都心は年中ごたごたしている。
夏休み真っ只中で尚際立つだろう。
そんで俺とテイルモンは二日後には旅行に行く。……折角の長期休み。自宅でゴロゴロするのは勿体ない。辺境の田舎にある旅館を予約をした。
……そこしか予約できなかったが正しいか。サマーシーズンでリゾート地のホテルや旅館は繁忙期。予約が取れるはずもなく唯一予約できたのがこの旅館だった。
かなり老舗旅館で丁度泊まる時期には祭りごとがあるらしい。ただ知名度はそれほどなく隠れた名旅館と言えばいいか。…人も少なさそうだし息抜きには持ってこい。
んでテイルモンの変装服を買いに渋谷へと足を運んでいたところ……人集りができていたんだよね。
渋谷でイベントなんかあったっけ? とSNSで調べた。……調べなきゃ良かった。
「なにかあったの?」
背伸びをし覗き込もうとするテイルモンの目の前に無言でスマホを出す。ピシッと音を立てて固まった。
どうやら……カボチャを被り白いスーツで着飾った紳士が渋谷を徘徊しているだとか。
道行く女性達を口説いているらしい。年齢もバラつきが多く幼いレディからご年配の淑女まで全守備範囲内。
「
帽子の影に隠れているが顔引き攣らせてるのは分かったわ。大丈夫じゃないよねえ。…ま、まさか……ねぇ。
今の所は被害はなく、なんなら明朗ながら時々見せるおちゃめな振る舞いが人気を集め渋谷の名物と化しているんだと。誠実で彼氏持ちや夫婦等には手を出してない模様。
男性相手にも真摯に応対する…か。カボチャの紳士はド派手な手品で人々を魅了する。
最後にはカボチャ料理を作り周囲の人々にご馳走すんだと…物凄い美味しいらしくもう一度食べる為に渋谷に行き探す者も居るんだとか。
…ついさっきトレンドに入ってたのを確認したよ。季節外れのハロウィン紳士ね…ははっ。
物の見事に全て一致してしまうんよこれ。
ま、まだ! …この目で見るまでは他人の空似の可能性があ……。
記事が投稿された。…ツーショット写真。
満面な笑みを浮かべた少女の隣には見覚えしかねえカボチャ頭。…特徴的なシルクハットと杖は……スゥー…。
「今すぐ帰ろう」
そうだ…な。まだ時間はあるし他の場所で買えばいいだけ。
人集りから距離を取り駅へと向かう。……まさかこっちに来ているとは思わなかったよ。
見た目は不審者だがレナモンと同じく無害だからなんら問題はない…けど!
デジタルワールドなら兎も角、現実世界では関わりたくないんだよなぁ。
「おや、貴殿は…成長なされていますがテイマー殿……と貴女は純白の──」
運命は残酷みたいだ。
うわっ苦虫を噛み潰したような顔。テイルモン…気持ちは分かる!
人集りが縦に割れていく。割れた道から気品溢れる立ち振る舞いで姿を現したカボチャ頭の紳士。
見つかったし諦めるか。
あー…久しぶ──
「人違いです」
テイルモン?
「おやおや笑顔が足りていませんね? でしたら軽い手品でもいたしましょうか」
「結構です」
敬語のテイルモンとか長らく見てないぞ。
「これは手厳しい。それ故に確証を得られましょう。息災でしたかな?」
「……おかげさまでたった今気分は下がりました」
「それは結構ですね」
「そのカボチャ頭叩き割りましょうか?」
はは……ははは……はぁ。
久し振りだな……
「またお会いできて光栄ですよテイマー殿」
腕を胸に当て静かな一礼。とても洗礼されており思わず感心してしまうほど。
相変わらずというかなんというか……。
気になっていることが一つだけある、が。
「場所を変えましょうか。ここでは積もる話もできません」
「ボクにはカボチャと積もる話はないけど?」
目を離した隙にノーブルパンプモンの顔面をぶっ飛ばしそうなテイルモンがいる手前……言えねえ。
「相変わらずですね。純白の」
テイルモンがカボチャ頭に向けて殴りかかった。
だがテイルモンの攻撃を杖で巧みにいなし深々と頭を下げる。
「失礼致しましたテイルモン」
「次それで呼んだら晩御飯にするから」
テイルモンふんっと鼻を鳴らし背を向ける。
二人を連れて急いで近場の喫茶店で転がり込んだ。
窓際の席へ案内され俺とテイルモンはノーブルパンプと向かい合う形で席に座る。
俺はコーヒー、ノーブルパンプモンは紅茶。テイルモンはオレンジジュースとショートケーキチョコケーキチーズケーキ……どれだけ頼むん?
…注文を済ませて話にはい……来るの早すぎない? 1分もかかってないんだけど? 最近の喫茶店は凄いんだなぁ。
改めてカボチャの紳士ことノーブルパンプモン。…これでも究極体デジモン。
旅の中で出会ったデジモンで旅芸人だったんだ。デジタルワールドを笑顔で満たす為に各地を渡り歩いていた。
第一印象は良かったと思う。一時は共に旅をした仲で親しみやすく話しやすかったし直ぐに打ち解け合うことができた。
懐柔される中でテイルモンとガンクゥモンだけは不信感から警戒を続けていた。…今になったら当然というか…なんていうか。
そういや手品も教えて貰ったこともあったな。簡単なものから少し複雑なものまで…。
旅芸人と称しているだけありプロ級だったよ。一部はマジで種も仕掛けもないんだけどさ。
……ノーブルパンプモンは中立に位置する。正義や悪に染まり寄ることは一切無く中立を貫いている。敵でもないし味方でもない、が。
笑顔の為ならばどんな事でもする。それに問題があった。……流石に他者を犠牲にするような所業はしてないけど。
もう一度言おう。ノーブルパンプモンは中立である。そしてデジタルワールドを笑顔で満たすのが目的だ。
笑顔にする対象は全てのデジモン。…正義や悪なんて関係ない。……面倒いから簡潔に言うと……戦場を引っ掻き回すんだよこのカボチャ。
大道芸を始めたりするんすよ。しかもそん時重傷だった俺を引き摺り助手をさせたり幼いデジモンを観客にする為に引き連れたり……戦場のど真ん中でだぞ?
何が任意じゃい! 断りたくもデジモンを人質にされちゃ行くしかないだろぉ!!
三日寝込んだわ!!
これにはテイルモンやバオハックモンがブチ切れて翌日にはノーブルパンプモンは追放されたんだけどさ。
けど行く先々で偶然には出来すぎる程の再会を果たし巻き込まれることは日常茶飯事だった。
…はぁ……本人は至って真面目なのがタチ悪い。…ぶっちゃけ嫌いではない。
笑顔にしたいのは本当みたいだし現にこっちでも人々を笑顔にしている。その気持ちは本物なんだろう。
ただ関わり合いにはなりたくない。それだけなんだよなぁ…。ああ、忘れてた……。
……今は
「お気づきでしたか」
仲間が一人いた。ノーブルパンプモンと再会した時に出会ったんだ。彼女は少し変わっているが常識人で…身代わ…ストッパーとして役割を果たしていたよ。
なにより歌声が綺麗だった。彼女の美声はありとあらゆるデジモンを魅了していた。
一緒に歌ったこともあったかな。現実世界の音楽に興味津々で色々と教えてあげたっけ。ジャンル問わずに……デスメタルを歌った時は教えた事を少し後悔した。
「…んぐっ…そいや
ケーキを食べながらテイルモンが問う。ノーブルパンプモンはため息を吐いた。
「セイレーンモンはこっちの世界へ来ています。音楽とテイマー殿に会うためにです」
…は? ちょテイルモン落ち着いて落ち着いて。……マジですか?
「反応を見るにまだお会いではないようで」
そりゃ…な? つまりセイレーンモンの後を追ってこっちに?
「いえ個人的な理由です。セイレーンモンとは利害の一致で行動してたまで」
そうなん? 仲良さそうに…いや、セイレーンモンがノーブルパンプモンに振り回されてただけだった。
「この世界はデジタルワールド以上に音楽が身近に存在します。セイレーンモンにとっては楽園に近いことでしょう」
……音楽の事になると目の色変わるもんな。流石はデジモン界の歌姫。
「これで失礼致しましょうか。またお会いできることを楽しみにしていますよ」
紅茶を飲み干し席を立ち去っていくノーブルパンプモン。………はぁ、疲れた。色んなことが起こり過ぎだっての……!
旅行前で良かった。癒えた後に相手してたらストレスで引きこもってたかもしれん。
…てかシレッとただ飲みして行きやがったあのカボチャ…!
帰りに寄ろうと思ったけど大人しく明日に回そう。テイルモン帰る──
「これとこれと…あとこれとこれを」
テイルモン…? なに追加注文してんの?
まだケーキ食べるつもり? 二日後には旅行なんだけど?
あー! ストップ! ここまで! ここまででお願いします! これ以上はまた財布が……!!
……旅行を終えたらバイトしよう。
今日のデジモン図鑑(仮)
名前/ノーブルパンプモン
レベル/究極体
タイプ/パペット型
属性/データ
笑顔最優先のデジモン紳士。テイマーを誰よりもトラブルに巻き込んだトラブルメーカー。テイルモンが最も苦手としガンクゥモンからも得体の知れない奴と言われている。ある戦時中に大道芸を披露し両軍から狙われたが逆に返り討ちにした逸話がある。