「以上が調査報告になる」
ケーキを突っつくレナモンの話が終わる。
うんうん、なるほど。
コーヒーを飲みながら相槌を打つ。思った以上……予想通り深刻な状況なのはわかった。
何時ぞやノーブルパンプモンが飲み逃げしたカフェ。レナモンと簡単な情報交換を行っていた。こちらから提示できる情報は何ひとつないんだけど、ね。…しいて言うなら負傷者は多数だが死者は一人だけ、ぐらいか。
成人男性が…命を散らしてしまった。これで六人目、か。
…レナモンの視線は俺…ではなく俺とレナモンの間に挟まりケーキを食べているデジモンに向いている。
「ん、美味しい」
おい、自称人見知りデジモン。
会って話したいとのことで待ち合わせ場所を決めて向かう途中いつもの様にメイクーモンに捕まっちまったよ。
他のデジモンと会うといえば去ろうとしたのにカフェに行くといえば手のひら返しで着いてきた。食欲には勝てないらしいです。
…どうしようもねえわ。食べている以上はぬいぐるみで誤魔化せねえしペット持ち込みで追い出されるのも時間の問題だよなぁ。
「このデジモンは…」
警戒をしつつ訪ねてくる。…こいつに警戒する必要性は微塵もないと思う。ある意味同種…レナモンとは似たもの同士だからな。
「似たもの同士? …! そうか」
スッキリ顔で納得した。
…食べ物を集るって意味でよ? 現にカフェの代金全部持ちなの確定しているし二人とも遠慮なく追加注文してくれやがります。
ここにテイルモンがいたら…ゾッとする。
…うん、スイーツ別腹理論は共通認識なんだろうな。
嫌な予感がしたから事前に引き出しといて良かったよ。レナモンとメイクーモンがケーキを食べ続ける姿をボーッと眺めつつ、と。
情報の整理をしよう。
レナモンが夜の渋谷駅を調査した結果面白いことがわかった。
大規模な封鎖が行われていた。
別におかしくはない。爆発が起きたとなりゃ警察が動くのは当然。
面白半分でやってくる連中を止める為にも立ち入りを禁ずるだろう。
だが…渋谷。夜でも人々は活動している。
家がある者もいるんだ。簡単に封鎖なんてできたものではない。
それでも人の出入りは一切許さず付近の店全て強制休業を余儀なくされ付近に自宅を持つ者は外出を禁止させられていたとも言っていた。
当然レナモンも……入れたんだよなぁ。狐変虚で警官に成り済ました、と。
特に変わったことはなかったらしい。
警察にしては重武装だったことを除けば不自然な所はなかった。
封鎖も数時間で解けて朝方には撤収したみたいで…デジモン云々よりもテロ組織の犯行も予想できるから徹底的に証拠を集めていたんだろう。
……研究員がいたら確変入っていた。
絶対にロクでもない事が起きる。人工デジモンやデジモンの兵器運用とか……笑えないわな。
前者は実際に存在する。この世界でどういう立ち位置か分からないが人工デジモンの代表格であるキメラモンと会ったことがある。
初見はビビり散らかしたからなぁ。…キメラモンが街中でカフェを営んでいた事も含めて怖かったし脳が壊れるかと思ったわ。
理性もあるし会話も可能だった。気さくで陽気な兄ちゃんみたいだったよ。
普通に進化したらしいし他にもキメラモンは存在していた。コーヒーを愛飲するきっかけがキメラモンのコーヒーだったな。
デジモンでコーヒーとか厄ネタしか思い浮かばなかったが……普通に美味しかった。
ロイヤルナイツの抑止力さんのオリジナルブレンドが異次元だっただけ。…固形物が入ったコーヒーとか普通にヤバいわな。
うーん、やっぱ知識の殆どが宛にならない。矛盾が発生し立ち往生をしてしまう。…時には知識が邪魔をする。
井の中の蛙大海を知らず…この言葉がしっくりくる。
…情報を鵜呑みにする訳にはいかない。レナモンの抜けがある可能性も視野に入れつつ…ファングモンと少女の行方を探るしかない、か。
「あの…お客様」
渋い顔をした店員が山積みのケーキを持ってきた。……あー…はい、すみません。このケーキ食べたら直ぐに出ていきますので…。
先にお会計しても大丈夫ですか?
ありがとうございま………っすー……。
……これでお願いします。
本当にすんません。…以後気をつけます、はい。
「ん、これも食べたい」
頬にケーキを詰め込みながらメニュー表を指さすメイクーモンさんよ。これで終わりです。
ほら食べたらとっとと出るぞ。…おいコラなに注文しようとしてんだレナモン。会計終わってんの! はよ食えや!
二人の口にケーキをぶち込み急いで店を出てその場で解散。レナモンは神社に帰り俺は自宅に…。
「ん、お腹すいた」
口の周りにクリームやチョコつけながらお腹を摩るメイクーモン…はぁ……まだ食べるん? そうだったねスイーツは別腹でしたねえ!
帰ろうと思えば帰れる。
腹が減っているのは不本意ながら同意。
コーヒーしか飲んでない。
……自宅で食えばいいだけ…はぁ…ご飯買ってあげるからそれでいい?
「ん、デジ肉」
…うん、どうやってメイクーモンをデジタルワールドへ返品すればいいんだ? 運良くデジタルゲートが現れてくれたりしない?
見つけたら直ぐに放り込むよ? マジで?
メイクーモンの口元を拭いつつ近くにコンビニへ向かう、が。
「ごめんなさい!」
呼ばれて振り返る。美少女が立っていた。
……?????????
「ん、…ん?」
………………ああ、
もう帰ったと…ばかり。……どうしたん、だ?
「実は忘れていたことがあって…テイマーくん。一緒に着いてきてくれないかな?」
…あー…ああ、わかった。
メイクーモンは……。
「ん、ついてく」
服をギュッと握りしめ見つめてくる。
…ありがとうメイクーモン。
案内頼むよ。……レナモン。
「うん!」
……ははっ…笑うしかねえ。
レナモンの後をついていく。
次第に人の数は減っていき遂には人っ子一人いなくなる。
と、いうか此処は……。
少し前までは幽霊が出ると噂され…一度行ったことのある…廃墟だった。
相変わらず窓は割れていて瓦礫やら壊れた家具が散乱している。
ここでいいんじゃないか?
どんどんと奥へ進むレナモンを止める。
「……そうだね」
立ち止まり振り返る。
……うん、漸く分かったよ。
レナモンはやっぱポンコツだったし男達が告白やナンパする理由も理解できたよ。想像を遥かに超えていた。
しかしこんな喋り方なんだなぁ。…ギャップが凄いことになってんよ。おもろいよこれ。
「ん、テイマー」
腕から抜け出し前に立つ。
レナモン…いいや、美少女に化けたファングモンから目を離さず警戒態勢。
「……わざと騙されたか。流石はテイマーだ」
ぐにゃりと視界が歪み…戻った時には赤い狼が鎮座していた。
騙される云々の話…なんだよ。
実はレナモンは俺のことをテイマーって呼ばなかったり、と変に真面目だったりすんだよな。
……色々と聞きたいけど。そういう訳にはいかないよな。
人気の無い廃墟にこの状況。…何も起きないはずもなく、ね。
沈黙がはじまる。
メイクーモンとファングモンはレベルだけなら同じ、だとして…。
ファングモンは真面目に戦う必要がない。
……俺を狙えばいいんだからさ。
だからといってメイクーモンの足枷になるつもりはない。…体は丈夫な方だし…何回争いに巻き込まれたと思ってんだ。
…油断はしない。メイクーモンをできるだけサポートしていこう。
互いに距離を詰めていく。
いつ戦闘が起きてもおかしくなっ……!
「ヒーホー! 驚け…ホォォッ!?!?」
二人の間に突然の来訪者…なんだけどねえ。
分かる…分かるんだよ。君は驚かす事に命をかけていることは。
ただ…ね?
間が悪すぎたんだよね。
…うん、ドンマイ。
ファングモンの牙に頭を噛まれメイクーモンの爪に切り裂かれたバケモンに黙祷を捧げた。
今日のデジモン図鑑(仮)
名前/バケモン
レベル/成熟期
タイプ/ゴースト型
属性/ウィルス
とある廃墟に住み着くデジモン。肝試しにくる人達を驚かし続け巷では有名な心霊廃墟として有名になった。悪戯や驚かす事に命をかけていて時には本当に死にかけることがあるらしい。