驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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第二部 理想を超えて シニア級1年目 春シーズン
085 若き春秋マイル女王と不屈の主将


 美浦寮、自室。

 

 有記念も終わり、年の瀬が迫るこの時期。

 年末の大掃除を控えて、この部屋では一足先に部屋中をひっくり返しての荷造りが行われていた。

 

 それに私も参加している。三角巾を被って去年から伸ばし始めた後ろ髪を高めのテールヘアーにしたお掃除スタイルだ。

 

「……もうちょっと計画的にできなかったんですか?」

「悪りィ悪りィ、こういうのは追い込み型でさ」

 

 荷造りの主体はメジャーさん。

 今年末で現役を引退するメジャーさんは来春から指導ウマ娘として学園に残ることになっていた。

 厳密には指導ウマ娘の資格を得るためには筆記の一次試験と面接の二次試験があるのだが、G1を4勝しているメジャーさんは一次試験は免除、二次試験もよほど素行が悪くなければ落ちないのでもう内定したようなものだった。

 

「それにしても、美浦は1人部屋空いてるんですね。栗東はよっぽどじゃなきゃ1人部屋はないって聞きますけど」

「何故か美浦の方が退寮者が多くて指導ウマ娘になるやつも少ないからな……ホントなんでだろな」

 

 これはトレセン学園七不思議の1つだが、なぜかここ十数年は栗東寮のほうが競走成績が良い。

 そのため部屋数が足りず、例えば栗東寮のフライトさんは指導ウマ娘だが現役のマーチャンと同室、美浦のバクシンオーさんは1人部屋といったことが普通に起こる。美浦でもカフェさんとユキノビジンさんのように指導ウマ娘同士で同室ということもあるが、これは純粋に両者の相性だ。

 では何故転寮しないのかといえば、住所の変更などの行政手続きが面倒なためだ。つまり寮が変わるということはよっぽど何かあったということであり……いや、この話はやめておこう。

 

 荷造りも半分弱終わったかというところで、ふとメジャーさんが私の机を見て感慨深げに腕を組む。

 そこにはメジャーさんの机の上の棚から避難してきたトロフィーがところ狭しと並んでいた。

 ついでにホコリを払うために私の分も降ろしていたので机が満杯だった。

 

「いやぁ……こんだけ並ぶとやっぱ壮観だなって。ちょっと記念撮影しようぜ」

 

 並んだ杯と楯はG1の優勝分だけで合計9つ、重賞は3着までは何かしら貰えるのでそれも含めると20個ものトロフィーが並ぶことになる。

 こんなに並んでいても、達成感よりもまだ道半ばだという意識のほうが強い。

 

「散らかってますよ?」

 

 いいっていいって、とメジャーさんは最新の有記念の優勝杯を引き寄せて指を4本立ててウマホのインカメラを起動した。私もそれに倣ってマイルCSの優勝杯を抱えて手のひらを開き笑顔を作る。

 パシャリ、と響いたシャターの音が絵を切り取った。切り取られた結果を置いて、私はまだその続きを走るのだ。

 

「──2人で9冠、皇帝超え、と」

「何やってんですか」

「何って……SNSの更新」

「なんでわざわざ会長さん煽ったのかって聞いてるんです」

 

 いいだろ、なんか言われるなら俺だし、とうそぶくメジャーさんに呆れながら片付けを再開していると、開きっぱなしのドアをノックする人影があった。

 寮長のヒシアマゾンさんだ。なにか封書を持っている。

 

「なんだい、アンタ後輩に並走からなにから世話になっといて、荷造りまで手伝わせんじゃないよ」

「だってよぉ……」

 

 そう口をとがらせるメジャーさん。流石の俺様が一番キャラも美浦寮のオカンことヒシアマさんには勝てないようだ。

 だってもヘチマもあるかい、とメジャーさんを叱り飛ばし、封書を私によこす。

 その封筒はURAの競走振興統括部からの私宛のものだった。表には大きく親展の赤い判子が押されている。何枚かの紙が入っているようで、ずっしりと重い。

 

「まあこの時期ならアレだな」

「そりゃあこの戦績でとれなかったらウソってもんだよ」

 

 先輩方は中身を確信しているようで、開けてみな、とペーパーナイフを手渡される。

 

 出てきた一番上質な厚手の紙を手に取る。

 URAのロゴが型押しされたそれの中央に大書された文字が嫌でも目に入った。

 

 年度代表ウマ娘

 最優秀ティアラウマ娘

 最優秀短距離ウマ娘

 

 そしてURA賞受賞通知、正式発表日時、関係者以外秘の通知、表彰式典のご案内。云々。

 

 私が……年度代表? ……早すぎるんじゃ。

 そう思った理由をうまく言葉にできなかった。

 ただ一つ確かなのは、私はまだまだ走るのだということだけだった。

 

「こりゃお祝いしなきゃね。発表は正月明けだろ? 盛大に祝うから覚悟しとくんだね」

 

 ヒシアマさんはそう豪胆に笑う。

 彼女がそういうのだから本当に盛大に祝ってくれるのだろう。それは楽しみだが、イマイチ実感がわかないというのも事実だった。

 

「ま、俺様に勝ったんだから当然だな」

 

 メジャーさんは肩をすくめてそう言う。去年の最優秀短距離ウマ娘はメジャーさんだった。

 ……当然、なのだろうか。

 

 そう受けとめきれずに封書を手に手持ち無沙汰に突っ立っていると、ヒシアマさんに促された。

 

「さ、ここはアタシが引き受けるから、アンタはトレーナーやらに報告してきな」

 

 ……そうか、まずトレーナーさんに報告だった。

 トレーナーさんにメッセージを飛ばして、コートを羽織ってバタバタと部屋から出る。

 

「……チッ。世話焼きが」

「勘違いするんじゃないよ。アタシはセミラミスほど優しくないからね」

 

 私の代わりに荷造りに入ったヒシアマさんがメジャーさんの尻を叩く気配を感じながら、封書を握りしめて私はチーム室を目指した。

 

 


 

 

 アダフェラ、チーム室。

 

 私がそこに着くと、関係者が既に勢揃いしていた。

 すなわち、トレーナーが吉富トレーナーに加えて明石親子、ウマ娘がバクシンオーさんにフライトさんとゼファーさん、そしてローレルさんだ。

 

「年度代表ウマ娘受賞、おめでとうございます」

 

 開口一番に、拍手と共に祝福してくださったのはやはりトレーナーさんだ。

 これから忙しくなりますよ、と微笑みながら恐ろしいことをおっしゃる。それを聞いた私の表情を見て取ったか、まあ今は喜びましょう、と続けてくださった。

 

「流石はセミラミスさん! きっと選ばれると信じておりましたよッ!」

「そうだね、セミラミスちゃんの活躍を思えば納得の結果だよ」

「瑞風ですね。とはいえこれは冬に(おろし)が吹くようなものでしょう」

 

 お3方は、当然だ、というようなことを口々に言って祝ってくださる。

 自身も受賞歴のある皆さんにそう言われると、とても嬉しい。でも、そう祝われるほどに、まだ足りない、という心持ちが心の何処かに根を張っていく気がした。

 

 そして駆けつけてくださったアルケスの皆さんからも祝福をいだだいた。

 

「年度代表ウマ娘に選ばれた時のあれこれについては、ウチのローレルに聞けばわかる」

「何でも聞いてね、セミちゃん」

 

 どうやらそのためにわざわざ来てくださったらしい。本当にありがたいことだ。

 

「そんな、私たちだって練習パートナーなんだからお祝いぐらいさせてよ」

 

 そう椿トレーナーが言う。

 それはそうなんだけど、どうにも気恥ずかしいというか、夏合宿でもお世話になってばかりで申し訳ない気分が勝ってしまう。

 

 そうして談笑することしばし、吉富トレーナーと明石梧郎トレーナーの言葉に引っかかるものを覚えた。

 

「今年はまあ順当なところに収まったかな?」

「難しい判断であったとは思いますが……特に最優秀ティアラをどうするかは」

「確かに有記念を勝っていたらかなりモメたかもしれんな」

 

 トレーナーさんたち曰く、単なる勝ち星だけでなく社会的影響も考慮するURA賞の選定は紛糾することもあるのだと。

 例えば、天皇賞春秋制覇+ジャパンカップ勝ちウマ、それに2戦2勝した春秋グランプリ覇者、日本で1度も走っていない海外G1 1勝+凱旋門賞2着のいずれを年度代表ウマ娘とするか、とか。

 例えば、最優秀短距離ウマ娘にふさわしいのは安田記念勝者とスプリンターズステークス勝者ではどちらか、あるいはスプリンターズステークス勝者と春秋マイル覇者ではどうか、とか。

 

「立場上旗幟を鮮明にはできないが、国内で走っていないウマ娘に年度代表を与えるのは自国のレースより他国のレースのほうが上と言ったようなもんだ、そちらに特別賞をやれば良かったんだ、という意見は一理あると思う」

「ああ、あの人ですか。そんなに凱旋門賞が偉いならモンジューにでもやればよかったんだ、とも言ってましたね」

「極論だな。確かにその年のジャパンカップに出てるから筋は通るが」

 

 うっわ……黄金世代のURA賞選定の内幕なんて聞きたくなかった……。

 というか後者の方にも聞き覚えがあるというか、関係者が集合してる気がするんですが……? 

 

「連覇、というのは順風となりやすいようですね」

「史上初、とかも加点が大きいですねッ!」

「まあ私は最優秀シニアティアラも条件満たしてたからってのもあるんじゃないかな?」

 

 や っ ぱ り。

 それぞれゼファーさんとバクシンオーさん、次の年のバクシンオーさんとフライトさんのことですよね。安田連覇のゼファーさんとスプリンターズステークス連覇のバクシンオーさんが最優秀短距離を受賞した。

 というか担当もそれぞれ吉富トレーナーと明石梧郎トレーナーじゃないですか。

 いいんですかそれ。本人が笑い話にしてるからいい? それもそうですね。

 

 そうこうしていると、ポケットの中でメッセージアプリに着信があったことを示す振動が起こった。

 断って画面をチェックすると『今すぐ来れるか』『部屋だ』という文面。ウオッカからだ。こんな端的すぎる文面を送ってくるなんて珍しい。

 事情を話すと、お友達が大変なら行ってあげなさい、と皆さん送り出してくださったので急いで栗東寮へと向かった。

 なんだかよくわからないが、ウオッカがそこまで言うなら行くしかあるまい。

 

 まあ、うん。

 タイミングを考えれば、もう少し覚悟してから行くべきだった、と後にして思うことになったのだけれど。




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みんな菱アマゾン好きすぎでは?

本年はありがとうございました。来年の更新は2日を予定しています。

レース描写の濃さの好みは? *例によって聞くだけ聞きます。気軽に答えてください

  • 別にダイジェストでもいい
  • マイルCSぐらいあっさりでもいい
  • 今ぐらいがいい
  • 安田記念ぐらいねっとり描写してほしい
  • レンゲが立つくらいこってり
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