わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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今回の話からは書けてから投稿する事になるので、不定期更新になります。
出来る限りエタらないように頑張ります。


第一章:運命大戦編 「そして奇跡は舞い降りた」
第一章:1 手繰り寄せた奇跡


「君達は最高のファイトが見たいか? 俺は見たいッ!!」

 

 第二回デラックスの開会式にて、向江ジンキが壇上で叫ぶ。彼に招待された二種類のファイター達が一同に会し、真の最強を決める祭典がここ有明アリーナで開催される。

 メタゲームを作り上げるトーナメントプレイヤーのフロントファイターと、決して表には姿を現さないカジュアルプレイヤーのカウンターファイター。普段交わらない者達が織りなすファイトは見る者を熱狂の渦に叩き込む。……それは、いいんだが……。

 

「やあ、わざわざ応援に来てもらってすまないな。邪竜(ファーヴニル)

「タイゾウさんにはお世話になってますからね。……それはそれとして、何ですこの名札?」

 

 開会式が終わった後、俺はタイゾウさん──清蔵タイゾウと共に選手控室に居た。タイゾウさんが興したヴァンガード事業の、清蔵グループ関連会社の広報担当という名札を胸に付けながら。

 今回の人生で邪竜(ファーヴニル)として活動していた時期、公式・非公式問わずにファイトする機会に恵まれ、レアカード談義で意気投合した結果として年齢の離れた友人となった。

 こんな事は那由他の旅路の中でも滅多に無かった。ましてや広報担当の名札を渡された事など今回の人生が初めてだ。

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止だからね。いくら有名な君でもさ」

「まぁ、そりゃあそうなんですけどね」

 

 先程から他の参加者から警戒されているのが分かる。俺は出場しないと言うのにだ。緊張でピリピリするのは良いのだが、選手でもない俺を意識するのは違わないか?

 

「あの邪竜(ファーヴニル)が広報……?」

「どういう事だ?」

「つかアイツ、デラックスの出場を蹴ったのか?」

 

 出場者達が小声でやり取りをしているのが聞こえてくる。

 世界は勇者(シグルド)を待っている。今回の邪竜(ファーヴニル)も今までと変わらず、この言葉を背負っている。

 世界の栄光を貪り尽くし、挑戦者達を噛み砕く邪悪な竜。慣れた事とは言え必要以上に恐れられてるよなぁ、やっぱり。

 

「応援ついでに差し入れです。名札代として受け取ってください」

「お、悪いねぇ。──ほう! 《ディヴァインシスター びすこってぃ》のFFRじゃないか!」

 

 喜ぶタイゾウさんの顔を見て、差し入れの選択が間違っていなかった事に安堵する。《ディヴァインシスター びすこってぃ》のFFRは一日一回の運試しとして最新パックを剥いた際に出たものだ。

 戦友へ幸運のお裾分けのつもりで持ってきたのだが、予想以上に喜んでくれている。

 

「よおし、気合入って来たぜ! ありがとうなケント君」

「今日は生で観ていきますけど、明日からはテレビで応援しますね」

「ああ!」

 

 タイゾウさんへの用事も終わり俺は選手控室から退室した。広報担当の名札を返し忘れていた事に気付いたのは、家に帰ってからだった。

 

 ◆

 

 俺の旅路の始まり。那由他の果てまで輪廻転生を繰り返しても尚、色褪せる事のない輝きが今も胸の奥で熱く滾っている。

 俺の親友、明導アキナ。俺の初恋、明導ヒカリ。あの二人を必ず未来へ連れて行く。その誓いはまだ忘れていない。俺はまだ、死んでいない!

 第二回デラックスの決勝トーナメント最終戦も既に終わり、タイゾウさんは惜しくも準優勝だった。今は俺とタイゾウさんで、ちょっとした打ち上げをやっていた。

 因みに広報担当の名札はこのまま持つ事になった。席も用意していると言うタイゾウさんの言葉は冗談には聞こえなかった。

 

「もうすぐ、運命大戦が始まる」

 

 タイゾウさんは今、仕事で一旦席を外している。用意された部屋で一人《奇跡の運命者 レザエル》を見つめながら呟く。ふざけた運命に勝利する為の戦いが、間も無く始まる。

 俺が持つ《奇跡の運命者 レザエル》はこれまでの旅路で蓄積された運命力(デザインフォース)の影響で運命者の紋章が浮かび、淡く輝いている。思えば遠いところまで来たものだと思う。

 初めて運命大戦に巻き込まれ、そこで《奇跡の運命者 レザエル》の所有者となり、今はこうして俺と共に輪廻を巡っている。

 このまま永遠の虜囚となるか。それとも奇跡の運命者カードが新たな道を示してくれるのか。

 

「それにしてもタイゾウさん遅いな。……飲み物でも買って、持って行こうか」

 

 確かこの会社のビルの屋上に自動販売機があった筈だ。俺も丁度喉が渇いたし、タイゾウさんの分も──。

 

「清蔵タイゾウ。あなたに運命大戦に参加してほしい」

 

 屋上に続く階段を上ったところで妙な声が聞こえてきた。声質は男性だが、声の出し方が女性的すぎる。まるで無理矢理声を変えているような……?

 声の主はタイゾウさんと話しているようだ。運命大戦の参加者の末路は死なのだと彼に訴えている。

 

「──あなたは運命大戦における唯一のイレギュラー。だから、標の運命者で死の運命を変えてほしい」

 

 今まで俺が巡った輪廻の中では、今回のような展開は一度も見た事が無い。一回目の運命大戦では《標の運命者 ヴェルストラ “ブリッツ・アームズ”》 の所有者はいつも不戦敗で終わっていたが、まさかタイゾウさんが所有者だったとは。

 タイゾウさんは運命大戦の参加を蹴っていたのか。屋上に続く出入り口から、声の主の姿を確認し──呼吸を、忘れた。

 

「ッ!? そこに居るのは誰だ!?」

 

 声の主が俺に気付く。それに誘われるように、心臓の高鳴りと共に歩みを進める。タイゾウさんが俺を見て驚いた顔をしているが今はそれに反応している余裕はない。

 

「ヒカリちゃん、なのか……?」

「なッ、ぁ……!?」

 

 俺が呟いた声に動揺し、顔を隠していた仮面が地面に落ちる。

 間違いない! 間違えるなんてあり得ないッ!!

 俺が恋した女の子。世界を、そして運命を呪いながら輪廻を旅してきたのは全てはこの瞬間の為だったのだろう。

 

「あー、らら……もしかして、お知り合い?」

 

 尋常じゃない空気の中で、タイゾウさんの声が夜空に空しく消えていった。

 

 ◆

 

「さて。二人共落ち着いたかな?」

「え、えぇ」

「すみませんタイゾウさん。少し我を忘れていました」

 

 タイゾウさんから飲み物を奢られてしまった俺とヒカリちゃんはタイゾウさんへ頭を下げる。

 未だに俺の心臓は高鳴り続けている。手を伸ばした相手が、救いたいと誓った相手が、今はこんなに近くに居る。

 

「あー、そのケント君。さっきの話だけど……もしかして聞いてたかい?」

「……運命大戦の話でしょう? 大丈夫ですよ。俺もある意味関係者なので」

 

 白を切る事を一瞬考えたが、そうなればもうこの話に俺を入れてもらえないだろう。傍から見れば完全な部外者なのだから、当然と言えば当然だ。

 だから俺は事情を明かす事にした。とは言っても、ガブエリウスにしたように事情を全て話しても信じて貰えないだろうから少しづつ開示する事にした。

 俺はデッキケースから紋章が輝く《奇跡の運命者 レザエル》を二人に見せながら告げる。

 

「かつて俺は二回目の運命大戦に参加し、勝ち残りました。奇跡の運命者カードの所有者として」

「そんな……っ、あり得ないッ!」

 

 ヒカリちゃんの声が驚愕に染まっている。それはそうだろう。今ここに居るヒカリちゃんは俺が運命大戦に参加しなかった時のヒカリちゃんだ。

 俺が参加した運命大戦は全て俺が勝ち残ってヒカリちゃんの身体を癒した。そして彼女は世界に絶望して死んでいったのだ。

 

「二回目の運命大戦の勝者は私よ。時の運命者の力でなければ過去への時間跳躍なんて出来ない!」

「ごめんねヒカリちゃん。俺は君の過去に土足で踏み入ってしまった第二のイレギュラーなんだ」

 

 俺とヒカリちゃんとで認識の擦り合わせを行いつつ、タイゾウさんへ情報を共有していく。

 ヒカリちゃんの目的はやはりアキナを救う事だった。兄を死の運命から逃す為、彼女は時の運命者の力で過去へ来た。

 俺はアキナとヒカリちゃんが生きる未来を掴む為、数え切れない程の並行世界を転生という形で旅をしてこの世界へ来た事を告げた。そして、俺はその全ての並行世界で明導アキナを死の運命から救う事が出来なかった事も。

 

「ふむ。二人の話を聞く限りでは、容易な事では無さそうだ」

 

 情報を聞き終えたタイゾウさんが呟く。協力するか、否か。その決断を下す為の材料を探しているのだろう。

 アキナの対戦相手に梃入れを行って運命大戦から脱落させた事も当然あるが、結局アキナは運命大戦の最終戦に赴く事になる。自身の願いを叶える事が出来なかった末の結末を見届ける為に。

 ヒカリちゃんはタイゾウさんを運命大戦に参加させてアキナの脱落を狙っているようだが、脱落した後に未来のヒカリちゃんから運命大戦の結末を聞けば思い留まってくれるだろうか?

 未来のヒカリちゃんの言葉を素直に聞いてくれるかも知れないが、責任感が強いアキナが運命大戦を見届ける事をすっぽかす事も考え辛い。

 

「念の為に聞いておきたいんだが、君の正体を最初から明導アキナ君に明かして説明するというのは無しなのかい?」

「それは無し。お兄ちゃんが私の事を知れば、運命大戦を辞退する選択肢が消える」

「運命大戦を勝ち抜いて、願いを叶えた存在が目の前に居る事になりますからね。本当にヒカリちゃんを救えるかもしれないと、今以上に運命大戦に傾倒しかねません」

「そうか。……ま、そうだよな。大切な人の命を救えるかも知れないとなったら当然そうなる、か」

 

 タイゾウさんの疑問にヒカリちゃんと俺が答える。わずかな光でも手を伸ばした者にのみ奇跡は舞い降りる。その信条を胸に生きている男なのだから、未来のヒカリちゃんと出会ってしまえばもう止まらない。たとえ自分が死ぬとしてもアキナは手を伸ばし続けるだろう。

 

「ヒカリちゃんの事を話すなら脱落後が良いと思う。アキナは脱落しても運命大戦の最終戦を見届けに行ってたから」

「……その時の、勝者は?」

 

 恐る恐る、ヒカリちゃんは俺に聞く。予想出来ているが、否定してほしいのだろう。

 だが──。

 

「呼続スオウだった」

「ッ……!」

 

 過去、全ての輪廻で魄山の消滅が起こっていた。つまり、どのような過程を辿ろうとも必ず一回目の運命大戦の勝者は零の運命者だという事になる。まるで、そうであれと定められているかの如く。

 だから生存させようとするならば、明導アキナの脱落は大前提だ。そして最終戦を見届けに行く時にどうにかして魄山から引き離せば、おそらく救える筈だ。

 

「……二人の話が本当なら、この世界のヒカリちゃんは入院しているという話だったな。なら一度この世界のヒカリちゃんに会ってみても構わないか?」

「どう言う事?」

 

 凡その方針が決まったところでタイゾウさんがヒカリちゃんに問う。この世界のヒカリちゃんを通して明導アキナがどういう男なのかを見定めたいのだろう。

 

「最終的な判断を下す前に、先ずは自分の目と耳で、出来る限りの判断材料を集めたい。何せ君達にとっては一世一代の大勝負なのだろう?」

 

 本気で協力する為に俺自身が納得したいんだ。そのタイゾウさんの言葉を以って方針会議が終わった。

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