わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

16 / 47
第二章:8 成就の刻

 未来のヒカリちゃんを救う。その方法はかつての輪廻でずっと考えてきた事だった。

 

『もしその方法を取ると言うのならば、過去へ逆行してきた明導ヒカリと三年前に出会い、時間の矯正力に攫われる瞬間でなければならない。矯正力に抗う為に莫大な運命力(デザインフォース)を注ぎ続け、同時に明導ヒカリの存在証明を確立出来たならば──或いは救えるかも知れない。机上の空論でしか無いがな』

 

 基本的な考え方は八千六百九十二極回目の人生で出会ったガブエリウスから聞いた方法を用いる事となる。蓄積された運命力(デザインフォース)を使い、ヒカリちゃんの存在証明の確立を目指す方向だ。その為の必要条件はさっきのファイトで全て整っている。

 未来のヒカリちゃんとファイトすれば、運命者カードの紋章の機能で運命力(デザインフォース)の譲渡が始まる。レザエルに蓄積された運命力(デザインフォース)を使用するには、紋章のパスを開ける必要があった。

 

『パスの規格以外にも、一度魄山の術式が運命者カードを認識する必要がある。例えば君が持つ奇跡の運命者カードだが、それでは一回目の運命大戦の運命者カードの所有者と戦っても運命力(デザインフォース)の譲渡は行われない』

 

 この情報は恒河沙を少し超えたあたりの人生で出会ったガブエリウスから聞いた情報だ。魄山の術式が認識している状態でパス規格が同じ運命者カードの所有者が運命大戦を行えば、運命力(デザインフォース)のパスが開く。

 今生の運命大戦で未来のヒカリちゃんとアキナとの間で運命力(デザインフォース)の譲渡が行われなかったのは、時の運命者が術式に認識されていなかった上で、アキナのレザエルとパス規格も一致していなかったからだ。

 宿命決戦において運命者カードと宿命者カードとの間で運命力(デザインフォース)の譲渡が行われなかったのは、宿命者カードの紋章が運命力(デザインフォース)の譲渡機能を持っていなかったからだ。

 改竄された魄山の術式に宿命者カード用のパスが仕込まれていた。つまり宿命者カードに関しては術式としかパスが繋がらないようになっている。

 これらの情報を踏まえた上で、今の状況を整理してみよう。

 

 ──パス規格、クリア。

 二回目の運命大戦のパス規格は一回目の運命大戦のパス規格と若干違う。運命者カードの座が零の運命者から時の運命者に変わった事による弊害だが、俺のレザエルは二回目の運命大戦の運命者カードなので、時の運命者とは問題無く運命力(デザインフォース)の譲渡が出来る。

 

 ──魄山の術式による認識、クリア。

 改竄前の術式では、新たな運命者カードを新たに認識させるためのスロットが無かった。だが今回の宿命決戦の術式は宿命者カード分以上のスロットが空いていた。だからこそ、時の運命者や俺のレザエルを認識させる余裕が存在した。セキュリティもごっそりオミットされてたのはさすがに笑ったが。

 

『条件を満たせないからと言って私の術式を改竄するなよ? 運命力(デザインフォース)の量に差があり過ぎれば逆流して、指向性のない膨大な力が荒れ狂う事になる』

 

 最大の壁となるのがこの情報だ。運命大戦が決着するまで、運命者カードで運命力(デザインフォース)に指向性を持たせる事が出来ない。逆に言えば運命大戦──今回の例で言えば宿命決戦が終わりさえしていればこのロックは解除される。

 現に術式を弄る際に確認した時はロックがかかっていた。ただ今は……代表戦どころか俺とヒカリちゃんとの延長戦も決着しており、ロックも外れている。

 俺が勝った時に備えて、魄山の術式にあった運命力(デザインフォース)の逆流を防ぐ安全弁も外してある。これでファイトさえ行われれば俺の旅路で得た運命力(デザインフォース)を、時の運命者カードを通してヒカリちゃんへ確実に注ぎ込む事が出来る。後は──俺が運命者カードとしてのレザエルの力を使うだけだ。

 

 ◆

 

「成就の刻だッ!!」

 

 これが俺の旅路の終着点。蓄積された運命力(デザインフォース)の奔流をレザエルの癒しの力で指向性を持たせていく。

 

「この膨大な運命力(デザインフォース)を奇跡の運命者の力で制御しているのか……一体何をしようしている?」

 

 口から溢れる快哉の叫びに反応するのはガブエリウス。その疑問に答えるべく、俺は改めてその目的を口にする。

 

「この運命力(デザインフォース)でヒカリちゃんの存在証明を確立させ、時間の矯正力に攫われる対象から外す。これはその第一段階だ」

「馬鹿な……ッ!? レザエルの力では存在証明の確立など──」

 

 普通はそうだ。そもそも存在証明に干渉できる運命者の方が稀だ。ましてや他人の存在証明を弄るなど狂気の沙汰だろう。

 だが何事にも抜け道はある。特に今回はレザエルだからこそ取れる方法だ。ガブエリウスも俺と同じ結論に辿り着いたのか、純粋な怒りをもって吠える。

 

「──正気か貴様ッ!!? 狂っている……! まさか、癒しの力で自身の運命力(デザインフォース)の存在証明をそのまま移植するつもりか!?」

「さすがはガブエリウス。説明するまでも無く答えに辿り着くか」

「それは自滅の道だぞッ!? 存在証明を手放せば人間の定義すら失う!! 世界から竹松ケントは人間では無いと一度定義されてしまえば、唯一性存在の証明による連鎖定義に巻き込まれて消滅するぞ!!」

 

 唯一性存在の証明は同じ世界の完全同一個体(ドッペルゲンガー)を排除する役割がある。では、その完全同一個体(ドッペルゲンガー)が確実に存在する場所はどこか。

 それは、俺自身が今までの旅路で体験している事だ。つまり──。

 

『今まで巡ってきた輪廻で、多少の違いはあれど性格や性別が変わっていた人はいなかった。まるで世界の『原本』があるかのように』

 

 遥か昔、三兆六百八十八億四万二百七回目の人生で俺自身がガブエリウスに語った事だ。つまりはこれが世界の『原本』の正体なのだろう。

 並行世界に存在する同一人物は、運命力(デザインフォース)の存在証明の情報も同一であり、常に同期され続けているという事か。

 ガブエリウスの言う連鎖定義とはつまり並行世界間の存在証明の同期処理の事で、この時に竹松ケントは人間では無いと定義されてしまえば同期処理によって数多の並行世界の竹松ケントは人間では無いという情報に上書きされる。

 人間の定義から外れ存在証明も欠けた生物は、世界に容認されず矯正力により消滅するだろう。

 

『存在証明とは、生命が有している砂粒のような量の運命力(デザインフォース)を以って世界が判断するものだ。莫大な運命力(デザインフォース)を注いでしまえば、人間である事の定義すら崩れかねない。死ぬどころではない。消滅だ。一度世界が明導ヒカリは人間ではないと判断してしまえば、君がこれから旅をする並行世界の明導ヒカリも連鎖的に存在が抹消されるだろう』

 

 八千六百九十二極回目の人生で出会ったガブエリウスの言葉も今思えば納得しかない。俺に唯一性存在の証明という前提知識が無かったから、その辺りの説明を省いていたのだろう。

 

「今更自滅ごときで躊躇うものか! この旅路で取り零すばかりだった俺に、ようやく機会が巡ってきたんだ。この歩みはもう、誰であろうと止められないッ!」

「自分の存在全てを犠牲にしてもか? 君が転生しない竹松ケントまで全て根絶やしにするのか!?」 

「ガブエリウス。惑星クレイに住まう聖竜ともあろう存在が視野狭窄も甚だしい。その問いに返す答えは一言だけだ! お互い様だ、とな」

 

 ガブエリウスは勘違いをしている。存在を根絶やしにするだと? その通り。最悪の場合は俺と言う存在は全ての世界から消え去るだろうさ。

 だが、それはお互い様なんだよ。ガブエリウスは俺を特別な存在だと見ている節があるから、もしかすると気付いていないのか。

 

「俺は那由他の旅路の果てに膨大な運命力(デザインフォース)を手に入れ、ヒカリちゃんを救おうとしている。だがな、それは決して特別な事ではない!!」

「何を言っている……? こんな馬鹿げた事を出来る人間が他に居るものかッ!!」

「そこが間違いなんだよガブエリウス。無限に拡がり続ける並行世界で、輪廻を繰り返す竹松ケントが居ないとどうして断言出来るッ!? 第二、第三の俺が存在しないと本気で思っているのかッ!!?」

 

 俺がそんな特別な存在なら、どうしてアキナを救えなかったッ!? どうしてヒカリちゃんに生きる理由を与えられなかったッ!!? どうしてあんな理不尽を防ぐ事が出来なかったッ!!!?

 決まっている。俺は選ばれなかったからだ。特別でも何でもないからだ。物語の主人公のように、奇跡を願えば祝福してくれるような存在じゃないんだよ!

 

「お前の目の前にいる存在は、大切なものを取り零し続けた凡人だッ!! 他に居るものかだと!? 居るんだよッ!! 俺が成し遂げたから可能性が生まれたんだ! 万難を排して自身の存在証明をヒカリちゃんへ移植する竹松ケントが存在するという可能性がある限り、俺はこの瞬間にも世界から抹消されてもおかしくないんだよッ!!」

「……止まるつもりは無いようだな、竹松ケント」

 

 そうとも。俺は自分の死を恐れない。賽は既に投げられたのだ。膨大な運命力(デザインフォース)も既にレザエルの手中に収まりつつある。

 

『──ッ! あぁ、約束だ! 絶対に、絶対に見つけ出す! そして、今度は必ず救う!! 救って見せる!!』

 

 時間の矯正力に攫われ、消えていくヒカリちゃんと交わした約束。今こそ果たす時だ。次の機会などありはしない。

 

「待って! 本当にそれしか方法はないのッ!? ケントさんが犠牲になってまで──」

「──都合良く奇跡が降ってくるなんて、俺に限ってはあり得ない。だからこそやれる事は全てやるんだ」

 

 未来のヒカリちゃんが悲痛な声を上げるが、もうこれしか方法が無いんだ。大丈夫だ、ヒカリちゃん。この世界には君が救った大切な人が居るじゃないか。

 

「そうとも。都合の良い奇跡になど頼らない! レザエルに蓄積された運命力(デザインフォース)と、俺の(すべて)を燃やし尽くし──ヒカリちゃんの未来を照らす明けの明星となるんだッ!!」

 

 太陽になれずとも、彼女の暗闇に満ちた人生にかすかな光をもたらす明けの明星(一助)となる。俺は君のこれからの人生に幸あれと願っている。

 

「それが! それこそが! 俺が君に遺せる唯一の愛だッ!! 奇跡の運命者レザエルよ、俺の願いを叶えてくれッ!!」

「駄目えええぇぇッ!!」

 

 ヒカリちゃんの悲鳴と共に、魄山の大舞台が運命力(デザインフォース)に包まれた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。