驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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075 2階級女王とマイルチャンピオンシップへ

 トレセン学園、記者会見会場。

 

 

 マイルCS直前、学園の一角にあるスペースには出走者16人と報道陣が集まっていた。

 G1レース前恒例の記者会見。

 URAの職員に席へ案内されながらも思う。もう5回目だと言っても、やはり慣れない。

 

 定刻通り始まった会見はつつがなく進んだ。

 1人ずつ出走ウマ娘が読み上げられ、短いコメントを返していく。

 

 7番スーパーホーネット。青とピンクのラインが入ったメタリックグレーのメカニカルな勝負服。

 とびきり戦闘的な、勝負根性の塊みたいな目。ただ喋り方というか雰囲気がちょっとうるさい。

 

 9番カンパニー。青を基調とした勝負服。女社長か舞台女優かといった落ち着いたデキる大人の女性といったたたずまい。

 淡々としていて、でも妙に説得力のある声だった。あの落ち着きは、今の私にはまだない。

 

 11番スズカフェニックス。黄土色のマントに翼を広げた鳥の白い衣装が入った緑の旅装の勝負服。

 落ち着いた、のんびりとした表情。だけどあれでもG1勝者、あなどれない。

 

 13番ローレルゲレイロ。海老色の胸甲と手甲を身に着けた姫騎士風の勝負服。

 どうしてもキングヘイローさんの取り巻きというイメージが強い。実力は今の私の相手ではない。

 

 そしてやはり注目は私とメジャーさんの2人に絞られている。

 

「俺様が一番だ!」

 

 そう言ってメジャーさんはいつものように不敵に笑う。

 思えば初めての会見の前に、一言なんてどういえば、と相談したときメジャーさんはこういってくれたものだった。

 そんなもん記事の余白埋めにしかならねぇんだから毎回一緒でいいんだよ、と。

 本当に毎回これで〆ているのには笑ったが、この強気なコメントもあと何回聞けるだろうか。

 

「準備してきたことをレースで出すだけです」

 

 私もその教えに従って毎回こんな感じで〆ている。

 トレーナーさんも、個性を出すなら個別コメントのところで良い、とおっしゃっていたし。

 

 会見の最中も横から何人かの視線を感じる。

 その視線の意味するところはよく分からない。ただ、私はいつも通り微笑んで座っているだけなのに。

 

 

 続いて各出走ウマ娘への個別質問に移る。

 ここではおおむね人気順にコメントを取っていくのが慣例らしい。もういい加減見知った記者さんが司会にさされて質問をしていく。

 

「カンパニーさん、年長者として注目されている若い2人に一言お願いします」

「えー、私はこんななりでもメジャーと同期なんですがね──」

 

 思わず笑ってしまいそうになりあたりを見回す。

 メジャーさんは、またやってるよ、と鼻を鳴らしているし、記者さんたちも軽く笑っているのでどうやら持ちネタだったらしい。

 

 あれが大人の余裕、というものなのだろう。

 歳はそう変わらないはずなんだけど。

 

 

 続いてメジャーさんに質問が飛ぶ。初手はどこかの新聞社の記者だったか。

 

「昨年のマイルCSを制した王者として、今年は後輩のセミラミスが最大の敵という声もあります。この見立てについてどう感じていますか?」

 

 最大の敵。

 そんな、と反射的に否定が浮かぶ。けれど、考えてみればそう言われるのも当然だ。

 諸々の条件があったとはいえ、現役最強格のマイラーをクラシック級で下した事実に変わりはない。

 

「最大の敵、その見立ては間違っちゃいない。夏を越えてますます実力を伸ばしているのは一番近くで見ていたからな。だからこそ過日の言を繰り返そう。次は叩き潰す!」

 

 そしてメジャーさんとは夏合宿も同じところだったし、そもそも寮が同室だし練習内容や成長については隠しようがない。

 とはいえその、あんまりその件を蒸し返すのやめてほしいんだけどな……。まあ、言っちゃったもんは仕方ないし、メディア向けにはある程度そういう煽りもあった方が盛り上がるのだろう。

 

 

 そう悶々としていると、次の質問に部屋の空気が一段張り詰めるのを感じる。

 

「安田記念で敗れたことを、どう受け止めていますか? あれから何を変えてきましたか?」

 

 それを聞くか。思わず彼女を横目で伺う。

 多少顔をしかめているが、耳が立っている以上あれはマジではないだろう。

 

「あれは俺が甘かった。……ああ、認めよう。俺様はセミラミスを所詮クラシック級だと侮った。だから今度は一人のウマ娘として真っ向勝負する。もうあと2戦、出し惜しみはしねぇ。全力全開だ!」

 

 メジャーさんはそう芝居がかった調子で宣言した。

 彼女の視線がこちらにちらりと送られる。なるほど、そういうことですか。わかりました。

 

 

 続いて私に質問が飛ぶ。この人はスポーツ紙の担当だったと思う。

 

「あなたは今年G1を4勝し、シニア級相手の安田記念も制しました。しかし今回は王者ダイワメジャーとの真っ向勝負。自分が劣る部分はどこだと考えていますか?」

 

 劣る部分、劣る部分と来たか。

 それは簡単な話だ。

 

「経験、場数でしょうか。デビューからまだ1年、混合戦に出て3戦。シニア級で何年も走り続けてきた先輩方には比べるべくもありません。ですが、臆するつもりもありません」

 

 時間だけは万民に等しく与えられる。有効に使えるかは話が別だが、最大限有効に使ったという自負はある。

 だからといってひるんではいられない。勝負すると決めてゲートに入ったのだから、全霊をもって走らねば失礼というものだ。

 

 

「安田記念ではマーク戦法が的中しましたが、今回は同じ戦法は使えない、という声もあります。どのような点を強化して臨むつもりですか?」

 

 なんというか、予想通りの質問だった。

 元よりあの戦法に2度目があるとは思っていない。でも、単にそれを言ってしまうのも芸が無い。

 

「安田記念での走りはあくまでその時の最善に合わせた結果です。通用するしないではなく、その時最も良い走りを見せることだけを考えています。この夏以降はシニア級とも正面から戦えるようトレーニングを積んできました」

 

 今回は真っ向勝負の予定だからこんな回答でいいだろう、と事前に考えていたものを口に出す。

 安田記念のときの奇襲も小細工もその時の最善を目指した結果には違いないし、実際上はなにもいっていないに等しい。

 なんとも退屈な答えだった。

 

 会見場に月間トゥインクルの乙名史さんをつい探してしまう。

 ちょっとこう、妄想……想像力豊かでちょっとアレな人だけど、こんな質問が続くよりはずっとマシだった。

 だがどうやら今日は乙名史さん大人しい日らしい。残念。

 

 

 次に手を挙げたのもやはり乙名史記者ではなかった。

 

「今年のマイル路線で一番強いのは誰だと思いますか?」

 

 ……何を言っているんだこの記者は。

 それを、これから、決めるというのに。

 

「それは日曜のレースでわかることです」

 

 きっと走る前から順位をつけるのがこの人の仕事なんだろう。

 でもそれは私の仕事じゃない。

 

 次の質問行ってください、と司会の人を目線で促した。

 

 次に指名された記者さんが、ではお二人への質問なのですが、と私たちに問う。

 

「安田記念での啖呵の応酬から半年。今回こそ決着のとき、と言われています。お互いに一言だけ言うとしたらなんですか?」

 

 悪くはないけど、無難。そんな質問だった。

 先は貰うぜ、といった様子のメジャーさんに、どうぞ、と促す。

 

「言うことはねぇな。……これで最後なんだ、遠慮なくかかってこい、相手になってやるよ」

 

 最後、その言葉の重みをかみしめる。

 

 そしてその言い方は安田記念のときの裏返しだ。

 だがメジャーさんを見やると、こちらにニヤリと流し目を送っている。

 えー、私にも言えと? ちょっと恥ずかしいんですけど。

 

「それ蒸し返すのやめてくださいよ……。お世話になった先輩の花道をマイルCS連覇で飾れないのが残念でなりません。次は叩き潰します」

 

 私も同じように安田記念の時の言葉を逆にしてそう返す。

 

 花道。そう口に出して、先日寮の部屋で伝えられたときを思い出す。

 年内での現役引退、マイルCSの後、有記念をラストランとする。

 そう伝えられた時の真剣な表情に、質の悪い冗談なのではないかという希望は一瞬で潰えた。

 

「どうしてですか、まだまだ走れるじゃないですか……」

 

 思わずそう問うた私に、メジャーさんは静かに言った。

 レース後の回復が遅くなってきたこと、私やスカーレットのような新しい世代が出てきたこと、そして俺はもう十分走ったのだと。

 

 理屈では、わかっていた。

 客観的に見ればもうシニア級3年目、十分に長い競技人生だったことは。

 

 それでも──まだ走れる、まだ走っていてほしいと、そう思ってしまったというのが正直な気持ちだ。

 

 でも、たとえ寂しくても、笑って送り出せないほど、狭量でありたくはない。

 

 だから──マイルチャンピオンシップは、勝つ。

 全力で、倒しに行く。

 

「ちょっと待ってください、“最後”とか“花道“というのは……?」

 

 私たちの言葉に驚いた表情をした記者が慌てて挙手もせず質問をする。

 普段なら不規則発言をとがめる司会は沈黙したままだ。

 

「ああ、言葉通りの意味だ。ダイワメジャーは今年末をもってトィンクルシリーズの現役を引退する。マイルで走るのはこれが最後になる」

 

 メジャーさんの突然の暴露に、記者さんも横のウマ娘たちも驚愕を隠せない様子だ。

 何人かの記者が号外を打つのか腰を上げかけ、空気がざわめく。

 だが司会は落ち着き払った様子で、静粛に、と場を収めた。舞台袖から北浦トレーナーがいそいそと出てきて、司会に代わりマイクを握る。

 

「すんません、本来このことは後で発表するつもりやったんですが……この後で引き続いて場を設けますんで、質問はそん時に頼みます」

 

 事前に私に伝えていたのも含めて、確実にここで口を滑らすつもりだったろうに白々しい。

 そうじゃなきゃ会場(ハコ)を抑えてる訳無いじゃないか。

 

 見た感じ、事前に聞いていたのが司会と後ろの学園スタッフさん。ウマ娘の中でもシニア級の年長側と記者さんの何割かは察していたような雰囲気。

 本来はそうなのだ。本来は。

 

 

 そうして記者会見は波乱のままに終了した。

 続いて同じ会場で行われた緊急会見でメジャーさんは改めて年内での現役引退を発表、マイルCSの後、有記念をラストランとすることが明らかになった。

 




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【フレーバー】レヨネット(主人公妹)の戦績【興味本位】ストーリーには影響しない&現時点でプレイアブルのネームドキャラの勝ち鞍には影響しないんで雰囲気で選んで大丈夫です。後選ばれたら絶対こうみたいな話でもないです。

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