明導アキナが死の運命を乗り越えられない世界なので、悲惨だったり原作キャラ死亡描写がありますのでご注意ください。
プロローグ:1 旅路の始まり
繰り返される同じ人生。変わらない世界の時間は矢の如く駆けていく。どうしようもない輪廻の中で、自分の記憶が積み重なる。だがそれは敗残者の骸だけではない。決して変わる事のない宝物も持って巡るのだ。
そして手には一枚のカード。これこそが俺が掴んだ奇跡の具現。
この二つの武器を以って、俺はふざけた運命を超克する。全ては始まりの、愛おしい人達を救う為に。
◆
始まりはいつからだっただろうか。
俺がかつて■■■■だった頃。気付けば別人の人生を歩んでいた。
今生の名は──竹松ケント。生まれた場所は加賀國金澤。そして今世はヴァンガードと言うTCGが盛んで、他のTCGは存在していない。
その代わりテレビやネットで大々的に取り扱われ、国民の代表的な娯楽となっている。
折角だから、と言う理由で手を出してみたが周りにやっている人が誰も居らず、結局中途半端に手を出しただけで辞めてしまった。
前世と似ているようで違う世界。とは言え科学技術はほぼ同じ。
何となく幼児時代を、小学校時代を、中学校時代を流されるままに過ごしていたが、転機は高校入学後に訪れた。
明導アキナ。この暗く永い旅路の先を照らしてくれる、俺の親友だ。
「初めまして。俺は明導アキナ。よろしく」
「おう。俺は竹松ケントだ! よろしくな!」
何の変哲もない普通の出会い。けれど俺にとっては何度繰り返そうと色褪せない最高の出会いだ。
『わずかな光でも手を伸ばした者にのみ奇跡は舞い降りる』
アキナが口癖のように呟いていたその言葉が俺の背中を押してくれる。ふざけた運命を打倒し、果て無き輪廻の先に理想の未来があると信じる事が出来る。
そしてもう一人──。
「お兄ちゃん、友達を連れてくるなら先に言っといてよ~! あ、初めまして。妹のヒカリです」
アキナの妹、ヒカリちゃん。俺がこの旅路を歩む切っ掛けをくれた、最愛の女の子。
最初の印象は可愛い子だな、というだけだった。こんなに可愛い妹が居たらこっち優先になるよな、とアキナを茶化した事もあったか。
アキナと一緒に関わる内に、彼女の内面が見えてきた。病に侵された身体なのにそれを感じさせないくらい明るくて、優しくて、いつも笑顔で。
そんなヒカリちゃんの姿に、いつの間にか俺の心が惹かれ始めていた。
忘れもしない。今でもその時の胸の高鳴りを覚えている。そうだ。俺は彼女に恋をした。これはその最初の出来事。
けれど、僅かその一年後。高校二年のある日──明導アキナが失踪した。
最初は信じられなかった。そしてその後、魄山の一角が消失したというニュースが流れた。高校生が行方不明という文字を添えて。
意気消沈したヒカリちゃんと共に消失した魄山を見に行ったが、あれは自然現象の類ではなかった。まるで急にブラックホールが出現して何もかもを抉り取ったかのような、超常現象そのもの。
その後のヒカリちゃんは見ていて痛々しかった。失踪した兄を探す為に、病気の身体で奔走した。
──世界は容赦なく彼女にも牙を剥いた。
アキナの居ない日常に心も身体も慣れ始めた三年目のある日。今度はヒカリちゃんが失踪した。何の前触れもなく唐突に。まるでアキナと同じように。
どうしてアキナだったんだ! どうしてヒカリちゃんだったんだ! どうしてこんな理不尽が罷り通るんだ!
絶望して、その後はただ成り行きのままに人生に流され続けて、気が付けば終わっていた。
◆
竹松ケントとしての二度目の生が始まった。
意味が分からなかった。どうして俺は記憶を持っているのか。どうしてまた幼児時代から人生が始まったのか。
前回と同じように時が過ぎ、明導アキナと明導ヒカリの兄妹と出会い、そして──前回と同じように失踪した。
次の人生も、その次も。ここまで来ると最早偶然では無いのだろう。あの兄妹は呪われているのか。俺は七回目の人生で、ようやくアキナ達を救う為の行動を開始した。
失踪の予兆を見つけるべく今まで以上にアキナと親密になったが、アキナがヒカリちゃんを置いて行ってまで失踪するような原因は見つけられなかった。
弱音を吐いてはいられない。アキナが失踪すれば、次はヒカリちゃんの番なのだから。親友を、そして俺が恋した女の子を助ける為に、膨大な選択肢の総浚いをやるしかない。
何度も輪廻を繰り返す。俺の大切な、何よりも大切な光り輝く宝物を取り零さない為に。明導アキナを、そして明導ヒカリを未来へ必ず連れて行く為に。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
竹松ケントという男の人生を送った回数は三桁を超えた。世界は何も変わらない。アキナとヒカリちゃんの失踪という未来を変えられない。
これ以上、俺に一体何が出来る? 俺に残された選択肢は何だ? この手を零れ落ちていく大切な人達を救うために、他に何を選べばいいんだ。
心で弱音を噛み潰し、俺は輪廻を巡り続ける。
◆
六百七十二回目の人生が始まった。動画の二倍速の如く時間が消費されていく。新鮮味の無い世界に心が慣れてしまったのだろう。
この虚無な人生で俺は一体何をしている? 何の為に生きている? 二人を救えない俺に価値なんかあるのか? 何度問いかけても、その答えは見つからない。
救われない未来にすら慣れてしまって、このまま永遠に竹松ケントの人生を心が壊れるまで繰り返すのか?
『初めまして。俺は明導アキナ。よろしく』
『お兄ちゃん! も~友達を連れてくるなら先に言っといてよ~! あ、初めまして。妹のヒカリです』
否。否。断じて否だ!
脳裏に焼き付くのは二人と初めて出会った時に交わした言葉。何度人生を繰り返そうと、この愛おしい瞬間は俺の宝物の一つだ。
俺の親友、そして大切な人が幸せに生きる未来を掴み取る。この誓いを抱く限り、俺は立ち止まってはいけないんだ。
俺が何度も出会ったアキナは、困っている人を見かけたら迷わず手を差し出していた。だから俺も彼に手を伸ばし続けるんだ。
俺が何度も出会ったヒカリちゃんは、失踪した兄と再会する事を決して諦めなかった。だから俺も諦めるなんて出来はしない。
選択肢を探せ。他に俺は何をしていない?
「あれ? ヴァンガードやってたっけ?」
「これから始めんの」
高校二年のある日、今回の人生がアキナの失踪直前まで迫った時の会話だった。今まではヒカリちゃんの為に始めたと思っていた。けれど、他の選択肢を試した今は違う。
どうして今なんだ? ヒカリちゃんの為なら他にやれるタイミングもあった筈だ。少し前、アキナとヒカリちゃんに「実は俺も昔ヴァンガードをやってたんだよ」と話した時もアキナは興味を示さなかったじゃないか。
ヴァンガードがアキナが失踪する鍵なのか? ストレイキャットというカードショップでデッキを作り、時々アキナとファイトをしたが失踪の兆候は見えないままだ。そして進展が無いまま今回の人生もアキナは失踪した。
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七千六十二回目の人生が始まった。小学生時代と中学生時代をヴァンガードに充てた。
ここまで繰り返して、ようやく大きな大会でも結果を残せるようになってきた。その甲斐あって、ヴァンガードが好きなヒカリちゃんと度々ファイトをする仲になった。
だが未だにアキナ失踪の原因を掴めていない。ヴァンガードを含めた選択肢も、もう幾何も残っていない。
次はどうすればいい。何か他に進展はないか。考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて──アキナが失踪した。
兄を探すヒカリちゃんを支えながら、俺は考える事を止められない。止めてしまえば全て無駄になってしまうから。誓いが塵と化してしまうから。
アキナが失踪してから既に三年が経過した。このままではこの人生でもヒカリちゃんが失踪してしまう。早く次の鍵を探さなくてはならない。ヒカリちゃんを、そしてアキナを助ける為に!
だが、意気込みだけでは何も変わらない。ヒカリちゃんが失踪した後、残りの人生をヴァンガードに全て捧げた。
俺の怒りが運命に届くように。二人を殺す世界に憎悪を込めて。
◆
十二万二千七百五回目の人生が始まった。
「決まったああぁぁ──ッ!! 強い! 強すぎる!! 日本からやって来た刺客、竹松ケントが九連覇アアァァァ!!!」
アキナやヒカリちゃん達と一緒に過ごす時を除いて、俺は人生の大半をヴァンガードへ注ぎ込んだ。
輪廻によって修羅場を潜った回数は、最早常人が一生を捧げても届かない域にまで達していた。アマチュアで出場可能な世界的に有名な大会を全て九連覇。前人未到の大記録に世界中のカードファイター達は阿鼻叫喚だろう。
けれど、そんなものなど俺には何の価値もない。
「まさに恐れを知らない獰猛な牙! 世界の栄光を全て貪る不滅の
今世で得た
二人を殺す世界を貪る、悪しき邪竜となってやろうじゃないか。
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百二万千十回目の人生が始まった。そして、二回目の転機が訪れた。
「竹松ケント、君は選ばれた! 運命を変える戦い──その名も、運命大戦に!!」
運命の車輪が俺を轢き殺しに来た瞬間だった。