驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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077 京都レース場 マイルチャンピオンシップ(G1) 芝 1600m 曇 良

11月18日 京都レース場 第11レース

マイルチャンピオンシップ(G1) 芝 1600m 曇 良

 

 

『曇り空の下、観客席もヒートアップしております。秋のマイル王者を決めるマイルチャンピオンシップ、発送時刻が迫っております』

『実況席にはゲストとして園部トレーナーと、その教え子であるビワハヤヒデさんをお呼びしております。よろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

『よろしく頼む』

 

 スタートのゲート前には勝負服姿のウマ娘たちが集合しつつある。

 中でも注目は2人のウマ娘に絞られていた。

 

『まずは2番人気、昨年のマイルチャンピオンシップ覇者にして安田記念でもハナ差2着、ダイワメジャーです』

『そして1番人気、メジャーを下した安田記念を含め短距離マイルG1を4連勝中、ノルデンセミラミスです』

 

 それは人気にも表れている。

 そもそも出走者の中で複数G1を勝っているのはメジャーとセミラミスだけだった。

 

『そのあたりいかがですか園部さん、ビワハヤヒデさん』

『安田記念は斤量有利もありましたし、僅差でしたからね。成長分も加味すればわかりませんよ』

『ダイワメジャーはどこまで待てるか、ノルデンセミラミスはいつ仕掛けるかがポイントか』

 

 レース前から展開はある程度読まれていた。

 逃げウマがペースを作り、メジャーがその直後──番手に控える。

 コース形態やメンバーから中団が団子になるのは目に見えており、14番セミラミスはその動きを見ながら中団外を進むだろう。

 それが識者の最大公約数的な見立てだった。

 

『ではスタート地点のほうを呼んでみましょう。ずん子さん、お願いします』

『はぁい。各ウマ娘、思い思いに過ごしています』

 

 ゲート裏は緊張と静寂が入り混じった独特の空気に包まれていた。

 それぞれが最後のルーティンに没頭する中、メジャーとセミラミスは静かに呼吸を整えていた。

 二人とも互いを見ない──しかし、互いの気配だけは確かに捉えている。

 声などいらない。すでに戦いは始まっているのだ、と周囲が理解するほどに。

 

『どうですか、注目の2人の様子は』

『そうですね、今ちょうどメジャーがセミラミスに近づいて……セミラミスがうなずきました』

『2人の間にもはや言葉はいらないと。恋愛専門家のずん子さんはどうみますか』

 

 実況のアナウンサーがレポーターに冗談交じりに問いかける。

 

『これは……信頼関係が深い証拠ですよ。たぶんプライベートでも相当深い仲ですね。あとは告白するだけでしょう』

『こ、こ、こ……告白……!? そんな不純な! あれはきっと競技者としてのものであって…………!?』

『落ち着けハヤヒデ。ずん子さんもいい加減にしてください』

 

 声を裏返して慌てるビワハヤヒデをなだめつつ、聞かれたから答えただけの元後輩を若干理不尽にたしなめる園部トレーナー。

 微笑ましい空気が流れる中、ゲートインが粛々と進んでいく。

 

『さあ奇数番のウマ娘に続きまして、偶数番のウマ娘の枠入りが進んでまいります。8番ダイワメジャー、14番ノルデンセミラミス収まりまして、残すは大外サンバレンティンのみとなります』

 

 

 全員がゲートに収まり、体勢が整った。

 

「第24回マイルチャンピオンシップ──スタートしました!」

 

 一斉に飛び出すウマ娘。

 

『さあハナをとったのはローエングリン、フサイチリシャール。ダイワメジャーは番手につけた。その後ろは団子になって早くもコーナーへ』

 

 ダイワメメジャーは番手にスッと収まる。

 ノルデンセミラミスは中団やや外。

 

『3コーナーに入りました! ローエングリン、フサイチリシャールが先頭を引っ張る! ダイワメジャーは2番手、これ以上ない位置取り! その後ろは密集、中団が団子になっている! ノルデンセミラミスは中団外、じっくり構える!』

『ダイワメジャーは理想的な位置ですね。前が速すぎず遅すぎず、リズムよく進んでいます。セミラミスは中団外。包まれない位置で、このウマ娘らしい形。仕掛けのタイミングを完全に自分で決められます』

『3ハロン通過タイムが34.4……これは少々早めだから、多少はセミラミス有利だな』

 

 残り600の標識を通過したところでダイワメジャー3番手。

 そのすぐ後ろ4人が横並びになった先行集団大外にノルデンセミラミスが進出。15番ジョリーダンスを内に見る形。

 と、ここでセミラミスが動いた。

 

『さあ4コーナー──いや、セミラミスがもう動いた! 早い! 早すぎる!! 掛かってしまったか!?』

『いや、これは予定通り。セミラミスにとっての勝利の方程式だろう』

『うまいですねえ……。メジャーは直線の粘りが強いウマ娘ですから、そこで競らずにコーナーで消耗させつつ抜き去る。この仕掛けは実にいやらしい。勝ちに来ていますよ』

 

 そう、これがマイルCS対策として立案された作戦の全てだった。

 ダイワメジャーが強いのは最後の直線での競り合い。ならば番手を走るメジャーより早く4コーナー半ばで仕掛けてしまい、直線で並びかけずにそのまま抜き去ってしまう。言葉にすればそれだけだった。

 

 ──いける! 

 このまま、もっと前へ! 

 

 コーナー出口で内側の芦毛の先輩を抜き去り、ダイワメジャーの背中へと肉薄するセミラミスの足取りはかつてないほど軽かった。

 彼女自身は覚えていなかったが、彼女が憧れとして先行押し切りを理想とする前、その本来の脚質は好位差しであった。

 本人も忘れていた天稟(てんぴん)、すなわち、もって生まれた資質が彼女の背中を前へ前へと押していたのだ。

 

 世界が──塗りつぶされる。

 

 

Norden Semiramis

3つの玉座の女主人

『Tre Troners Herskerinde』

              Lv.2

Jeg vil være under kontrol.

Tre distancer, tre lande og tre sejre i træk.

 

 

『直線を向いてフサイチリシャール! マイネルシーガル! ダイワメジャー! 3人の追い比べになっている! ノルデンセミラミス外に持ち出して並びかける! ダイワメジャー粘る! ダイワメジャー粘る!』

 

 ただ一つ彼女と吉富トレーナーにとって誤算だったのは、ダイワメジャーのド根性が尋常なものではなかったことだった。

 

『ダイワメジャー差し返す!』

 

 

Daiwa Major

ホール・オブ・フェーム

『Hall of Fame』

              Lv.4

歴史を伝え、偉業を称え、世代を繋ぐ

Preserving History, Honoring Excellence, Connecting Generations

 

 

 

『セミラミス来た! しかしメジャーが粘る! ダイワメジャー差し返す! 信じられない粘りだ! このウマ娘はここからが強い!!』

『なんという勝負根性……!』

『そうそう、これですよ。あのウマ娘は抜かれても差し返せる稀有なタイプなんです。あんなのはそうそういませんよ』

 

 この決死の粘りが直線の後半であればあるいは残すこともできたかもしれない。

 だが、セミラミスの戦術的に早められた仕掛けにより直線はまだ半分弱残されていた。

 

『ダイワメジャー粘る! 粘る!! また差し返す!! セミラミスも譲らない!! 外から体をぶつけるように伸びて──抜いた!! 抜いたぞ!! セミラミスついに前に出た!! セミラミス突き放す!!』

 

 ──ああ、届いた。

 私の、脚で。

 

『後ろからスーパーホーネットが飛んでくる! すごい勢いだ! メジャーに迫るが……届かない! ノルデンセミラミス、半バ身差の勝利!! 2着ダイワメジャー! 3着僅差でスーパーホーネット!!」

 

『ダイワメジャー、ここで脚がとまったか。あの抵抗は本当に見事だった』

『セミラミスの作戦勝ちでしょう。普通に仕掛けていたらあるいは粘りきられていたかもしれません。絵を描いたのは本人か吉富か……いずれにせよ見事です』

 

 

 ゴール板を踏み越えて、幾分走りすぎてからセミラミスはゆっくりと反転した。

 掲示板を見上げるまでもない。着差は明らかだった。

 

 

 

京都 11R 確定 

 

 Ⅰ  14 

 

 1/2 

 

 Ⅱ  8X 

 

 クビ 

 

 Ⅲ  7X 

 

 1/2 

 

 Ⅳ  11 

 

 クビ 

 

 Ⅴ  12 

 

 

 観客席を見上げながらウィナーズサークルへと向かうノルデンセミラミスと、息を切らせながらも俯かず誇り高く顔を上げて引き上げるダイワメジャーがすれ違う。

 

 ほんの一瞬の視線の交錯。

 

 言葉はいらない。それだけで彼女らには十分だった。

 

『史上初!! クラシック級での春秋マイル完全制覇!! そして主要4場G1制覇も最速達成!! さらにナリタブライアンの記録を1ヶ月塗り替え、最速でのG1五冠!! マイルの女主人の誕生だ!!」

『とんでもないことだな。見ているか……また一つ時代が終わったな……ブライアン』

『いやはや、まさかこんなウマ娘が現れようとは。……ところでハヤヒデ、妹君はまだピンピンしてるよな?』

 

「うおおおおおっ!!」

「セミラミスだ! 本当にやったぞ!」

「強い……強すぎる!!」

「今日で時代が変わったな……」

「まだクラシック級だぞ!? どうなってんだよこの娘!!」

「化け物……」

 

 観客の歓声に応えるようにセミラミスは手を振る。

 表情はいつものような柔らかな笑み。観客の熱狂はさらに盛り上がる。

 

『そして今日は妹ノルデンレヨネットもメイクデビュー勝ち! 姉妹が同日勝利というドラマまで生まれました!!』

 

 ウィナーズサークルにはトレーナーや両親、先輩方がそろっていた。

 セミラミスはその中にレヨネットを見つけて走り寄る。

 

「来てくれたのね。ありがとう、レヨ!」

「……うん!」

 

 レヨネットは満面の笑顔を貼り付けて姉を出迎えた。




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ハヤヒデの口調が文字にするとメチャメチャ尊大かつ男っぽいのびっくりする。した。
*ブーちゃんは生きてます。史実だとめちゃめちゃ早死してるけど。

セミラミスの本来の脚質が差しってのは初出が021なので50話以上引っ張った計算。やば。
調べてて知ったけど、差しって思ったより前の方でも差し扱いなんすね。

【フレーバー】レヨネット(主人公妹)の戦績【興味本位】ストーリーには影響しない&現時点でプレイアブルのネームドキャラの勝ち鞍には影響しないんで雰囲気で選んで大丈夫です。後選ばれたら絶対こうみたいな話でもないです。

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