夏休みも折り返し地点。
事件に進展はなく自宅でまったり過ごす毎日、は言い過ぎかもしれない。
「ん……あっ…!」
ソファに座る俺……の膝上にはテイルモンが座ってゲームをしている。メイクーモンと出会った翌日から隙あらば膝に座っているよ。
バレているんだろうけどテイルモンは詮索せず行動で示した。……話してくれるのを待っているんだろう。
…待っていて欲しい。これは俺から話す事ができないから。メイクーモンがみんなの前に姿を現した時まで…。
テイルモンのゲームプレイを眺めていると耳元から鼻歌が聞こえる。…隣でセイレーンモンがヘッドフォンで音楽を聞いていた。
全身を預けるように肩に頭を寄りかからせて小刻みにリズムを取っており小さな振動が身体を伝っていく。
……人気のアニメだったか。
秘密組織に所属する主人公のエージェントが数々の
最近映画化もしたとか。セイレーンモンがハマって見ている。…アニメよりも歌の方みたいだけど。
後は…喋るインコと飼い主のコメディアニメとかあったなぁ。…喋るインコ………。意図なく自然にセイレーンモンを見る。
……うん、胸の中にしまっておこう。
最近になって…くっつくことが多くなった。
…遠慮が無くなった。正確には元に戻ったといえばいいのかもしれない。
デジタルワールドではこんな感じだったしテイルモンが一番仲良くなったであろうデジモンが彼とセイレーンモン。
前者は戦友、後者は…姉妹みたいな感じ、か。…身近に姉妹のデジモンがいたからね。
憧れみたいなものはあったと思う。
初めこそよそよそしい感じだったけど…今はお互いに無防備な姿を晒せるくらいに信頼し合っていた。
「わひゃ!?」
「うにゃ!?」
体が揺れる。…地震……! かなり大きい!
ガタガタと床が怒号を上げていく中でテイルモンとセイレーンモンを掴む。
地震は収まりホッと息をつく。
二人とも大丈…セイレーンモン?
耳を塞ぎふるふると震えている。…チラリと映るスマホの画面にはレナモンからの着信が確認できた。
あー……ごめんね。
そっとスマホを手に取り電話に出る。
レナモンどうし……。
今すぐニュースを見てくれ?
切羽詰まった声が……微かに聞こえる。
…セイレーンモンのヘッドフォンから。
…ちょっとテレビを借りるよ。
リモコンで適当なチャンネルに切り替える。
「あっ………え……?」
テイルモンが目を見開く。
テレビに映し出された光景に目を奪われる。
場所は渋谷。…駅を中心に建物が倒壊し燃え上がっていた。パトカー、救急車、消防車全ての緊急車両のサイレンが不協和音を鳴らしている。
現地のアナウンサーが必死に何かを訴えているが集の声にかき消され人混みに流されていく。映像も人の波を映すのみ。…カメラを落としたのか最後に地面が映し出されシャットアウト。
アナウンサーの安否を確認するキャスターと番組キャストの沈黙。
……なにが起きている? 先程の地震とは関係ないのか? …爆発の余波で起こった?
にしては強かった。自宅は渋谷から離れている。…偶然重なった? 判断材料が足りない。
意外にも冷静に考えることができた。
デジモンは…関係ないかもしれない。それはそれで希望的観測に過ぎないけど……人間だとしてもとんでもないことか。
ああ、大丈夫だよレナモン。
でもどうしてこの事を…神社にはテレビはなかったよな。…友達が教えてくれた?
友達って……ああ、あのギャルのことか。
……名前知らないんだよな。親しい関係でもないし友達の友達みたいなもの。
写真も撮っているのか。…それを送って貰ってもいい? ありがとう。
……これがその写真…!
爆発した瞬間を撮ったのか。自撮りしてることから偶然撮れたんだろう。
爆風を腕で庇い爆破を背景に撮られていた。
特に変わったところは……な…い…!?
端に…赤いずきんを被った少女と思しき存在。ボヤけてたりずきんに隠れ顔は見えないが…夜に見た少女と一致する。
やっぱり……そういうこと、だよな。
「これって」
まだ分からないよ。
ただ……失踪事件に殺人事件と続いて爆破事件。デジモンが表舞台へ上がっていることを考えたら…最悪の事態が浮かんでいく。
レナモンは今夜調査に行くといい電話を切った。遠回しに来いってことだろう。
……俺も行きますよ、と。
確かめなければいけない。
…セイレーンモン? もう大丈夫だから。
「ほ、本当ですか?」
顔を涙で濡らしたセイレーンをあやす。
地震の怖さはデジモンワールドで身に染みるほど体験している。
……ドリモゲモンですらやろうと思えば大規模な地震を起こせる。地響き程度なら完全体のデジモンの殆どが……ねぇ?
セイレーンモンは…うん、無理そうかなぁ?
物理的な脅威よりも精神的な脅威はあるんだろうけど……やろうと思えば催眠擬きとかできるわけでして。
セイレーンモンの性格上万が一もないんだろうなぁ。……夜まで大人しく待機するか。
今日は俺が晩御飯を……。
「テイマー」
テイルモン? どうし。
「ダメ…だからね?」
…おっ…う。
行くのは…やっぱ無理かもしれない。
膝の間に顔を埋めたセイレーンモンを撫でつつどうしようかなー…と考えていたらあっという間に就寝時間。
常夜灯が淡く照らす。
前後にテイルモンとセイレーンモンが離さんばかりにひっついてた。前門のテイルモンと後門のセイレーンモン。
無理無理諦めよう。
テーブルに置かれたスマホが眩く光る。
動けないから取れねえ…。
相手はレナモンだろうけどさぁ。
明日謝るしかない、か。
……暑い。汗を拭い目を閉じた。
次第に頭がボーッとしてくる。
睡魔じゃない…無理やり眠らされる様な…。
催眠に近い……そう、引き込まれ……!
慌てて目を開ける。
「ここに生者が来るなんて珍しい。…なんて呼んだのは私なんだけど」
………は?
金髪の少女が椅子に座り紅茶を飲んでいた。…人間、にしては造形が完璧過ぎるぐらいに整っている。
美少女といっても過言ではない。
表情の見えない顔に生気を感じさせない瞳。その無機質さは精巧な人形と言われた方が納得できるぐらいだ。
視界に映すアンティークな雰囲気の洋風内装は貴族の屋敷を彷彿とさせる。
なにより自宅でサンドイッチの具になり身動きの取れなかった俺が椅子に座っている、こと。
うん、現実じゃない。…夢? ……ロトスモンみたいに幻術を見せられているのか? …記憶に異常はない…と思う。
記憶すら疑わないといけないんだけど…さ。テイルモンとセイレーンモンは覚えている。
今はそれだけで十分だ。
少女の理解できない言葉はあのもんざえモンが使っていた言語に似ている。…この少女は……。
デジモン…ではない。
…それほど異質な存在。
「ああ、人間には聞き取れないよね。忘れてた」
次元が違う。
……
いや…いやいやいや! まさか、ね?
……嫌な予感がするんだよな。
「だんまり? …半ば無理やりデータを引き抜いたから支障が出ていたりする? 大丈夫そ?」
物騒なこと言ってないか?
問題はある、が大丈夫。
名前は…聞かないことにしよう。
聞いたらダメな気がする。
やぶ蛇を突っつくつもりは、ない。
深呼吸をしなんとか落ち着かせる。
「冷静。ロイヤルナイツを育てたこの世界唯一無二のテイマーだけあるわ」
…お褒め頂き光栄…です。
ダメだこれぇ。全て知られていると見ていい……確信、したくない。が現実は非情。色々と吐きたくなる。
「これ以上の干渉はダメか。今後に期待しとくよ……
面倒なことになりそう。…もうなったかもしれない。…見慣れた部屋とテイルモンの寝顔を見て思う。
「あ、テイマーさん! おはようございます!」
セイレーンモンがキッチン越しからの挨拶。
おはようセイレーンモン……。
朝になっているし寝てないのに眠気が綺麗さっぱり吹き飛んだ。
…はは……流石デジタルワールドの
消されるかと覚悟したくらいだ。
デジタルワールドの異変と現実世界の現状。…良しとするはずがない。
干渉してきた時点でさ。
…期待しとく。その言葉は重すぎるよ。
しかも発言から監視してますと言ってるようなものだ。
要するに逃げられないってこと。
テイルモンとセイレーンモンに…言ったところでなぁ。
本当に笑えない冗談だ。…管理者の姿を含めて。
テイルモンをひっつけたまま起き上がりテーブルの上に置かれたスマホを手に取る。…少し前にレナモンから着信が入っている。
セイレーンモンは料理で気づかなかったんだろう。
料理音を背景に着信履歴からレナモンに電話をかけた。
今日のデジモン図鑑(仮)
名前/UNKNOWN
レベル/UNKNOWN
タイプ/UNKNOWN
属性/UNKNOWN
美少女(迫真)