わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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第四章:2 現実との差異

 ヒカリちゃんは思いのほか簡単に見つかった。どうやら同じ高校の一年生として過ごしているらしい。一度遠目で確認したが、とても元気でよく笑う。咳き込む様子もないので病気は完治したようだ。もしくはそもそも罹っていないのか。

 

「……良かった。本当に」

 

 アキナとヒカリちゃん、そしてその友人たち。その中に俺はいないが、それで二人が幸せならそれでいい。

 二人が元気に未来へ進んでいく様子を、俺は遠くから見守るだけでもいい。

 ──それに、今の俺には二人の隣など似合わない。

 

「よぉ竹松。ちょいと面ぁ貸せや」

「まさか断らねえよな? た・け・ま・つ・ちゃん」

「……」

 

 まぁ、つまりはこういう事だ。ここでの俺の高校生活は相当荒んでいるらしい。

 暴行、恐喝の餌食となって泣き寝入り。おかげで生傷が絶えない毎日。下手すりゃ自殺もんだ。ベッタベタ過ぎて涙がちょちょ切れてくるぜ。まったくもって下らねえ。

 昼休みに学校の屋上で、メシついでに暇を潰していただけだってのに、どうしてこうもゴキブリみたいに湧いてくるのかこの不良(ゴミ)共はよお。

 

「おい、聞いてんの──」

「お前達、何をやっているんだ!」

 

 相手をするのも面倒になってきた時、不良に対して咎めるような声が聞こえてきた。

 この世界の呼続スオウ。生徒会長としてみんなから慕われる、熱い想いを胸に抱く優等生。俺が元いた世界とは何もかもが違う。

 その隣にはアキナと、藍川クオンが心配そうにこちらを見ている。どうやら三人で昼メシを食べに来たらしい。

 

「おい行くぞ。会長に目ぇ付けられたらマズイだろ」

「ッチ、命拾いしたな」

 

 口々に吐き捨てながら不良共が退散する。どうやら会長の前で暴力沙汰を起こさない程度の理性は残っていたようだ。おもちゃで遊び過ぎて内申に響くのはアホらしい、程度の理性だろうが。

 

「大丈夫か?」

「あぁ、問題ない」

 

 不良が見えなくなり、アキナが心配そうに声をかけてくる。お人好しなのは本当に変わらないな。今の俺は友達ですら無いと言うのに。

 

「助かったよ会長。けどいいのか? あいつら結構しつこいぞ」

「問題ない! それに生徒が困っている時に手を差し伸べるのも生徒会長の仕事みたいなものだ」

 

 俺の記憶とは大きくかけ離れた呼続スオウ。明るく、積極的に人と関わり、時にはお節介を焼く。アキナが二人に増えたような錯覚さえ感じる。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ行くよ。メシも食い終わってるしな」

「あの、ちょっと」

 

 立ち上がって屋上から出ようとした時、アキナが俺に声をかける。何用かと顔を向けると意を決したようにアキナは言う。

 

「俺、明導アキナって言うんだ。別のクラスだけど良かったら友達にならないか?」

「……あー、なるほどねぇ」

 

 俺としては願ってもない事だが、とは言え不良に何故か異様に絡まれる以上はアキナに危害が加えられる可能性もゼロではない。出来れば距離を置きたいが、さてどうしようか。

 

「竹松ケントだ。それなら今度、メシでも誘ってくれ」

 

 一先ず保留。この世界の事もまだよく分かっていないし、アキナと関わるのは一旦後回しだ。

 屋上を出て教室に戻る最中、昨日確認した現実との差異について考える。

 店の名前や外観が多少変わっているものは沢山あったが、特に差異が大きいのはアレだろう。謎の建造物であるミラージュタワー。

 つーか何だあれ。バカの建物だろ。建築基準法とか大丈夫かよ。あれが地元の名物とかマジで終わってるじゃねえかよ。

 

「いつ、どこで、どういう計画で建てられたのか。その手の情報が一切無い。……設定されてないって事なのか? だとしたら、おいおい。この世界を創った創造神サマは随分と雑な性格してんじゃねえのか?」

 

 人が寄り付かない病院といい、何でこう不自然な場所が生まれてるんだ? 現実を流用にしたにしてはおざなりが過ぎる。

 ……なら、流用ではなく参照か? 現実をそっくりそのままコピペしたんじゃなく、現実を参考にして一から組み上げたのか?

 

「それにしたって中途半端じゃねえか? もう一つの現実を創れるくらいの力があればそれこそ世界の情報なんざ……」

 

 情報なんざいくらでも……。いや、違うのか? 俺は何かを勘違いしているのか?

 

「そもそもスケールが、もっと小さいのか?」

 

 それこそ、この街を知っている人間の妄想をそのまま現実へ持ってきたと言われた方がまだ納得できる。

 細々とした部分が不透明なのもそうだが、昨日タクシーに乗って隣國へ出ようとした瞬間に加賀國に戻されたのだ。けれどタクシーのドライバーは何も不思議に思っていなかった。

 ありえない。未完成が過ぎる。ゲームのフィールドマップじゃねえんだぞ。こんな状態じゃ加賀の物流網など機能していないだろう。

 しかし現状は食料や生活必需品などが手に入らないなんてトラブルにはなっていない。

 

「誰かの夢、妄想の世界。だから世界が創り込まれていない。そして創造神サマはディテールに拘らないタイプ、と。……はぁ、いつから現実はマンガやゲームに成り果てたんだか。まさかこれがアキナやヒカリちゃんの失踪事件の真相じゃねえだろうな?」

 

 神隠し。現実から攫われてこの未完成な世界に閉じ込められた。

 アキナの失踪、抉られた魄山、そこから三年後のヒカリちゃんの失踪。失踪タイミングが二回あったが、どちらもここへ連れてこられたと考えるのはちょいと前向き過ぎる推理だろう。

 この世界ではアキナは普通に高校三年になっているし、ヒカリちゃんは相変わらず二つ下の妹のまま。俺に至ってはそろそろ六十が見え始めたジジイだったと言うのに、高校生へ逆戻りだ。

 時間軸どうなってんだ。何かもう色々ぐちゃぐちゃだ。この世界へ来た時点で肉体が創り直されると言っても、じゃあ何で俺は現実の事を覚えているのにアキナは俺の事を知らないのかという問題も出てくる。

 考えれば考える程疑問や不具合がわんさか湧いてくる。二人の失踪とは無関係と考えて良さそうだな。

 

「だが、この世界は無関係であっても理不尽な出来事に巻き込まれた可能性が高まったな。俺がこんな事になっている以上、アキナとヒカリちゃんもこれに似た何かに連れて行かれててもおかしくはない」

 

 この世界は出来損ないだ。けれどアキナとヒカリちゃんが元気に暮らせているというのは個人的に好印象ではある。

 もしこのまま、あの二人がここで幸せに暮らせていけると言うのならば。たとえ俺の知る二人でないとしても、このおままごとに付き合うのもいいだろう。

 もう二度と二人を失わないですむのなら、多少の不都合には目を瞑ってもいい。本来ある筈の無かった二度目の人生、夢に溺れて死んでいくのも悪くはない。

 どうせ現実の俺も、死人と大差が無いのだから。

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