わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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第三章で憑依主人公を捻じ込む為の前準備の話を二話ほど書きます。
長くなれば三話になるかも知れません。


幕間:3 月を照らす太陽を求めて

「すいませんタイゾウさん。知り合いが今アメリカで滞在しているようなので、ちょっと来月会ってきます」

「アメリカって……そんな軽いノリで行くようなところじゃないでしょ」

 

 会社ビルの屋上で休憩中。宿命決戦から数ヶ月後、秋も終わりが近づき肌寒くなりつつある頃。高校二年も残り少なくなってきた時期に、プロの世界で活躍する知人から連絡があった。

 曰く、しばらくアメリカにいるから暇なら来いよとの事だったが……俺が高校生だと言うのを忘れているんじゃなかろうか。行くけど。

 そんなわけで仕事を請け負っている関係上タイゾウさんに報告しに来たところに偶然エリカも居た。

 

「外国の大会を片っ端から出場して荒らし回ってたから、日本よりも海外に居た時間が長いんだよ。だからこそ邪竜(ファーヴニル)と呼ばれるようになったんだが……」

「ケントさんがファイターとして活動してた時期って小中学生って言ってなかった? 学校はどうしたの?」

「人生を数千回超えたくらいで授業全部暗記したから、それ以降はほぼ全ての時間をヴァンガードに突っ込んだかな」

「バカじゃないの!?」

 

 最初の内は海外の裏ファイトに軽率に首突っ込んで内臓を出荷されかけた事もあった。一度や二度じゃきかない程に。そこから外国特有の価値観などを学び、大会に飛び入り参加で荒らし回った。……エリカには絶対言えない話だな。

 とは言えそれだけの時間をヴァンガードに費やしても、最初に邪竜(ファーヴニル)と呼ばれるようになったのは十二万二千七百五回目の人生からだ。そこから九十万回近く輪廻を巡ってようやく運命大戦の参加資格を得た。

 そう考えると俺と言う人間にヴァンガードの才能は無かったんだろうな。膨大な輪廻の経験というアドバンテージを持ってようやくトッププロに勝てる……その程度の凡人だ。

 

「来月なら俺も個人的な用事でアメリカに行くから、一緒に行くか」

「個人的な用事……観光ですか?」

「最近退院した友人に会いに行くんだよ。面白いファイターが来てるって連絡があってね」

 

 あぁ、なるほど。ファイターが来ているからお前もどうだと言われたわけだ。それで会社の社長を呼びつけるのはクソ度胸が過ぎるだろう。

 

「そのファイター、案外俺の知り合いかも知れませんね」

「ほう。邪竜(ファーヴニル)がアメリカで会う知り合いはファイターなのか。……正直、その可能性はあり得るな」

 

 苦笑しながらのタイゾウさんの言葉に、苦労しているんだなと思わず感じてしまった。

 しかし……アメリカの病院に入院して、最近退院して、タイゾウさんを気軽に呼び出せてる人物で、その理由が面白いファイターか。どうしよう、その人物にすごく心当たりがある。

 そう言えばまだ会いに行って無かったな。丁度いい機会だし、お土産も買って行くとするか。直接会うのは……五年ぶりくらいになるだろうか。

 

 ──時は流れてアメリカへ。そして俺とタイゾウさんの予感は見事に的中した事になる。

 

「やぁタイゾウ。それと久しぶりだね邪竜(ファーヴニル)

「話には聞いていたけど、随分丸くなったなケント君」

 

 タイゾウさんが会う予定だった友人は廻間ミチル。俺も公式戦でファイトした事があるトッププロの一角。最近丁度アーカイブ映像を見せられたからか、あまり久しぶりと言う感じがしない。

 もう一人は俺をアメリカに呼んだ張本人、八雲カゲツ。廻間ミチルに公式戦で勝ったファイターとして有名だ。俺もそうだが、廻間ミチルに勝ったというネームバリューが馬鹿にならない。勝つだけで名が轟くあたり、廻間ミチルという男がどれだけ強いかが分かろうというものだ。

 

「ケント君には恩も恨みもあるから、こうやって面と向かって話がしたかったんだ」

「最前線で活躍するトッププロに恨まれるって、一体何をしでかしたんだ?」

 

 笑顔のまま少し青筋を浮かばせたカゲツさんによる言葉にタイゾウさんが反応する。彼の好奇心を刺激したようだ。珍しくミチルさんも興味ありそうだ。

 

「あー、そうですね。二人はカゲツさんがプロになって一年後に引退しそうになった時期があるって知ってます?」

「あぁ、『俺が焦がれるカードファイトは、プロの世界にはない』って言ってたっけ」

「ぶふっ!? ミ、ミチルお前! 覚えてたのかよ、あの時のッ!!?」

 

 ミチルさんのカミングアウトにカゲツさんが噴出した。

 

「俺は初耳だな。と言うか、八雲カゲツの主戦場は海外だからな。同じプロでもファイトの機会に恵まれなかったから」

「タイゾウさんはそうでしょうね。俺は丁度その頃の、萎びたカゲツさんと出会ったんですよ。邪竜(ファーヴニル)の悪名も無く、世界に喧嘩を売りに行く時でした」

「萎びたは余計だっつの」

 

 カゲツさんの突っ込みを受けながら、彼との出会いを語り始めた。

 

 ◆

 

 ──<邪竜(ファーヴニル)(過去)Side>

 

 過去の輪廻の残響が頭に過ぎる。憎悪と怒りと呪に満ちた半生は、次代の人生の思考を塗り潰すには充分だったのだろう。

 まだ終われない。終わるわけにはいかない。アキナを、ヒカリちゃんを、俺の大切な人を救うまで。俺の至宝を取り零さない、そんな未来を掴む為に。

 ……やはり、ある程度歳を取るまでは前世の記憶に精神が引っ張られてしまうか。那由他の果てまで繰り返そうと慣れるものではない。

 逆に言えば俺はまだ死んでいない。終わっていない。諦めていないと魂が叫んでいるとも言えるだろう。

 

「……ん?」

 

 今生に切り替えられない頭を抱えながら道を歩いていると、フラフラと幽鬼の如く歩く男が一人。魂すら喪失したかのような表情であったのも気になったが、その顔に見覚えがあった。八雲カゲツ。過去の輪廻でも交流のあったトップクラスの実力者だ。

 大体の場合はプロデビューから一年程度で表舞台から姿を消す。死んでいるわけではないから、アキナと違ってたまたま遭遇する事が結構あった。そんな彼があんな風に歩いているという事は──。

 

「そう言えば、そろそろ八雲カゲツが姿を消す時期か」

 

 頭を指で叩きながら今生の情報を引き出す。彼のプロデビューからそろそろ一年が経つ頃だ。

 輪廻を重ねるデメリットは、引き出す情報がどの輪廻のものなのかを判別する必要があるところにある。情報を思い出して活用するという行動に、他の人よりもワンテンポ遅れてしまう。

 日常生活であればあまり問題は無いものの、突発的な判断を求められる場合だと致命的になりかねない。──そんな事態、外国の裏ファイトに首を突っ込んで以来ないが。

 

「あんた、八雲カゲツだな?」

 

 八雲カゲツに対する今生のスタンスは決まった。ここで会ったのも何かの縁だろう。このまま俺の邪竜(ファーヴニル)という悪名を轟かせる旅へご同行願おうか。

 彼を奮い立たせる材料は既に旅路の中にある。八雲カゲツと交流を重ね、身の上話をする機会が何度もあった。その時に聞いたのだ。人生の中で最も鮮烈だった、至高の宝物(ファイト)があるのだと。

 

「……君、誰だい?」

「竹松ケントだ。生意気なクソガキが、あんたにお節介を焼きに来たと思ってくれ」

「妙な言い方をする子だなぁ」

 

 八雲カゲツは訝しむ。妙な言い方なのは認めよう。子供らしいところなど何一つあるまい。何せまだ俺の魂が今生に慣れきっていないのだから。

 

「あんたは俺を見るのは初めてだろうが、俺はあんたを直に見た事がある」

「……まぁ、それなりに有名だった自覚はあるからね」

「違う。確かに廻間ミチルに勝利した事は広く知られているが、記事の写真越しでは直と言うまい。俺が見たのは別の場所。真夜中の遊園地、ワンダヒルでの事だ」

「な──ッ!?」

 

 かつての輪廻で聞いた事だ。八雲カゲツはワンダヒルという地で、ブラックアウトのリーダー、美夜呼ルカとのファイトに今も焦がれていると。彼が美夜呼ルカとの再戦を胸に誓い、かの地に再び赴いた時には既に彼女の姿は無かったのだと──。

 彼はそこで諦めた。旅路の明かりが消え去って、暗闇の中で立ち止まってしまった。

 

「あのファイトを見て俺は思った。八雲カゲツ、あんたが望んでいるのは、あの夜の再演だな?」

「どうしてそこまで……?」

「何となく分かるのさ。俺とあんたは似ていると勝手に共感しているからな。自分の手から零れ落ちた宝を抱えながら虚ろに生きるくらいなら、一緒に足掻いてみないか?」

「……」

 

 我ながら胡散臭い言葉だ。普段の八雲カゲツであれば絶対にのってこないだろう。だが今の彼は平静とは程遠い。思考に靄がかかっている。端的に言えば正気ではない。

 だからこそ付け込める。輪廻で得た彼の情報を小出しにして信憑性を高めて、今生の旅路へ誘うのだ。

 

「俺はこれからヴァンガードの大会を荒らし回る為に海を渡る。どうせなら追いかけて、一言文句を言いに行ってもいいんじゃないか?」

「勝手に盛り上がるな。俺は何も言ってないんだけど」

「諦められるのか? あの遊園地でのファイトを──美夜呼ルカとのファイトを超える出会いがあると、本気で思っているのか?」

 

 俺の言葉に八雲カゲツは押し黙るしかない。彼も内心分かっている筈だ。輝かしく記憶に刻まれたファイトを超える出会いなどあり得ないだろうと。

 最強の代名詞である廻間ミチルとファイトしておいてそれにすら目もくれない。ワンダヒルでのファイトを以って、八雲カゲツという男は真に産声を上げたのだろう。彼の始まり、原初の記憶。それは本当に特別なものだ。代わりなんてありはしない。

 

「追えよ。足掻けよ。這いつくばりながら進んでみろよ。それとも何か? いきなりバックレれば世間体が気になるか? 焦がれた女性のケツを追いかけるような真似は男の矜持が許さないか? 違うだろう八雲カゲツ。彼女は旅に出たのだからお前も同じ土俵に立つんだよ。そうでなくては対等じゃないだろうが」

「随分と知った風な口をきいてくれるじゃないか。どうして俺にそこまで拘る? 放っておいてくれてもいいだろう!?」

「別にあんたの事を思っての事じゃない。そんな死にそうな顔で歩ているやつを放っておく方が俺の精神衛生上悪いだろうが。それとも……あんたは今の段階で、これからどうやって生きていくかの人生設計でもあるのかよ?」

「それは……っ」

 

 八雲カゲツは俯き、言葉をそれ以上紡がない。

 

「俺には助けたい人が居る。放っておけば死ぬかもしれない、大切な人だ。第三者はそれを運命だと言うだろう。そういう星の下に生まれてきてしまったのだと。──俺は、それが我慢ならない。それを覆す為に俺は実績を積み上げて力を蓄えなければならない」

「その年齢で、か? 言っちゃ悪いが小学生くらいに見えるが」

「もちろん小学生だ。無茶だと思うか? 現実が見えていないと思うか? それでも俺はやるんだよ! 世界に名を轟かせ、賞金をぶんどって、大切な人を救う為の礎にする! それが俺の生きる理由だッ!!」

 

 挑戦したところで死ぬわけじゃない。いくらか金は減るだろうが、八雲カゲツの戦績であればすぐに取り戻せる程度のもの。ならばやらないという選択肢は無いだろう。……それで動いてくれれば苦労はしないが。

 

「俺はやるぞ。このまま無為な時間を過ごすなら前のめりに生きてやる」

「一つ、確認させてくれ」

 

 そう言って彼は自分のデッキを取り出した。あぁ成程、それなら確かに分かりやすい。

 

「確かにそれが手っ取り早いか。いいだろう。世界へ挑戦する俺の実力、存分に測ってみろ!」

「いやもう、本当に清々しい程生意気だな。本当に小学生か?」

 

 近くの公園に設置してある机にお互いのデッキを置き、ファイトの準備を整える。今生における八雲カゲツとの初ファイト。盛大に暴れてやろうか。

 

「「スタンドアップ、ヴァンガード!!」」




次回はファイト描写ですが、ヴェイズルーグはディアデイズ2に無いデッキになるのでプレイングが全然分からない……。
アニメや対戦動画などを見てそれっぽく見えるように頑張ります。
後、多分滅茶苦茶時間がかかると思いますので気長にお待ちください。
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