「勝者! 零の運命者!」
やはりと言うべきか。運命大戦の第四回戦の勝者は零の運命者で決まった。《零の運命者 ブラグドマイヤー》のディヴァインスキルが攻略出来なければ勝ち目はない、か。
「……ふー」
仮面の下で呼吸を整えるヒカリちゃん。小さく手が震えているが、今の俺では彼女の助けになってやれない。
大丈夫だ? 君なら出来る? 俺が付いてる?
──何だそれは。薄っぺらいんだよ。一度としてアキナを救えなかった俺が、そんな気休めにもならない言葉を吐いたところで何の価値がある。
「さて、ここからは俺がエスコートを引き受けるよ」
「タイゾウさん……」
どんな言葉をかけてやるべきか──そう考えている内にどうやら時間切れらしい。一緒にファイトを見ていたタイゾウさんがヒカリちゃんを促す。
変装しているとは言え姿を晒すわけにはいかないから、俺はここから見ている事しか出来ない。
タイゾウさんの言葉にヒカリちゃんは頷いた。
「えぇ、お願いタイゾウさん。……私は、お兄ちゃんを救う事を諦めない。何をしても」
そしてタイゾウさんと共にみんながいる大舞台へ歩みを進めるヒカリちゃん。決意の言葉と裏腹に、その姿はどこか遠くへ消えてしまいそうなほど儚く映っている。
「ヒカリちゃん」
「……何?」
「悔いだけは、残さないでくれ。──たとえアキナとぶつかる事になったとしても」
咄嗟に呼び止めてしまったが、どうにか言葉を伝えられた。どんな結末になろうとも、今までやってきた事をどうか否定しないでほしい。
その言葉に、ヒカリちゃんは溜息を吐きながら、苦笑するように零した。
「この世界のケントさんも変わらないね。あなたは絶対に頑張れって言葉を使わない」
「……個人的に嫌いなんだよ。まるで他人事のような言葉だから」
頑張れ。頑張れ。頑張れ。俺は応援しているぞ。──ふざけた言い訳だ。反吐が出る。
頑張れという言葉ほど無責任なものはない。輪廻の中で、アキナもヒカリちゃんも必死だったんだ。なのに俺だけが頑張れの一言で他人事にしてしまえば、今度こそ竹松ケントは死んでしまう。ただ流されて輪廻を巡る、喋る死体と成り果ててしまう。
これからも俺は輪廻を巡るだろう。今以上の絶望もあるだろう。けれど決して、俺は二人を見捨てない! 救う為に足掻き続けるんだ!
「そう。……もしかして私の世界のケントさんも、あなただったのかな?」
「そうだったら嬉しいね。この世界で、本当の意味での同郷の人間と再会出来た事になるんだからさ」
冗談めかした俺の言葉にようやく緊張が解れたのか、そのままタイゾウさんと共に歩き出した。──もう一つの、運命を決める戦いが始まろうとしていた。
◆
ヒカリちゃんの正体を知らされた明導アキナは動揺していた。それはそうだろう。未来の自分の妹が、アキナを救う為に過去へ来たと聞いて驚かないわけがない。
ヒカリちゃんはアキナへ語った。この先に待ち受ける破滅の未来を。零の運命者に敗れ、他の運命者カードの所有者諸共この世界から消滅する事を。
その三年後に二回目の運命大戦が行われ、《時の運命者 リィエル=アモルタ》の所有者に選ばれ、そして運命大戦を勝ち残って過去へ来た事。
最後に、アキナを救う為に運命大戦から脱落させようと画策していた事。何もかもが衝撃的過ぎる事実だ。遠くで見ている俺にもその驚愕が伝わってくるようだ。
ヒカリちゃんは言う。運命大戦を辞退しろと。明導アキナでは──《奇跡の運命者 レザエル》では、零の運命者には決して勝てないのだと。
だが、ヒカリちゃんも分かっている筈だ。明導アキナという男は、この程度では諦めないと。
「でも、可能性はゼロじゃないッ! なら俺は手を伸ばす。ヒカリを救うチャンスがあるのに、俺が諦めるわけにはいかない!!」
「──ッ、ふざけんなッッ!! お兄ちゃんは責任を感じてるだけじゃん! あの時、あの事故からずっと!!」
アキナの言葉が詰まる。あの時? 事故だと? それは俺も初耳だった。ヒカリちゃんは昔から身体が弱いという話は聞いていた。俺は勝手に先天性の病なのだと思っていたが、まさか事故による後天的なものだったとは思わなかった。
「私が死にかけたのを、自分の所為だと思ってるんでしょ!! ……私はお兄ちゃんを止める! 絶対にッ!」
気迫と共に、彼女は自身の運命者カード──紋章が輝く《時の運命者 リィエル=アモルタ》を掲げる。アキナが運命大戦を辞退するか、零の運命者に挑むか。ファイトで決着を付けようとアキナへ宣戦布告を投げつけた。アキナもそれを受け入れた。
「「スタンドアップ。ヴァンガード!」」
そして始まった運命大戦の番外戦。ヒカリちゃんがアキナを止められるタイミングはもうここしかない。
ファイトが始まりお互いグレード2のヴァンガードが場に居る状態。ダメージはアキナが二点でヒカリちゃんが一点だ。次のターンはアキナで、ヴァンガードがグレード3になる。
「さぁ、見せてよ。お兄ちゃんを守る事も出来なかった──ハリボテの奇跡を掲げる、滑稽な天使をッ!」
「あぁ。見せてやるさ。望む全てを救う大天使を!」
そしてアキナの運命者カード。俺と同じ奇跡の名を持つ天使が姿を現した。必ず妹を救うのだと言うアキナの決意に、ヒカリちゃんは目を伏せる。
語られるのは過去に起きた事故の話。そこから体調が悪くなったというが、それはアキナの所為ではないと言う。一方のアキナはあの時何も出来なかった後悔から、次は必ず手を伸ばすと決めていたと言う。
二人の言い分はもう、どちらが正しいとか間違っているとか、そういう類のものではない。どちらも相手を救いたい。その思いで今、ぶつかりあっているのだ。つまるところ、これは兄妹喧嘩だ。
相手が好きだからこそ、大切だからこそ──愛しているからこそ、今彼らは本気でぶつかりあっている。傷つけたくない。助けたい。その思いに、誓いに、優劣などありはしない。
「……ある日突然、お兄ちゃんが帰って来なかった私の気持ちが分かる? 世界の全部が色褪せて、何を食べても味がしなくて、家に帰るだけで吐き気がした私の気持ちが分かる? 分からないでしょッ!? 死んだら全部終わり! 全部、全部、全部! 全部! 私は──ぅくッ!!?」
喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。そして苦しそうに胸を抑えてゲームテーブルへと取れ込み──。
「……何だ?」
一瞬だが、異質な力を感じた。今までの輪廻でも感じた事のない
──あれこそがシヴィルトの力、なのか?
◆
先のファイトに負けたヒカリちゃんはアキナと共に帰り、他の運命者カードの所有者達も居ない。頃合いを見計らって俺は大舞台の中に入った。
「あれは一体何だった? 話に聞くシヴィルトの力にしては、あまりにも弱い」
ヒカリちゃんが倒れ込んだテーブルを指でなぞり、
勘違いでは無い筈だ。あの力は確かにヒカリちゃんから発せられ、このテーブルを伝って大舞台の術式に混ざった。
「私は君の事が末恐ろしく思うよ」
「……聖竜が盗み見とはな、ガブエリウス」
更に内部の
「数多の並行世界に転生し、その知識や経験を引き継げる。こうして君が私の術式を行使するまでは眉唾だったが……」
「多少説得力は生まれたか。とは言え、今は優先事項がある」
「我が術式を調べてどうする? シヴィルトの気配でも感じたか?」
「……そうだと言ったら、信じるか?」
ガブエリウスの表情が凍り付く。そんな事はあり得ないと否定する。だが、俺は見た。弱くはあったが、見た事もない程の禍々しい力の波動を。
しかしそうなると疑問が残る。何故そんな力がヒカリちゃんの中から出てくる?
「……待てよ?」
明導ヒカリの体調不良は過去の事故から、後天性のものだと言っていた。ならば、その事故とは何だ? いや、そもそも……。
「ガブエリウス……シヴィルトが地球に来たのは、いつだ?」
「──分からない。ヤツを追ってここに来たが、果たしてどの程度時差があるか」
「つまり、年単位でシヴィルトが潜伏している可能性も……」
「ある。だが、このぬいぐるみの身体ではヤツを探るにも限界がある」
だからこそ、ガブエリウスは運命大戦を開催した。運命者の力を高めて惑星クレイと地球との間にゲートを開き、ガブエリウスの本体を持ってくる。本体の力があればシヴィルトを容易に探し出せるのだろう。
「一先ずこちらの用事は終わった。……術式の起動には気を付けろ」
「あぁ、覚えておこう」
忠告はした。だが、探査術式でもヒカリちゃんから発せられた力を発見出来なかった。あれがシヴィルトの力ならば、ヒカリちゃんの存在証明の確立までの時間稼ぎに使えそうなくらいには弱弱しいものだったが、弱い力だからこそ見つからない。
霧の中で一滴のジュースを見つけるようなものだ。いくら異質でも周りの
──運命大戦が終わるまでに鍵を見つける事は叶った。けれど、見つけた鍵を活用するには時間が足りない。