…………。
頭が重い。
……どうすっかねえ。
「んー? どうしたのー?」
間延びした幼声が頭上から聞こえる。
…お前が頭に居座ってんから重いんだよ。
下校中だってのにスニーキングミッションしなきゃならんのか。
しかも新宿で…頭痛もしてきた。
何故こんなことが起きているのか。…やぶ蛇を突っついた結果このザマですわ。
明日から夏休みで学校中が浮き足立っていた。……レナモンやコックリさんの一件なんてもう忘れているだろう。七十五日もかからなかったよ。
終業式で帰りも早い。クラスの大半が集まってカラオケやボウリングに向かっていることでしょう。……誘われたが丁寧に断らせてもらった。
たまにはハメを外してもいいかと思ったりしたんだけどさ。……誘ってきたのがレナモンだったからなぁ。
視線が辛いのなんの。乗ったら後々面倒な事になる。…断ったら断ったでレナモンが大袈裟に残念がるしさ。…更に視線が殺気に進化。どないしろっちゅうねん…どっちに転んでも詰みだろこれ。
レナモンさん? なんで距離感おかしいの?
コックリさんの翌日から無防備に向かってくんのよ。少しは警戒しろっていったよな?
俺やレナモン目線だと問題ないけど他者から見りゃ大問題なの分かって……ないわな。
ガワだけは美少女らしいから節度を持って行動し立場を自覚してくれないかガチでよ。……お前のせいで変に目立って絡まれるようになってんだかんな?
大半がレナモン関係。告白する為のお膳立てをして欲しい? ふざけんな勝手にやれや。好きになった? だからどうした? 俺にいってなんになんだよ?
こちとら目に見えるのは狐なんじゃボケェ!
イライラが止まらない。このままだと憤死するかもしれん。……落ち着いて深呼吸…できるかよ。
頭にしがみつくデジモン。容姿は大人気のパタモンと全く同じだが色は紫色。見た目こそ愛くるしい姿をしているが中身はかなりの捻くれ者とされ短気で喧嘩っぱやい肉体派。
名前は
いや……この場合は……うーん、違う。
改めて聞くんだけど……名前は?
「
必死に大きな耳を羽ばたかせ頭から落ちてくる……パタモン? を受け止める。…勘違いしているのか?
だけど…記憶が確かならパタモンの進化前はトコモンでツカイモンの進化前はパグモンのはずなんだよ。
色合いからどう見てもツカイモン。ペンキをひっ被った様子もないし…分かんね。
……まぁいいか。早くツカイモンを住処に帰せばいいだけの話。
話を聞けば他のデジモンと身を寄せ合って暮らしているらしい。食料を探していたら路地裏のゴミ箱に頭を突っ込んで抜け出せなくなり、それを偶然見つけて引っ張り出した。
……バケモンと同じパターンだろう。少なくとも複数のデジモンがこの様な生活を余儀なくされている、か。
ツカイモンだけならまだしも…な。
夏休み前なのに……うし、腹括るか。…ちょっと待ってろ。
「…え?」
キョトンと傾げるツカイモンを置いて路地裏から飛び出しコンビニに駆け込む。
おにぎりから弁当、お菓子に飲料を手当り次第買い物カゴにぶち込みカウンターへ。店員がドン引いてるが気にせず会計に進む。……あ〜財布が軽くなる音〜。
馬鹿ほど入った袋を両手に持ち路地裏に戻る。
ツカイモンはあんぐりと口を開けていた。
「…これ」
腹空かせてたのは聞いていた。どれだけのデジモンがいるか分からんが足りないってことはないと思う…多分。
んじゃ住処まで案内してくれ。
「……わ、わかったよー…」
…? ……一瞬顔を顰めた気が…。
ツカイモンの後をついていく。路地裏、ビルの間を抜けてたどり着いた先は廃館だった。木々が空を遮り薄暗く生暖かい空気が錆びた鉄のような匂いを飛ばしていく。
元は
原形は辛うじて留めており窓ガラス割れ、ツタが建物を覆っている。解体されずに朽ちた成れの果て……取り壊す費用をケチったんだな。以前に新宿にこんな所あったことに驚きだ。
スマホで映画が見れる現代。時代の波に乗れず自然と廃れ消えていく、か。……なんかしんみりとしてしまう。それでも今はデジモン達の住処になっている。感慨深いな。
「こ、ここまでで大丈夫だよー」
廃館に足を進めるとツカイモンが止めに入る。
いや、ツカイモンじゃ袋を持てないだろう。この廃館の主にも挨拶をしておきたいし。
……それとも
「…! ……そ、それは…」
口篭るツカイモンに確信を得た。…そりゃ…そうだろうな。
廃館越しに感じる無数の気配と殺気。その中の一つの殺気は少しでも進めば命を刈り取られる。それほどのプレッシャーをこの身に感じている。
冷や汗が吹き出し額から頬へ伝っていく。
建物の影、木々の影、窓の奥から顔を覗かせる…
寄せ合うどころじゃない。大所帯だなこりゃ…。
しかし殺気…と、なんだ? この
…もしかして俺のことを知っているデジモン? だとしたら旅時代だろう? 心当たりが多過ぎて特定なんてできたもんじゃない。
この数のツカイモンだ。成熟期はない……完全体以上のウィルス種、か。
…これだけの殺気を放っておいて手を出してこない。ツカイモン達も同じく。事を荒らげるつもりはないみたいだな。…いや、瞬殺されるのがオチなんだけどさ。ただの人間ぞ? 普通に死ぬぞ?
当時の仲間がアホ程強かっただけよ。ロイヤルナイツのガンクゥモンにロイヤルナイツ候補のバオハックモン。シスタモン姉妹にテイルモン。
道中でバオハックモンはセイバーハックモンに進化しシスタモン姉妹は覚醒まで至った。だがそれは幾つもの修羅場を潜り抜けた果てに…。
どれだけ悲惨な光景を目にしたことか。目の前で奪われる命、必死に手を伸ばせど届かない。何度も…何度も失っていく。今もセイバーハックモンは…いんやロイヤルナイツになったであろう彼は救いの手を差し伸べているんだろうな。
そんで修羅場を潜り抜けたのは俺も同じだ。何度殺されかけたことか。
…感謝している。この経験がなきゃ今頃泡吹いて倒れてるか気が触れているだろうよ。……ぶっちゃけキツイけどさ。
お互いに不干渉。これが最善策だな。
……薄々気付いている。ツカイモン達を使い此処に人間を誘き寄せて──
要らぬ考察だ。
「あ、う…」
ぷるぷる震えているツカイモン。
袋を置き、抱えて撫でる。少しずつ落ち着いていき最後は震えは治まり目を細めていた。
…身内には優しくしろよな。
誰だか知らないが今からはお互いに不干渉だ。
お前が何をしているのか微塵も興味ないし止めるつもりもない。
俺はツカイモンと出会ってないし此処に来ていない。お前と出会ってないしお前のことは何も知らない……それでいいだろう?
当然返事なんて返ってこない。
複雑そうなツカイモンを他所に言葉を続ける。
ただ意図しても意図しなくても俺の身内に手を出せば…その時は──
これ、駄目になるから食ってくれ。それだけだ……。
ツカイモンを離し袋に指をさす。ったく…とんだ出費だわ。
「あ、ま…まって……!」
ツカイモンの呼び止める声。を無視して廃館から出ていく。
……はぁ…厄日な一日だった。これならレナモンと行きゃ良かったと今なら心底思えるぞおい。
帰…電車賃ないわ。ははは……はぁ…キャッシュカードは自宅だなー。…項垂れながら歩いて帰った。自宅に着いたのは夜だった。
テイルモンに軽く注意をされ夕飯作りに入る。
「
テイルモンがソファに座り珍しくテレビでニュースを見ていた。
……都心を中心に立て続けに行方不明…これで9人目。
全員が未成年で小学生から高校生。…
行方不明者の1人の家族との最後の通話記録には不思議な言葉が残っていた。…それは──
「
テイルモンの目が鋭くなる。
……ご飯できたよ。食べよっか。
料理を皿に盛り付けテーブルに並べる。
「……分かった。この匂いは…生姜焼き! 食べよ食べよ!」
だらしなく頬を緩ませる。
テレビを消してお行儀良く椅子に座った。
笑みが…零れてしまう。
わかったわかったご飯は大盛りだね。
…ごめん、ありがとうテイルモン。
「ん? どうした急に」
…なんでもない。
「ふふっ…変なの」
よし! 明日から夏休みだからうん…と!
……楽しまないとな。
今日のデジモン図鑑(仮)
名前/ツカイモン
レベル/成長期
タイプ/哺乳類型
属性/ウィルス
何故かパタモンを自称している。のほほんとマイペースだが…それは本当の素顔なのかそれは神のみぞ知る。テイマーの底抜けのお人好しっぷりには心底驚いていた。一人の主?と沢山のツカイモンと暮らしているらしい。
後味が悪い…次回から夏休み編にしてまったりしていきたいですね。