……平穏だ。
一人で街を回れるくらいに……神隠しや怪奇殺人事件がなかった、と錯覚できるくらい…そんなことはない。
怪奇殺人事件は五件目を最後に息を潜めているが対照的に神隠しが再度表面に上がってきた。
……同時に増えるデジモンたち。
ファングモンの動画を皮切りにデジモンが映った動画が増えている。
最近だとカブテリモンが田舎の森林で目撃されている。クワガーモンじゃなくてホッとしたよ。……セイレーンモンに聞いたがデジタルゲートはこっちへの移動手段になるが肝心の行先はランダムらしい。
現にセイレーンモンは都心から離れた場所に転移し東京へ向かおうとしていた。ドジにドジを重ね…結果因習村に迷い込んでしまったんだけどさ。
偶然旅行先と重なったから事なきを得たけどゾッとする話だ。……あれから因習村に音沙汰はない。旅行サイトからも消えており、村のホームページも綺麗さっぱりなくなっていた。
スマホの画面には404 Not Foundだけ。
…消えた痕跡だけが残されていた。
パソコンが得意って訳でないしハッカーでもない。調べる術はない。
…何もなければいいんだけどね。
……デジタルゲートが現れた原因、か。
分からないな。力技でこじ開けられるデジモンには心当たりがある。
だが規模が大き過ぎる。
一つ二つならまだしも数十はくだらない。
それでも実現可能なデジモンが何体も居そうなのが怖い所、だよなぁ……。
ただデジタルゲートを開ける理由が思い浮かばない。…デジモンたちが現実世界に来るメリットだって………。
「見つけた……テイマー」
…
考えたくはない、けどツカイモン…ツカイモンの主が子供たちを誘拐している理由は……。
考えるだけで気が滅入りそうになる。
例の少女やファングモンも見当たらないしレナモンからも報告はない。
新しい情報はなにもない。
ん、一度頭から切り離そう。
買い物に来ているんだ。今晩のおかずでも考えていこうか。…うん、そうしよう。
今日は何を作ろうか。…暑いからそうめん、は安直過ぎるよね。逆転の発想で鍋…は怒られると思う。
出された側なら理由ぐらいは聞きたくなるし理由の答えが逆転とか言われたらビンタはする。
……カレーはどうだろうか。夏野菜たっぷりで…トッピングに揚げ物を数種類。福神漬けもトッピングに含まれるのか?
「テイマー? …テイマー…テイマー…」
背中に衝撃と重みが襲う。
……真後ろが喧しい。
唐揚げ、エビフライに…コロッケ。…メンチカツとトンカツはどっちにしようか。両方揚げればいいかな。…手間がかかるから出来合いものにしよう。その代わりカレーに手間をかけていこうか。
うん、髪を引っ張るの止めてくれ。
…頭を齧るのもね。お腹減ってんの?
そのマフラーか触手かも分からないので目隠しするのも止めて欲しい。慣れてはきたけどいきなり視界がシャットアウトされたらびっくりはするんだよ?
危ないし転んだりぶつかったら大変なことになるんだから…聞いてる? やっぱりお腹減ってるの?
「…違う…? テイマーを見つけた…から?」
……俺に聞かれても分からないよ。
人通りが少ない場所で良かった。…普通にアウトだが…まだ動物やぬいぐるみで誤魔化せる。……俺がぬいぐるみ男になるだけさ…はは……。
手探りでデジモンを掴み抱える。
その拍子に視界の暗闇は解かれ眩しさで一瞬目が眩む。
「ん、テイマー」
菱形の瞳孔を持つ緑眼が無表情に見ている。
テイルモンと同じ猫に近く大きな耳と尻尾が特徴のデジモン。……
見かけによらず成熟期デジモンだったりする。…最近……夏休み前が初遭遇だったかな。
正直、このデジモンが姿を現した時は心臓が止まるかと思ったよ。…仕方ないとは思う。
後々もしかして怪奇殺人事件の原因の発端では? と思ったくらいだ。…生じ知識を持ってるせいで警戒していたよ。……初めはさ。
「ん、どうしたの?」
…ぽてっと首を傾げるメイクーモン。
どうしてもそんな風には見えないし…決まって俺が一人の時を狙って接触してくる。
テイルモンやセイレーンモン、レナモン等と行動をしている時は全く現れないんだよな。
訳ありなんだと思い、誰にも…テイルモンにも話してはない。…勘づかれてそうではあるけどさ。
…まあ接触したところで。
「なにもない」
俺の爪先からてっぺんまで見るとあからさまに落胆する。…飯を集られるだけなんだよ。
悪さをする様な素振りは見せない。
腹の中に何を抱えているかは知らないけど…今すぐ何かを起こすことはないだろう。
てか射程範囲が広がったレナモンだよもう。
一人で外に出ると高確率でエンカウントするし…撒こうとしても気づいた時には背後を許しているから回避しようがない。
恥ずかしがり屋なんてこれっぽっちもねえよ。そのマフラー? 触手? で顔を隠したとこなんて見たこともないしさ。
感情も表に出さず常に無表情…は嘘でご飯を食べている時は嬉しそうにしてるよ。
うん、こういう知識は宛にならない。
そういう個体ってことで割り切ってる。
……無害、なんだと思う。
タイプ、属性共に不明。…特殊な属性であるフリーとは違う。
似た様なデジモンは…クルモン?
…デジモンだけど化身みたいな存在だよな。
現実世界に来られちゃ困るデジモン筆頭。
あとは……
もし、もしも…アポカリモンが現れたとして…俺は……。きっとその中には…零れ落とした命も……。
「ん、テイマー」
頬に柔らかい感触。
「顔色悪い。…痛い?」
珍しく表情を崩したメイクーモンは腕を伸ばし俺の頭を撫で始めた。
……なんか落ち着くな。
…少しだけこのままでいいか。
されるがままに目を細める。
「
にかっと笑顔を浮かべる。口角が上がり歯が見えていた。
……そっか。…メイクーモンがそう言うなら…そうなんだろうな。……なら、良かった…。
「ん、大丈夫そう」
無表情に戻る。
おかげさまでね。…今から買い物なんだけどメイクーモン……。
「デジ肉が欲しい」
デジ肉は売ってないし…毎度無理して服の中に入らなくてもいいんじゃないか?
メイクーモンのサイズでも厳しいよ。服が伸びるし数着はダメになってんだけど…しかも毛がくすぐったいし。
「ん、恥ずかしい」
なーにが恥ずかしいだ。無表情で言われても説得力の欠片もない。
……普通に会話できますよね?
「テイマーは別」
何言ってんだこいつ。
はぁ…もう好きにしてくれ。
諦めてスーパーに入って買い物をした。
視線にはもう慣れた。…パパっと済ませて外に出る。
…ソーセージをパクパク食べるメイクーモン。会計後直ぐに開けて食べ始めて今までずっと頬張っている。
美味しそうに食べるよな。
そんなに食べたきゃ家に来れば好きなだけご馳走するのにさ。…メイクーモンは頑なに来ようとはしない。
…何故か自宅は知ってるらしいけど。
デジモンだからと納得しています。
「ん、ごちそうさま」
食べ終えたメイクーモンは飛び出し地に足をつける。無防備に大きな欠伸をした。
はい、これはお礼。
「……いいの?」
うん、メイクーモンのおかげで助かったからね。…最近物騒だから気をつけるんだよ。
ついでに買っていた缶詰や菓子が入った袋を渡す。受け取り中を覗くメイクーモン。
「ん、わかった。テイマーも気をつける」
袋を持ちながらも俊敏な動きで壁を蹴って飛び屋根上へ。チラッと振り返るも直ぐに戻して消えていく。
……空は焼けかけていた。
はぁ……帰って晩御飯の準備…?
あれ? …メンチカツがない。
……メイクーモン。…手癖が悪いのを忘れていたよ。
スーパーに戻り再度メンチカツを購入して帰る。
自宅に帰るとテイルモンが訝しげな表情を向けていた。
……食後はずっと膝の上。こりゃ当分…一人は無理そうだなぁ。
今日のデジモン図鑑(仮)
名前/メイクーモン
レベル/成熟期
タイプ/不明
属性/不明
主人公が一人の時に限り高確率でエンカウントする謎の不思議ちゃん(?)デジモン。必ずご飯を集りにくる…がそれは建前かもしれない。無表情で何を考えているのかは分からないが食事中は笑顔。あと手癖が悪い。何処で暮らし、生活しているのかは不明。