わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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棋譜を考えてたのですが盛り上がりに欠ける展開だったので、もう一度練り直しています。
かなり時間がかかりそうなので、ファイト前の様子として挿入する予定だった話を膨らませて投稿します。
大変申し訳ありませんが、次のファイトはもう少しお待ちください。


第三章:8 準決勝を終えて

「頭おかしいんじゃないの???」

「お? 喧嘩か?」

 

 エリカとの対戦が終わった後、ドームの廊下で石川カナミと遭遇した。開口一番に飛び出したのがまさかの頭おかしい発言である。俺じゃなかったらリアルなファイトが始まっていてもおかしくない。

 

「石川さんだったか。半端なファイトじゃ納得しないって話だっただろう?」

「カナミでいいよ。こっちもケントって呼ぶから。そんでもってアレはまともなファイトじゃないでしょうが」

 

 石川さん──もとい、カナミにとってはさっきのファイトはまともでは無かったらしい。傍から見れば三連続クリティカルの絶体絶命から奇跡の生存という、かなり劇的な展開だった筈なのだが。

 

「ケント。あなたはあそこで絶対にヒールトリガーを捲るって確信してたでしょ?」

「……さて、な」

 

 なかなか鋭い話だったが、これはあくまでも邪竜(ファーヴニル)としての──那由他の果てまで繰り返し、世界の敵として君臨し、そして全てを貪ってきた故の経験則。

 ことファイトの事ならば未来予知にも等しい第六感。有体に言えばただの勘なのだが、その精度は高い。

 特に対人メタが完成する程に対戦を行った人間に対して、公式戦という条件が付くものの勝率百パーセントをキープしている。勝利を求めてプレイが最適化される程、邪竜(ファーヴニル)の爪牙がより深く食い込むのだ。

 

「私のヴァンガードの先生はカゲツとルカ先だからね。ファイターを見る目は他の人よりあるつもり。その上で、あの時のあなたは負けないと本気で考えてた。まるでそれが当然だと言うように。……あなた、いったい何者なの?」

「何者か……それなら答えは一つだけだ。俺は邪竜(ファーヴニル)。世界の栄光を貪り尽くし、全てを敵に回した上で頂点に君臨し続けた者。そして未だ現れない勇者(シグルド)を渇望する者だ」

「事実をただ並べただけって感じだね」

 

 それ以外に何を言えばいいんだ。と言うかカナミは何を期待しているんだ。オカルトめいた答えが出てくるとでも思ったのか。

 その答えもあるにはあるが、カナミに言えるかと考えると……まぁ、言えない。というか普通に考えて言っても信じてもらえないだろう。冗談の類だと切って捨てられる。

 

「まぁ、そっちが話したくないって言うなら別にこれ以上聞かないけどさ。代わりに別の事聞いていい?」

「何を聞きたい?」

「君の彼女の明星エリカって人に、ケントの知り合いのコスプレをさせてるって本当?」

「……その情報の出所は、カゲツさんか。その問いには事実無根だと答えさせてもらう」

 

 またその話か。高校での文化祭で同級生(ハヤテ)に叫ばれて以降、クラスメイトから妙に距離を取られるようになった。バカのデタラメに踊らされやがってと吐き捨てるのは簡単だが、エリカの容姿がヒカリちゃんに瓜二つという情報が状況をややこしくさせている。

 似ている。その事実だけで、俺がエリカにヒカリちゃんのコスプレを強要しているというガセに説得力が出てしまう。

 カゲツさんも説明に難儀して文化祭で聞いた内容を冗談交じりに伝えたのだろうが、それはそれとして後で問い詰めようと心に決める。

 カナミは俺の言葉に納得したのか、満足げに頷いて会場へと戻っていった。時間的にはそろそろアキナとミチルさんのファイトが始まる頃だ。

 

「──アキナ」

 

 妙な確信がある。おそらく、決勝の舞台に上がってくるのはアキナだろうと。

 根拠は一切無い。順当にいけばミチルさんが勝つだろう。何せ彼は世界トップクラスの実力者。俺も非公式戦を含めれば僅かに負け越している状況だ。

 間違いなく強い。プロの世界でも、勝率と言う指標の中で彼に比肩するファイターなど存在しないだろう。

 しかし、誰もが予想しない結果を叩き出すという事においてはアキナの右に出る者はいない。

 ──さて、俺も準備をしておくか。結局のところ、邪竜(ファーヴニル)としてやる事は変わらない。勇者(シグルド)が現れないのなら、全てを貪る悪しき竜として再び世界に覇を唱えるだけだ。

 

 ◆

 

 ──<明星エリカSide>

 

 舞台から降り、廊下で一人ため息を吐く。負けた。悔しい。これで終わった。そんな言葉が頭の中を駆け巡り、痛みとなって腑に落ちる。

 敗因と反省は色々とある。けれど何となく、負けるべくして負けたのではないかと強く思ってしまう。

 あのファイト。トリプルドライブからの三連続クリティカルを叩き込んでも、ケントは何も動じていなかった。

 どんなファイターであろうとも自身の負けを感じざるを得ないあの状況で、彼は()()()()()()()という確信がある態度だった。

 度を越えたファイト回数を積み重ねた果ての対人メタ。それはファイトの中で限定的な未来予知すら可能だと本人は言っていた。それこそが運命を打破する為の邪竜(ファーヴニル)の爪牙であると。

 

「エリカ」

「……アキナ」

 

 気持ちも落ち着き、会場へ戻ろうとするとアキナから声をかけられる。心配をかけてしまっただろうか。

 さっきの控室でも思ったけれど、今日ばかりは自分の事に集中してもいいのに。

 

「ごめんね、負けちゃった」

「あぁ……」

 

 私の言葉にアキナはただ考え込むように相槌を打つ。そんな様子に首を傾げていると、アキナが口を開く。

 

「頼みがある」

 

 もうすぐあの廻間ミチルとのファイトが始まると言うのに、いったいどんな頼みだろうか。

 アキナの頼みの内容を聞いて、その第一声は──。

 

「……本気?」

「あぁ。俺が決勝に進めた時、必ず必要になると思う」

 

 随分と危ない橋を渡る。いや、むしろそれくらいの事をしてやっと勝ち目が出来ると言ったところだろうか。

 ケントを──邪竜(ファーヴニル)を打倒するには普通に準備をするだけでは到底及ばない。

 

「分かった。もしアキナが決勝にいけたら、その時は協力する」

「ありがとう、エリカ」

 

 アキナの頼み事が吉と出るか凶と出るか。それでもアキナなら──お兄ちゃんなら、もしかしたら万が一の奇跡すら掴めるんじゃないか。

 運命大戦や宿命決戦の時みたいに、邪竜(ファーヴニル)にも、きっと──!

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