わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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第二章:最終話 彼女と一緒に歩く未来

『巻き込まれた皆を退去させた。この運命力(デザインフォース)に囚われているのは私と君だけだ。奇跡はもう起こらない』

「何のつもりだ! どう言うつもりだ!! 殺してやろうかッ!!?」

 

 一体こいつは何をしている? 浮かぶ疑問がはらわたで煮込まれ、赫怒の炎となって口から次々と漏れ出てくる。

 これは明確な敵対行動だ。もう奇跡が叶わぬならば、いっそ、こいつをここで──ッ!!

 

『落ち着け。私に敵対する意思はない』

「落ち着け? 落ち着けだと!? 言うに事欠いて落ち着けときたかッ!! その程度の命乞いで俺が落ち着くと本気で思ってんのかァ!!!」

『代案を持ってきた』

「……あぁ?」

 

 ガブエリウスの言葉を俺は鵜呑みに出来なかった。それはそうだろう。ヒカリちゃんを救う為に、俺がどれだけの輪廻を繰り返したと思っている? どれだけの旅路を踏破してきたと思っている? どれだけの情報を集めてきたと思っている?

 ヒカリちゃんを救う方法に代案なんか無いんだよ。那由他の果てまで繰り返した中で、存在証明の移植以外に時間的存在の証明を欺く手段が見つからなかった。ガブエリウスから与えられたあらゆる知識を詰め込んで──他に見落としがあったと言うのか?

 

「──今更、遅いだろうが。代案だとッ!? ふざけてんじゃねえぞ!!」

『ふざけてなどいない』

「だったら聞かせてもらおうじゃねえかッ!! その頭でひねり出した代案とやらをよぉ!! シヴィルトの代わりに、お前がヒカリちゃんの中に入ってくれんのかッ!!?」

 

 当てつけだ。シヴィルトが時間の矯正力に抗える程の生物であるならば、惑星クレイの聖竜であるガブエリウスも似たような力はあるだろう。一度は考えたが、そもそもこれはガブエリウスを殺すような方法だ。実行には値しないし、ガブエリウスが命を賭してヒカリちゃんを救う義理も無い。だからこそ──。

 

『ふむ、さすがだな。私の案に早くも気が付いたか』

 

 ──その言葉は、俺の頭の回転を一時的に止めた。

 

「……は?」

『君の運命力(デザインフォース)で一時的に私の力を取り戻した。宿命決戦で集められた分も含めると、明導ヒカリがこの世界で生きていく事は可能だろう』

「本気か……? 本気で、お前は──!!」

『冗談でこのような事を口にするものか』

「だが、それは。──それは! ガブエリウスにとっては牢獄に入るようなもんだろうがッ!! ヒカリちゃんが生きている間、虜囚になるつもりか!!」

『この方法であれば明導ヒカリも竹松ケントも死なずに済むだろう。運命大戦も、宿命決戦も、元はと言えば私がもたらした因果だ。ならば私はそれに巻き込まれ、消えゆく二人を助ける義務がある。責任がある』

 

 どの道、シヴィルトを倒せば使命も終わるとガブエリウスは言う。そう言えば、かつての輪廻でガブエリウスに言われた事があった。

 

『そうか。ならば私はもう止めない。君を止める役目は、いつかの輪廻の私に託すさ』

 

 七千二十三恒河沙四十八極三十六穣百十二回目の人生におけるガブエリウスの台詞を思い出す。彼にはもう結末が見えていたのだろうか。俺が目的を果たそうとした時、止められるのは自分だけだと読んでいたのか。

 最早確かめる事など出来ないが、この状況は過去の輪廻のガブエリウスの言葉通りの状況となっている。

 

「──はぁ、負けたよ。負けだ。聖竜の力でパワープレイされちゃあどうしようもない。……俺のやり方を否定したんだ。信じていいんだな?」

『あぁ。後は私に任せてくれ』

 

 ガブエリウスの決意の声を聞きながら、俺の意識が徐々に遠くなっていく。奇跡の対象が不正となり、運命力(デザインフォース)も霧散していくのが分かる。

 俺の存在証明の移植もロールバックされ、その反動がこの急激な倦怠感なのだろう。

 ──結局、俺は中途半端なままだったな。意識が黒く塗り潰されながら、俺は全てを諦めて目を閉じた。

 

 ◆

 

 ──目が覚めた時には全てが終わっていた。いつの間にか寝かされていた金澤総合病院の一室で聞いた話によると、俺は三日間も意識を失っていたらしい。

 あの後、命からがら逃げだしたシヴィルトが宿命決戦で集められた運命力(デザインフォース)を強奪し復活。員弁ナオの身体を乗っ取ったと言う。

 その後、膨大な運命力(デザインフォース)を賭けてアキナがファイトを行い、勝利。力を取り戻したガブエリウスによりシヴィルトは消滅したと。

 

「そんな戦いの最中に俺は病院のベッドで寝てた、と……」

「目が覚めて良かった。……色々、言いたい事があるけど」

「全部終わった後で答えてくれるって、約束したよね?」

 

 現在、検査入院のお見舞いに来てくれているのはアキナとこの世界のヒカリちゃんだった。この二人だけでなく、運命者や宿命者問わず色々な人が病室に訪れていた。言いたい事がある──異口同音にそう告げながら。

 ある人には怒られ、ある人には諭され、ある人には釘を刺され、ある人には爆笑され、ある人には揶揄われ……何と言うか、まぁ、うん。色々あった。

 

「言いたい事、聞きたい事ってまだ何かあるのか? 俺の過去は未来のヒカリちゃんとのファイトだったり、その後の騒動で粗方語ったと思うんだけど」

「次の瞬間にも消えるかも知れないって言っていたのは、もう大丈夫なのか?」

 

 アキナの疑問に、俺は笑って答える。

 

「あのまま俺の目論見が成功していたら消えてたかも知れないが、ガブエリウスに止められたからな。……並行世界の俺が同じ事をしようとしても、同じように止められるだろうさ」

 

 別のアプローチでヒカリちゃんを救うとしても、結局はガブエリウスの介入は避けられないだろう。聖竜という存在が持つ力を甘く見過ぎていた。運良くガブエリウスの目を誤魔化せたとしても同じ結末を辿るだろう。レザエルの奇跡を願った時点で惑星クレイへの道が開かれ、力を一時的に取り戻したガブエリウスの聖竜パワーで何もかもご破算だ。

 そう語るとアキナは安心したように一息ついた。どこか緊張気味だと思ったが、俺が消える事を心配していたのか。

 

「私の事が好きだったって初耳なんですけどー?」

「うーん、参ったな。本人からその話題を振ってくるのか」

 

 ヒカリちゃんが揶揄うように言う。正直あの時死ぬと思ってたからぶっこんだだけで、そこに触れてほしくなかった。あの時浮ついていたとは言え色々とまずい事を言った気がする。

 俺の発言と、運命力(デザインフォース)で見た俺の過去を映し出したイメージを見て、俺がヒカリちゃんに恋をしていると普通にみんなにバレてしまったようだし。

 

『このままだと彼女が時間の矯正力によって世界から消滅する事はもう聞いただろう? 実際に俺は一度その現場を見ているんだよ。消えていくヒカリちゃんに、俺はただ自分の気持ちを叫ぶしか出来なかった。この先何度輪廻を繰り返そうとも必ず君を探し続ける、と』

『そうとも。都合の良い奇跡になど頼らない! レザエルに蓄積された運命力(デザインフォース)と、俺の(すべて)を燃やし尽くし──ヒカリちゃんの未来を照らす明けの明星となるんだッ!!』

『それが! それこそが! 俺が君に遺せる唯一の愛だッ!! 奇跡の運命者レザエルよ、俺の願いを叶えてくれッ!!』

 

 過去の発言を思い出し、頭を抱える。本当に待ってほしい。どうして俺はあんな事を言ってしまったのか。……普通に死ぬと思っていたから、無敵の人間メンタルで言いたい事全部言っただけだな、これ。

 

「本人に明かす気は無かったんだけどな。どの輪廻でもそれどころじゃ無くなったから」

「未来の私が言ってた、死の運命の話……だよね?」

「そうだ。それに告白するタイミングがなぁ……会って間もない時期か、死に物狂いでアキナを探してる時期かの二択だぞ」

 

 前者はヒカリちゃんからすると恐怖でしか無いだろう。兄の友達が仲良くなる過程をすっ飛ばしていきなり告ってくるなんて想像するだけで不気味過ぎる。一目惚れにも程があるだろう。

 後者はそもそも愛だの恋だの言ってる場合じゃないし、それを受け止められるメンタルでもない。ただ負担を押し付けるだけだ。

 

「例えば今の段階で俺に告白されても困るだろう? 宿命決戦が無かったら、いきなり汚い下心を見せてきたとしか思わない筈だ」

「それは、そうかも……」

「だからヒカリちゃんに対しては恋愛感情を感じさせないように接したつもりだ。……そんな気配を見せてたら、アキナにぶん殴られた挙句に縁も切られてるさ」

「ケント、お前は俺の事を何だと思ってるんだ?」

 

 俺の発言にアキナは少し怒ったような口調で疑問を呈するが、多分間違った認識じゃないと思うんだよな。可愛いし付き合おうかなー、というノリでちょっかい出したら本気で怒ると思う。

 しかしまぁ、こうやってバカみたいな話をしていると日常に戻って来たと感じるな。

 ……日常、か。そう言えば、未来のヒカリちゃんはどうなっただろうか。

 他の人にも聞いては見たが、何かこう、あえて話題を避けてる感じがするんだよな。タイゾウさんにも聞いてみたが、退院してからのお楽しみとしか言わなかったし。悲壮感は誰からも感じなかったから、元気にしているんだろうけど。

 

 ──それから数日間の検査が終わり、退院となった。高校に行くと何があったのかとクラスメイトに囲まれる事になった。本当の事を言うわけにもいかず、結局少しドジって倒れたとだけ言っておいた。

 しばらく高校生活を満喫していると、タイゾウさんから連絡が入った。少し仕事を頼みたいとの事だった。ファイトもするからデッキ持参と続いている。

 

「そう言や、広報担当の仕事あんまり出来てなかったな」

 

 目的を果たした以上、レザエルのデッキはこの先使うつもりは無い。と言うより、そろそろ休ませるべきだろう。

 俺の都合で那由他の果てまで旅を共にし、運命大戦で酷使し続けたのだ。この人生の間くらいはゆっくり眠っていてもらおう。そうなると邪竜(ファーヴニル)時代のデッキを使う事になるか。

 広報と言う役目がある以上、本来のデッキの方が効果がある筈だ。邪竜(ファーヴニル)の悪名もまだ健在だから、ネームバリューとしても悪くはないだろう。……もしかしたら逆効果かも知れない。

 タイゾウさんの連絡に、次の土曜日に出社すると返事を返した。

 

 ◆

 

 土曜日。タイゾウさんの会社のオフィスに入ると社員が──研究生を含めた清蔵アンカーボルトのメンバーが勢揃いしていた。やべ、ガッツリ仕事中だったか?

 

「よぉ、邪竜(ファーヴニル)。元気そうで何よりだ」

「タイゾウさん、もしかして忙しいですか?」

「いやいや、そんな事は無いぞ。みんなが居るのは、邪竜(ファーヴニル)のファイトを見る為だよ」

 

 色々実績あるとは言え、わざわざチームの人間が全員参加するようなものでは無いと思うが……。首を傾げる俺に対して、タイゾウさんは続ける。

 

「清蔵アンカーボルトの研究生に一人、新人が入ったんだ。折角だから広報担当の君を呼んでファイトしてもらおうと思ってね」

「新人……?」

「今はキョウマと一緒にファイト場で待機してもらってるよ。早速行こうじゃないか」

 

 タイゾウさんと一緒に会社内にあるファイト場へ足を運ぶ。見学の為にオフィスに集まっていた社員も後ろから着いて来ているようだ。

 新人とのファイトか。実力を見るだけならアンカーボルトのメンバーだったり、それこそタイゾウさんでも良いと思うが……わざわざ俺を呼んだ理由は何だ?

 一番に思い浮かぶのは、俺の実力が疑われている事だ。邪竜(ファーヴニル)の実績は二年前で止まっている。高校入学時に活動を止めているから仕方が無いが、ブランクで腕が落ちていると思われている可能性がある。だから新人とぶつけてみて、腑抜けたファイトをしないか確認をしておきたい……とか?

 或いはその新人が俺の知り合いであるというパターン。実際のところ、色々な大会を荒らしまわっていたから友好的に接してくれるファイターが少ないんだよな。その数少ない友人達はそもそもプロとして飯食ってるし、清蔵アンカーボルトに所属する理由も無い筈だ。

 考えを頭に巡らせているといつの間にかファイト場に到着していた。タイゾウさんに促されて中へ入る。

 

「失礼します──ッ!?」

 

 ファイト場には副社長のキョウマさんと、ヒカリちゃんが居た。俺が救いたかった、未来のヒカリちゃんが。

 横目でタイゾウさんを見るとあからさまにニヤニヤ笑っている。これか。これが俺を呼んだ理由か。

 既にファイトテーブルで準備が終わっているヒカリちゃんの前に立つ。研究生になると言う事は、この世界で生きてくれると考えていいだろう。

 かつて狂おしい程に願っていた理想が今、目の前にある。その事実だけで俺は──俺の旅路は報われたのだ。こんなに嬉しい事が他にあろうか。

 

「……」

 

 ファイトの準備の為にデッキをファローで混ぜながら、ヒカリちゃんにどう声を掛けようか考える。いや、そもそも名前はヒカリちゃんでいいのか?

 この世界で生きるという事は、つまりこの世界にも明導ヒカリはいるわけで。同姓同名で誤魔化すという事も考えられるが彼女はそこまで強引な手段は使わないだろう。過去から未来へ進むと誓って新しい自分(なまえ)を定義する筈だ。

 関係者しか居ない状況であればこの世界でどう名乗るのか聞くだけで良かった。だけど今は事情の知らない社員達もいる。迂闊なことは喋れない。では、どうするか。

 答えは、決まった──。

 

()()()()()。俺は竹松ケント。気軽にケントって呼んでくれ」

 

 デッキとファーストヴァンガードを置きながら、俺はそう声を掛ける。俺の意図を察したのか、彼女も同様に口を開く。

 

()()()()()。私はエリカ。明星エリカよ。よろしくね、ケントさん」

「あぁ、よろしく。エリカ」

 

 お互いの自己紹介も終わり、ファーストヴァンガードへ手を伸ばす。今まで通りちゃんを付けるか迷ったが……彼女はもうヒカリちゃんでは無いし、別に良いだろう。エリカの反応を窺うが、特に不快感も感じていないようだ。

 さて、これから始まるのはこの世界で生きる彼女の──エリカとの一戦だ。本当に永かった。ここが俺の終着点にして、新しい出発点だ。ここから先は俺の知らない、未知の世界となるだろう。

 

「「スタンドアップ、ヴァンガード!!」」

 

 始めよう。このファイトが、俺が彼女と一緒に生きる──最初の一歩だ。

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