わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

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物語の流れで、一部のカードが実物と差異がある部分がありますがご了承ください。


第四章:3 黄昏同盟

 この世界の俺は荒れていた。いじめられ、居場所がなく、肩身の狭い思いで呼吸をする。

 やたらと不良にエンカウントするのも特徴だろう。一昔前のヤンキーマンガの如く、喧嘩を売られて怪我をして、血を流してはいつか絶対に復讐してやると泣き叫ぶ。

 なるほど、現実と比べれれば随分と刺激的な毎日を送っていたようだ。

 ではこの世界の竹松ケントに居場所は無いのか。偽りの記憶を辿る限り、どうもそうではないらしい。不定期だがとある場所に顔を出しているようだ。

 

「真夜中の廃墟の遊園地ねぇ。ワンダヒルだったか。そこを占拠して大丈夫なのかね?」

 

 まぁ俺が気にする事では無いのかも知れないが。

 チーム・トワイライト。黄昏の名を冠するそこはこの世界の俺のような、どうしようもなく勝ちたいと願う者が集う場所。

 ヴァンガードというカードゲームを通して、自分の強さを世界へ証明する為のチーム。

 勝ちたい。勝ちたい。負けっぱなしは絶対にいやだ。俺という存在を世界へ知らしめてやる。この世界の俺にはそんな思いがあったのだろう。

 

「ヴァンガードなんて久しぶりだな。……けど、何で使うデッキの記憶が無いんだ?」

 

 ヴァンガードのルールは覚えている。そしてデッキケース、スリーブ、プレイマット、その他持っているサプライやその収納場所まで偽りの記憶に残っている。

 しかしデッキ構成や戦い方の情報がまるっと抜けている。

 さすがにおかしい。家にあるデッキケースを開けると、そこには俺が見た事が無いカードで組まれたデッキがあった。

 

「《ドラゴニック・オーバーロード》……?」

 

 ドラゴンエンパイアのユニットだが、やはり記憶にないカードだった。そして極めつけに俺の知らないギミックが搭載されていた。

 幻影(ファントム)アイコンと言うものだ。トリガーを含めた俺のデッキのほぼすべてのカードに印字されている特殊なアイコン。

 カードのテキストを見ていくと、この幻影(ファントム)アイコンを持つカードに対して効果を発揮するものが多かった。

 幻影(ファントム)アイコンのカードをデッキから拾ったり、このアイコンをヴァンガードが持っていたら追加効果があったり。

 

「デザイナーズデッキとしてまとめやすくする為の外付け要素ってわけか」

 

 今のヴァンガードってこういうものもあるんだな。しばらく遊んでいない上に情報も追ってなかったから浦島太郎状態だ。開発元のスポイラーとかも確認しておいた方がいいかも知れない。

 

「おっと、そろそろ時間だな」

 

 この街は粗方探索し終わったので、今夜はこの世界の俺が所属するチーム・トワイライトに顔を出すつもりだ。

 トワイライトを率いるのは狐芝ライカ。偽りの記憶を確認すると、この世界の俺をチームに誘ってくれた恩人。リーダーと呼んで慕っているようだ。

 

「久々のヴァンガード、ちょっと楽しみだな」

 

 カードゲームは面白い。前世でも色々と手を出していたのだ。遊戯王、デュエマ、ポケカにマジック、その他色々。

 それらは全て竹松ケントとして生きる現実やこの世界では存在しないTCGだ。

 本当に懐かしい。アリーナとかマスターデュエルとかデュエプレとか、デジタル方面も触ってたけどやっぱり紙が一番しっくりくる。

 

「よし、行くか」

 

 デッキとサプライを鞄に詰めて家を出る。スマホでワンダヒルへの道を調べ、記憶を照らし合わせながら夜の街へと繰り出した。

 

 ◆

 

「ケント、お前何かあったか?」

 

 偽りの記憶通りにチームメンバーとヴァンガードをやっていると、リーダーから問いを投げられた。

 

「今日のお前はいつもと違ってカードの触り方に違和感がある。ファローの手付きも若干もたついていたし、まるで今までのケントの記憶を持った別人になったみたいだ」

 

 ヤバい程に鋭い指摘が入った。つかこの人、メンバーのカードを触る癖だの手付きだのを全部把握してるのか?

 

「で、何があった? それとも……本当にお前は竹松ケントか?」

「あー、はいはい。降参。降参ですよリーダー。……ちょいとお時間頂けますか?」

「今度はもう口調から違うじゃねえかよ。分かった。解散前に時間を取ってやる。逃げるなよ」

 

 今日の予定はあくまでもデッキ回し。最初はデッキを変えたと言う理由でテキストを見ながらやっていたから時間がかかっていたが、二時間も回せば大体のテキストも覚える事が出来た。

 さすがはデザイナーズデッキ。幻影(ファントム)アイコンのギミックで結構安定感もあるし、中々強いんじゃないだろうか。

 一回リーダーとも対戦して、さすがに勝てなかったが手応えは感じた。いいねぇ、しばらくはこのデッキで遊べそうだ。

 

「それじゃあ聞かせてもらおうか。まず、お前は竹松ケントでいいのか?」

 

 既に深夜の二時を回った頃。他のメンバーは帰宅して、残っているのは俺とリーダーの二人だけ。

 

「もちろん、俺は変わらず竹松ケントですよ。ただ何と言えばいいか……リーダーは、この世界が夢の世界だと言われて信じますか?」

「──なるほど、そう言う事か。つまりお前()ここが幻だと自覚したわけだ」

 

 俺の言葉に対するリーダーの反応は、明らかに何かを知っているようだった。

 

「お前()、と言う事は……リーダーも?」

「そうだ。俺は現実の自分を夢に見た。プロのヴァンガードファイターになって、栄光を手にした人生の夢を。……いっそ笑えてくるじゃねえか。じゃあ俺の人生は何なんだよってな」

「自分よりも成功した現実ですか。今の人格を残したまま現実に戻れるなら、いっそ夢から醒めてほしいと思いますけど」

「幻世界が消えてしまえばこの俺の人格も消える。全部無かった事になるんだ」

 

 それは、リーダーにとっては許容出来る事では無かった。

 

「だからこそ認めない。認められない。現実しか価値が無いなどと、認めてたまるか! 俺は現実を生きる狐芝ライカの失敗作なんかじゃ断じてねえんだ!!」

 

 それはこの世界を生きたリーダーの、渾身の叫びだった。

 

「俺達のような、この世界が幻だと自覚したファイター達がいる。幻世界を守る幻影(ファントム)ファイターと、幻世界を壊して現実世界を取り戻す幻真獣ファイター。この世界は言わば、二陣営による戦争(ゲーム)の盤上だ。勝った方が全てを手に入れ、負けた方は全てを失う。……長々と悪かったな、続けてくれ」

 

 粗方語り終えたリーダーは俺に話を促してくる。次はお前の(ターン)だと言うように。

 

「俺には現実を生きた記憶があります。現実の俺は大切な人を失って、もうすぐ還暦って頃まで無気力に生きて、気が付けばこの幻世界とやらに立っていました」

「大切な人か。その人はこの世界に生きているのか?」

「はい。親友と初恋の人。もう二度と会えないと思った人が、この世界に生きているんです」

「つまりお前は幻影(ファントム)ファイター側の人間というわけか。よし、ケント! なら俺と手を組もうじゃねえか」

 

 そう言ってリーダーは俺に手を差し伸べる。

 

「お前の《ドラゴニック・オーバーロード》が幻真獣ファイターを倒せる力があるかは分からねえ。勝ち負けの話じゃない。ファイトに勝って幻真獣の力を消せるかどうか。……だがそれは些細な事だ」

 

 リーダーは俺の目をじっと見つめる。いつにも増して真剣な表情で語る。

 

「これから俺達は盟友だ。幻真獣ファイターをぶっ倒す。俺は強さの証明の為に。そしてお前は大切な人が生きる世界を守る為に、だ」

「──分かりました。俺も全力で戦います」

「真面目な奴め。お互いタメ口でいこうぜ、ケント」

「あ、あぁ。分かったよライカ」

 

 ライカの手を取り、握手を交わす。

 アキナ、そしてヒカリちゃん。二人が幸せに生きるこの世界を、俺は全力で守るんだ。

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