わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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第三章:3 帰国

 海外予選は人数が少ない分、一日で全てのファイトが終了した。予選突破者は俺とミチルさんだ。

 

「俺は一足先に日本に帰ります」

「うん。決勝トーナメントでも戦えるといいね」

「こっちは六年前の悲劇を繰り返したくないですね……」

 

 予選で戦ったと思ったら決勝トーナメントでもかち合うとか絶対に嫌だ。ミチルさんと戦うのは楽しいがそれ以上に疲れる。

 彼に対する勝率は非公式戦を含めれば約六割。公式戦では全て俺が勝っているが、非公式戦では負け越している状況だ。

 

「ミチルさんはどうするんです?」

「ダンジと合流してからになるかな」

「……あー、はい。あの人とねぇ……」

「相変わらず邪竜(ファーヴニル)はダンジの事が苦手だね」

 

 ミチルさんが笑いながら言う。今生では少し関わりがある程度だが、過去の輪廻では色々振り回された事がある。

 二人を助ける為、選択肢の総浚いの一環としてブラックアウトに入った事があるのだ。十数万回程度ではあるが、いい経験になった。

 俺が入団する時期、既にルカさんは旅に出ており桃山ダンジがリーダーとしてチームを率いていたのだが……。

 

「悪い人じゃないですけどね。悪意をもってどうこうする人じゃないっていう意味では信用してますよ。……けど、何かこう、あの人って根本的にどこかずれてる気がするんですよね」

「名前を呼ぶのも嫌なのかい?」

 

 根っからの悪人じゃないというのは理解している。俺が言えた事では無いが、あの人は自分一人で自己完結させる癖がある。それはまぁいいのだが、その性質がここぞという場面で爆弾と化すのは勘弁してほしい。

 今生では被害を受けていないが、かつての旅路では何度もその爆発に巻き込まれたのだ。那古野城を舞台としたデイブレイクとの決戦であの人の顔を見た時は、マジでその顔面を張り飛ばしてやろうかと思った。

 当時は大切な人が生きている癖に自分で手を伸ばさず、挙句の果てに俺もたくさん苦悩を抱えているんですと言わんばかりの悲劇面を作りやがってという十割八つ当たりの感情だった。頭に血が上り過ぎて覚えていないが、相当口汚く怒鳴り散らしたのだろう。決戦後、しばらくブラックアウトとデイブレイクの両メンバーからガッツリ距離を置かれていた。

 そして今、当時の事を思い返すと同族嫌悪でもあったのだろうと思う。傷付けてしまう事を過剰に恐れて、大切だからこそ手を伸ばし切れない。現実を直視せずに距離を置いて逃げてしまう。

 その様子は去年の俺と同じ、いや俺はそれよりもひどかっただろう。何せ手を伸ばさなかった理由が、諦めと決めつけでしかなかったのだから。アキナではない俺がエリカの生きる理由になるわけがないという、どうしようもない最低な言い訳だったのだから。

 

「嫌っていうわけじゃ……ハァ、自分でも大人げないと思ってますけどね。何か苦手なんですよね。それじゃあ俺はもう行きますね」

 

 桃山ダンジが来る前に俺はその場を後にする。急いで日本に戻りたいのも事実だし、今から帰れば二日目の予選を観戦できるか。寝る時間ないけどフライト中に寝れるだろうし、問題はないだろう。無茶なスケジュールでエリカに怒られそうだが、これっきりという事で許してくれるかな。というか黙ってたらバレないのでは。……そう考えてしまう時点で駄目なんだろうな。

 まぁしょうがない。彼女を応援したいというのは俺のわがままだ。憧れの舞台に立つエリカの姿をこの目でどうしても見たいのだから。俺は急いで空港へと向かった。

 

 ◆

 

 海外予選会場から急いで飛んできたわけだが、結局予選二日目のエリカの試合には間に合わなかった。まさか予選二日目の一試合目だとは思わなかった。アキナ対狐芝ライカの試合は普通に観戦できたので、急いで帰って来た甲斐はあったと考えよう。

 想定外だったのは、こっそり覗くだけのつもりが想像以上に目立ってしまった事か。観客席の上の方からステージを見下ろしていたところをタイゾウさんとキョウマさんに見つかってしまった。観客からも邪竜(ファーヴニル)じゃないかと何度か指をさされたし。

 キャリーバッグを引きずったまま観客席で突っ立ってたら、目立つのも当然か。

 

「ハハハハハ! いや~、若いねぇ。公式配信で見ればと言うのは無粋だな」

「無茶はしないと言っていただろう? どんなスケジュールを組んでいるんだ」

 

 タイゾウさんには爆笑され、キョウマさんからは注意がとんできた。今回は全面的に俺が悪いのでひたすら謝った。

 

「しかし……海外予選の突破者はやはりミチルと邪竜(ファーヴニル)か」

「邪竜討伐戦という冗談が現実味を帯びてきたな。大丈夫かケント?」

「覚悟してた事ですよキョウマさん。それにトーナメント方式なだけマシですよ。ヤバいところだと俺だけ総当たりのレイドボスみたいな扱いされてましたし」

 

 もちろん全員返り討ちにしてやった。数は確かに脅威だが、邪竜(ファーヴニル)討伐には質が足りない。そう簡単に負けてやるものかよ。

 そんな過去の記憶を掘り返しながら、眼下のステージで行われるファイトも終わった。中央のモニターに参加者の勝敗数が記されて、予選二日目が終了した。

 

「今のところカゲツさんは無敗、アキナは一敗、エリカは二敗、か」

 

 カゲツさんはほぼ予選通過は確定だろう。アキナは次で勝てば通過出来る可能性が高い。問題はエリカか。たとえ次のギィとのファイトで勝ったとしても、員弁ナオが敗北しなければ決勝トーナメント進出のチャンスすら無い状況。

 プロを目指すと言っていた以上、デラックスで実績は積んでおきたいところだ。二十歳までにプロ試験を一定ラインまで進めておかなければテストを受ける資格すら喪失してしまうのだから。

 

「さて、俺達はエリカに会ってから帰るが……ケント君はどうする?」

 

 タイゾウさんの言葉に俺は少し考える。

 俺としてもエリカに会いたい。会いたいが、デラックスにおいては優勝を奪い合う敵同士だ。もちろんそれを理由にしてわざわざ空気をギスらせようとは思わないが、今回ばかりは俺が一足先に決勝トーナメント進出が決まっている事が問題だ。

 エリカだけでなく他のみんなに会うのは非常に気まずい。俺としてはそんな気は無いものの、高みの見物と受け取られる可能性が高い。みんなは別に気にしないだろうが、俺がどうしても気にしてしまう。

 

「いや、俺は予選が終わってから会いますよ。それまではこっそり観戦しておきます」

「──そうね。あなたならそう言うと思った」

 

 少し考えて出したタイゾウさんへの答えに、不機嫌そうなエリカの声が返ってきた。

 いつの間にここに来ていたのか。そして見つかるのが随分と早い。

 

「その様子だと負けを引きずり過ぎていないようだね」

「明日は必ず勝つ。負けっぱなしじゃ終われない」

「そうか、安心したよ。その調子なら大丈夫そうだな。それじゃ俺達は会社に戻るよ」

 

 そう言ってタイゾウさんとキョウマさんが去って行った。残されたのは俺とエリカの二人だけ。

 

「それで? ケントの帰国予定は明日だった筈だけど」

「エリカの試合が見たくて急いで帰って来たんだ。結局間に合わなかったんだけどね」

「それは素直に嬉しいけど寝てないんじゃない?」

「フライト中はずっと寝てたよ。心配かけてごめん」

 

 プロファイターを何度も経験していると隙間時間の仮眠に慣れるものだ。大会やリーグ戦の会場への移動時間で、食事やデッキ調整、睡眠をこなせる様になると余裕が生まれる。積極的にプロとして活動しようとすると家に帰る時間など無い。実際に住む場所を持たない人とかも居たし。

 最近は寝ても三時間くらいで目が覚めるから二度寝が常態化してるんだよな。まだ若い身体だからと少し無茶を押し通し過ぎたかもしれない。

 

「ホテルはとってるの?」

「前もってジンキさんに報告してるから問題無いよ。エリカ達と同じホテルだ」

「じゃあ一緒に行こうか。まだ言いたい事もあるし」

「……お手柔らかに、お願いします」

 

 心配し過ぎだと思うが、傍から見れば自殺じみたスケジュールを強行していた事実があるので何も言えない。

 何度も経験して致死ラインは身をもって知っているとか、こんな終わってる生活でも六十歳前後までは生きるとかの言い訳も使えないだろう。使えば更に怒られるだろうし。

 ホテルまでの道中、心配して怒ってくれるエリカに対して俺は平謝りするしか出来なかった。




決勝トーナメントまではファイト描写を入れる予定は無かったのですが、盛り上がりに欠けると感じたので次話で一度ファイト描写を差し込みます。
申し訳ありませんが、次の話は結構遅くなるかも知れません。
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