輪廻を巡り、小学校時代と中学生時代に世界を荒らして
同じ時間、同じ場所での大会でも若干規定が違ったりしている。最初は気にも留めていなかったが、輪廻が進むにつれてその違いが目に入り始める。
俺は今まで竹松ケントの過去に戻り、人生を繰り返していると思っていた。だけど、もし、過去ではなく並行世界の竹松ケントへ転生を繰り返しているのならばどうだろうか。
過去への時間跳躍ではないならば、たとえわずかな違いであっても並行世界への転生であるならば。輪廻を繰り返し、その違いが大きくなれば二人を救う転機が訪れるのではないだろうか。
俺はこの仮説に一筋の
『わずかな光でも手を伸ばした者にのみ奇跡は舞い降りる』
魂に刻まれた親友の言葉を反芻する。そうだ、迷う必要などどこにもない。
そして、ついにこの仮説が正しかったのだと証明される時がきた。アキナが失踪して三年が経過し、ヒカリちゃんの失踪時期が間近に迫っている時だった。
俺は今、一枚のカードを手にして自分の部屋に立っていた。
「君が手にしているのは運命者カード、《奇跡の運命者 レザエル》」
デフォルメされた黄色い竜のぬいぐるみ──ガブエリウスが、宙に浮かびながら話している。あまりにも現実離れした光景だが、俺の脳裏に過ぎるのは強大な力で抉り取られたとしか思えない魄山の光景。
「竹松ケント。君には変えたい運命があるか?」
ある。あるからこそ俺はこの永い旅路を歩いているんだ。必ず救うと心に誓い、親友の言葉と彼女への恋を抱きながら。
「あぁ、変えたい。変えてやるさ。俺は不滅の
《奇跡の運命者 レザエル》に紋章が宿る。運命大戦に挑む資格が与えられたのだ。運命大戦の概要を聞いた後、俺はカブエリウスに問いを投げた。
「カブエリウスに聞きたい。この運命大戦は、過去にも行われたのか?」
「……あぁ。三年前にも行われた」
予想通りの言葉に、俺は質問を重ねる。むしろこちらが本題だった。
「その運命大戦に、明導アキナという名前の男は参加していたか?」
「明導アキナは、君が手にしている運命者カードの三年前の所有者だった」
その言葉は、俺にはアキナを救えない事を意味していた。
ようやく真実に辿り着いた。あの魄山の惨状は優勝した所有者の願いを叶えた結果なのだろう。
そしてアキナはその願いに巻き込まれて──死んだのだろう。誰にも知られず。消えるように。
アキナが叶えようとした願いも予想が付く。ヒカリちゃんの身体を治したかったのだろう。
現代医療でも治療出来ない不治の病を癒すのならば、奇跡にしか縋れなかったのか?
それとも、これもわずかな光なんだと手を伸ばしたのか? それがアキナの身を滅ぼしたのか?
ならば俺もやらねばならない。この戦いを知り、そしてヒカリちゃんだけでも救い上げる。
その為に俺は運命大戦に身を投じた。それが永い旅路にわずかな希望と──更なる深い絶望が上乗せされる事になるとも知らずに。
「竹松ケント。ついに運命が動き出した!」
数日後、俺はガブエリウスから運命大戦の開幕を告げられた。
負けない。負けられない。どんな相手であっても、邪竜の牙でその願い諸共嚙み砕いてやる。
「どう、して……あなたが……ッ!?」
──そんな決意は、絶望に満ちたヒカリちゃんの声と共に霧散した。
この人生でも俺は小学生から高校入学までの九年間、世界各国の大会を荒らしに荒らした。そして手に入れた
ヴァンガードをやっていたヒカリちゃんもその事は知っている。だからこその絶望なのだろう。
彼女も、叶えたい願いを胸にこの運命大戦の舞台に上がった。俺は……俺は──どうすればいい?
「──最ッ低……!!」
運命大戦の最終戦。俺とヒカリちゃんとの、願いを賭けた戦いに勝ったのは俺だった。
「どうして! どうして!? 私はお兄ちゃんを、助けたかったのにッ!!」
俺はヒカリちゃんの治癒を願ったけれど、彼女の心までは癒してくれなかった。俺に願いを貪られたヒカリちゃんの慟哭が耳に焼き付く。罪人の証であるかのように。
いや、きっと俺は罪人なのだろう。運命大戦が終わってから数ヶ月後。ヒカリちゃんは自分の部屋で首を吊って死んでいた。俺は彼女の生きる目的になれなかった。
……何が運命大戦だ! 何が変えたい運命はあるかだ! 結局何も変わらないじゃないかッ!! アキナが! ヒカリちゃんが! 二人が生きて未来へ進めないじゃないかッ!!
今に見ていろ、運命よ! この怨嗟で! この憎悪で!! 邪竜の爪牙を鍛え上げ、風穴を開けてやるッ!!!
◆
運命大戦に参加した後、この旅路に新しい仲間が加わった。《奇跡の運命者 レザエル》のカードだ。
本来であればアキナ失踪から三年後の運命大戦の時に手にするカードなのだが、運命大戦に初めて参加した以降の輪廻で
では、もう運命大戦には選ばれないのか? 答えは否。開催時期になればガブエリウスから俺が運命大戦の参加資格を得た事を告げてくれる。
そしてもう一つ。《奇跡の運命者 レザエル》のカードに何かしらの力の残滓が感じられるようになった。ガブエリウス曰く、これは
運命者カードが所有者の願いを叶える原動力だと言う。ならば、これを積み重ね続ければアキナとヒカリちゃんの運命を変えられるのではないか。
そう信じて俺は運命大戦に参加し続けた。それは同時に、ヒカリちゃんを殺し続けたという事でもある。
『──最ッ低……!!』
そうだ。俺は君を救いたい一心で、君の願いを踏み躙った。それは決して許される事では無い。
『そんなに強いならッ!! どうして三年前に選ばれなかったの!? どうしてお兄ちゃんだったの!!? 何で今更っ、あなたが選ばれるの!!!?』
ごめんね、ヒカリちゃん。俺にも分からないんだ。どうして、だろうな。どうして俺は……。
『私の──ッ! 邪魔を、するなアアアァァァ!!』
アキナとヒカリちゃんを救いたい。この気持ちに嘘はないし、今でも誓いを覚えている。だが、今の俺は何をやっている?
愛する人の屍を積み上げて、本当にその先に俺の望む未来はあるのか?
輪廻を重ねる度に、
俺は……。俺は……ッ。俺は……ッ!
◆
七億四千八百二十二万九千二回目の人生が始まった。そして、明導アキナが参加する運命大戦の日程もようやく把握出来た。
俺は今までアキナが参加する運命大戦に介入していなかった。出来なかったのだ。
ガブエリウスが細工しているのか、それとも同じ時間軸に二枚存在する《奇跡の運命者 レザエル》同士が反発しているのかは分からないが、全く情報が掴めなかった。
魄山で起こる惨状の現場も、俺が運命大戦に参加してからは輪廻毎に場所が変わるようになった。俺と言うイレギュラーを拒むように。
だが、膨大と言っていい程に貯められた
《奇跡の運命者 レザエル》が、アキナが参加する運命大戦の舞台へと導いてくれた。
とは言え運命大戦の席は既に埋まっている。アキナの代わりに俺が参加する事も出来ない。ならば情報を集めるしかない。
アキナとヒカリちゃんを救う為の鍵を、俺は次の輪廻へ持って行かなければならない。運命大戦の参加者達にバレないように戦いを観察し、少しでも多くの情報を抱えなければ。
そして運命大戦の最終戦。俺はそこで、零の力を見た──。