単発更新です。
清蔵グループ金澤支社所属広報担当、竹松ケント。俺の名前にずいぶんとまぁサラリーマンみたいな肩書きが付いたもんだ。
旅路の中で色々な職種を経験したが、清蔵グループに属するのは今生が初めてだ。もっとも、経験した職については大切な人が亡くなったショックであまり身についていないものも多いのだが。
アキナとヒカリちゃんが失踪した後は腑抜けた人生を送ったものだ。
運命大戦に参加するようになってからは、ヒカリちゃんを殺したという罪悪感でやはりまともな人生を送ってはいない。
「業務報告も提出したし、今日は早めに……うん?」
帰り道、ふと祭囃子が聞こえてくる。そうか。もうそんな時期なのか。
懐かしいな。今までの旅路ではアキナが失踪して、ヒカリちゃんのアキナ捜索を手伝いつつ、運命大戦に向けて腕を磨いていた頃だ。当然祭りだなんだと浮かれている余裕など微塵もない。
しかし今生では二人は助かり、そして明星エリカという大切な恋人ができた。つまりは、少し浮かれる余裕ができたという事だ。
「このまま帰ってもデッキ調整しかやる事ないしな。久々に寄ってみるか」
ズラリと並ぶ屋台と賑わう人々。祭り特有のこの雰囲気が、日常の中の非日常を感じさせてくれる。あぁ、いいな。ようやく俺は一息つけるようになれたんだな。
「屋台のメシはこの雰囲気で食べてこそ、だな」
買ったたこ焼きを頬張りながら、次は何を食べようかと周囲を見回す。
すると、随分と気合の入った女性の声が聞こえて来た。水ヨーヨー釣りの屋台からだ。
本気で楽しんでいる人もいるもんだなと見物に行くと、顔見知りであった。
「ま、こんなもんよ」
「ッチィ!」
水ヨーヨー片手に勝ち誇るヒカリちゃんと、それを睨みつけるエリカ。そして困惑するアキナ。
あ、ヒカリちゃんが煽ってエリカがブチ切れた。何やってんだか。
……ヒカリちゃんとエリカ、違う未来を歩んだ同一人物と言うややこしい関係のせいか基本的に仲が悪いんだよな。息が合う事も多いが。
大方、アキナがダブルブッキングでもやらかしたんだろうが……もしかしてアキナの取り合いか?
「次は向こうの射的で勝負よ!」
「へっへーん。この調子で連勝しちゃうよ」
エリカとヒカリちゃんは周りの様子などお構いなしに我が道を突き進む。姉妹みたいだ。同一人物だけど。
アキナは諦めたような顔をして二人に付いて行こうとする。
「おいアキナ、こりゃ何事だ?」
「ケント! お前も来てたのか」
「タイゾウさんの会社の仕事帰りに寄っただけだよ。そっちはどうした?」
俺の疑問にアキナが答える。ヒカリちゃんに祭りへ誘われ、せっかくだからとエリカも誘ったのだと言う。そこまでは良かったが、うっかり二人にエリカやヒカリちゃんが来る事を伝え忘れていた、と。
「なんつーか、大変だな
「揶揄うなっての!」
「冗談はこれくらいにして。しょうがねえ、エリカには悪いが俺で勘弁してもらおうか」
「何で自己評価がそんなに低いんだよ」
しょうがねえだろ。アキナと喧嘩して多少はマシになったが、ヒカリちゃんの生きる理由になれなかった事実が俺の中で消化し切れていないんだよ。
アキナと一緒に射的屋に行くと、先に準備していた二人が固まる。
「「ケント(さん)!?」」
「こんばんは、お二人さん。事情はアキナから聞いたよ。お兄ちゃんの取り合いなんだって?」
一先ずアキナの話題を上げて反応を窺う。その様子にアキナは呆れたようなため息をついていたが、無視だ無視。
「丁度いいわ。ケント、選んで」
「え? あー、何? 射的の的の話か? ……二段目の人形で」
もはや勝負の事しか頭に無いのか、咄嗟に目についた的を指差すと同時にエリカとヒカリちゃんがコルク銃を構えた。
「……ケント、お前」
「いや、あれはもうそう言う流れだったし」
人形の落とし合いというデッドヒートを繰り広げる二人を見ながら、俺はアキナに言い訳を重ねていた。
いや違うんだよ。一回反応を見てからデートに誘う口実をだな──。
やっぱりこう、エリカの意志っていうかさ。そういうのをないがしろにしちゃ駄目だと思ってだな──。
エリカの誕生日の時はこう、誕生日っていう大義名分があったから誘っても違和感が無かったっつーか──。
「よし! 私の勝ちィ!」
「ぐ、ぐぬぬぅ……!」
俺が言い訳を重ねている内に二人の勝負が決着したらしい。反応から察するに、今度はエリカが勝ったようだ。
そして今度は負けたヒカリちゃんが再戦を要求している。
二人共、諦めが悪いからな。こりゃ長引きそうだ。
「丁度良く引き分けたんだし、もうその辺にしておけって」
「でもお兄ちゃん──!」
アキナが説得を試みるが、ヒカリちゃんが抗議の声を上げる。
「エリカ。今日は俺と回らないか? ダブルブッキングをかましたアキナには後日埋め合わせをしてもらう方向でさ」
「……はぁ、分かったわよ。ちょっと大人げなかったかもだし」
俺の顔に免じて、というわけでもないだろうが何とかヒカリちゃんと引き剝がす事に成功した。
多分放っておいたらアキナ争奪戦百本勝負とかに発展してただろうな。肝心のブレーキ役は景品状態で二人をまともに制御出来てなかったし。
「ひとまずクールダウンを兼ねて最初は別々で回って、少ししてからアキナ達と合流する感じでいこうか」
「そうだな。それじゃあ三十分後くらいにここに集合で」
「あいよ」
俺とアキナで段取りを速攻でまとめて、心変わりしない内にエリカを連れてアキナ達とは反対方向へ。
イカ焼きやベビーカステラで小腹を満たしつつ、お互いに何を話すでもなく祭りを楽しむ。
「ケント。今、楽しい?」
ふと、エリカが足を止める。
「あぁ、楽しいよ。……心配しなくても、もう無茶はしないさ」
無茶はしない。出来ない。自分から厄介事に首を突っ込む気も無い。エリカを置いて行くつもりなど毛頭ない。
けれどエリカの表情は晴れない。何だ? 何をそんなに悩んでいる?
「私は、この世界で生きててすごく楽しい。まるで夢みたいで」
「エリカが掴み取った結果だろ。これからも楽しんで生きていけるなら、それに越したことはない」
「……うん」
再び沈黙。楽し気な周囲に反して、どこかぎこちない気配。エリカが他に気にしそうな事と言えば──。
「あぁ、なるほど。つまりは心配しているわけか。
旅路の再開。それがエリカが気にしている事なのだろう。いや、旅路の事よりも別の事を考えているようだが。
「私はケントを独りにしたくない、と思ってる」
今生が終われば、俺はまた旅に出る。隣には誰もいない。星明りを頼りに進む輪廻の旅へ。
アキナを。ヒカリちゃんを。俺の大切な人達を救う為の旅だ。
「そればかりはどうにもならないさ。俺だって何でこうなっているかも分からないんだ」
嘘だ。理由なら見当がついている。俺が
竹松ケントではない、最初の人生の記憶が摩耗しながらも朧気に残っている。これが、この世界で輪廻し続ける鍵なのではないか。
この記憶が全て消えてしまえば、もしかしたら本当に終わるのかも知れない。もっとも、確かめる術はないけれど。
「それに、だ。旅を続けていればもう一度この世界の過去に生まれ変われるかも知れない。今生で二度目。なら三度目だってあるだろう」
だからその時は、もう一度初めましてから始めよう。
「何度生まれ変わっても、必ずもう一度君を見つけ出すよ」
何度でも。何度でも。何度でも。アキナの言葉と君への恋心を道標にして、永遠と歩き続ける。
アキナとヒカリちゃんを救い、そしてエリカとまた出会うまで。
「だから、俺はもう独りじゃない。旅の目的が増えたんだ。こんなに嬉しい事はない」
だから、どうか笑ってくれないか。必ず、君とまた出会うから。
その暁にはまた一緒の人生を歩んでくれると嬉しい。
俺の言葉にエリカは顔を赤くさせながらも、どこか吹っ切れたかのような笑顔で頷いた。
「うん。もう一度、絶対に会おう。約束だから」
「あぁ、約束だ」
祭囃子の夜に、俺達は約束する。
大丈夫だ。いつかまた会える。何も恐れる事は無い。
この約束を新たな星明りとして、俺は旅を続けるよ。
──俺は、明星エリカを愛している。
今生が終わったとしても、この真実は変わらない。