驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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081 若き春秋マイル女王と有馬記念へ(後編)

 そのしばらく後、トレーナーさんとメジャーさんを交えて今後の方針説明があった。

 ただしフライトさんだけは席を外している。フライトさんは実はチームとは無関係なのだ。

 フライトさんは公的には“なぜかノルデンセミラミスを個人的に指導している一般通過ウマ娘”なのだ。いつも本当にありがとうございます。

 

「さて、初回ですから簡潔に」

 

 トレーナーさんは私たちを見回してそう切り出した。

 

「有記念まで1ヶ月。できることはそう多くありませんし、またその必要はありません」

 

 メジャーさんはシニア級3年目のベテラン。さらには昨年も有記念に出走し3着には入っている。

 今更基礎能力の上積みなど見込めないのはもちろん、すでに結果を残したことのあるレースの訓練など今更だ。

 では何をしようというのか。

 

「唯一、意味があるのは負け筋を潰すこと。これに尽きます。時間がありませんので極端な事例は考慮せず、大きなものから2つ消していこうと思います」

 

 極端な事例。

 例えば、大逃げ複数で展開大崩壊とか。

 例えば、並の重賞ウマ娘が乾坤一擲生涯最高のレースをするとか。

 例えば、日本近代レースの結晶と称えられたウマ娘が最後方からかっ飛んでくるとか。

 そういう嫌に具体的な例え──最後は去年見た──以外にも、中山大好き娘とか冬の中山京都大好きガールとかそういうのも考慮しない。

 

「つってもメインもディープも出てこねぇんだから考えても意味ないわな……というかメインに大逃げさせたのアンタだろうが」

「府中であそこまで粘れたんで行けるかと思ったんですがね……」

 

 昨年の有記念はアドマイヤメインが大逃げ、ダイワメジャーがそれを追わず番手──事実上先頭──という展開だった。

 メインさんの担当はダービーに続いて奈瀬(文)トレーナーにポイされたのでトレーナーさんが務めていた。ホントこの人代打が多いな。

 

「あの判断は間違いではありません。すなわち、貴女の強みは先行粘り込み。序盤から前でやり合ってはいけない。ですが今年はそれに邪魔になるウマ娘が出走する」

「……ダイワスカーレット」

「そう、あの娘は確実に逃げを打つ。つついて潰し合うことだけは避けなければいけない」

 

 スカーレットとメジャーさんは姉妹だけあって位置取りも気性もよく似ている。

 もし序盤から刺激してしまえば際限なくペースが早くなって、その先は共倒れしかない。両者共にスタミナに余裕がある方ではない以上、それだけはダメだった。

 

「前で潰し合って自分のレースができない、それが負け筋のもっとも大きな1つ。もう1つは、単純に後ろから差されること」

 

 そこで視線が私とゼファーさんの方へ向く。

 

「そこで貴女たちの出番です。期待する役割は2つ、1つは仮想ダイワスカーレットとしての逃げ、もう1つはタイプの違う先行差しとしての仕掛け」

 

 さらにトレーナーさんは真剣な表情で私に向き直る。

 

「本来であれば現役の貴女を巻き込むべきではありませんが、今このチームにはG1級の芝ウマ娘が貴女たち以外にはおりません」

 

 そう、このチームの弱点。それはダートはともかく芝の指導ウマ娘がゼファーさん頼りなこと。

 トレーナーさんが代打屋なのもあって顔自体は広いのだが、ことG1となると頼れる先がいない。それこそキングヘイローさんなどは頼めば来てくれるかもしれないが、G1となれば名門アスケラからも誰かが出てくる以上そちらに専念しなければならない。

 

「セミラミス、貴女はまだ経験が足りない。そしてメジャーは番手で耐える技術を言語化できる数少ないウマ娘、それを横で体感できる機会は滅多にありません。今の貴女には必要ないかもしれませんが、いつか必要になる時が来ます。ですから、協力していただきたい」

 

 有記念はメジャーさんの最後のレース。

 ……最後なら、なおさらだ。それが、私にできることなら。

 

「……はい」

 

 断る、という選択肢はなかった。

 

 

 

⏰️ ⏰️ ⏰️

 

 

 

 秋のG1シーズン後半はあっという間に過ぎ去っていく。

 

 

 京都 2200m エリザベス女王杯 ダイワスカーレット

『ダイワスカーレット踏ん張るか! 外からダービーウマ娘が襲ってくる! ウオッカ! フサイチパンドラ! スイープトウショウ!』

『ティアラ最強世代の頂点はダイワスカーレット! ダービーウマ娘もシニアティアラも蹴散らしました! 』

 

 京都 1600m マイルチャンピオンシップ ノルデンセミラミス

『後ろからスーパーホーネットが飛んでくる! すごい勢いだ! ダイワメジャーに迫るが……届かない! ノルデンセミラミス、半バ身差の勝利!』

『史上初! クラシック級での春秋マイル完全制覇! マイルの女主人の誕生だ!!』

 

 東京 2400m ジャパンカップ アドマイヤムーン

『外からウオッカ! ウオッカ捕らえた! ウオッカが捕らえたか! そしてアドマイヤムーンも頑張っている!』

『アドマイヤムーンと最後はポップロック! ゴール板で躱したかどうかというところ! 最後は激しいゴール前の争いということになりました!』

 

 中山 1600m 朝日杯フューチュリティステークス レッツゴーキリシマ

『レッツゴーキリシマ! キャプテントゥーレ! ノルデンレヨネット! レッツゴーキリシマ抜けたか!』

『ジュニア王者に輝いたのはレッツゴーキリシマ! 1/9の抽選をくぐり抜けたノルデンレヨネットはわずかに届かず!』

 

 

 そしてG1は残すところ年末のグランプリ有記念を残すのみとなった。

 

 

 チームルーム、メディア室。

 

 古い言い方だと視聴覚室ともいうそこは、最近予算がおりたとかで大きなモニターとAV機器やWeb会議システムが導入されていた。

 そこに集まっているのはトレーナーが吉富トレーナーと椿トレーナー、ウマ娘が私とメジャーさん、ゼファーさん、バクシンオーさんだった。

 その目的は、週末に迫った有記念にむけた最後の戦術検討とおさらいだ。

 

「……豪華ですねぇ。ウチ(アルケス)とは大違いですよ」

「今年G1チーム成績6勝でチーム別トップ様だぜ? そりゃ予算のつき方が違わぁな」

「まだ5勝ですし、有次第では並ばれますが」

「俺様が積み増すっつってんだよ。北浦のオヤジには絶対並ばせないからな」

 

 現在2位につけているのは北浦トレーナー。4勝中3勝はダイワスカーレット。つまりそういうことだ。

 ……私はただ走っているだけ。その先の話は、私の手にあまる。

 

「気合が入っているのはいいことですが、道中で前を突かないように我慢してくださいよ?」

 

 そう言ってトレーナーさんが再生した映像はコースを走る私たちの後上空から撮影されていた。

 空撮用ドローン『ピーちゃん2号』によるものだ。なお1号の機体は操縦練習中に地面と激しくキスして失われ、カメラと一部部品のみが2号に移植されている。

 

 それを見たメジャーさんの顔が引きつる。私の表情も強張っていることだろう。

 画面には先行するブルマ姿とそれに追従するハーフパンツの栗毛。この入りだけでどの映像かわかるぐらいには見返したのだ。

 

 コーナーを回る2人の映像に変わったところは見られない。強いていえばメジャーさんがちょっと近いぐらいだろう。

 だが、下に編集で入れられたラップタイムを見れば問題は一目瞭然。ペースがどんどん早まっている。

 そのまま最終直線に入ったときにはどちらも末脚は残っておらず、後方からまくって上がってきたゼファーさんの影が左側から追い抜いていくのが映った。

 

「このように、僅かに近すぎるだけでダイワスカーレットの負けん気を刺激して共倒れになる、ということはご理解いただけたかと思います」

 

 2人で頷く。それしかできることはない。

 

 画面では、逆にうまく距離を保てた場合と比較した映像が流れている。

 上から見た動画ではわからなかった違いも、横から撮った比較だとどんどんとペースが早くなっているのが可視化されている。

 うまくいった方では、ゼファーさんが上がってくるもメジャーさんは粘りきっていた。私? 抑えたペースとはいえ2500m持つとでも? 直線の途中で失速しましたが? 

 

「これについてはあまり心配していません。昔に比べれば相当我慢できるようになりました」

 

 昔、というのは先月ではなくクラシック期のことだろう。

 ですが、とトレーナーさんは次の映像に切り替える。

 この映像は先のものと違いあまり見たことがない。つまり最近のものだ。先のものとは違いゼファーさんが逃げ役をやっている。映像は2周目の3コーナーから始まっていた。

 前を行くゼファーさんとメジャーさんがコーナーを加速しながら抜ける最中、後ろから突っ込んでくる影。先程と違うのは右、すなわちラチ沿いの最短コースから突っ込んできている点だ。

 

「すごいよね、あんなタイトなコーナーを。経済コースをスルスルと、ってかんじ?」

 

 椿トレーナーはそう褒めてくれるがいまいちピンとこない。

 だいいち、コーナーを回りながらの加速なんてバクシンオーさんだってやってることでしょうに。

 

「さすがセミラミスさん、花丸ですッ!」

「旋風に流されてしまいました。反省ですね」

 

 お2人までそう言ってくださる。

 ただ、道がそこにあったから走っただけなんだけどな。

 

 映像の中の私はそのまま内から加速しきった状態で直線に進出し、メジャーさんの追撃を振り切ってかろうじてゴール板を踏み越えていた。

 たしかこの時は1800mでの練習だったからなんとか持ったんだよね。

 

「これが、中山巧者か」

 

 ポツリと押し出された呟きに横を見ると、メジャーさんが唇を噛んで吐き捨てるように言ったところだった。

 

「ま、流石にここまでのコーナー巧者がいるとは思えませんが、内側には気をつけてください」

「……ああ」

 

 

 メジャーさんは、それ以上何も言わなかった。

 映像の中の自分ではなく次のレースの自分を見ている、そんな雰囲気を彼女の眼差しから感じる。

 

 今年最後のG1レースは、もう目前に迫っていた。




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アンケートご協力ありがとうございました。
妹ちゃんの戦績はいい感じに決めておきます。

皆さんの有馬記念の応援先はどの馬ですか? 私の夢はレガレイラです。
これでレガレイラも転厩したらおもろいのに。

【フレーバー】レヨネット(主人公妹)の戦績【興味本位】ストーリーには影響しない&現時点でプレイアブルのネームドキャラの勝ち鞍には影響しないんで雰囲気で選んで大丈夫です。後選ばれたら絶対こうみたいな話でもないです。

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