わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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第三章:5 準決勝に向けて 前編

 ギィに勝ったエリカは抽選の結果、見事決勝トーナメント進出を決めた。これで俺を含めて八名のトーナメント戦が行われる。

 決勝トーナメントは一週間後。舞台はタイゾウさん達が携わったヴァンガードドーム。俺も広報担当として少し関りがある場所だ。

 一週間後の決戦に向けて準備を進める。特にデッキ調整は欠かせない。

 

「よう、ケント君。暇なら一戦どうだい?」

「……いや、いやいやいや」

 

 たまには河岸を変えるかと街をブラついているとカゲツさんからヴァンガードの誘いを受けた。いや、あんたとは来週の決勝トーナメントで戦うだろうに。

 

「一回戦の相手忘れました?」

「心配しなくても覚えているさ。だけど、そうだな。どう言えばいいか……」

 

 言葉に迷いつつ、カゲツさんは真剣な表情で言う。

 

「昔の君には絶対に聞けなかった事でね。まぁ、今のケント君でも少し怪しいラインではあるんだけどさ」

「……?」

「君は運命ってやつを信じるかい? あるいは世界や運命の結末が、ヴァンガードによって決められる戦いを信じるかい?」

「あー……なるほど、そう言う類の話ですか」

 

 もしかしてこの人、惑星クレイ案件かそれに近しい何かに関わってるのか? まぁ確かに、二人を救えていなかったらカゲツさんの発言にブチ切れているかも知れないな。

 

「信じますよ」

「そうか。ケント君は色々経験してそうだったからね。もしもの時に備えて保険をかけておきたかったんだ」

 

 その色々な経験の中に、並行世界への転生が入っているとは思うまい。それによって惑星クレイの存在と何度も関わり続け、今後もそれは変わらない。

 俺の旅路は永劫終わらないのだろう。今生はエリカという初恋にして最愛の女性を助ける事が出来たが、来世では……そもそもエリカが来る世界に転生するかも分からない。

 

「……聞かせてもらいましょうか。ファイトをしながら」

「助かるよ」

 

 このカゲツさんが抱えている案件、多分だがアキナ達も関わるんだろうな。あいつはもうそういう星の下に生まれていると言ってもいいだろう。

 世界。運命。結局のところ、そういった超常的なものに振り回されてばかりな気がする。だがまぁ、前世の記憶を持っている時点でそんなものは今更か。

 もはやかつての俺の名前などすり切れた。■■■■(ぜんせ)の事など、ヴァンガード以外にTCGあったなくらいしか覚えていない。カードの事が記憶に残っているあたり、俺はかつての現代でもカードゲーマーだったのだろう。

 ヴァンガード以外のTCGの名前も覚えていないが、その経験は今の俺にも残っているだろうか。

 俺の血肉になっているのは、もう那由他の果てまで繰り返しファイトした経験と対人メタでしかないのではなかろうか。

 

「さて、どこから話したものかな……」

 

 カゲツさんの話を聞きながら、俺はただ自分のデッキを見つめていた。そこにはかつて生きていた自分の残滓すら見つからなかった。

 

 ◆

 

 決勝トーナメントの一日目が終了した。俺はカゲツさんに勝った。その他、トーナメント初戦を勝ったのは──エリカ、アキナ、ミチルさん。

 

「身内しかいねぇ」

「決勝で会おうね」

「実現性高そうな約束をさせないでください」

 

 ヴァンガードドームの控室でミチルさんからの戯言を聞き流す。

 ミチルさんと枠離れてて本当に良かった。決勝戦でミチルさんと再び相見える事態になる可能性は消えていないが。

 

「お、何だどうした。最近割と見る組み合わせじゃないか」

 

 控室に顔を出したカゲツさんを見て、ここ最近のいつものメンバーだなと強く感じる。

 逆に考えれば決勝トーナメント進出者の中でそこまで話した事のない人の方が珍しいか。

 強いて言うなら……最近デイブレイクの方へ遊びに行っていない御薬袋ミレイか、ストレイキャットでしか話す機会の無い大倉メグミくらい?

 偶然だろうが、ものの見事に苦手意識を持っている桃山ダンジの関係者ばかりで頭を抱えそうになる。

 呼続スオウとは結構高校でファイトしてるしな。エリカの前ではあまり話さないし、話題にも上げないだけで。

 

「あまりファイトした事のない人が、誰もトーナメントに上がってきてないんですよね」

 

 それは裏返せば対人メタが完成していないという意味なのだが、ここまで新鮮味がないのも考えものだ。

 もうはっきりと自覚しているが、俺は──邪竜(ファーヴニル)は死に場所を求めている。そして、その墓標こそが勇者(シグルド)だ。

 だからこの状況はあまり好ましくない。対人メタが完成した邪竜(ファーヴニル)に敗北はない。那由他を超える経験則は実質的な未来予知だ。あらゆるパターンが頭の中に入っており、結果的に相手の手札が透けて見える。

 今生においてデッキ構成が違っていれば、あるいは邪竜(ファーヴニル)の爪牙から逃れうるかも知れないが、俺が確認する限りはどのファイターも過去の輪廻と同じカードが採用されている。──ただ、一人を除いて。

 故に邪竜(ファーヴニル)は問題無く機能して勝利する。そこに傲慢さなどありはしない。純然たる事実であり、ただ敵を無慈悲に嚙み潰す。

 

「俺は結構楽しかったよ。予選の話だけど」

「僕も楽しかったよ」

「くっそ、この二人は……ッ!」

 

 カゲツさんは予選で俺があまりファイトした事のない人と戦ってて本当に羨ましい。

 ミチルさんはまぁ、ミチルさんだしなという感じだ。強い人だったら誰でも楽しいって言うしな、この人。予選で戦った俺とトーナメントで当たる事を楽しみにしているしな。本当に勘弁してほしい。

 何度も言うが、こっちは本当に六年前の再現はしたくないんだよ。

 

「それで、カゲツさんは俺達に用事ですか? 俺はそろそろ帰りますけど」

「あぁ、いや。やる事があるんだけど時間が空いてるだけさ」

 

 暇つぶしとして控室を覗いていたらたまたま俺達がいた、と。まぁ、特に用事があるわけじゃないならお暇させてもらおうか。

 

「それじゃあ俺はその辺ブラついたら帰りますんで」

「あぁ、明日も頑張れよ」

 

 カゲツさんの言葉を背に受けて、俺は控室を出た。

 先週カゲツさんと色々話したが、彼は普段通りに振舞っている。俺の事は保険だと言っていたが……厄介な事情もあったものだ。

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