抽選に当たったんでこれから行くんですよ!」
「あはは……私たちもそんなとこです」
そんなとこ、というか関係者なのでフリーパスなのだが。
そうしてハイテンションに話しかけてくる女性に話を合わせつつあしらうタイミングを図る。
「ねぇ、見た? 今日の秋華賞の出走表。正直、メンバー薄いじゃない? スカーレットの優勝はもう確定みたいなものよね。あとは2着と3着が誰か、ってところ」
単勝じゃいい席取れないだろうから、今日は特別ライブもあって倍率高いんだから三連単狙わないと。
そう言って、彼女は当然のように笑った。
確かにスカーレットは強い。正直、楽に勝つだろうというのが私の冷静な部分の見立てだ。
……でも、スプマンテだって、ほかのウマ娘だって頑張ってるのに。
胸の奥が、ざらっとした。
彼女は悪意なく言っているのだろうけれど。
「で、その次! 本番はエリ女よ。……って言っても、相手になるのはウオッカくらいじゃない? あの子も凱旋門とか言っても結局“一発屋”だったしさ」
呼吸が一瞬止まった。
一発屋? そう言ったか? ウオッカを?
「所詮オークスからダービーに逃げた訳だし、ここはスカーレットのエリ女戴冠間違いなしでしょ」
……そんなふうに言われるんだ。逃げた、だなんて。
ウオッカがどんな思いでティアラを選んだか、ダービーを目指したかも知らないで。
胸の奥に、初めての嫌な痛みが走った。
怒りのようで、悲しみのようで、それでも言葉にならない揺らぎ。
「でもほんっと悔しいのは桜花賞よね〜! あの3センチ差! あれさえなければ、スカーレットがトリプルティアラだったのに!史上初の“パーフェクトティアラ”、もあったってのに!」
「かも、しれませんね」
……そう。それはそうだ。
私の勝ちが不思議だったわけでも、スカーレットの負けが不思議だったわけでもない。
でも、──走ってもいない未来まで、全部決めつけるのは……違うだろう。
「安田記念? あれはほら、所詮“斤量差と運”でしょ? あんなの参考外、参考外!」
「そうですね」
……事実だ。
これについては胸はびくりとも動かない。
クラシック級に与えられた斤量のハンデ、メジャーさんのそばの枠を引けた運、そこまで警戒されていなかったという背景、そして何よりメジャーさんが積極的に潰しに来なかったこと。
そこまで条件が揃ったうえでハナ差ということの意味は、私が誰より知っている。
「だからさ、マイルCSはメジャーが“連覇”するに決まってるでしょ、やっぱ」
まあ……そう思われるよね。
メジャー先輩は強い。それは私だってよく分かっている。
「メジャーさんは強いですからね。私も現地に行きます」
とっさに口に出た。
実際は出走しに行くんだけど……まあいいか。
「でしょでしょ!? ほら、短距離の“裏街道”に逃げた子にはさ〜、絶対負けないよ、メジャーは」
……裏街道。裏街道か。そんなつもりは……なかったんだけど。
かつて“マイルの皇帝”が拓き、“王”と“女王”がその走りによって分け、“大雨の中の無敵”が年度代表を勝ち取ってなお。
外からはそう見えるんだ。
胸に小さな違和感だけが残って、私はただ短くまばたきを返した。
……ならば、今度はスプリンターとして、認めさせてやろうじゃないか。
それからしばらく話を合わせて、今からレース場に向かうという彼女と別れた。
彼女は一緒に行きたそうにしていたが、寄るところがあるといって少々強引に話を打ち切った形だ。
……正直、これ以上喋っているとボロが出そうだった、というのが理由だった。
女性が離れたのを見送って、ようやくウオッカのほうを振り返った。
……耳が少しだけ下がっている。
肩の位置もわずかに落ちて、いつもみたいな挑発的な笑みも作れていない。
「……あー……ったく、すげぇのに捕まったな、お前」
軽口めかしてそう言うけれど、声がほんの少しだけ沈んでいた。
私と目が合うとウオッカは慌てて笑う。でもその笑顔はどこかぎこちない。
いつもの勝気な笑みじゃない。
そしてすぐに視線を逸らして、右髪の特徴的な流星を指でくるくる弄る。
「ほら、行くぞ。……寄るとこあんだろ?」
強くもない軽口で話題を変えようとしている。
まるで、自分の胸に刺さったものを誰にも見られないように隠すような仕草だった。
……スルーしてあげるのが、やさしさというものだろう。
「うん、行こうか。──ああ、こんなところで長々と話してしまってすみません」
「いえいえ、災難でしたね。11月のエリザベス女王杯とマイルCSもがんばってくださいね。応援しておりますので」
「ありがとうございます!」
「お邪魔しました!」
巫女のお姉さんに軽く頭を下げて、入ってきた方向とは逆の方向から境内を出る。
「このへんに有名なパン屋さんがあってね……ちょっと走るけどいいよね?」
「おうよ。何が有名なんだ?」
「色々あるけどだし巻きが入ったパンが──」
【フレーバー】レヨネット(主人公妹)の戦績【興味本位】ストーリーには影響しない&現時点でプレイアブルのネームドキャラの勝ち鞍には影響しないんで雰囲気で選んで大丈夫です。後選ばれたら絶対こうみたいな話でもないです。
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最低保証
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すごくすごい
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ヤバい