プレイングに関してはあまり気にせずに見て頂ければと思います。
──<明星エリカSide>
「……ふぅ」
清蔵アンカーボルトの拠点にある研究室で、ここ最近の大会で結果を残しているファイターの情報を纏める。それが今の、研究生としての私の仕事だった。
大会の棋譜を書き起こしプレイングの傾向や暫定的なデッキリストを作り上げる。それを基にチーム共用のカードでデッキを作り、ひたすら使い込む。その情報を全てチームメンバーに共有する。そうして蓄積された情報は全て研究室に保管されている。過去の有名ファイターの情報を見つけた時は心が躍ったものだった。
「エリカちゃんお疲れ~。そっちも丁度終わったみたいだね」
「はい。何とか大会までに間に合いました」
私と同じ部屋で研究していた先輩に話しかけられて、そのまま会話を続ける。彼女は次の大会で久々に表舞台に上がるファイターの情報を纏めていた筈。
「はぁ、こっちは資料が少なくて大変だったよー。最新の情報が二年前なんだもん。絶対デッキ変わってるよ~……」
「最新が二年前って……大丈夫なんですかね? そんなに離れてたらトーナメント環境だって変わってるのに」
「大丈夫じゃないかなー。何せかの有名な
その名前が出て来た瞬間、反応しそうになる身体を理性で押さえつける。ケントさん、何やってるの……? と言うか次の大会に出るなんて聞いてないし。
ケントさんから、
「この間ケント君にダメもとでデッキ見せてーって言ったら、社長に聞かれててめっちゃ怒られたわー」
本人に直接聞きに行ったんだ。それはタイゾウさん怒るだろうな。
「せめて大会に出る理由を聞いたんだけどさー。錆落としだって。今の時期からだと早かったら来シーズンには本格的に復帰するのかなー? 今年はデータ集めに専念出来そーで助かるよ~」
もしかして、先輩の目的ってケントさんが大会に出る理由の方だった? タイゾウさんに怒られてまで普通ここまでやる?
この人ってこういうやり方で自分の仕事の予定を決めてるんだ。……正直、参考には出来ないけれど。怖いもの知らずにも程があるでしょ。
「こりゃ間違いなくプロの世界に殴り込む準備だね。アタシの勘がそー言ってる!」
ヴァンガードのプロファイター。この世界で生きていく為に、そして自分の居場所を作る為に。私が考えている進路だ。ケントさんの実績があれば余裕を持ってプロ試験を突破出来るだろう。
いつまでもタイゾウさんの好意に甘えてなんていられない。とにかくもっと貢献して大会の選手として推薦を勝ち取らないと。
私もケントさんに続いて──いや、むしろ私がケントさんよりも早くプロ入りする覚悟で挑まないと、いつまで経っても状況は改善しない。
「ねーねー、エリカちゃんは
「……そう言えば、見た事が無いですね」
何度かケントさんとファイトした事はあるが、
「丁度ここにさっきまで私が確認してたアーカイブ映像があるんだよねー。
とんでもなく有名なファイターの名前が出てきた。それだけで、本当に第一線で活躍してたんだなと思い知らされる。かつて私がヴァンガードを始めるきっかけとなった第一回デラックスでの彼を思い出す。凄まじいカード捌き、そして膨大なファイト経験に裏打ちされた正確な読みとプレイング。どれもこれも一流と呼ぶに相応しいファイターだった。
先輩と一緒にアーカイブを見ようとしたところで、ノック音が部屋に響く。先輩が入室を促すと、入って来たのはタイゾウさんとケントさんだった。
「よう、二人ともお疲れ」
「あー、社長! おつでーす」
「お疲れ様……げぇ、俺のアーカイブかそれ……?」
「……お疲れ様です」
入って来た二人の挨拶に返事をする。ケントさんは先輩が見ようとしているアーカイブ映像を見て嫌そうに顔を歪めていた。
「というか俺の情報も纏められてる? うわ、このコピーデッキまんま昔の構築だし……」
「頑張りましたー。ところで~……」
「それ以上言うともう一回俺の部屋に来て貰うぞ?」
タイゾウさんの一言で先輩の顔が蒼褪めて押し黙った。よほど怖かったらしい。
「そう言えば、二人はどうして研究室に?」
「ケント君に頼んでた仕事の報告を受けるついでに、チームの様子を見に来たんだよ」
「俺はタイゾウさんの付き添いだ。まさか俺の過去とご対面するとは思ってなかったけど……」
先輩が纏めた情報をケントさんは忌々しそうに見ている。あまり過去には触れてほしくなさそうだ。
「折角ですし一緒にアーカイブ見ませんかー? 本人も居るし、ついでに解説してもっらたりー」
「嘘だろ? 俺が露骨に関わりたくないって言ってんのに? メンタル化け物か?」
「諦めろ
タイゾウさんの慰めるような言葉を受けて、ケントさんは虚無を感じさせる顔で研究室のソファに座る。
アーカイブの情報を見ると、今から四年前に開催された大会の映像らしい。中学一年生の頃のケントさんか。
「……えっ?」
映像が始まると真っ先に驚いたのは、ケントさんの雰囲気が今とまるで違う事だった。
髪をオールバックにして怒りと憎悪に満ちた凶相を貼り付けた姿は、私の知っているケントさんからはとても想像が出来ないものだった。
横目で彼の様子を窺うと、両手で顔を覆い隠して俯いている。
「ケントさん?」
「何も言うな。何も聞くな。当時の俺はアレだったんだよ。そういう事だよ。マジで触れるな」
ケントさんの呻きと共に、モニターの映像は進んでいく──。
◆
──<
今の俺には何もない。だから何かをせずにはいられない。この先に待ち受ける運命大戦……或いはそれに準じた何かが俺の前に顕れるまで、俺に出来る事は何だ?
決まっている。少しでもヴァンガードの腕を
今回の大会は小規模ではあるが、俺が出場すると聞いたファイターがこぞって参加したと聞く。それが事実ならばこれほど腕が鳴る事は無い。
総勢百名という大会規模を超えた人数による六ラウンドのスイスドロー。その中から八名が決勝トーナメントに進む事になる。その結果、五勝で終わったとしても決勝に進めるかどうか分からないと言う魔境と化している。
更に言えばどいつもこいつも目をギラつかせて俺を睨んでいる。今日こそここで息の根を止めてやると言わんばかりの殺意の中、俺は思わず嗤ってしまう。
「──セカンドチェック。ゲット、クリティカルトリガー」
「ぐっ……。ダメージチェック。ノー、トリガー……ッ!!」
大会は進み──これで五勝目。俺を倒す為に強豪ファイターが参加したと思っていたが、とんだ勘違いだったようだ。まだ見ぬ強敵を求め、こういったマイナーな大会に足を運んではいるが、過去の輪廻で見覚えのあるやつしかいない。
下らない。つまらない。面白くない。淡々と処断していくこの感覚にはもう飽きた。これが強者? これがプロ? 足りない。足りない。全くもって何もかもが足りやしない! この程度じゃ俺の腕は錆び付く一方だ。失望を心に抱えながら五勝テーブルに着くと、そこに居たのは──。
「やぁ。君が
「……そうだ」
最強の一角が穏やかに待っていた。かつての輪廻で幾度となく戦った事がある。廻間ミチル。まさかここで戦えるとは思わなかった。
「いいファイトにしよう」
彼の言葉と共に準備も終わった。これに勝てば確実に決勝トーナメントに進めるが──俺にとっては、今この瞬間が決勝戦と言ってもいい。
相手にとって不足なしだ。輪廻の経験を受け継いでいようとも気を抜けば一瞬で負ける。それが廻間ミチルという
「「スタンドアップ、ヴァンガード!」」
そして始まったファイトの先攻は、俺だった。
「《リザードランナー アンドゥー》」
「《ジュエリアス・ドラコキッド》」
「俺のターン、ドロー。《鎧の化身 バー》にライドしてターンエンドだ」
グレード3にライドするまでに欲しいダメージは最低二点。欲を言うならもう一点あれば申し分ないが、あの廻間ミチルがそんな事を許すとは到底思えない。
相手の動きを見て序盤のプランを考えるか。
「僕のターン、ドロー。《ジュエルコア・ドラゴン》にライド。《ジュエリアス・ドラコキッド》のスキルで一枚ドロー。ジュエルコアでアタック」
「ノーガード」
先ずは俺にダメージ一点。これでバーのスキルは問題なく使える。
「ターンエンド」
「俺のターン、ドロー。《ドラゴンナイト ネハーレン》にライド。この瞬間、バーのスキル発動! ネハーレンにライドされた時、カウンターブラスト(1)する事で山札からグレード1のカードを一枚手札へ加える。俺が加えるのは《ドラグリッター ハルブ》だ」
ここで俺は横にユニットを並べるか考える。最低でも次でダメージ一点は受けると思うが、考えなしにリアガードをコールするとこちらのリソースを無駄に削られかねないし、現状はリスクを取ってまで連撃するメリットが無い。
俺のデッキでは失ったリソースを回復する手段が殆どない。だからこそ、今のこの状況で横に並べるのは危険と判断する。
「ネハーレンでアタック」
「ノーガード」
これで廻間ミチルにもダメージ一点だ。
「ターンエンド」
「僕のターン、スタンド&ドロー。《魔石竜 ジュエルニール》にライド。ジュエルコアのスキルで、ソウルから(R)へコールする」
相手がグレード2へとライドする。ジュエルコアのコール先は右前列。向こうは二回殴ってくるつもりか。ジュエルコアはアタック後にソウルに戻るから無駄がないんだよな。
そして気にするべきところが一つ。ライドコストとなった《影に潜む死神 ゼイルモート》だ。グレード3のカードをドロップに置いたという事は……俺の脳内に一枚のカードが過ぎる。そしてその予感は決して間違いでは無かった。
「《ファルケイト・パフォーマー》をコール」
ジュエルニールの後列にファルケイトをコールされた。やはりそのカードか。マズい、ドラジュエルドにライドされたターンにそのままソウルブラスト(4)のスキルを使われる準備が整ってしまった。
「ジュエルコアでアタック。スキルでパワー+5000。」
「ガード」
ダメージを三点にする為にノーガードにするか一瞬悩んだが、そんな逡巡など無かったと思わせるべくすぐに手札にあるヒールトリガーで15000シールドを作ってガードを行う。
思考を止めればそこから読まれる。ガードの宣言が遅れれば、それだけで俺の手札の状況を察せられるかも知れない。廻間ミチルならやりかねない。
ベストなのはアタックヒット時にソウルチャージされるジュエルニールを止める事だ。けれど一か八かの15000ガードは出来ない。むしろ余裕を持たせて三点までダメージを許容出来るという考えであるべきだと判断した。
止められる所を確実に止める。無駄にリソースを吐いてしまえば負けに直結するのだから。
「ジュエルコアのスキルによりバトル終了時、自身をソウルへ置く。ファイルケイトのブースト、ジュエルニールでアタック。ファルケイトのスキル発動。自身がブーストした時、ドロップから一枚ソウルに無いグレードのカードをソウルに置く。ドロップからグレード3のゼイルモートをソウルへ」
「ノーガード」
ドライブチェック、ダメージチェックはお互いにトリガー無し。これで俺のダメージは二点になった。
「ジュエルニールのスキル発動! アタックがヒットした時、ソウルチャージ(1)を行う」
これで序盤は凌いだ。後はこのターンからの動き次第だ。
「ターンエンド」
「俺のターン。スタンド&ドロー!」
ここからだ。ライドデッキにある最後の一枚。これこそが俺を
「君は随分と面白いね」
「……いきなりどうした? 何が面白い?」
廻間ミチルの言葉に警戒を滲ませながら俺は聞く。言わんとする事は過去の輪廻の経験で予想はつく。彼は今俺の──曰く、魂の色に言及したのだろう。
旅路の中で彼とファイトした時も似たような事を言われた覚えがある。
「君の魂。二色が混ざり合いながら輝いている。反発しそうな二つの色が、一つの希望を前にして手を取り合っているように見える」
「……」
「それが君の本質かな?
「──黙れ」
予想以上に踏み込んだ言葉に、思わず口が動く。同時に一つの疑問が浮かぶ。廻間ミチルはここまで他人の事情に踏み込む男だったか?
「この大会よりも前、僕は君が一番最初に表舞台に上がってからずっと見ていた。笑えるぐらい正確なカード知識。年齢にそぐわない熟達したプレイング。プロなら誰もが欲しがる素質を全て持ちながら──君は辛そうにファイトをしている」
「……辛そう、だと?」
「少なくとも僕にはそう見えるという話さ。実際はどう思っているかなんて分かりはしない。……だからこそ、僕は知りたいと思った。そして何気なく参加した大会で君と出会い、こうしてファイトをしている。──まるで運命に導かれるように」
「──ッ!!!」
廻間ミチルに悪意など微塵も無いのだろう。運命と言う言葉は実に陳腐でありふれている。だが──だが!! たとえ八つ当たりであろうとも俺はその言葉を、大切な俺の宝物を殺し続ける元凶を──運命と言う因果を受け入れられないッ!!
「運命だと? ふざけるなッ!! 運命は何も導かない! 運命は何も聞き入れない! 運命など──遥か高みから見下して嘲笑っているだけだッ!!」
「なるほど。それが君の原動力だね。ヴァンガードを通して、何かを手にしたい──いや、救いたいが正しいのかな?」
「そうだ! 世界を敵に回そうと俺の歩みは止まらない! 運命などクソ喰らえだ!! 神様に土下座しただけで降って湧くような、都合の良い奇跡ごときに縋ってたまるかッ!!」
足りないんだ。大切な人を救う為には力がいる。けれど俺が少し努力した程度じゃ届かない。届くわけがない。だから全てを捧げるんだよ! 俺の那由他まで歩いた旅路を以ってッ!
ライドデッキのカードを掲げ、俺は廻間ミチルに叩き付けるように叫ぶ。
「終滅せよ!
さぁ始めよう。俺の──
「ネハーレンのスキルにより、自身をソウルから(R)へコール。更にオーダーカード《
ネハーレンのコール先は右前列。そしてオーダーカードで運よく《ドラゴニック・オーバーロード》をソウルへ置く事が出来た。これが無いとジエンドの本領は発揮しない。
「ジエンドのスキル! ソウルに《ドラゴニック・オーバーロード》があるなら自身の効果でドライブが減らず、パワー+5000! 続いて《忍竜 フシマチマドカ》二体、《バーニングホーン・ドラゴン》をコール」
左右後列にそれぞれフシマチマドカを、そして左前列にバーニングホーンをコールする。中央後列以外が全て埋まった事になる。これで手札は残り一枚──バーのスキルで手札に加えたハルブのみだ。
「バーニングホーンのスキル発動! カウンターブラスト(1)する事で、山札の上七枚から「オーバーロード」名称のカードを公開して手札に加えられるが……公開はしない。公開しなかった場合はカウンターチャージ(1)を行う」
バーニングホーンの登場時効果を使い、ペルソナライド用のジエンドを探しにいくが見つからない。《ドラゴニック・オーバーロード》ならあったがこれは不要だ。山札の上七枚のカードを公開しなければカウンターチャージで無かった事に出来る。
「ネハーレンのスキル発動! ソウルブラスト(1)する事で、自身とヴァンガードのパワーをそれぞれ+5000!」
次のターンが心配だが、これで攻撃の準備が整った。バトル開始だ!
「ジエンドでアタック! そしてバーニングホーンのスキル発動! ジエンドがアタックした事により、自身のパワー+5000!」
「ノーガード」
「ツインドライブ!」
ファーストチェックで公開されたのは《猛火の守護者 モンジュ》──完全ガードだ。これでドラジュエルドの攻撃が防げる。
そして──。
「セカンドチェック──ゲット、クリティカルトリガー! ジエンドのパワー+10000、クリティカル+1!」
これで廻間ミチルのダメージは一気に三点になった。ここは一気に攻め上がり、ダメージを更に与えていく事にしよう。
「ジエンドのスキル発動! バトル終了時、カウンターブラスト(1)と手札二枚を捨てる事で自身をスタンドさせる!」
ジエンドのスキルでスタンドさせて追撃する。手札二枚のコストは重いが、それを軽減するカードがハルブだ。
「手札から捨てるのはハルブ。ジエンドの能力で手札から捨てられるなら二枚分として扱う! 更にこの時、自身のスキルにより後列の(R)にコールされてパワー+5000!」
合計パワー46000、それに加えてクリティカル2だ。当然この攻撃は防ぐだろう。だがそれでいい。ここで少しでも完全ガードを叩き落とす!!
「ハルブのブースト、ジエンドでアタック! バーニングホーンのスキルで更に自身のパワー+5000!」
「完全ガード」
「ツインドライブ! ファーストチェック──ゲット、ドロートリガー! 一枚ドローし、ネハーレンのパワー+10000!」
セカンドチェックはノートリガーだが幸先が良い。これで手札の枚数も五枚に増えた。ドロートリガーで引いたカードがシールドに変換出来ないオーバーロードなのは気になるが、それ以外は概ね順調と言っていい。
そして相手の手札の枚数は五枚。こちらはパワー33000のネハーレンとパワー28000のバーニングホーンの攻撃が残っているが、これ以上はガードにリソースを割けない筈だ。
ここでガードしてしまえば、次のターンでドラジュエルドのスキルを使ったとしても攻撃の手が中途半端になってしまう。ましてやこちらはドライブチェックで完全ガードを見せている。
ここから先、二体の攻撃はノーガードで通すしかないだろう。
「フシマチマドカのブースト、バーニングホーンでアタック!」
「ノーガード」
これでダメージ四点目だ。
「フシマチマドカのブースト、ネハーレンでアタック!」
「ノーガード」
廻間ミチルのダメージが五点に届く。残り一点だが、そう易々とは取れないだろう。
「ターンエンド」
「僕のターン。スタンド&ドロー!」
デッキからカードをドローしながら、彼は微笑みながら俺に告げる。
「ごめんね。別に僕は君を怒らせたかったわけじゃないんだ。ただ少し気になったのさ。君のファイトの原点はどこなんだろうって」
「満足のいく答えは返ってきたか?」
彼は頷き、そしてライドデッキのカードを掲げて見せた。
「もちろん。お礼に見せてあげるよ──君と同じ、宝を抱く竜の姿を! 《魔宝竜 ドラジュエルド》にライド!」
きたか。廻間ミチルの相棒にして、過去の輪廻でも彼をU20の世界王者に導いた偉大なる魔竜。
「《魔宝竜 リスタルゲイラー》、《ブレインウォッシュ・スワラー》、《魔石竜 ロックアグール》をコール」
そしてそれに呼応させるかのように、次々とリアガードにユニットが埋まっていく。右前列にリスタルゲイラー、その後列にスワラー。左前列にロックアグール。
ロックアグールは自身のパワーを上昇させるスキルがあるから、ブースト要員はリスタルゲイラーに割り当てたか。
「スワラーのスキルでソウルチャージ(1)。さらにスワラーのパワー+5000」
ダークステイツのデッキにはほぼ入っていると言っても過言ではないスワラー。場に出ただけでソウルチャージが出来る上、ついでにパワーも上昇するのだから笑えない。
「ドラジュエルドのスキル発動。カウンターブラスト(1)する事でソウルチャージ(2)を行う。異なるグレードがチャージされたので一枚ドロー。スワラーをもう一枚コールする。ソウルチャージ(1)を行い、二体のスワラーのパワーを+5000」
ドラジュエルドのスキルでソウルに入ったのはグレード0とグレード2。そのおかげで手札が一枚増えたからか、おまけと言わんばかりにロックアグールの後ろにスワラーが並ぶ。おいおい勘弁してくれ。
「ロックアグールでアタック。スキルでソウルに異なるグレードのカードが四枚以上ある場合、パワー+10000」
「ガード」
スワラーのブースト無しでのアタックに対し、手札のクリティカルトリガーで15000シールドを作ってガードを行う。とにかく今のうちに防がないといけない。ドラジュエルドのスキルが発動すれば、この手札じゃ完全ガード以外はノーガードを強要されるようなものだ。
「ファルケイトのブースト、ドラジュエルドでアタック。そしてドラジュエルドのスキル発動! 異なるグレード四枚をソウルブラストする事で、相手ヴァンガードのパワーを1にする。更に自身のクリティカル+1!」
ドラジュエルドのスキルが遂に起動する。ヴァンガードのパワーを強制的に1にするという出鱈目な能力。パワーの変動具合で言えば実質ペルソナライドをしているようなものだ。今の手札じゃシールド値が足りない。
「更にロックアグールのスキル! ソウルブラスト(4)以上した時、カウンターブラスト(1)する事で自身をスタンドさせる」
「完全ガード!」
「ツインドライブ!」
何も出てくれるなと願うばかりだが、相手はあの廻間ミチルだ。最低一枚はトリガーを引いて来ると思った方が良い。
「ファーストチェック──ゲット、ヒールトリガー。リスタルゲイラーのパワー+10000、ダメージを回復」
マズい。廻間ミチルのダメージが四点に、リーサルのラインが一点繰り上がってしまった。ここから届くか……?
「セカンドチェック──ゲット、クリティカルトリガー。ロックアグールのパワー+10000、クリティカル+1」
二枚目のトリガーが公開される。本当に、やってくれる──ッ! 第四ターンでジュエルコアのアタックをガードしていなければこのターンで負けていた。
「スワラーのブースト、ロックアグールでアタック」
「ノーガード」
これで俺のダメージは一気に四点まで入った。これは五点まで入るか……?
「スワラーのブースト、リスタルゲイラーでバーニングホーンをアタック」
「……ノーガード」
「リスタルゲイラーのスキル発動! 手札から一枚ソウルに置いて一枚ドロー。更にネハーレンを退却させる」
このターンに決着が付かないと見て、即座に前列のリアガードを削りにきた。本当に嫌になるほど的確な判断だ。
このままでは勝てない。……だけど、諦めて俯くわけにはいかない! この程度の窮地を乗り越えられないで、大切な人を救えるものかよッ!!
「ターンエンド」
「……俺のターン」
頭に思い描くのは一枚のカード。そのカードさえドロー出来ればまだ微かに可能性がある。可能性があるのなら、俺はカードをドローするだけだ!
「スタンド&ドロー!」
引いたカードは、《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》。俺が思い描いたカードそのものだった。
「俺は勝って全ての運命を、世界の栄光を貪り続ける! 邪竜完成! ペルソナライド──ジエンドォ!!」
ペルソナライドの効果で更に一枚ドロー。そして前列のパワー+10000。よし、これで前列の攻撃要員が揃う!
「オーバーロード二体をコール!」
この布陣で残り二点のダメージをもぎ取る!
「ハルブのブースト、ジエンドでアタックッ!! バーニングホーンのパワー+5000!」
「じゃあノーガードで勝負といこうか」
「ッ──! ツインドライブ!!」
本当に──本当に嫌になるほど肝が据わっている。ここで俺がクリティカルトリガーを引いたら負けるんだぞ、廻間ミチル。
だが、彼からしたらこのプレイングが一番勝ち目があるのだろう。廻間ミチルの手札は四枚。全ての攻撃を防ぐには、インターセプトを考慮してもシールド値が足りていない筈だ。
だから勝負に出た。一切の気負いなく、当たり前のように。
そして、彼のその覚悟に応えるようにツインドライブの中にトリガーは一枚も無かった。幸いなのはハルブを引けた事くらい、か。
「ダメージチェック──ゲット、フロントトリガー。前列のパワー+10000!」
廻間ミチルは当たり前のように引いてくる。ダメージは五点になったが、ドラジュエルドのパワーが上がってしまった。
そうだよな。廻間ミチルなら当然この状況でトリガーを引いてくるよな。ここぞという時には必ず引く。強いファイターはみんなそうだ。何かに愛されているかのように、当たり前にやってくる。
「ジエンドのスキル! 手札のハルブを二枚分として捨てスタンド! 更にジエンドの後列へハルブをコール、パワー+5000! 元からいたハルブは退却!」
だがこれで、この程度で諦めるわけにはいかない! 絶対に勝ちを掴み取るッ! 絶対にだッ!!
「ハルブのブーストォ! ジエンドで──アタックッ!!」
「完全ガード!」
「──チィッ! ツイン、ドライブ!」
完全ガードと一緒に捨てられたのはリスタルゲイラー。
相手の残りの手札二枚の中身もこれで透けて見えた。前ターンのドラジュエルドのツインドライブで捲れたヒールトリガーとクリティカルトリガーだ。
パワーが23000に上昇したドラジュエルドと15000シールドが二枚。最低38000のパワーラインを超えなければならないが、俺のリアガードである二体のオーバーロードは、ペルソナライドとフシマチマドカのブーストを加味してもパワーは33000。
パワーが足りない。だがそれは仕方がない。オーバーロード以外であっても、この状況にまんまと落とし込まれた以上……前列リアガード全てがバーニングホーンでもない限りダメージは通らない。バーニングホーンであればペルソナライド、フシマチマドカ、二回のジエンドのアタックでパワーが40000まで上昇するから、防ぐとなればシールド値20000が必要だ。手札のトリガー一枚とロックアグールのインターセプトで防がれるのは一回のみ。故に現状、トリガー無しで打開するにはバーニングホーン二体以外では不可能だ。だからこそ廻間ミチルは狙ってこの状況を作り上げたのだろう。これが一番勝率が高いと計算して。
……無いものねだりをしても仕方がない。このツインドライブに全てを賭けるしかない。
覚悟を決めたファーストチェックはノートリガー。次だ。次でトリガーを引いて、リアガードのパワーを上げなければ俺の敗北が決まる──ッ!
「セカンド、チェック!!」
トップから捲ったカードを見て──俺はそのカードを、《コンダクトスパーク・ドラゴン》を公開する。
「──ゲット! クリティカルトリガー!! オーバーロードのパワー+10000、クリティカル+1!」
これでドラジュエルドのパワーラインを、38000の壁を越えた!
「フシマチマドカのブースト、オーバーロードでアタック! フシマチマドカは相手のドロップが4枚以上あればパワー+2000!!」
そしてクリティカルトリガーで強化され
「……ノーガード」
捲れたカードは《リペルドマリス・ドラゴン》。ヒールトリガーではない。廻間ミチルに六点目のダメージが入り、俺の勝利が確定した。
その瞬間、観客からの歓声が爆発した。いや、元からこの歓声だったのかも知れない。ファイトが終わって、ようやく周りの音を聞く余裕が出来たのだろう。
「楽しいファイトだったよ。ありがとう、
「……ハァ。恐ろしい程に邪気がないな」
ファイト中の覇気はどこへいったのか。ファイト外の廻間ミチルという人間はどうにも掴み所が無いように思う。端的に言えば、そう……天然というか。
彼の握手に応じて、俺はファイト場から退場する。──俺は薄々嫌な予感がしていた。その予感が当たったと感じたのは、決勝トーナメントの組み合わせを見た時だ。
「やぁ、さっきぶりだね。また君とやれるなんて今日はとても運がいい。もう一度楽しいファイトをしよう!」
「……ドチクショウがァッ!!」
決勝トーナメントの一回戦。もう一度廻間ミチルとファイトする事が決定し、俺は渾身の力を込めて世界を呪う。マジでふざけるなよ!!
勝負の結果は──もう一度死に物狂いで勝利した。今日ほど精神的に疲れたファイトは今まで経験した事が無かった。だが収穫はあった。
世界最強クラスの相手と二度もファイト出来たのは、見方によっては幸運とも言えた。大切な人を救う為、運命に抗う牙がこれまで以上に研ぎ澄まされた実感がある。
今度こそ俺は大切な人達を救うんだ! たとえ自身を犠牲にしても!!