日を改めて
ジオン・ズム・ダイクンの葬儀が行われた。
配席はデギン派とダイクン派で完全に割れていた。
葬儀が終わり、帰るために出口に向かっていると
「兄貴、少しいいか?」
「どうした?ドズル…。」
「少々込み入った話があってな。こっちの車に乗って行かないか?」
「・・・・・・・・」
ドズルの示す方に目をやると大型車の窓からサスロの姿が見える。
兄弟の中では特に仲の良いサスロの頼みだ。聞いてやるのも吝かではない。
妻には予定通り父デギンと乗る様に伝え。
まぁ、よいかと我ながら甘い考えで乗り込む。
「どうした。サスロ…。」
「あ、あのだな。ぎ、ギレン兄。葬儀のあとでする話でもないのだが…。その…」
胸にしまっていた葉巻を取り出そうとしたが、手を止める。
どうも、様子がおかしい。普段の姿とはかけ離れて話すのにためらいがある。
「兄貴、サスロ兄さんの…その…女の事だ。」
ドズルも少々困り気味に話す。
「は?」
葬式の後にする話かと思ったが黙って聞くことにする。
「その、女性の事なんだが父上に反対されている。」
そう言って携帯端末の画像フォルダを見せてくる。
「大分昔に紹介したな。確かMIPの社長…今は会長の令嬢だったか。確か、ナツメ・ユーリシアだったか?良いではないか?MIPの会長令嬢なら?だが、ずいぶんと昔の写真だな。」
私が紹介した13歳だから5年前か?今は18歳くらいか。
MIPの会長から頼まれて一度機会を設けただけだが、交際を続けていたのか。
「彼女は交際していた頃から、俺の仕事を手伝ってくれている。非常に優秀な女性だ。」
「サスロ、彼女の現在の画像はないのか?」
「いや、その……………。」
サスロが沈黙する。
代わりにドズルが答える。
「兄貴、彼女は会社での新型機の開発の際にな。足を失ってな…。」
「そういうことか……。」
3人とも沈黙してしまう。
確かに写真を嫌うくらいには引け目に思っているのか。
父上に拒否されてると伝われば身を引くくらいはあるな。
「冗談はよせ。障碍者だからと言うのか?先天的ならまだしも後天的なものなら優生学的にも問題ないだろ。父上はそれでか?」
2人は沈黙している。肯定的な意味での沈黙。
「確かに良家の婚約ではケチが付く内容ではある。だが、私自身は彼女の人となりは知っているし良縁だと思う。家柄だって政治的にも良いはずだ。父上もそういう意味では保守的なのだな。……わかった、私の方から父上と話をつけてやる。」
「すまない、兄貴。」
「おお、さすがはギレン兄だ。」
サスロとドズルは安心した様で表情が明るくなる。
「しかし、サスロよ。干し草の中から針を見つけ出したな。」
「ギレン兄、それどういう意味だ?」
「干し草の中から針を探す。大昔の諺だよ。限りなく不可能って意味だ。クク。」
「ぶっ」
「あ、兄貴、そいつはひでえ言い草だ。ドズル、お前もh」
声を上げた瞬間。車は炎に包まれた。
「ここは……病院か?」
気がついたら見慣れない部屋のベッドで横になっていた。体を起こしながら思わずそんな言葉を口にする。
包帯が巻かれた体や、自分に繋がれている検査機器からして病院だとは思うのだが…。
「誰かいないのか?」
ナースコールを押す。
看護師が来るかと思ったが、突然ドアが開き嵐のような勢いで大男が入ってきた。
「意識が戻ったのか?!兄貴!!」
「ドズルか。」
「兄貴!医者は頭部に強い衝撃を受けているため脳に異常があるかもしれないと言っていたが……。大丈夫か?」
「ウム。傷は痛むが思ったより動くのでおそらく大丈夫だ。そういえば、サスロは…?」
こんなことになったのだ。せめて、あいつの望みくらいは叶えてやりたい。
「さ、サスロ兄の席は爆弾の真下だった。病院に着いた時には既に…。」
「そうか。」
サスロが死んだか…。
「やはり、連邦かラル派か?」
「恐らくはそうだろう…。」
連邦とは言ってみたが、内心はキシリアを疑ってもいた。
キシリアが隊長の保安隊の「諜報」の実務については、メディアを掌握しているサスロ・ザビと職権が被る所が多々ある保安隊に秘密警察としての権限を持たせたいと考えていた。まさか、ちょっと叱られて殴られたからって殺す程に短慮だったというのか?
サスロの職権はどのように解体されているのだ。
端末に表示された日時を確認したがさほど時間は経過していない。
ドズルは政治や謀は苦手だ。この手の話をしてもあまり意味はない。
暫く当たり障りのない話をしてからドズルは席を立った。
「あぁ、そういえば。サスロの奥さんにお悔やみ申し上げると伝えておいてくれ。」
「だが、それは・・・。」
「サスロの遺言になってしまったからな。父上もこうなっては反対しまいよ。とは言え、良縁だった様だしな。せめて、喪主を希望するようだったらさせてやりたい。」
「そうだな。」
ドズルがまだ何かいいたげにしている。
ギレンはすぐ横に自身の服が掛けられているのを見つけた。
徐にそれを引き寄せポケットを探る。
マッチと煙草を見つけ、煙草に火をつけ一服。
「しかし、目が覚めて一番に目にした奴がお前だとはな。てっきり、トリエステのやつが林檎でも剥いて待ってるかと思ったが。」
ドズルは今までになく神妙な態度をとる。
「兄貴、実はあの時、トリエステさんはすぐに飛び出してきたそうでな。その時、俺たちが乗っていた車が二次爆発を起こして破片が兄貴の奥さんに当たって、兄貴が目を覚ます1時間前に息を引き取った。それと、お腹の中に子供がいたんだがな、その子も…。」
「は……。」
煙草を取り落とす。
「ど、どこだ?あいつはどこにいる?」
IQ200の男でも思考停止に陥ることはある様で、ギレンは言葉を失った。
呆気に取られた表情で霊安室で永遠の眠りについた妻トリエステを見つめて呆然としていた。
退院後はギレンは失意に苛まれ、自邸に引きこもる事となる。
それでも、邸内で執務を執り行っていたのだが…。心ここに在らずで覇気がなくなっていたと当時の使用人は語っている。
サスロの葬儀は身内内で厳かに執り行われた。
喪主は、デギンは難色を示したが本人の希望並びにギレン、ドズルの後押しでサスロの婚約者が執り仕切った。なおギレンは心身の不調を理由に欠席している。
この行為は暗にサスロの件を認めてやっていればと言うギレン、ドズルのデギンへの非難でもあった。
そして、トリエステの葬儀は密葬と言う形で自分だけで執り行った。
トリエステの葬儀の数日後、ある人物がギレンの下をトト家当主アーノルド・トトに連れられ訪ねていた。
「閣下、世間の反発を考え独断で伏せさせていただきましたが閣下の御子は御存命です。」
「…どういうことだ。」
ギレンは伏し目がちだった視線を客人たちに向けた。
「閣下、コーディネーターについて如何思われますか?」
「近年は反発が大きいが大変優秀な人材だと聞き及んでいる。」
アーノルドの言葉を遮り彼に追随していた少女が話し始める。
「閣下の御子はトト家の病院地下の研究施設にある人工子宮で生育しております。閣下もお分かりかと思いますが、御子はジオンの次代を担うお方。ですが、閣下同様に命を狙われる存在。そう言った暴虐からお子を守るためには御子自身、強靭な肉体と最高の頭脳を持つ存在になって頂くべき。そうは思いませんか?」
「掛かる火の粉は振り払えるようにか。」
「はい。私は以前メンデルで遺伝子研究に従事していました。」
「ほう…メンデルか。真偽は定かか噂は聞いている。」
「G.A.R.M. R&D社の遺産は今も生きています。そして、その研究の成果は今も私の頭の中にあります。」
「…許可しよう。失敗は許さん。」
自分とトリエステの子供が…生きている。
サスロも殺された。
最愛の妻も殺された。
お腹の中の子供すらも命を失いかけた。
犯人は誰なのか確証はない。ジオン内外のどちらなのかすらも分からず。
なればこそ、私自身がジオンの確固たる立場を固めねばならぬ。
誰からも脅かされない様に、上へ上へ………。
我が子を押し上げねば、誰からも狙われない高みへ。
そう、ジオンの王に。
ギレンの心に黒い火が灯り始めるのだった。