本格的な更新はアニメの幻真星戦編が終わってからになります。
「エリカ、今度の休みにデートしないか?」
「……? あぁ、そういえばもうそんな時期だっけ」
タイゾウさんの会社にある研究室で俺はエリカに話しかける。もはやアルバイト感覚で通い慣れて、社内に俺が居ても誰も疑問に思わない状態だ。
エリカと付き合い始めて一ヶ月近く。新年が明け、高校の冬休みも終わり、俺にとっては何度も繰り返した時期が今年もやってくる。
一月二十二日。ヒカリちゃんの誕生日だ。そして当然、エリカの誕生日でもある。
かつてのエリカに俺は誕生日という理由でプレゼントを贈った事がなかった。一回目の人生で彼女の誕生日を聞けたのはアキナが失踪する直前だったし、失踪してからは誕生日を祝う余裕すら無かった。
当時、彼女の心を繋ぎとめたかった俺は彼女と一緒に出掛けて防寒着や毛布を見て回って、気に入ったものがあれば何かと理由を付けてプレゼントしていた。誕生日と言う理由を押し殺して。
──しかし今生では。今生こそは。堂々とエリカの誕生日を祝えるのではないだろうか。
アキナやタイゾウさん達との交流で彼女の笑顔が増えた。プロを目指して実践訓練をしている時に少しピリつく事もあるが、それは真剣さ故の事でありかつてのような余裕の無さは見受けられない。
「今回は隣町まで足を伸ばしてみないか? 新しいカードショップができたそうだし、そこに寄るついでに色々見て回ろうかと思うんだが」
「そうね。私もあまり向こうには行かないし、気分転換には丁度いいかも」
俺の提案をエリカが了承してくれて、安堵の息を小さく吐く。後は一緒に隣町を歩きながらプレゼントを決めればいいか。
そこまで考えて、俺の頭にふと過ぎる。そう言えばエリカの好きなもの、あるいはこの世界で好きになったものは何だろうか。
かつての世界とは事情が違うし、今まで俺が贈ったものは彼女の好みと言うよりも、彼女の身体を慮った気になってしまった善意の押し付けでしかなかった。
知らないならば、知らねばならない。エリカと共に生きていくと決めた以上、改めて向き合わねばならない事だ。
◆
「なるほど、こっちはデッキ販売やカードのまとめ売りが主軸になってるのか」
「その分レアリティの高い高額カードはストレイキャットよりも少なめになってるわね」
来月発売される新パックの四枚コンプリートセットの告知を見ながら、エリカと雑談をかわす。
新しくできただけあって、他のカードショップとは明確に経営方針が違っているようだ。
デッキ販売にしても高額なカードを詰め込んだガチ仕様から、スタートデッキの次に勧めやすいよう安価な代用カードで値段を抑えたものまでズラリと並んでいる。
「このデッキ、確か三日前の大会で結果を残していたリストと同じだった筈」
「情報まとめてデッキを売り出すのが早いんだな。……五万、か。シングルで全部揃えるよりかは安い……のか?」
エリカからの情報を聞きながら頭の中で算盤を弾きながら売り出されているデッキを見る。高いデッキは過去の大会で結果を残したリストをそのまま売っているものが多い。
だが、安価なデッキは値段と強さを天秤にかけてギリギリまで調整しているのが見て取れて中々面白い。そしてショップ大会も頻繁に開催されている。デッキを買って、すぐに遊べる環境が整っているように見える。ここは当たりかも知れないな。
「こっちはサプライ品と……お、マスターデッキセットも結構置いてあるんだな」
定期的に販売されるマスターデッキを並べてある中に、つい先日発売されたダークステイツの商品が置いてあった。昨日ストレイキャットに行った時は在庫が無かったし、ヒカリちゃんへの誕生日プレゼントにしようか。ダークステイツの汎用カードも収録されていて、彼女のデッキの強化にもなるだろうし丁度いいだろう。
「それ買うんだ?」
「向こうだと売り切れだったんだよ」
エリカの言葉に少し言い訳じみた返答をしてしまう。別にやましい事はない。ないのだが、エリカに渡すプレゼントが決まっていない故に、思わず言葉を濁してしまったのだ。
誤魔化すように時計を見ると結構時間が経っていた。散策する時間をとるのであれば、そろそろ店を出た方がいいか。
会計して外に出る。スマホで地図アプリを開くと近くに商店街があるという情報が出てきた。
周辺写真を見る限りではシャッターが閉まっているところしかない、というような状況でもないらしい。エリカを誘って行ってみるか。
◆
さて、どうしようか。
色々お店を見て回っているのだが、エリカへのプレゼントが決まらない。今はお互いにお手洗いという名目で別行動中だ。つまり、エリカへのプレゼントを買っておくチャンスである。
しかし、かつての旅路の中でヒカリちゃんへ贈ったものを思い返しているが、サプライ品やネットヴァンガード用のプリペイドカード。アキナが失踪してからは身体を温かくするための物だったりで、レパートリーが少ない。
ヒカリちゃんを救うという目的を前に、こういったところが疎かになっていたのだと改めて自覚した。
「そう言えば……」
スマホのメッセージアプリに記録されているエリカとの会話履歴を遡る。確か、確か、確か……あった。
見つけたのはアプリに貼り付けられた一枚のフォト。映っているのは一台のカメラだ。最近写真撮影にはまっていると言って、使っているカメラを見せてくれたものだ。
画像検索で機種を特定。更にこの機種に対応したレンズを探して──近くにあったカメラの個人店に駆け込んだ──。
「……そこまでして隠さなくてもいいでしょ」
──そして人知れずプレゼントを買ったことが普通にバレた。お手洗いだって言ってるのに三十分以上戻らなかったらそりゃバレるか。
社員寮の前までエリカを送り、さっき買った物を手渡す。追加料金を払ってプレゼント用の綺麗な包装紙で包んでもらった。
「バレてしまったのなら、これ以上もったいぶっても仕方がないか。はい、君への誕生日プレゼントだ」
「ふふ、ありがと。こんな日がくるなんて夢みたい。……開けていい?」
「もちろん」
包装紙から出てきたのはカメラのレンズケース。その中にはあの店の店主に選んでもらった数種理のレンズが入っている。
値は張ったが、海外で稼いだ賞金に比べれば何て事ない。
エリカは驚き、そして俺をじっと見つめる。高かったんじゃないのとばかりの目線に、問題ないと告げる。
「一緒にこの世界での思い出を作っていこう。このプレゼントは、君と共に生きる為の第一歩だ。……ずっと、ずっと──俺はこうして君と生きたかったんだ」
あの時、エリカが俺と一緒に生きてくれると決断してくれて本当に嬉しかったんだ。この旅路の中で君が齎してくれた奇跡に、俺は助けられてばかりだ。
「好きだ。愛している。──そんな言葉じゃ足りない程に、君に恋焦がれている。誕生日おめでとうエリカ。俺もこんな日がくる事をずっと夢見ていたよ」
「うん。ずっと支えてくれて、ずっと想ってくれて……ありがとうケント。今、とても幸せだよ」
エリカの言葉に静かに頷く。これからも俺は君を想い続ける。今生の命が続く限り。
──後日。
隣町のカードショップで買ったマスターデッキをヒカリちゃんへ渡した。
「誕生日おめでとうヒカリちゃん。これプレゼント」
「ケントさんありがとー! あ、これ買えなかったマスターデッキだ」
そんな可愛らしい様子のヒカリちゃんを見て、俺は顔をほころばせる。喜んでもらえて本当に良かったよ。