宇宙世紀0078年
プラントではシーゲル・クラインの指示により、プラントはユニウス市の7~10区(ユニウスセブン~10コロニー)を穀物生産プラントに改装し食料生産を開始。これに対し連邦政府は実力を行使してもこれを排除すると勧告しプラントに対し威嚇行動に出る。ザフトはこれに対抗する形で史上初の戦闘用MSジンを実戦投入する。圧倒的少数でありながら連邦軍の戦闘機部隊を圧倒し、L5宙域に駐留していた連邦宇宙軍の部隊を排除する事で、その有効性を世界に見せ付けた。対して、連邦軍のデュエイン・ハルバートン大佐は、連邦軍も本格的に主力兵器としてのモビルスーツを開発するよう提唱するが、却下される。連邦軍はプラント側の戦力を過少に評価しており大規模部隊による鎮圧は考えておらず、小規模戦闘部隊を派遣した小規模な戦闘だった為、MSの有用性と言った軍事的な注目が集まらなかったこともある。
翌月には『スミス海戦』と呼ばれる月面でのミノフスキー博士の亡命を巡り発生した戦いが発生。
『青い巨星』ランバ・ラルを指揮官とした『黒い三連星』や『赤い彗星』シャア・アズナブルといった後のジオンエースパイロットで編成されたMS隊と連邦MS部隊との史上初のMS同士の戦闘。
ランバ・ラル指揮下のモビルスーツ部隊は1機のMS-04を含む5機で、ガンキャノン初期型2個中隊含む敵を一方的に全滅させる大勝利を収めたと言うものである。
この戦いの情報は完全に秘匿されたもののはずだった。
「ギレン閣下。サイド5の協力者より秘密裏にとの事で使者が親書を…。」
セシリアからサイド5の使者の来訪が伝えられる。
サイド5、連邦派ジオン派が真っ二つに割れているサイドである。
サイド5防衛隊総司令ザイデル・ラッソ大将であった。
ジオンが決起する場合は自身も決起し反対勢力粛清後、連邦の背後を突く形で参戦する意思があり、ただし戦力がないため技術供与を求めている。
連邦政府の無理な施策でスペースノイドは大なり小なり苦しんでいる。この機を逃せば、サイド5は連邦にすりつぶされるだろう。同様のサイドは他にもあるのだが…。
開戦に間に合わない場合は、出稼ぎ労働者として義勇兵を送る用意があると。
親書に目を通したギレンは暫し思案してから答える。
「MS-04やMS-05をくれてやるわけにはいかないな。だが、自前の兵力を持ちたいと言うのは解る。そうだな、クラブマンを始めとする作業用機武装化の援助をしてやろう。大手三社からも援助を出していい。」
遇に同席していた宣伝相のナツメ・ユーリシアが提案する。
「MIPはモビルポッド生産に注力して、隙間を埋める形でMAをと考えていますので、今回はジオニック、ツィマッドに譲ると言うのがMIPの本音でしょう。それにスウィネンやヘクタ・ドナ、ホシオカと言った下請けを主力にしても良いかと…。」
「なるほど、こちらのMSがほぼ完成している。だが、ここまで積極的に協力を申し出ているんだ。返礼品として渡すある程度のものとしては、これくらいで良い。最初にジオンと共に歩む決断をしてくれたのだ。武器くらいくれてやろう。」
ジオンとサイド5は秘密裏に同盟関係を模索し始める。
ジオンでジオニック社が連邦に隠れて開発した形式をまねて、サイド5肝いりでジオンに対抗する形で人型作業用機の開発に乗り出したと言うカバーストーリーを作り出した。
ジオンに急接近するサイド5。当時、表向きにはMSの有用性を認めていなかったゆえに、表立ってサイド5を責め立てることは連邦政府も出来なかったのであった。
ギレンはサイド1(ザーン)、サイド4(ムーア)、黄道同盟にも外交戦を仕掛けていた。
サイド1などは多くの住民がその日を生きるのに精一杯で餓死者が出ている所もある。
追い詰められた故にサイド1はジオンに便乗したいと言う意思は見せていた。
ただ、黄道同盟プラントとの交渉は難航する。
双方ともに同盟に対して表面上は乗り気なのだが、プラントは民主主義であるが故に独裁国家であるジオンを警戒していた。さらにジオンは所詮ナチュラル国家、プラント内のコーディネーター絶対主義においては下に見られる存在。お互いにどうしても信用しきれないところがあり同盟に踏み切れなかった。それでも、開戦を控えた12月には不戦協定が結ばれ、軍事通行権について話し合いが行われた。
キシリア主導で独自にジオン・ズム・ダイクンが提唱した新人類を科学的に研究する、ニュータイプ研究の為のフラナガン機関の準備委員会が組織されていた。
ニュータイプ候補の少年少女たちが数人所属していたが、施設設備もほとんど稼働しておらず、今は有名無実な組織であった。
そこで、ギレンはキシリアに横槍を入れる形で宣伝省案件が差し込まれる。
理由は不明だがニュータイプには容姿が優れたものが多く、美声を持つ者が多かった。
ギレン自身もニュータイプが有用な戦闘要員であることは理解していたが、根拠の薄い研究である。ドズルを中心に反対意見が出ることは容易に予想できた。また、キシリアにニュータイプの全権を握られる危険も理解していた故にフラナガン機関を国家機関へ格上げして予算を投入することを決断した。フラナガン機関のフラナガン・ロム博士も国家予算の投入と言うエサに釣られた形となり、キシリアが不快感を示したのは言うまでもない。
後にキシリアとギレンでニュータイプの利用法に違いが出るのだが、それは今の段階でも現れていた。
低年齢層向け反連邦プロパガンダアニメ、魔法の少尉ブラスター・マリのブラスター・マリ役にララァ・スンが大抜擢される。魔法の布団叩きを渡してくる謎の仮面の男役にシャア・アズナブルが出演することになった。フラナガン機関ギレン派のニュータイプ利用はプロパガンダ色もあったが、それ以上にその感応能力等戦闘以外にも注目を置いていた。
また、実子ノーマ並びに非認知の息子グレミーにもニュータイプの素養が確認されていた為、ギレンが口を出すことが必然的に増えることとなり、特に娘のノーマは高いニュータイプの素養もさることながら父親の血を色濃く継いだとしか思えないIQの高さもあってキシリアにとっては頭の痛い状況になる事だろう。
また、宣伝工作の一環としてガルマや一部の将校や政治家のメディア露出が増えた。
『民意が反映されない今の各サイドで採用されている選挙システムは致命的欠陥を抱えている。そもそも、速やかに地球からの移民を送り出す事を優先した最初期の選挙システムを今日まで何の改良も行わずに使い続けること自体が連邦政府の怠慢であろう。』
ギレン自身も討論番組などに顔を出して、連邦側の論客を鋭い言葉でバッタバッタと切り伏せる様は各コロニーの視聴者から多くの支持を受けていた。
ギレンはそう言った政治番組で度々、言葉にしていた『サイド共栄圏』と言う構想は各サイドの国粋主義者の政治家や防衛隊軍人、その他有識者が賛同しており、その中でも特に優秀な者たちは秘密裏にジオンに接触していた。
MS開発に関してゲルググ及びギャンの素案はあるがジオニック社、ツィマッド社ともに開発段階には至っていない、携行ビーム兵器は完全に行き詰っている。また、ギレンはギニアスに対して『アプサラス計画』自体には許可を出したがグフ飛行試験型は失敗だったので資金投入はアプサラスⅠが開発されるまで控えめだった。寧ろ、技術者としてギニアスは天才であった。その為、行き詰っている研究には技術本部や企業問わずちょくちょく出向させられている。ジオンのMS研究の急加速は彼のお陰でもあった。
ツィマッド社ではヅダの土星エンジンの問題点が解決された木星エンジンの開発に成功しており、それを基に新エンジンを開発し、ドムの試作が終わりはしたが、ギレンとドズルはドムの重火器化を希望したため生産数はドムキャノン及びリックドムキャノンを正式化する予定だ。
また、同時期にアッグシリーズと呼ばれる機体群が公国技術部より提案されるがアッグは兵器ではないと言われ、同機の改良機であるアゾッグも工作機械であると断言される。
アッグガイは頭が可笑しいと言われ、ゾゴックは一部の人間以外からは水中用機に手を付ける意味を問われ、火器を持たないことで尖り過ぎと評価される。
唯一、支援機として評価されたジュアッグも原機のアッガイの水中用機としての特性が失われ最高適正は湿地であった。
一部が評価されたため数機生産されているが評価としては散々であった。
従来兵器にもスポットが当たっており、完成したマゼラアタックであったが空飛ぶ砲塔を持った自走砲は余りにも奇抜で連邦の61式の2倍車高は素人から見ても駄作であった。むしろ同時期に開発されたモビルタンク、YMT-05ヒルドルブの方が有用とさえ言われた。むしろヒルドルブは実戦投入後再評価され、後に改修機や試作機ライノサラスへ繋がりYMS-16Mザメルの開発へ繋がった。話は戻し、すぐに再設計が命じられたマゼラアタックは自走砲から脱却できず自走対空砲のフラックと自走迫撃砲のベルファーに落ち着いた。その為、戦車としては地上降下作戦直前に完全な別機であるマゼラアインとその改修機マゼラツヴァイが改めて開発された。その為、初期の地上戦ではすでに生産されていたマゼラアタックと旧式のM1戦車とワッパが地上戦の前哨を務めた。
また、急増された航空戦闘機ドップは連邦の戦闘機が鹵獲され次第解析され、再開発されたドップⅡに切り替えられた。また、ルッグンはあくまでも偵察機でありMSの懸下輸送は非推奨としている。
航宙戦闘攻撃機に関してもガトルを残し旧式のゴブルを各サイドに供与もしくは二束三文で売り払い始めている。
兵器開発は大筋として全派閥共に推進している。
その結果、キシリア派から出ていた統合整備計画であったがドズル派が反対していたものの、ギレン派が支持に回り、ギレン自身もドスルの説得にあたり統合整備計画は採択されたのであった。
「統合整備計画で武器やパーツ規格が統一されれば現場の整備士たちの負担が軽減されるではないか?」
「だが、工場での生産ラインを引き直している間、現場への兵器供給が遅れる。」
「現有兵力で今ならミノフスキー粒子を用いた新戦術で戦局はひっくり返せる。寧ろ、連邦がある程度でも対策を講じたらひっくり返される事は想像できるな。統合整備計画で規格統一を行って足場を固められれば、連邦にひっくり返されるまでの時間が稼げる。ライン引き直しにおける開戦初期の有利なうちなら補給線混乱も現場で受けきれるはずだ。寧ろ、やるなら今のうちしかない。私とお前が湯水の如く資金を注ぎ込んだMS計画だ。当初の予定より兵力が潤っている今なら大して混乱なくできるはずだ。」
「ううむ。」
「連邦と戦うのだ。打てる手はすべて打ち万全を期したい。」
「兄貴が言うなら、解った。反対は取り下げる。」
G.A.R.M. R&D社の元研究員たちをアウラ・カイドゥを通じて集め始める。
ギレン派のニュータイプ研究者をコーディネーター(遺伝子)研究者を彼女の下に集め統合させる。
ギレンとの密約における見返りとしてファウンデーション王国の連邦離脱と自身の国王即位を約束させた。
同年11月開戦を控えて
デギンは自らを公王とした公国制を採用し完全独裁を行うつもりであったが、ギレンの反対を受けた事により議会を残す事となった。
「このような極端なものはジオン国民は非常時故に受け入れられますでしょうが、他スペースノイドからは忌避されかねません。連邦との戦争の為にあくまでも非常時の措置であることを強調するべきです。議会は残すべきです。現在のジオンは連邦の矛盾した統治システムの被害者であるスペースノイド救済を謳っています。実質棄民とは言え民主主義の申し子たるスペースノイドの反感を買いかねません。彼らの多くは自由を渇望しているのであって新しい支配者を望んでいるわけではありません。我が国の外交努力を生かさねば勝てません。まさかとは思いますが、このままザビ王朝で代を重ねるおつもりですか?」
「そのくらい、解っとる。無論、公王は政治軍事の統制を円滑に行うためのものだ。」
「えぇ、そうしてください。地上の学のない棄民と違いスペースノイドは教育を受けて学があります。それゆえに今の不公平に気が付いているのです。」
「過酷な環境で生きるためには無学ではいられない。決してスペースノイドが恵まれているのではない。そうしなければ生きられなかった。地上の一部の者たちはそれを理解できていない。学ばねば死ぬ…そんな世界にスペースノイドを無責任に放り込み、あまつさえ奴隷のように扱う。許される話ではない。勝つためだ。」
「………父上。無礼を働きました。謝罪します。」
「良い。気にするな。ギレンよ…些事は任せてよいか。」
「お任せください。恙無く成し遂げて見せましょう。」
デギンは自らを公王とした公国制を採用し、ギレンが総帥として実権を握った。
そして戦後の事後処理を押し付けるために議会を残した。
開戦5日前、公国議会は閣議を招集。
公王デギン、公国軍総帥ギレン、首相ダルシア・バハロ以下閣僚が集まっていた。
「以上の様に各サイドの連邦軍に対して奇襲を仕掛ける手はずは整っています。サイド1はサイド防衛隊が我々の動きに呼応して決起する手はずを整えました。サイド4もコロニーの港湾ベイで事故が起きる予定です。序戦においてジオン独力で叩く必要があるのはサイド2だけです。そのサイド2でストライキ等の行動が見えています。」
「我々に呼応したサイドの兵力は使えるのですか?」
閣僚の一人からの質問にギレンは応じる。
「はっきり言ってしまえば。我々と呼応して虚を突かねば、すぐに鎮圧されてしまう程度の代物です。ですが、連携できれば駐留軍の喉元への一突きとなるでしょう。」
ギレンは閣僚からの質疑に応じていく。
「連邦はこの戦いを対ジオンとして矮小化しようとしてくるでしょう。」
「ですので軍学校では学生の出身地に制限はありません。私自身も含め閣僚の皆さんにはメディアへの露出を増やし、スペースノイド全体の理解を促しています。それは実を結びつつあると考えています。」
ギレンはこの戦争をジオンの独立戦争としては見ておらず、棄民VS既得権益者と言う方向に持っていきたかった。サイド2を毒ガス攻撃しない。これは、先にギレン・ザビが発した『サイド経済共栄圏構想』が強く影響している。全体的に見れば親連邦的なサイドでも末端の方は間違いなくジオンに共鳴しており、ジオンは必然的にスペースノイドの解放者の立場を手に入れつつあった。
「コロニー落としの廃案に関しては何度も伝えているが、スペースノイドの故郷であるコロニーを破壊に使うという行為はスペースノイドの理解を得られないからです。」
「だが、連邦との国力差を考えると打撃力に不安が残るのではなりませんか?」
「ふっ。地球に落とす物などコロニー以外にもいくらでもあるでしょう。」
その後も質疑応答が繰り返されて閉会された。
宇宙世紀0078年12月31日、年末のカウントダウンバラエティー番組や真面目な討論番組にガルマやギレンが顔を出しており、開戦の気配など全く出していなかった。
新年元日などはギレンは私邸に戻り休養しており、5歳の実子ノーマと私的な時間を過ごした。
2日には首席秘書官兼愛人のセシリア・アイリーンを招き入れ、さらにプライベートを継続していた。
また、ノーマに招かれたトト家の御曹司(非認知の息子)グレミーはノーマと親睦を深めていた。
「グレミー、こっちよ。」
「ま、待ってください!?」
複雑な関係だが罷りなりにも姉弟か。
「閣下、お時間です。」
「うむ。」
セシリアの言葉に軽く応じる。
ギレンは車に乗り込むために歩き始めた。
「お父様。私も行きたいです。」
ギレンは少しだけ逡巡したが、許可を出して車に同乗させた。
ギレン達は公王庁舎地下の軍司令部に入った。
ギレンから見てもこの娘ノーマは優秀だった。フラナガン機関においても機関内でギレン派を形成しキシリアに与していたフラナガン・ロムを中立化させた。戦争の道具になる事に違和感を持っていたニュータイプ達はノーマの庇護下に入り出した。フラナガン機関は今やギレン派とキシリア派で分断しつつあった。
自身が手を出し始めたのはノーマが派閥を形成してからだった。
娘の才覚に対しては高い信頼を持っていたが、もっと深い教育も始めるべきかと考えたのであった。
司令部指揮所のマッピング上に秘書官セシリア・アイリーンを控えさせ、自身の隣で意見を述べている5歳のノーマに士官たちは奇異の視線を向けてはいなかった。すでに彼女の常軌を逸した姿は総帥府の官たちにすでにギレンの後継として受け入れられていた。