わずかなヒカリへ手を伸ばせ   作:水金地火木土天海冥

5 / 46
第一章:2 救済の模索

「タイゾウさん、ちょっと確認したいんですけど」

 

 屋上での会議が終わった後、ヒカリちゃんがどこかへ行く前に俺はタイゾウさんへ声をかける。

 確認したい事があったのだ。俺の事をタイゾウさんは本気で買ってくれるのか。

 俺は第二回デラックスの時に貰った広報担当の名札を見せる。

 

「この席、座ってもいいですか?」

「──へぇ、そうか。そうくるか」

 

 俺達二人が急に始めたやり取りにヒカリちゃんはただ困惑した表情で見ていた。

 

「いいぜ。社長の言葉に二言はないさ。近くの寮に君の部屋を用意しているが、どうする?」

「今決めたところですから、入居の準備が整うまで部屋を管理してくれる人が要りますね」

 

 まるで悪戯を企む悪童のようなテンションで話を進めていると、ヒカリちゃんも察したのか急いで声を上げる。

 

「ちょ、ちょっと! 私は」

「なぁに遠慮する事はないぞ。誰も居ない部屋の管理は案外大変でね。一つでも減ってくれると会社としても大助かりなんだ!」

「ヒカリちゃん。このままだと俺は入居するまでの間、タイゾウさんに維持管理費用を支払う必要があるんだ。ファイトマネーがあるとは言え、出来れば出費を抑えたい。どうか俺を助けてくれないかな?」

 

 ヒカリちゃんの言葉を遮るように、タイゾウさんと俺で更に言葉を重ねる。これは正当な取引であると説き、最終的にはヒカリちゃんの活動拠点として会社の寮を使ってもらう事となった。

 

 ◆

 

 未来のヒカリちゃん。アキナが死んだ世界から、明導アキナを救う為に時を超えてきた。

 

『過去へと跳躍し己の願いを果たしたならば、最悪の場合は時間の矯正力により存在が抹消されるだろう』

 

 かつての輪廻の中でガブエリウスから聞いた言葉。おそらくは未来のヒカリちゃんもこの事は分かっている筈だ。それでも彼女はアキナを救う事を選択した。……あの兄妹は本当によく似ている。

 

 ──ずっと考えていた。もし未来のヒカリちゃんが目的を果たした後……明導アキナと明導ヒカリが生きる世界で未来のヒカリちゃんも生きていけるのならば、絶望して自殺する事も無いのではないか。

 

 ──ずっと考えていた。蓄積された運命力(デザインフォース)で、どれほどの事が出来るか。

 ガブエリウスはこれを世界すら変革出来る力だと言うが、それほどの力であれば、運命者カードを使わずともあらゆる願いを叶えられないものか。

 

「そこまで万能なものではない。運命者カードはあくまでも運命力(デザインフォース)に指向性を与えるものだ。無秩序で膨大な力を我々の手でも扱えるようにしているのだよ」

 

 そして三千二百十一載六百一正五回目の人生で出会ったガブエリウスから面白い情報を聞いた。

 

「そもそも運命力(デザインフォース)とは特別なものではない。生きとし生ける者全てに存在する力なのだ」

「俺自身にもある力なのか……それにしては……」

 

 そのような力は感じられない。そう言うとガブエリウスは当然だと頷いた。

 

「一つの命に宿る運命力(デザインフォース)は微々たるものだ。だが、この運命力(デザインフォース)こそが生命の存在証明を定義していると言っても過言ではない」

 

 今にして思えば、ガブエリウスの言葉が腑に落ちたこの瞬間こそが輪廻の行く末を暗示していたのかも知れない。

 

 ──ずっと考えていた。八千六百九十二極回目の人生が始まったあたりから、実現に向けて練っているプランがある。

 蓄積された運命力(デザインフォース)で過去へ逆行するヒカリちゃんの存在証明を確立させれば、時間の矯正力をやり過ごせるのでは無いだろうか、と。

 しかしガブエリウスはこれに対して否を突き付けた。

 

「存在証明とは、生命が有している砂粒のような量の運命力(デザインフォース)を以って世界が判断するものだ。莫大な運命力(デザインフォース)を注いでしまえば、人間である事の定義すら崩れかねない。死ぬどころではない。消滅だ。一度世界が明導ヒカリは人間ではないと判断してしまえば、君がこれから旅をする並行世界の明導ヒカリも連鎖的に存在が抹消されるだろう」

 

 そしてガブエリウスは付け加えるように言った。

 

「もしその方法を取ると言うのならば、過去へ逆行してきた明導ヒカリと三年前に出会い、時間の矯正力に攫われる瞬間でなければならない。矯正力に抗う為に莫大な運命力(デザインフォース)を注ぎ続け、同時に明導ヒカリの存在証明を確立出来たならば──或いは救えるかも知れない。机上の空論でしか無いがな」

「俺の《奇跡の運命者 レザエル》に宿った運命力(デザインフォース)の量でも足りないのか?」

 

 俺の言葉にガブエリウスは首を横に振る。まるで話にならないとでも言うかのように。

 

「三秒持てば奇跡だな。お前は時間の矯正力を舐め過ぎだ。この方法を実現したいのであれば、矯正力すらもはね除ける力が必要不可欠だ。愛する人を救いたいと願うなら、これからの旅で鍵を探せ!」

 

 そして、数多の並行世界を旅して俺はついにこの世界で未来のヒカリちゃんと出会った。

 わずかな光に手を伸ばした末に奇跡が舞い降りたのだ。

 

 ──だけど、鍵は未だに見つかっていない。だから俺はガブエリウスに会いに行く。彼に確認したい事がある。

 しかし二回目の運命大戦と違って、三年前のこの時点ではろくに相手をされない事が多い。というか、今までの輪廻でも塩対応以外の反応を見た事が無かった。

 いくら奇跡の運命者カードを持っていようと、現時点での奇跡の所有者は明導アキナだ。部外者である俺に話す事は無いという事なのだろう。

 今まではそれでも良かった。二回目の運命大戦に選ばれた後は、ひたすらガブエリウスと話し合い、新たに得た情報があればそれを次の輪廻に持って行き、更に話を広げていくのが常套手段となっていた。

 だが今生はそうも言っていられない。未来のヒカリちゃんを時の矯正力から守る為の鍵が足りていない。二回目の運命大戦など待っていられるか。

 そこで俺は、今回のガブエリウスには竹松ケントとしてではなく謎の暗躍する人物として接触し、運命大戦に支障をきたさない為に相手にせざるを得ないという状況を作る事にした。

 黒いスーツとコートを着てシルクハットを被り、誕生日にネタとして贈られたピエロの仮面で顔を隠す。後は声と口調を変えておけば、少なくとも竹松ケントと同一視される事は無いだろう。

 

 ──邪竜(ファーヴニル)として活動していた時、俺は海外の有名な大会をひたすらに荒らしていた。過去の輪廻では活動中の九年間公式戦完全無敗という上振れを引いた事もあったが、今回はそこまで暴れてはいない。

 だがそれは過去の輪廻と比較しての話だ。この人生の人々からすれば、各国主要大会完全制覇というのは前人未到の偉業である事に違いはない。悪名は今生でも轟き、未だに勢いは衰えない。

 だからこそ俺は変装用の服もたくさん用意している。血の気の多いファイターに絡まれる事など、海外だと日常茶飯事だったからだ。

 

「さて、行くか」

 

 運命大戦が開幕し、今はその第二戦目だ。標の運命者のタイゾウさんと万化の運命者である西塔ミコトのファイトが今、魄山の大舞台で行われている筈だ。

 今から魄山に行っても観戦には間に合わないだろうが、それでいい。タイゾウさんが負けるとは思えないし、運命大戦が終わった頃合いであれば、ガブエリウスもそう遠くまでは移動するまい。問題はは運命大戦の参加者と出会った場合だが、この変装であれば身バレはしないだろう。約一名を除いて。

 

「……あんたは、何者だ?」

 

 俺の予想は当たったが、同時に計算違いも発生した。

 運命大戦が終わった後の魄山の大舞台で、警戒心に満ちたアキナの声を聞き、頭を抱えそうになる手を必死に抑え、どうするべきを考える為に考えを巡らせる。

 運命大戦が終わった後、ガブエリウスは大舞台から移動していなかったのは予想通り。だが他の参加者もまだ帰っていなかった事は予想外だった。芝居がかった動作でゆるりと周りを見回すついでにタイゾウさんと目を合わせる。

 

「──くっ……ふっ……!」

 

 口を押さえ声を押し殺しているが、あれは確実に笑っている。バレているのだ。当然だろう。このピエロの仮面の贈り主こそがタイゾウさんなのだから。

 

「私は星明りに導かれて歩く者。そして破滅の未来を変える者だ。──奇跡の運命者よ。君は己が破滅の道を進むとしても、願いに手を伸ばすかね?」

「……あんたも、似たような事を言うんだな」

 

 ヒカリちゃんもアキナに接触済みか。死にたくなければ辞退しろ、とでも言ったのだろうな。

 ……それで諦める男なら、俺は那由他の果てまで歩いてなどなかったよ。

 

「けど、俺は願いの為に戦い続ける! 絶対に!」

「ククク、そうだろうな。 明導アキナと言う人間は誰かに手を伸ばす事を諦めない。分かってはいたが説得は無理のようだ」

 

 そして一旦アキナから視線を外し、不信感を拭いきれていないガブエリウスへ言い放つ。

 

「荘厳なる聖竜ガブエリウスよ、聞きたい事がある。因縁の鎖を断つ誓いは、まだ貴様の胸に灯っているか?」

「──ッ!!?」

 

 明らかな動揺が見て取れる。何故知っているのだと表情が物語る。

 

「……皆、すまないが彼と話をさせてほしい」

 

 ガブエリウスの言葉でこの場は一先ず解散となった。他の参加者はまだ警戒している。タイゾウさんは不自然にならない程度に俺の横を通り過ぎる。

 

「後で理由、聞かせろよ?」

 

 俺は小さく頷いて、返事とした。

 

「──さて。運命者カードの所有者は皆帰った。……お前は、何だ?」

「誰だ、ではなく何だ、ときたか。流石は聖竜。この運命力(デザインフォース)を感じ取ったか」

 

 デッキケースから俺の所有する《奇跡の運命者 レザエル》を見せながら、輪廻の旅路を語った。数多の運命大戦に参加したが、破滅の未来が変わらなかった事を。そして、大切な人を救う為に俺は最後の鍵を探している事を。

 最後まで聞いたガブエリウスは深いため息を吐いていた。

 

「それで? 私に接触したのは自らの出自を明かす為か?」

「……邪竜シヴィルトの情報がほしい。シヴィルトの力は世界の、時間の矯正力に抗えるか?」

 

 ガブエリウスの答えは肯定だった。




すみません、次の話はもう少し時間がかかるかも知れません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。