さて、どうしようか。
カゲツさんにはその辺をブラついてくる、とは言ったものの一人で行くところなど限られているわけで。早々に帰宅ムードとなってしまった。
まだまだ暑いし、ソフトクリームでも買ってその辺で食べてから帰るかと足を動かしているとアキナと員弁ナオがスフトクーム片手に談笑している姿が見えた。
デートか? 声をかけるのは止めとくか? ソフトクリームを買ってどうするかと考えていると、アキナの方が俺に気付いた。
「あれ? ケント」
「よう。悪いな、デートの邪魔だったか?」
「「はぁ!?」」
バレてしまっては仕方ないと軽く突いてみると、面白いくらいに大袈裟な反応が返ってきた。
「は? ちょ、
「そうか? まぁ、そう言うのならそうなんだろうが……後悔だけはしてくれるなよ、お二人さん」
顔を紅潮させた員弁ナオの言い訳になっていない言葉を聞きながら俺はただ首を傾げる。それはデートと何が違うのだろうか、と。
アキナの様子を窺うと、こちらも顔を真っ赤にさせて無言で頷いている。両者共に少なくとも好意はありそうだが……部外者が言う事ではないか。
二人がデートじゃないと言うのなら、俺もその言葉を尊重しよう。好意を抱いていたとしても、それが恋であるかどうかなど自覚する以外に判別方法など無いのだから。
彼らと別れて少し歩くと、エリカと西塔ミコトがアキナ達を覗いていた。どうして???
「……エリカ、何をしているんだ? 西塔さんも巻き込んで」
「ケント。私は妹として兄の幸せを見届ける義務があるの」
いや、多分必要ないんじゃないか。何せ俺に喝を入れたくらいなんだ。好意が恋に変わったら告白くらいするだろう。
仮にアキナがそれでも手を伸ばそうとしないなら……親友同士の二回目の大喧嘩が始まるだけだ。今度は俺が説得する側に回るだろう。
「心配なのは分かる。だけどエリカ、君は過去に引っ張られ過ぎだ」
「……でも」
「それにいくら見守ったところで、あの様子じゃしばらく進展しないだろうさ」
「ケントってアキナに対して結構遠慮なく言うよね」
遠慮なく言い合ったし喧嘩もしたから今更だろう。俺自身があれからもう吹っ切れたという事もあり、気になった事は言うようにしている。
「それはそれとして俺も混ぜてもらおうかな。いざとなったら背中を押すネタはある方がいい」
「言ってる事とやってる事が違う……」
「あくまでも友人として、だ。好意はあるようだから、突っつく材料を集めるだけだよ」
詭弁だが。嘘ではないが二人の反応があまりにも良かったからもう少し様子を見たいというのが理由の大半だ。これからやる事もないし、エリカと一緒に過ごせるなら丁度いい。
一緒に様子を見ていると、今度は羽根山ウララが二人と話しているところだった。
「お二人はぁ……デートですか!?」
「「いやいやいや!」」
俺と同じこと言ってるし。二人がどう言い繕ってもデートだよあれは。
「やっぱりデートに見えるよなぁ」
「……ですよねぇ」
「いいぞ、羽根山さん!」
俺の言葉に西塔ミコトは同意し、エリカは羽根山ウララの様子にガッツポーズしている。
「羽根山ウララ。お前は思い違いをしている」
その声が聞こえた瞬間、エリカの顔が困惑に歪む。どうしてお前がいるんだ。そう言わんばかりの表情だ。
呼続スオウ。決勝トーナメントにおけるエリカの対戦相手だった男が口を挟んできた。
「二人が何をしようとしていたか、そんなものは決まっている。──ファイトだ」
笑うわ。羽根山ウララに対して、これはデートではなくファイトの前振りだと熱弁する様子は素直に面白い。
ただまぁ、デート気分ではもう無くなったかもな。これ以上の覗きは不要だと思い、エリカの方を見ると──怒りに燃えていた。いや、待て待て待て。落ち着け。
「呼続スオウゥゥゥ……ッ!!!」
地獄の底から響くような声に、西塔ミコトがドン引きしている。正直俺も怖い。
「やっぱりあいつは化物だ! お兄ちゃんの幸せは私が守るッ!!」
吠え叫び、今にも呼続スオウに飛び掛からんとするエリカを西塔ミコトと俺の二人で必死に止める。いや力、強いな。そこまで怒りに燃えているのか。
「わぁ~ッ!? ステイステイ!!」
「落ち着けエリカ! あいつを今ここでぶん殴っても何も変わらないぞ!」
「離してみーたん、ケントさん!! あいつ吊るせないッ!!」
「声が大きいってエリカ! バレる、バレる!!」
頭に血が上りすぎて精神がヒカリちゃん時代に逆行してるじゃん。完全に我を忘れていると言っていいだろう。
そうやって騒いでいると、やはりというか普通にバレた。その上で、まだ時間を持て余しているカゲツさんも合流した。
「がるるるるる……」
「やめなってエリカ。気持ちは分かるが落ち着け」
威嚇を始めるエリカを窘めつつ、呼続スオウから俺に声をかけられた。
「……お前は、恨んでいないのか?」
「過去の輪廻の話か? 悪いが今生はノーカンだよ。というかそうじゃないと、どれだけのヒカリちゃんを殺してきたかって話になるだろう」
恨みはない。あくまでもアキナを殺したのは過去の中の呼続スオウだ。俺が虚無に巻き込まれたのもそうだし、俺が殺したヒカリちゃんも過去の輪廻での話だ。
罪悪感がないとは言わない。だが、それでも俺は生き続ける。たとえ過去のヒカリちゃんから殺されようとも、俺はその生き方を変えるつもりはない。
エリカと一緒に生きていく。それこそが俺の覚悟だ。そこに嘘や偽りなどありはしない。
「だからお前も気に病むな。抱えるのはエリカの分だけでいいさ。……俺も、一緒に背負うしな」
「分かった」
友人や自分を殺された俺と、半身とも呼ぶべき家族を殺されたエリカ。絶望に貴賤はないが、個人的な感情で言えばエリカの方が傷が多いだろう。
それに俺がこれだけ感情が分けられているのも、那由他を超える旅路の中での慣れてしまったという事もあるのかも知れないな。未だ威嚇を続けるエリカの背中をさすりながら、そんな考えが他人事のように浮かんでは消えていった。
◆
夜のワンダヒルは全てを覆い隠す。ブラックアウトの初代リーダー曰く、日陰者にターンが回ってくる。
太陽に照らされて白日の下に晒されていたものを忘れられるひと時。ブラックアウトの居心地の良さはそこにある。
かつての輪廻で所属していた事もあり、羽根山ウララの誘いに乗ったのだ。本当に懐かしい。今生ではカゲツさんに発破をかける材料に使っただけで、来た事は無かったからな。
廃棄された遊園地。暗闇に沈む様子を見て、他のみんなは訝しんでいる様子だった。
「ここは黒より暗い闇……ブラックアウト」
その言葉と共に、目の前のメリーゴーランドがライトアップされる。あれこそがブラックアウトのファイトテーブル。
そこでは今、ルカさんと瀬戸トマリのファイトが行われようとしていた。
「それじゃあ見学させてもらおうか」
「え、ケント。ちょっと待って!」
メリーゴーランド上の舞台を見るための見学台に上ろうとするとエリカが慌てて止めてくる。それに対して俺は笑いながら返す。
「ブラックアウトは来る者拒まず。部外者が混ざっていたって気にされないさ」
「……それも、過去の経験?」
声を潜めて聞いてくるエリカに頷きで返す。伝説のチーム、ブラックアウト。俺にとっては過去の輪廻の経験もあって、古巣以上の感慨はない。
見学台へみんなを誘導し、眼下のファイトを見守る。美夜呼ルカ。去年のアメリカで会った際にミチルさんと幾度もファイトを重ね、彼から怪物と言わしめた実力者だ。
デラックスに参加こそしていないが、もし参加していればミチルさんと並んで優勝候補の筆頭だっただろう。
「初代リーダーのルカさんってあんなに強かったんだ」
「去年会った時に俺やカゲツさん、ミチルさんにタイゾウさんと混ざってファイトしてたけどかなり強かったよ」
「……そのトッププロしか居ない中で?」
ドン引きである。アメリカ旅行での一幕はエリカにとって刺激が強かったらしい。
彼女の言う通り、何の因果かトッププロが勢揃いの環境で普通に勝利をもぎ取っていたあたり、規格外と言えよう。
雑談を交わしながら見学していると、眼下のファイトは美夜呼ルカの勝利に終わった。
次は俺が久しぶりに舞台に立とうかなと思ったが、その前にアキナが近導ユウユにファイトを申し込んでいた。
「俺、明導アキナって言います! 俺とファイトしてください!」
「僕と、ですか?」
「はい! 妹からいっぱい話を聞いてましたから」
そんなアキナの言葉にエリカの顔が赤くなる。第一回デラックス。その舞台がエリカの、ヒカリちゃんの始まり。
故に、デラックスは彼女にとって特別な舞台だ。そこで強豪達と覇を競い合ったという経験は、この先必ず役に立つ。
「よう、
「……相変わらず、強い人を見かけると勝負を吹っ掛けますねトウヤさん」
アキナと近導ユウユのファイトが始まった頃合いに、トウヤさんから声をかけられる。強いファイターと戦うためならどこでも行く行動力は今生でも健在で、高校入学直後くらいの頃に何度か戦った事がある。
グレード3を主軸とするバスティオンデッキの破壊力は、一度火が付くと止まらない。とにかくパワーでごり押ししてくるタイプで、シールド値の管理を怠ればそのまま何も出来ずに負ける。
元ブラックアウトのリーダーという肩書にも納得出来る強者だ。
「いいですよ。久々にファイトを──」
「あ、ちょっとごめんねー」
俺とトウヤさんの話に加わったのはルカさんだった。何か用事でもあっただろうかと首を傾げていると、ルカさんはエリカを抱き寄せていた。
「え? え?」
「
それだけ言って、ルカさんはエリカを有無を言わさずに連れて行ってしまった。丁度アキナと近導ユウユのファイトも終わっている。もしかして……。
「さぁさぁ! 次のファイトは私と彼女、デラックス決勝トーナメント進出者のエリカちゃんのカードだよ!!」
「「マジかー……」」
俺とトウヤさんの声が重なる。ファイトをしながら聞きたい事があるんだろうか。
「……次、やりましょうか」
「そうだな……」
舞台の入り口近くにトウヤさんと陣取りながら、俺は彼女達のファイトを見守った。
その後も色々と盛り上がり、解散したのは結局日付が変わってしばらくしてからだった。
次はファイト回なので、投稿まで時間がかかってしまうかも知れません。