わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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短いですが前話のほぼ裏パートで、前話と今話を合わせて第二章の九話と考えてくれればと思います。


第二章:9 一回目の人生の景色

 レザエルへ願いを叫んだ瞬間、俺の視界が一変した。俺が歩んだ旅路の足跡がイメージとなって氾濫する。

 その総てを覚えている。愛する女性の笑顔も、憎悪も、等しく俺の宝物だ。邪竜(ファーヴニル)が抱え込むに値する至高の輝きに他ならない。

 俺が呪うのは運命であり世界だけだ。アキナを、ヒカリちゃんを──俺の大切な人を轢き殺す運命の車輪を脱線させる為に運命力(デザインフォース)を蓄えたのだ。

 

「思えば意外と永かったな」

 

 数倍速で流されていく俺の人生。その足跡(過程)を誇る気はない。彼女達を救えなかった竹松ケント(自分自身)に価値は無い。誇りとして抱くのはいつだって運命力(結果)だけだ。

 これから始まる自身の終焉に添える余興としては悪くない。比喩でもなんでもなく、このイメージはそのまま俺の走馬灯なのだから。

 膨大なイメージが流れ、過ぎ去り、その果てに一瞬で辿り着く。あぁ、もう終わってしまったのか。本当に永く歩いて来たのだと思う。数倍速とは言え、那由他の果てまで続いた足跡がこんなにあっさりと終わってしまうなんて。

 体感時間のギャップを感じながら、再生が終わったイメージの先に進む。そろそろレザエルの奇跡が発動する頃だ。だけどその前にやり残したことがある。この段階じゃないと出来ない、最後の大仕事だ。

 

「決着をつけようかシヴィルト。精神汚染の出所が、今の俺には手に取るように分かるぞ」

 

 俺が受けた精神汚染の残滓を手繰り、レザエルの力に満ちた運命力(デザインフォース)の中を進んでいく。イメージの無い暗闇をかつて狂おしいほどの殺意を抱いていた敵に向かって歩き続ける。

 そして──突然視界が広がった先にあったのは、魄山の大舞台へ繋がる山道だった。

 

「──ッ!?」

 

 ドクン、と心臓が大きく跳ねる。この光景を俺は知っている。そしてその時間軸も知っている。レザエルが知る筈もない、運命力(デザインフォース)に刻まれる筈もない、俺の始まりにして後悔の記憶。■■■■()が竹松ケントとして歩んだ、一回目の人生の一幕だ。

 

「……どうして?」

 

 疑問の声が思わずもれる。僅かに残ったシヴィルトの残滓がこの場所に本体が居る事を示している以上、俺には進む以外の選択肢はない。

 逸る気持ちを押さえつけながら山道を進むと、しゃがみこんで咳き込むヒカリちゃんが見えた。

 

「こほっ、こほっ……!」

 

 急いで駆け寄り、ヒカリちゃんの背中をさする。その感触もあの時のままだ。俺は当時の記憶を再現するように声をかける。

 

「ヒカリちゃん。まだ進めそうかい?」

 

 確かこう声をかけた筈だ。要らぬ絶望をヒカリちゃんに与えたと思い、これ以降の人生では一度も連れて行かなかった。だからこそよく覚えている。この後に待ち受ける真実を直視した彼女の、悲痛な叫びと共に。

 

「……はい。行って確かめなきゃ……っ!」

 

 ヒカリちゃんが立ち上がろうと足に力を入れている事が伝わり──そして気付く。シヴィルトの残滓がヒカリちゃんを示している事に。

 そこに疑問符を浮かべる前に、背中をさすっていた手をヒカリちゃんに掴まれる。──違う! これは記憶の再現じゃ……っ!!?

 

「──なっ!?」

「捕まえたよ。覚悟はいい?」

 

 ヒカリちゃんの姿が変わる。三年前の姿から未来の姿へ。理解した。つまり、このヒカリちゃんは──!

 

「色々言いたい事はあるけど──まずは歯ぁ食いしばれええぇぇぇッ!!」

「え、いや──う、グゥ……っ!!?」

 

 気付いた時には、固く握られた彼女の拳が俺の頬を強く打ち付けていた。痛い、のは間違いないがそれよりも困惑が勝る。

 どうして彼女がここに居る? どうしてシヴィルトの力が彼女を指し示している? どうして彼女が、俺の記憶に残るやり取りが出来る?

 

「目ぇ覚めた? もう一発いっとく?」

「……はぁ、勘弁してくれヒカリちゃん」

 

 聞きたい事は山ほどある。だけどまずは目の前の彼女だ。ヒカリちゃんの顔には不満が滲み出ている。俺がヒカリちゃんを救う事に微塵も納得していない。

 ここで言葉を濁すことは出来る。宥めながら時間を稼いでレザエルの力が俺の存在証明を解析し、移植する直前でシヴィルトの本体を癒しの力で消し飛ばす事は可能だろう。

 ──いや、もう腹を括ろう。俺は彼女と話し合う事に決めた。

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