今日はサボりにサボってリビングでゴロゴロしていた。両親に連絡されちゃ困るから欠席理由を適当にでっち上げている。
爆速で連絡がくるか自宅まで凸ってくるの二択が嫌でも想像できる。過保護…だよなぁ。
……隣にもいるんすけどね。過保護なお猫様が。グリグリと押し付ける様に全身で寄りかかっている。
「んふふ〜」
ご機嫌な笑顔を晒すだけ。時折俺が弄るスマホの画面を覗き込むぐらい。…正直暑い。
テイルモンは成熟期の中でもかなり小さいから重さは感じないけど。
もう夜の時間、あっという間だった。……久々に昼ご飯は出前を、俺は蕎麦を食べたかったんだけどテイルモンがピザを食べたいといい軽い口論になった。
勢いに任せ太るぞ? と口に出した瞬間マウント取られてしこたまポコポコ叩かれた。
肉球が柔らかかっただけだった。かなり…いんや、じゃあれ合っただけかもしれない。最終的に折れてピザになったけどさ。
マジでこんなに無駄を自覚しながら過ごしたのはいつぶりだろう。疲れは取れた。
明日は明日でレナモンと話さなきゃいけないしなぁ。…リラックスタイムは必要だった。
少し早いけど風呂に入って寝る準備でも──
ピンポーン、とインターホンが鳴り響く。
「…こんな時間に」
若干低くなったテイルモンの呟き。
確かにこんな時間に珍しい。待たせるのもなんだし立ち上がり玄関へ向かう。
はーい、どちら様で……
「………………」
ドアを開けたらデカい黄色い熊のぬいぐるみ? が立っていた。……そっとドアを閉める。
…………。
気のせい、か。……だよなぁ。
ドアを開ける。……うん、デカイ黄色い熊のぬいぐるみが立っている。さっきよりも強くドアを閉めた。
「どうしたの?」
異変に気付いたテイルモン。
…ああ、いや……なんか、うん。
どう答えりゃいいのか分からない。
説明できない…え? ドユコト?
これだけは言える。ドアを開けたことに後悔した。
「うん? 不審者でもいるの?」
不審なのは…間違いないです。
「ふーん?」
テイルモンは首を傾げドアを開ける…ことはなく覗き穴から外の様子を伺った。数秒覗くと…背中から不機嫌なオーラが滲み出た。
「なんで
俺が聞きてえんだわ。こんなの初めてだぞ?
月明かりに照らされ逆光している黄色い熊のぬいぐるみとか恐怖以外のなにものでもない。
ホラーゲームの演出かと思ったわ。
……もんざえモン。全てが謎に包まれているデジモン。どれぐらい謎かというとロイヤルナイツより謎が多いと思う。
背中にチャックがあることから中に誰かが入ってるなんて噂もあるらしい。…心当たりはあるっちゃあるが。
困った。…もんざえモンは完全体デジモン。
もんざえモンに敵意があり戦闘が起きた場合、大変どころじゃないっすねえ。半壊してもおかしくない。半壊ならまだマシだろうね。新聞の一面待ったナシ。
ドアなんて簡単にぶち壊せそうなことから戦闘の意思はないみたいだけどさ。
うわっ…また鳴った。…覗き穴から覗いても…もんざえモンだけだよなぁ。無視するのは逆効果……穏便に済ます方法は話し合いだ。
「ちょっと行ってくる」
話を聞いてましたか? 話し合いをすんだぞ? なに
「話し合いができると思わないんだけど」
それは偏見だろ。驚いてドア閉めたんは俺だし誠心誠意聞く姿勢を見せれば──
すぅ……はぁ……ドアを開ける。
「……………」
さっきはすみません。御用はなんでしょうか?
「……………」
あのー聞こえてますか? どんな御用で?
「……………」
はい、話し合いになりませんね。どうしようかと思考を巡らせる。うーん、寡黙なもんざえモンは初めてなんだよなぁ。
旅中で出会ったもんざえモンは遊びをこよなく愛していた。
幼いデジモンたちにおもちゃを配ったり大人のデジモンたちの娯楽にコロシアムを設立したりと、遊戯にとことん力を入れる活力溢れたデジモンだったよ。
俺もちょこっと口を出したりしたっけか?
コロシアムの制度がなんでもありの無差別級だったから階級をLvに分けたら誰もが参加しやすいかも? とか、ルールを設けた方が戦略の幅が広がるんじゃね? とか、さ。
短期間ながら色濃く残った思い出の一つ。
……みんな元気にしているかな。しみじみ思っている、と。
「テイマー!!」
テイルモンの切羽詰まった声で我に返る。…もんざえモンが両腕を広げ眼前まで迫っていたことに気づいた時にゃ既に手遅れだった。
「………………」
ガッ! と掴まれギュッ! と抱き締められた。……これ絞め殺される奴? ……ん?? 骨が軋む音も臓物がぶちまけられる感覚もない。
ただ普通に……抱き締めているだけ。背後から殺気を感じるぐらいで他は何もない。身動ぎをしても抜け出せないか。……後が怖いなぁ。
「…………あいたかった」
理解できない言葉。何を言って……。
「ありがとう」
為す術もなく持ち上げられて頭を撫でられる。ふわふわで柔らかく柔軟剤みたいな香りが漂っていた。
「テイマーを離せ!」
テイルモンが飛びかかるがビクともしない。必死な顔から本気で引き剥がそうとしているのが分かる。もんざえモンは毛程も気にせず俺を撫でくりまわすだけ。
うん、意味が分からないんだよなぁ。
「ううっ!! ぐぬぅっ!!」
諦めず引き剥がそうと力を入れるテイルモン。ピクリとも動かない。
それから数分間もんざえモンに拘束され撫で回された。満足したもんざえモンは俺を離して一歩後ろへ下がる。
すかさずテイルモンが間に入り込み臨戦態勢。爪を構えて猫のように毛を逆立て威嚇をする。……テイルモン落ち着いて俺は無事だから。
「………………」
もんざえモンは何を言わず去っていく。
後ろ姿は次第に小さくなると闇の中へ溶けるように消えていった。
途端の沈黙が襲う。
その場で座り込み大きく息を吐く。
「大丈夫…?」
テイルモンが駆け寄りぺたぺたと体を触る。
大丈夫……だけど、なんだったんだろうなぁ。
「ボクが聞きたいよ。本当に心配したんだよ? ……何もなくてよかった」
安息の息を漏らし俺を立ち上がらせてくれた。
ホントになぁ…あのまま圧殺されてもおかしくなかったしなぁ。
「…? いや…あのもんざえモンはそんなんじゃなくて…」
……テイルモン?
「あ、ううん。…なんでもない」
お、おう。…なんか締まらない終わり。んまぁ…俺もテイルモンも無事だったし良しとしましょうか。はぁ…疲れが取れたと思ったら…どっと疲れが押し寄せてきたよ。
風呂入って寝ましょうねー。
風呂に入って床に就く。その間もテイルモンは何か真剣に考え込んでいた。
聞くことはしなかった。邪魔をするのも悪いしテイルモンから話をしてくれるだろうと、本音は眠過ぎて布団に入った瞬間意識飛ばして聞くことできなかっただけだったんだけどさ。
事は進んで翌日。
放課後レナモンを屋上へ呼び出した。
待っていると顔を真っ赤にさせたレナモンがモジモジとぎこちない歩行でやってきた。
「……来た、が。その……」
落ち着きなく視線が右往左往している。
…もう察しているみたいだね。
念の為に言っておこう。
実は君の────
「わーわー! ま、待ってくれ……! 心の準備をさせてくれないか…!」
両手を振って止められる。……正体に気づかれるってのはレナモンにとっちゃ屈辱だろう。
でもそんなに慌てることかい? 目をグルグルさせてしどろもどろになっているけど…。まぁ心の準備が必要なら待つけどさ。
レナモンは目を閉じ深呼吸を繰り返していく。覚悟を決めたのか真剣な眼差しで見据えた。
改めて君の────
「わ、私も貴方のことが好きだ」
正体がレナモンってことは分かってる……ん?
「だ、だからよろしくお願……え?」
……ん? んんんんんん?????
今なんて……? 俺のことが…レナモンさん? なんかぷるぷる震えてますが大丈夫……?
ちょっと待って! その振り上げた拳をこちらに向けないでくださらな──
視界が揺れる。意識を失う間際に見たのは潤んだ瞳で頬を紅色させたレナモンだった。
今日のデジモン図鑑(仮)
名前/もんざえモン
レベル/完全体
タイプ/パペット型
属性/ワクチン
全てが謎に包まれているデジモン。ホラゲーみたいな演出で登場したがテイマーを撫でくりまわしただけだった。テイルモンが本気で引き剥がそうとしてもビクともしなかったことからかなり強い個体。
次回は未定です。次はウィルス種の誰か書いてみたいですね。