驀進王に憧れてトレセン学園に来たダメダメな私が3つの玉座の女主人と称えられるまで   作:八幡悠

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087 若き春秋マイル女王と年度代表ウマ娘(前編)

 翌年1月、都内某所ホテル、レセプションホール。

 

 今年も例年通り、URA賞の表彰が行われた。

 式次第などは各自に郵送されていたが、私は前年も最優秀クイーンウマ娘を受賞したウオッカについておっかなびっくり会場へと赴いた。

 

 授賞式は全員正装、すなわち私たち受賞ウマ娘は勝負服である。

 会場では一人ひとりに案内役が付いて、控室から会場までアテンドされる。

 広い会場にはなんと小さなオーケストラの楽団までスタンバイしていた。

 

「どうにも慣れません……」

「慣れてください。これから何度もこのような機会はあるでしょうから」

 

 ダークカラーのセレモニースーツ姿のトレーナーさんにそう窘められる。

 艶を抑えた上品な生地は派手さがないのに、背筋が伸びるような気配を纏っている。

 胸元に光るトレーナーバッジがなければ校長先生だと言われても違和感はない。

 

「随分な自信だな、まあそれだけの逸材なら気持ちもわかるがな。まつり」

(たもつ)こそ、2年連続で受賞しているではありませんか」

 

 そう後ろから話しかけてきた初老の男性は橋頭トレーナー。トレーナーさんが珍しく名前で呼び合っていたのでぎょっとしたが、どうやら養成校の同期らしい。

 同行していたメイショウサムソンさんともお互い挨拶を交わす。去年は二冠で最優秀クラシック、今年は天皇賞春秋制覇で特別賞だ。

 俺達はこっちだから、と2人とはテーブル前で分かれる。席次をちらりと見ると、私が案内されたテーブルは最優秀シニア2人と私、そのトレーナー、そしてURA職員1名が割り振られている。

 昨年クラシック組である私たちはそれぞれのテーブルに分散されているようであった。

 

「そらあんた、あんたらを一緒のテーブルにしてもうたら“URAが選んだ新ヒロイン達”とかブンヤに書かれてまうやろ。それは流石に去年のディープでURAも懲りたはずや」

「これは猿田トレーナー、手厳しい」

 

 そう評したのは同席だった最優秀シニアウマ娘アドマイヤムーン担当のトレーナー。確か昨年NRAの園田から転籍してきたばかりだったはずだ。

 肩を軽くすくめてそう返答したのはURAの樫本上級職員。……URAにも色々あるんだな、というのがこの一言で察せられるというものだ。

 

 そうこうしているうちに照明が落とされ、ステージにスポットライトが当たる。

 ファンファーレが鳴り響き、ステージ上のスクリーンには昨年のレースを振り返るように名場面が映された。

 

 私たち3人が直線で競り合った桜花賞

 メイショウサムソンさんの春天

 私のNHKマイル

 最優秀シニアティアラであるコイウタさんのヴィクトリアマイル

 スカーレットのオークス

 ウオッカのダービー

 私の安田記念

 アドマイヤムーンさんとメイショウサムソンさんがワンツーとなった宝塚記念

 私のスプリンターズステークス

 スカーレットの秋華賞

 メイショウサムソンさんの秋天

 スカーレットのエリザベス女王杯──ウオッカも映ってる

 私のマイルチャンピオンシップ

 ヴァーミリアンさんのジャパンカップダート

 アドマイヤムーンさんのジャパンカップ──メイショウサムソンさんとウオッカも映ってる

 トールポピーさんの阪神ジュベナイルフィリーズ

 レッツゴーキリシマさんの朝日杯フューチュリティステークス──2着のレヨネットも映ってる

 メルシーエイタイムさんの中山大障害

 

 ……こうしてみると、私たちを同席にしなかった理由が理解できるほどには私たちクラシックティアラ組が目立っていた。勝っていないからなんだが、宝塚記念にもウオッカが映っていたし。

 とはいえ、私だけが目立っていたというわけでもない。まだまだ先がある。そう感じさせてくれる映像だった。

 

 そうして映像が終わるといよいよ授賞式だ。

 ジュニア級から順々に各部門の受賞者が登壇し、URA理事長からウマ娘をかたどったトロフィーが手渡される。

 授賞者は短いコメントをして降りる、というのが一連の流れだ。

 

 最優秀ジュニアウマ娘 レッツゴーキリシマ

 最優秀ジュニアクイーンウマ娘 トールポピー

 最優秀クラシックウマ娘 ウオッカ

 

 次々とウマ娘が登壇してトロフィーを受け取る。

 ウオッカも呼ばれて登壇したが、いくらダービーに勝ったウマ娘が最優秀クラシックウマ娘となるのが慣例とはいえすわりの悪い気分だ。

 しかも去年はジュニアクイーンとしてこの場にいたのだ。路線別表彰だから何も間違っていないのだが……。

 

 最優秀ティアラウマ娘 ノルデンセミラミス

 

 そんな感慨をよそに私の出番が来た。司会に名前が呼ばれ、立ち上がり一礼。

 理事長さんからトロフィーを受け取ると会場のそこここからカメラのフラッシュが焚かれる。やはり注目度が高いのか、その数は他より多い。

 

「ありがとうございます。まだ道の途中ですが、今日ここに立てたことを素直に嬉しく思います」

 

 事前に考えておいた内容を向けられたマイクに吹き込む。

 壇上から眺める会場にはこちらを見上げる顔顔顔。……まだこれ2回あるのか、と少しげんなりする。

 

 テーブルに戻った私と入れ替わるように同じテーブルのシニア級の2人の出番となる。

 

 最優秀シニアウマ娘 アドマイヤムーン

 最優秀シニアティアラウマ娘 コイウタ

 

 ここまでが各年代各路線代表の表彰であり、この後はこう言っては何だが裏街道の表彰となる。

 わざわざカテゴリ別に表彰される、ということそのものが“単独では路線別表彰が取れない”という現実の裏返しと言える。

 だがそんなものは関係ない。私は私としてこの道を走っているのだ。

 

 最優秀短距離ウマ娘 ノルデンセミラミス

 

 先ほどと同じように壇上に立つ。

 

「ありがとうございます。ずっと目標としていた背中に少しでも近づけたことを嬉しく思います」

 

 会場の後方を目で追う。その先には桜色のドレスを着こなしたおすまし顔。隣に座る海老色のドレスのウマ娘の苦労が目に浮かぶようだ。

 その背中は、まだあまりに遠い。

 

 続いて表彰されるのはダート・障害のウマ娘。

 芝の中長距離を王道とするこの国で、短距離はともかくダートウマ娘が年度代表を取ることはこの先あるのだろうか。

 あるいはBCクラシックでも獲れればわからないが、あれだけ毎年のように送り込んでいる凱旋門賞ですらまだなのにそれはいつになることやら。

 

 最優秀ダートウマ娘 ヴァーミリアン

 最優秀障害ウマ娘 メルシーエイタイム

 URA特別賞 ダイワスカーレット

 URA特別賞 メイショウサムソン

 

 そうして各部門賞の表彰が終わる。

 会場が暗転、いよいよだ。高揚感のあるミュージックが流れ出す。

 

 桜舞う仁川、桜花賞。

 

『外からダイワスカーレット! さらに外からウオッカ!! ノルデンセミラミス! ダイワスカーレット! ウオッカ! 3人並んだ! 3人が並んでゴールイン! 』

 

 稍重となった府中、NHKマイルカップ。

 

『ノルデンセミラミス! ピンクカメオ! ノルデンセミラミス粘りきった! 3着はムラマサノヨートー! ノルデンセミラミス粘り勝ち! ラインクラフト以来の変則二冠達成!!』

 

 初のシニア混合戦、安田記念。

 

『コンゴウリキシオー粘る! 粘っているがしかし! おっとここでダイワか、ノルデンか! ダイワか、ノルデンか! 今並んでゴールイン!!』

 

 雨に霞む中山、スプリンターズステークス。

 

『届くか!? 届くか!? 届いた! 並んでゴールインッ! ほとんど同時! これはわかりませんッ! アストンマーチャンとノルデンセミラミス! すごいレース、すごい叩き合いでした!』

 

 秋の淀、マイルチャンピオンシップ。

 

『セミラミスついに前に出た!! セミラミス突き放す!! 後ろからスーパーホーネットが飛んでくる! すごい勢いだ! メジャーに迫るが……届かない! ノルデンセミラミス、半バ身差の勝利!!』

 

 全員すごい顔してんなとか、毎回僅差すぎないかとか、驚きのダイワ姉妹率とか、詮無いことを思いながら他人事のように眺める。

 

『ティアラ路線からマイル戦線へ。シニア級との戦いもものともせずあらゆるターフを駆け抜けた、今年最も可憐で、最も速く、最も鮮烈であったウマ娘。今年の年度代表ウマ娘は──』

 

 スポットライトが私を照らし、名前が呼ばれるのに合わせて立ち上がり壇上へ。

 

 先ほどと同じように理事長からトロフィーを受け取る。

 これまでのどれよりもたくさんのフラッシュが焚かれ、会場から拍手が巻き起こる。

 事前にわかっているからまだいいが、やはりフラッシュを焚かれるのは慣れない。

 

『それでは続いて副賞の授与となります』

 

 年度代表ウマ娘となった者には副賞として新しい勝負服が贈られるのが慣例となっている。

 しかし、そう言われてもどうにも現実感がないと言うか……そもそも今の勝負服を気に入ってるし、等と言っていたら、ではこちらで考えておきますね、とトレーナーさんに引き取られてしまった。

 まあトレーナーさんに任せておけば悪いようにはされないだろう、と思っていたので、何が用意されているのか詳しくは私も聞かされていないのだ。

 

『副賞は勝負服“Treenighedens forening”に佩用(はいよう)する騎兵刀《サーベル》と勲章となっており──』

 

 ああ、そういえば正月休み明けにそんな話はしていた気がする。

 騎兵刀はともかく、勲章はルドルフ会長みたいにジャラジャラさせると共産圏の将軍っぽくてカッコ悪いから略綬──軍人が胸につけてるカラフルなリボン──にしてくれ、と言った覚えがあった。

 どう考えてもあんなの7つもぶら下げるのは趣味悪いよね。絶対邪魔じゃない、アレ。

 

『──トレセン学園生徒会長、シンボリルドルフより授与していただきます』

 

 ……は? 

 

 思わず舞台袖を振り向きそうになって、すんでのところで壇上であることを思い出してギリギリ貞淑さを保てる速度でそちらに視線を向ける。

 はたしてそちらには、濃緑色のかっちりとしたドレス姿のシンボリルドルフ会長。

 そしてそれに従うのは、略綬と勲章のつけられたフェルト貼りの板を持つ紺色に黄色のアクセントの入ったフォーマルなドレスのエアグルーヴ副会長。

 そして騎兵刀を捧げ持つ暗褐色のひらりとしたデザインのドレスを纏った暗い鹿毛のディープインパクト副会長が歩いてくるところだった。

 

 …………は? 聞いてないんですけど?




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前話にも追記しましたが、ダイワスカーレットのドバイWC挑戦は史実通りです。
当時の記事見てるとダートで並走させてマジで行く気満々です。頭松国かよ。松国だったわ。
しかもフェブラリーSは最初100m芝だから勢いつくしいけるいける(意訳)とか場末の馬券師でも言わなさそうなことをマジで言ってます。
なお、史実では調教中の事故により遠征を断念しており、OVAの眼帯ダスカはそれが元ネタと言われています。多分エヴァではないと思います。

トレーナー名は毎回頑張って考えてるんですが由来を説明できないのが残念ですね。
橋頭(たもつ)トレーナーとか我ながら某所の中島大調教師並に傑作だと思うんですが。

レース描写の濃さの好みは? *例によって聞くだけ聞きます。気軽に答えてください

  • 別にダイジェストでもいい
  • マイルCSぐらいあっさりでもいい
  • 今ぐらいがいい
  • 安田記念ぐらいねっとり描写してほしい
  • レンゲが立つくらいこってり
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