わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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プロローグはこの話で最後です。
次の話からアニメSeason1の話に入っていきます。
また、ここから先は独自解釈・原作設定改変等のオリジナル要素がかなり多くなってきますのでご了承ください。


プロローグ:3 旅路の足跡は那由他の先へ

 三兆六百八十八億四万二百七回目の人生が始まった。二つの運命大戦を幾度も経験して、運命大戦自体の仕組みも粗方理解出来た。

 ガブエリウスが組んだ術式の情報も、永い旅路の中でガブエリウスから少しづつ得た。二つの運命大戦で使用された術式はほぼ同じだが、いくつか差異があった。

 まずは魄山の術式及び運命者カード間で運命力(デザインフォース)を受け渡す為のパスの規格だ。消滅した術式を復旧したものの、対応する運命者カードに変化があったので前回と同じパスの流用は出来なかったと聞いた。

 そして運命者カードの違いだが、アキナが参加した運命大戦では《零の運命者 ブラグドマイヤー》がいた。零の運命者の願いに巻き込まれた他の運命者カードはガブエリウスがギリギリのところでサルベージ出来たようだが、力の発生源である《零の運命者 ブラグドマイヤー》はそのまま零へと飲み込まれ、完全に消滅したそうだ。

 結果として運命者カードは五枚となり、運命大戦を行う為の運命力(デザインフォース)が足りなくなった。故に、ヒカリちゃんが参加した運命大戦では《時の運命者 リィエル=アモルタ》が用意された。

 術式の知識を深めていくと俺が一回目の運命大戦に参加出来ない理由が明確に理解出来た。運命者カードのパス規格が違うから例外処理として弾かれていたのだ。

《奇跡の運命者 レザエル》が魄山の舞台と共鳴していたのは、単に規格が違うパス同士で運命力(デザインフォース)が干渉し、エラーを吐いていただけに過ぎなかった。

 逆に言えば、運命大戦の術式に内包された運命力(デザインフォース)が反応を示すほどに力が蓄積されている証拠でもある。

 

 ──もし俺が握っている運命者カードが《時の運命者 リィエル=アモルタ》だったならば、いくらかの制限がついた状態ではあるだろうが、時間跳躍も可能だろう──。

 

《時の運命者 リィエル=アモルタ》はその名の通り時を司る力を有している。問題は、よりによってこの運命者カードが所有者として選んだのがヒカリちゃんだった事だ。

 いや、ヒカリちゃんの願いを考えればこの出会いは必然だったのかも知れない。‎‎兄の死ぬ未来を、運命を、自分が変えてみせるとヒカリちゃんは残酷な運命に対して抗い続けたのだ。

 以前の輪廻でガブエリウスに尋ねた事がある。もし過去を変える為に時間を逆行したいと願ったならば、その後はどうなるのかと。

 答えは非情だった。過去へと跳躍し己の願いを果たしたならば、最悪の場合は時間の矯正力により存在が抹消されるだろう、と。

 失踪したヒカリちゃんは過去へと跳んだのだろう。その先でアキナの死の運命を覆したとしても、ヒカリちゃんの存在は世界に消されたのだろう。

 

「……運命大戦って、何なんだよ……ッ」

「……すまない」

 

 この人生ではガブエリウスに俺の真実を話した。記憶と《奇跡の運命者 レザエル》を持って、何度も竹松ケントという男の人生を繰り返している事を。

 今の時間はアキナが参加する運命大戦の開催前夜。場所は魄山の運命大戦が行われる大舞台。

 こんな荒唐無稽な話を信じてもらえるか分からなかったが、運命力(デザインフォース)が蓄積された《奇跡の運命者 レザエル》を見せて最終的には信じて貰えた。

 

「ガブエリウス。どうして運命大戦に拘る? 運命者カードの運命力(デザインフォース)を纏め上げて、何をしようとしているんだ?」

「記憶を保持して転生するというのは実に厄介だ。どこまで情報を握っているのか分かったものではない」

 

 溜息と共に。ガブエリウスは続ける。

 

「いいだろう竹松ケントよ。君の秘密を話してくれた事に応えるべく、こちらも誠意として君に話そう。運命大戦──その真の目的を!」

 

 そして聞かされたのは、ガブエリウスとシヴィルトとの因縁だ。惑星クレイにてシヴィルトの精神汚染によりガブエリウスの一族は発狂。理性の蓋を外された欲望の獣と化し、同族で殺し合ったのだと言う。

 その後、シヴィルトは何かに誘われるように惑星クレイから地球に来たのだと。

 

「地球に来たシヴィルトに対抗すべく運命力(デザインフォース)で惑星クレイへの道を開き、我が本体を降臨させる」

「それで倒せるのか?」

「倒すのだ! これ以上、シヴィルトの犠牲者を出すわけにはいかない! シヴィルトの打倒こそ、私に遺された使命なのだ!!」

 

 血を吐くような声で己の決意を語るガブエリウス。その言葉に嘘は感じられなかった。

 

「……分かった。これから先、ガブエリウスが誓いを違えない限り信用しよう」

「転生した先の私は別個体だとしてもか?」

「今まで巡ってきた輪廻で、多少の違いはあれど性格や性別が変わっていた人はいなかった。まるで世界の『原本』があるかのように」

 

 数えるのも億劫になる程の輪廻を繰り返した。並行世界と言うのならば、環境や性別が違う事があってもいい筈だが、それすらも起こらない。

 明導アキナが女性になった世界は今まで無かった。ヒカリちゃんが健康に過ごしている世界は今まで無かった。それはつまり、運命と言う名の原本にそうあるように定められているという事なのだろう。

 脚本に記されたキャラ設定とでも言うのか。ともかく、そう言った力があるのは間違い無かった。

 俺はガブエリウスに別れを告げて旅を再開する。情報はある程度揃ったが、状況を打破するにはまだ足りない。

 ……覚悟を決めるしかない。こうなればアキナ達との関わり方を変えてみようか。

 あの何よりも輝かしい二人の出会いに泥を塗る行為だが、大切な人を救えるならば惜しくない。

 

 ◆

 

 八百九載千十四溝二垓九億三十一回目の人生が始まった。

 選択肢を試した──プロファイターとなり()()()()明導アキナへ、員弁ナオと共にヴァンガード指導を行った。

 何も変わらなかった。

 

 選択肢を試した──高校一年の時点で明導アキナを無理矢理ヴァンガードの世界へ誘い、修業期間を確保した。

 何も変わらなかった。

 

 選択肢を試した──正体を隠し、明導アキナの運命大戦への参加を妨害した。

 何も変わらなかった。

 

 選択肢を試した──ネットヴァンガードで明導ヒカリと先に出会えばどうだろう。

 何も変わらなかった。

 

 変わらない。変わらない。変わらない。明導アキナと明導ヒカリが死ぬ未来が変わらない。

 俺の胸に抱く宝物を汚しても、運命はただ嘲笑うかのように大切な二人を消していく。

 果ての無い旅路で窒息するように、俺の思考が霞で塗り潰される。俺ではもう、二人を救う未来を掴めないのか……?

 この人生も既にタイムリミット直前だ。今夜にも一回目の運命大戦の最終戦が始まってしまう。《零の運命者 ブラグドマイヤー》の所有者、呼続スオウに敗北して世界から明導アキナが、俺の親友が消えてしまう。そうなれば次はヒカリちゃんの番だ。イヤだ。イヤだ。イヤだ! 俺はもう、何も失いたくない。

 今、俺の手に握られているのは睡眠薬だ。いつからか親友を失う恐怖に震え、この時期にはかかせない物となっていた。

 ふと、空回りする頭に過ぎるのは、アキナを、……睡眠薬で、眠ら、せて……、運命、大戦を、不戦、敗に──。

 

「ッ──!!?」

 

 俺は今何を考えた? 明導アキナを救う為に、アキナに危害を加える事を一瞬でも是としたのか?

 

「あ、あぁ……ッ!」

 

 俺はッ! 既にこの手でヒカリちゃんの願いを踏み躙っているんだぞ!!

 何度も! 何度も! 何度も! 何度も! 何度も! 何度も! ──なのに今度は、アキナにすら危害を加えるのか?

 救う為と言い訳して!! ヒカリちゃんの時と同じ過ちを繰り返すのかッッ!!?

 

「あ、ぐぅっ……! うあぁぁっ……!」

 

 これ以上、大切な人達を傷つけるのか? この先永遠に、運命の道化に成り下がるのか……!?

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァッッッ!!!!!」

 

 このまま挫けるならばいっそ死んでしまえよ竹松ケント(■■■■)

 俺が心に誓ったのは、この程度の輪廻でくすんでしまう程度のものだったのか!

 運命に復讐する為に邪竜(ファーヴニル)の称号を背負ったのは、こんな下らない幕引きの為だったのか!

 わずかな光でも手を伸ばした者にのみ奇跡は舞い降りるのだと、親友の言葉を胸に刻んだのはまやかしだったのか!

 彼女に! 明導ヒカリに! 恋をしたのは! ただの薄っぺらい偽りだったのかッッ!!

 

 ──違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う! 違う! 違う! 違うッ!

 

「舐めるなよ運命ッ!! 舐めるなよ世界ッ!! 俺は負けない! 最後に勝つのは! 笑うのはッ!! 俺だッッ!!!」

 

 そして──最後の転機が訪れた。

 恒河沙を超え、阿僧祇を抜き去り、那由他の果てまで旅をして──俺は、この手に奇跡を手繰り寄せた。

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