わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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第三章:最終話 かくして英雄譚は紡がれる

「決まったあああぁぁぁ!! ついに! ついにッ!! 世界が渇望した勇者(シグルド)の誕生だあああぁぁぁ!!!」

 

 瀬戸トマリの熱いマイクパフォーマンスに思わず苦笑してしまう。もはやデラックス優勝がオマケになりかねない勢いだ。

 だがまぁ、気持ちは分かる。散々栄光を独占し、プロツアーやリーグ戦を盛大な二位争いと揶揄され続けた原因だったのだ。

 誰もが邪竜(ファーヴニル)の討伐を望んでいた。誰もが勇者(シグルド)の登場を望んでいた。そして誰にも果たせなかった。──今日までは。

 終わる事のない歓声に、アキナはやや戸惑いながらも手を振り応える。俺はそんな様子を見ながら、舞台から降りて拍手を送る。

 

「終わった、なぁ……」

 

 肩の荷が下りた。そう思ってしまうのは、無意識に邪竜(ファーヴニル)という肩書が重いと感じていたからか。

 公式戦での初の敗北。もちろんそれで人生が終わるわけではないし、プレイングが下手になるわけでもない。しかしそれでも、もう俺は邪竜(ファーヴニル)という名を使う事は許されないだろうな。

 栄光を貪り、討伐されなかったからこそ邪悪な竜なのだ。討伐された魔性は侮られる事だろう。あいつは終わったと、人々はそう口にするだろう。

 そうだ。それでいい。俺の一人舞台はこれで終幕だ。

 

「何をのんきに黄昏てんの?」

「……エリカ」

 

 いつの間にか近くにいたエリカが俺に声をかけてくる。

 

「アキナにまた託したんだな。リィエルを」

「そんな無茶を通さないと勝てないって言われてね。結果的に大正解だったけど」

「確かに。あそこでリィエルでガードをされていなかったら、俺の勝ちだっただろうな」

 

 故にこそ、アキナの考えの正しさが証明されたわけだ。

 エリカだけでは勇者(シグルド)足りえない。アキナだけでも勇者(シグルド)足りえない。だけど二人なら。

 アキナとエリカ、両者の力を合わせてようやく勇者(シグルド)の資格に手が届いた。実に素晴らしい事だ。

 

「ケントはどうしたの? 憑き物が落ちたどころか、ファイターまで引退しそうなくらい満足そうな顔してたけど」

「随分具体的な……。当たらずとも遠からず、かな」

 

 エリカの言葉通り、ファイトに対するモチベーションはほぼ消えている。それはネガティブな意味では決してないが、満足したと言うよりも燃え尽きたという表現がより適切かも知れない。

 とは言え、ファイターを引退するつもりはない。ただ表舞台にはもう上がるつもりがなくなっただけだ。

 

「俺は、思っていた以上に邪竜(ファーヴニル)に囚われていたらしい。大切な人を救う為の、世界と運命に風穴を開ける力の象徴。目的と威名を失った今、今生ではもう表舞台に立つ気力が湧いてこないんだ」

「それは極端過ぎると思うけど」

「自分でもそう思う。だけどエリカ、これは俺の旅路に一先ずの区切りがついたと同義なんだよ。それに、今生は別の生き方を探してみるのも悪くない」

 

 エリカと共に未来を歩く為にどうするべきか。邪竜(ファーヴニル)の死に場所を探しながらもずっと考えていた事だ。

 

「エリカがプロになるなら、俺はその夢を支えたい。タイゾウさんの会社で働きながらお金を貯めて──あぁ、いっそカードショップを開業してファイターのスポンサードすると言うのも良いかもな」

 

 エリカを、アキナを、あるいは他の誰かを支える為の選択肢の一つ。咄嗟の思い付きにしては悪くないのではないだろうか。

 タイゾウさんの会社でコネを作りつつ、元邪竜(ファーヴニル)のネームバリューを利用してカードショップを開業。TCGがヴァンガードしかないこの世界でなら、意外とアリなんじゃないか?

 

「だけど今は……あー、少し助け舟を出してやるか」

「……そうしてあげて」

 

 俺とエリカの視線の先では、未だ止まない歓声に戸惑うアキナの姿があった。

 困り果てたその様子に笑みを浮かべながら、勇者(シグルド)を舞台袖まで引っ張っていく。地面が揺れるほどの大音声はまだ止まらない。瀬戸トマリもノリノリで煽っている。

 邪竜討伐の凱歌は表彰式が始まるまで続くのだった。

 

 ◆

 

「「「デラックス優勝おめでとーっ!!」」」

「えぇ……?」

 

 翌日。高校の教室は唐突なお祝いムードに包まれていた。

 アキナのデラックス優勝を現地や配信で見ていたクラスメイトは大はしゃぎでアキナに殺到する。

 

「見たぜ明導! プロにも勝ってたじゃん!」

「ヴァンガード始めて一年くらいなんでしょ? 天才じゃない!」

「あはは、ありがとう」

 

 昨日の今日でまだ慣れていないのか、ぎこちなく笑いながら対応するアキナ。偉業を成し遂げた英雄譚の宴会シーンだと思って頑張ってほしい。

 そんな事を考えていると、お祝いムードの熱気がこっちにまで飛んできた。

 

「竹松ううぅぅぅ! 始めたての明導が勝ったんだ。なら俺が次の勇者になってやるぜ!!」

「日頃からボッコボコにされている恨み! 今ここで晴らァす!!」

 

 どうやらアキナに負けた俺が弱体化していると勘違いしているようだ。次なる勇者(シグルド)ととして名を上げようと血気盛んなファイターがデッキを構える。

 ほほう。成程ねぇ。負けて侮られる事は予想していたが、まさかこんなに早いとは予想外だ。

 

「お、おい。みんな止めとけって」

 

 そんな様子を見たアキナが必死にみんなを止めようとするが、燃え上がった火を消すには至らない。

 仕方ない。あぁ、仕方あるまい。ならば思い知らせてやろう。アキナに負けた今なら勝てると、根拠なく信じられるその傲慢、きっちり踏み潰させてもらおうか。

 愛用の《ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド》のデッキを掲げて、俺は威嚇するように口角を釣り上げる。

 

「来いよバカ共。全員朝礼が始まる前にぶっ潰してやらぁ!!」

 

 フロントファイターとしての邪竜(ファーヴニル)はもう死んだ。勇者(シグルド)の手で討伐された。

 故に俺はもう表舞台に上がる事はない。そんなモチベーションも、自分でも驚くほど失ってしまった。

 けれどヴァンガードをやめるつもりは無い。カウンターファイターとして、自分なりにファイトを楽しんでいくつもりだ。

 それに将来の事もある。タイゾウさんの会社で本格的にお世話になる前に、大学を出た方が良いだろうか。──まぁ、細かい事はおいおい相談すればいいか。

 先ずは。そう、先ずは──!

 

「さぁ、討伐された邪竜(ファーヴニル)の敗者復活戦! その最初の犠牲になりたいヤツはどいつだ!?」

 

 デッキを掲げて意気揚々とファイトを仕掛けてきた命知らず(クラスメイト)を、一人残らずぶっ飛ばす!!




デラックス編はこれで最後となります。
次はアニメの幻真星戦編が終わってからの更新になると思いますので、しばらく休止とさせてください。
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