「ははははははははっ!!
運命大戦の第三回戦、その決戦前夜に集まって最後の情報交換を行っていた。一通り話した後で、話題は俺の変装に事になったわけだが……。
「いくら何でも笑い過ぎでしょ……」
「そうは言ってもヒカリちゃん。あいつ、こんな姿で現れたんだぜ」
「そんなに変な……んふ──っ!?」
笑う程の事かとヒカリちゃんが注意してくれたが、タイゾウさんのスマホ画面を見て小さく噴き出す。
最悪だこの人。しれっと俺の変装姿をスマホで撮ってたらしい。と言うかそんなに変か? ……本当に、そんなに変だったのか? マジで?
「ひどい。最初に見たヒカリちゃんの姿を参考にしたのに……」
「はぁ!? こんな怪人と一緒にしないで!!」
「あーははははははッ!! 怪人……くくくっ、た、確かに怪人……はははははは!」
一通り笑い済んだところで、タイゾウさんは目に浮かんだ涙を拭いながら切り出した。
「あー笑った笑った。さてケント君。君が怪人になってまでやりたかった事は何かな?」
「すげー擦りますね、タイゾウさん。……俺がガブエリウスに会ったのは、少し確認したい事があったからですよ」
「それで、その詳細はまだ秘密と言うわけか。ケント君、君はヒカリちゃん以上にワケありだねぇ」
タイゾウさんの言う通りなので俺は何も言えない。シヴィルトの話はガブエリウスが秘匿しているから、俺が話すわけにはいかない。
最悪の場合はガブエリウスが俺の敵に回る可能性もあるのだ。申し訳なく思うが、ここはタイゾウさんの好意に甘えさせて貰おう。
「言える事があるとすれば、俺の願いはアキナとヒカリちゃんを助ける事です。その為に俺は動いています」
「あぁ、すまない。疑っているわけじゃないんだ。俺もこの世界のヒカリちゃんやアキナ君と話して分かったよ。二人が必死になる理由もな」
アキナはいつも誰かを救う事に必死だから、俺やヒカリちゃんもアキナに手を伸ばしたくなる。ましてやヒカリちゃんにとっては大事な家族なんだ。救いたいという気持ちは俺以上だろう。
そして明日はいよいよタイゾウさんとアキナのファイトだ。ここでタイゾウさんに負けるようなら、零の運命者には──呼続スオウには決して届かない。アキナの願いは叶わない。
アキナ。この世界のお前は奇跡を起こせるか? 那由他の果てまで起こらなかった奇跡を。
◆
運命大戦の第三回戦──奇跡の運命者と標の運命者の対決は奇跡の運命者に軍配が上がった。
明導アキナはプロファイターであるタイゾウさんに勝利する為、
タイゾウさんは一線級で活躍するフロントファイターだ。彼のファイト中の思考はトーナメントシーンのメタゲームを前提に組み上げられる。アキナはその思考の間隙を上手く突いたわけだ。親友の成長を感じる良いファイトだった。
「今夜の禁忌と零のファイトだけど……禁忌の運命者が勝ち上がってきたところを、俺は見た事が無い」
魄山の大舞台へ向けて仮面を被ったヒカリちゃんと共に歩みを進める。
念の為に俺も変装をしている。スーツ、コート、シルクハット、そしてピエロの仮面。タイゾウさんに笑われたこの変装だが、これが一番特定されにくい俺はと考えている。
……周りに人が居ないのが幸いだろう。もし誰かに目撃されてしまえば、通報されるのは目に見えている。
「もし呼続スオウが勝ち上がったら、私はお兄ちゃんに正体を明かす」
ヒカリちゃんは覚悟を決めたのだろう。最早猶予は残されていない。ヒカリちゃんも。そして俺も。
時間の矯正力からヒカリちゃんを守る方法は未だに机上の空論以上になってくれない。未来のヒカリちゃんの存在証明を確立するまでの時間を稼ぐ為の鍵が手に入らない。
邪竜シヴィルトの力は矯正力をはね除けられる事は運命大戦の第二回戦終了後に会ったガブエリウスに確認済みだ。だから一応、鍵の目星はついたと言える。
問題は地球に既に到来している筈のシヴィルトがどこにも居ないという事と、仮に見つけたとしてもヒカリちゃんの存在証明の時間稼ぎという用途でシヴィルトの力を扱いきれるのか分からない事だ。
「何が何でも止めようと言うなら、そこしかもうチャンスは無いか」
「……えぇ。私は必ず、お兄ちゃんの運命を変える。未来に連れて行ってみせる!」
もう後が無い。決意に満ちたヒカリちゃんの言葉は、背水の陣と同義だ。
俺はアキナを救えなかった。何度繰り返そうと親友は零の運命者に立ち向かい、そして散っていく。
ヒカリちゃんが挑むのは、俺と言う存在が那由他の果てまで繰り返しても届かなかった奇跡の領分だ。緊張しているのか、ヒカリちゃんの手がこころなしか震えている。
緊張を解す目的で、彼女に雑談の話題を振った。
「そう言えばヒカリちゃんのその仮面、高性能だよね。どこで買ったの?」
「運命大戦の時にガブエリウスに頼んでいたの。正体を隠してお兄ちゃんを説得する為に」
ガブエリウスの力で作られたものだったのか。……よくよく聞けば、仮面を被った後の声がガブエリウスに似ているな。発声がかなり女性的だったからそこまで気にしていなかったが、なるほどそう言う事だったのか。
「……それよりも、本当に付いて来る気?」
「情けない事だが、俺にはアキナを救える方法を見つける事が出来なかった。……だから見たいんだ。アキナが生きる未来を掴み取る瞬間を」
那由他の果てまで旅をした。永い永い旅を。けれど俺はアキナを救う手がかりさえ見つけられなった。
『そんなに強いならッ!! どうして三年前に選ばれなかったの!? どうしてお兄ちゃんだったの!!? 何で今更っ、あなたが選ばれるの!!!?』
選ばれなかった。俺は一回目の運命大戦に選ばれる並行世界を見つける事が出来なかった。那由他程度の試行回数では可能性すら生まれないのだろう。
或いは、明導アキナを救うのは俺では無いとふざけた運命が嗤っているのか。
「その怪人みたいな恰好で見つからないでよ?」
「それに関しては本当にごめん。善処する、としか言えない」
俺にはヒカリちゃん達に内緒でガブエリウスに会いに行った際に、他の運命者カードの所有者に見つかったという前科がある。俺もそう簡単に見つかるつもりは無いが、絶対とは言えない。
幾度輪廻を繰り返そうと、細かい違いというのはある。そのズレが大きくなれば想定外の事態が発生するものだ。
逆に、知らないからこそ取り返しがつかない失敗というのもある。俺にとってのそれは、この道をヒカリちゃんと歩いた事だろうか。
一回目の人生、
『こほっ、こほっ……!』
『ヒカリちゃん。まだ進めそうかい?』
『……はい。行って確かめなきゃ……っ!』
失踪したアキナの情報と何か関係があるかも知れない。あの時の俺達は殆ど勘で動いていた。けれど、抉られた現場にはアキナに繋がる証拠は無かった。
ただ、これに巻き込まれたのだとしたら跡形もなく世界から消えているだろうという絶望のみだ。
『そ、んな──。イヤ……!』
『ヒカリ、ちゃん? ヒカリちゃん!』
『イヤアアアアアァァァァァッ!!!?』
惨状を見たヒカリちゃんは体調を崩し、入退院をまた繰り返すようになった。それから三年後に失踪したのだ。
それから先の人生では、俺はヒカリちゃんと一緒に魄山の現場に来た事は無かった。失踪するという結果は変わらなくて、俺は最初に出会ったヒカリちゃんにさせなくても良かった絶望を与えてしまったのではないかと考えたのだ。
「そろそろ着く頃……ケントさん?」
「うん? 何だい、ヒカリちゃん?」
「……何でもない」
少し暗い顔をしていただろうか。これから大変なのはヒカリちゃんの方なのに、逆に心配させてしまったか。
……何をやっているんだろうな、俺は。本当に。