驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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071 ウオセミうまさんぽ(京都)京都レース場編

 京都レース場、三冠ゲート。

 

 色々あって疲れてしまったが、いよいよレース場に到着した。

 万が一にもあの女性ファンと鉢合わせしないように、最寄り駅ではない駅まで走ってから市営地下鉄横大路線経由でレース場入りする。

 1駅分走ることになるが、ヒトミミには辛い距離でも現役ウマ娘にとってはそうではない。

 あと、この時間のレース場最寄り駅は死ぬほど混むのでそれが嫌だったというのもある。

 幸い、道中にも入場時にもそれほど人は多くなかった。

 

「G1デーだってのに案外空いてるんだな」

「あの上、見てみなよ」

「上? うわぁ……」

 

 あたりを見回しながらそう言うウオッカに、私は目の前の渡り廊下を指した。

 建物の2階部分、淀駅に直結のステーションゲートからはすごい勢いで人が流れ込んできているのが見える。

 ちょうど電車が駅についたタイミングだったらしい。

 パドックを挟んでこちら側には目立った施設がないから人が少ないだけで、人出そのものはとんでもないことになっていた。

 流石はティアラ最終戦の開催日である。

 

 そっとウオッカを横目で見る。

 普段と変わらない様子だが、耳の先が心持ちヘタっている。まだ先程の件を引きずっているのだろう。

 私でも気付く以上スカーレットなら一発だろうから、出走者控室に行くのはもう少し連れ回してからにしよう。

 まだ時間もあることだから。

 

 

 京都レース場、三冠ウマ娘メモリアルロード。

 

 ここには初代三冠ウマ娘セントライトから一昨年の最新の三冠ウマ娘までの銅像が立ち並び、その栄光を讃えている。

 三冠とは冠しているが、トリプルティアラの2人、メジロラモーヌとスティルインラブの像もこちらにある。

 

「そういえば、三冠とってれば京都レース場に銅像立ってたねぇ」

「バカ言えよ。今こんなとこでくだ巻いてる俺たちに、んなこと言う資格ねーよ」

「それはそうだね」

 

 三冠なりトリプルティアラなりを欲するならば、その全レースに皆勤するのが必要だ。

 脚の丈夫さや距離適性などどんな理由があろうとも、出走しなかった時点で私たちにその資格はない。

 

 私たちはとある像の前で足を止めた。

 第5代クラシック三冠ウマ娘、“シャドーロールの怪物”。

 その生きざまに、彼女が憧れているというのは知っている。

 あのスプリンターズステークスの数週間後にクラシック級で有記念を勝った優駿。

 

「……三冠じゃなくても、走りは残せる、よな?」

 

 ウオッカがそう言った瞬間、彼女の方を振り向く。

 あのウオッカが、こんなふうに誰かに確かめるみたいな声を出すなんて。

 それが嬉しくて、同時に苦しかった。

 

「……残るよ。ウオッカの走りは、誰より」

 

 言葉にした途端、少しだけ息がしやすくなった。

 本当はもっと伝えたいことがある。けれど今は、このくらいでいい。

 隣で、彼女の肩がほんのすこしだけ下りた気がした。

 

 あたりを見回すと、この小道にはまだまだ銅像が立つスペースはありそうな雰囲気だ。

 私たちの像はここには建たないが、これから私たちの後輩の像が建っていくのだろう。

 そう思うと、なんとも感慨深い気分だった。

 

 

 さて、もう控室に行っても良かったが、京都レース場に来たならここは外せないという場所がある。

 昔から京都レース場に訪れるたびにこの場所に寄るようにしてきた。

 場の喧騒から隔絶されたそこには、厳かな空気に包まれて小さな祠と碑が建っている。

 

 鳥居をくぐり、まずは左手の小さな頭観音の祠に詣る。

 仏教のあれこれには詳しくないが、インドから日本に伝わる間に色々あってウマ娘関連の権能を司るようになった一柱。

 

 ウオッカは足をゆるめて、軽く会釈して手を合わせた。

 私も隣で静かに手を合わせる。

 

 今日も無事にレースが終わりますように。

 

「……こういうの、落ち着くよな」

「うん。なんか、背筋が伸びるよね」

 

 それくらいの短い会話で、祠を後にした。

 

 そのすぐ先。

 ひっそりと、特定の名を刻まれずただ静かにそこに立っている古びた石碑。

 いつから建っているのかは知らない。

 少なくとも私がレースに興味をもって通い始めたころにはすでにあった。

 

 ウオッカの足が、そこで止まった。

 

「……これ、が」

 

 小さな声でつぶやいて、ウオッカは“鎮魂”の2文字が刻まれた碑を見つめたまま動かない。

 

 これは慰霊碑。

 レース中の事故で不幸にも命を落としたウマ娘の御霊を慰めるもの。

 

 かつてほぼ身一つで走っていた時代に比べれば、安全装備も医療技術も格段の進歩を遂げた。

 それでも事故はゼロにはならない。

 最高時速70km/hで駆ける以上、スピードに乗った状態で転倒すれば命に関わるのだ。

 その運動エネルギーに耐えられるほどウマ娘の骨格は頑丈ではない。

 

「……ここで、終わった走りもあるんだな」

 

 彼女の低い声が響く。

 

 そう、ここに来るたび、手を合わせるたびにそれを思い出す。

 異常を覚えたらまず減速、ともあれ頭を守れ、必ず無事で帰ってこい。

 教官さんやトレーナーさんらが口を酸っぱくして言うのは故なきことではない。

 

 学園を出た後の人生のほうが長いのですから、契約前のトレーナーさんの言葉が思い出される。

 実感はわかないが、人生百年時代に比べてレース生活のせいぜい数年が短いという計算はわかる。

 

 黙して2人で碑に手を合わせる。

 

 ……どうか、安らかに。

 

「……よし。行くか」

「うん」

 

 その声は、さっきよりずっと強かった。

 

 

 

 2人して案内板を探し、そこにおいてあった地図を取る。

 普段は裏口から入るので、ここから関係者ゾーンにどうやって行くのかわからないのだ。

 頻繁に通っていたころは関係者ではなかった訳で、その時の土地勘も役に立たない。

 

「そういや京都って真ん中に池があるよな。珍しい」

「むしろ他のレース場に行ったときびっくりしたんだよね。コースの真ん中にも施設がある、って」

 

 府中も中山も仁川もそうだった。むしろ淀が特異だと知った時は驚いたものだ。

 なんでもかつてこの周辺にあった巨大な池の最後の生き残りだという。

 

「へー、歴史ってやつだねぇ」

 

 大体の見当をつけて歩き始める。

 マップの裏側には今開催のイベント情報が目白押しとなっていた。

 

「パン祭りに……利き酒もやってるんだって、行ってみる?」

「まだ飲める年じゃないだろ……。しっかし、ヒーローショーはともかく絵本作家の読み聞かせ&サイン会ってなんだよ。そもそも誰だよ、レース関係あるか?」

 

 その名前を見て思わず目を疑った。

 だが、ペンネームだけしか表記してなかったのだからウオッカの反応も当然だ。

 私だってロブロイさんの手伝いで図書館のイベントをやっていなければ結びつかなかっただろう。

 

「ヒント、主な勝ち星が菊花、春天、春天」

「……1人しかいねぇ。え、菊花賞の前日にひっそり呼んでいいウマ娘じゃないだろURA!?」

 

 淀を愛し、淀に愛され、淀に散った青い薔薇。

 ヒールか、ヒーローか。悪夢か、奇跡か。

 そのウマ娘の名は──。

 




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生きてると書くだけでこの分量。

【フレーバー】レヨネット(主人公妹)の戦績【興味本位】ストーリーには影響しない&現時点でプレイアブルのネームドキャラの勝ち鞍には影響しないんで雰囲気で選んで大丈夫です。後選ばれたら絶対こうみたいな話でもないです。

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