「……はわぁ…!」
目をキラキラとさせてオーディオ売り場を見て回るセイレーンモン。とても微笑ましい光景。…これだけで癒されるしバイトをしたかいがあったもの。
……十連勤でもなんとかなるもんだよな。
これも若さって奴……五年間の旅と比べりゃ…なぁ。
苦もなく何もなく仕事は終わった。
ただ面倒なことは多々あり疲れたよ。
……レナモンって学校外でも有名だったんだよな。はは…舐めてたわ…。
他校から大学までだぞ? …お前を見くびっていたよ。…ただ俺にはレナモンにしか見えてねえんだよなぁ。何回でも言ってやる。
……どう見てもレナモンなんだよ。
知らぬが仏なのか…レナモンの正体を知ってなお好きだと言える奴がいるなら全力で協力してやるよ。
レナモンとは連絡先を交換していてちょこちょこ電話とメッセージ飛ばしてくる。……殆どが外出のお誘いでさ。
断り続けるのもなんだと思い一度だけ誘いに乗ってみたが待ち合わせからナンパされてたからな。……彼氏ってことで追い払ったがレナモンはレナモンで調子に乗る。
腕に抱きつく、あと尻尾でぶんぶんと叩く。……根元から引っこ抜いてやろか?
何が好きで外でも妬みと殺意を向けられなきゃいかんのか。……悪気が無いのは分かっている。
姿を変えてもらおうにも学校に通っている都合上難しいのは分かる。……美少女の方が色々と好都合だろうけど同時に危険も付き纏うんだ。
レナモンが人間相手に負けることはないだろうから心配してないが……巻き込むのはやめてくれ。ただ切実に願う。
兎も角こうして見て回るだけで気分転換できるわな。久々に平穏な日常を送ることができた。……非日常はお腹いっぱいだ。これ以上は吐くぞ。
「…むむぅ」
セイレーンモンはヘッドフォンを見つめている。有名どころから無名までひとつひとつじっくりと吟味していた。
これは相当の時間を有するかもしれない。
適当に良さげな物を持ってくるような事はしないだろうし……プレゼントすると言ったらそれはもう喜んでくれてさ。
頬に手を当て上機嫌にスキップを踏むぐらいには大袈裟な反応を見せてくれた。……本人はそれぐらい嬉しかったのだと。
妹がいたらこんな感じだったのかもしれない。夏休みだけでも穏やかな日常が続きますように……続かないな。
それにしてもテイルモンがやってるゲームの影響を受けたのかご主人様と呼ばれたときゃ時が止まったよ。
意味は分かっていると思う。…ただ…多分それはまた違う意味のご主人様になると思うんすよね。
ははは…色んなゲームやってるからなぁ。暇潰しにゲームすることがあるがその度にゲームソフトが増えているんだよ。
ジャンルもバラバラで様々なゲームが棚にズラリと並べられてある。最近は控えめになっていたけど…今は新作ゲームを買いにゲーム売り場に足を運んでるし時間の問題。
「あ、あの……」
セイレーンモンがヘッドフォンを持ってくる。え? こんなに高……ンンっ! ……決まったみたいだね。
「はい!」
カウンターに向かい会計を済ます。
紙袋を大事そうに抱えて、ころころと笑い顔をほころばせるセイレーンモン。
甘やかしてしまいそう…だが、セイレーンモンが真面目な上にこちらが正されそうだな。
朝食は任せっきりになっちまったよね。
俺より早起きだから起きた時には朝食作ってるか、出来上がってて俺の寝顔をまじまじと見ているかのどっちかだな。
顔をぺたぺたと触られた時もあったけど…狸寝入りできずに起きて目と目があった瞬間に爆速で部屋の隅っこに光の速度でカッ飛んでいったのは忘れない。
……聞けば人肌が恋しく隣で眠るテイルモンが羨ましくてやったことだった、と恥ずかしそうに教えてくれた。
後日から二人に挟まって寝苦しい毎日を送っているよ、うん。テイルモンはいつも通りだとしてセイレーンモンは背中にしがみついて眠るようになった。
寝返りがうてないからちょっとキツい。
……前後にぬくもりを感じられ安心感を得られる。結果プラマイゼロ、か。
後はテイルモンを待つだけ。
「お待たせー」
両手に紙袋を持ったテイルモン。
あの……これは…?
中を覗くとゲームソフトとコントローラー。
周辺機器がぶち込まれてるんすけどレシートを見せて貰っても……?
…セイレーンモンのヘッドフォンよりは…高くない、か。それでも誤差なんだけど?
バイト代綺麗に吹き飛んだんだけど?
ま、まぁ…いっか。何か買う予定もなかったし帰りにご飯を食べようと思ってただけだし。
それぐらいは残ってるし問題ない、か。
二人を連れてフードコートへ。
お腹を満たして駅に向かう。
各々が別料理を食べたね。俺はうどんを、テイルモンはラーメンと餃子とチャーハン…うん。セイレーンモンはヘッドフォンの時のようにサンプルを眺めた結果サンドイッチを。
ただ他の料理も気になったのか互いの料理を食べさせあった感じになるのだろうか。…サンドイッチも美味しかったが他の料理もお気に召したらしい。
……食器を返す際に調理方法を聞きに行った時は慌てて止めたけどね。店員さん困惑してたけど微笑ましそうにしてたよ。
セイレーンモンは人当たりが良く声も綺麗だから万人受けするんだろう。飲み物オマケされてたしね。
穏やかなひとときに満足しながら駅内に入った。通路を歩く中…テイルモンが鼻をピクリとさせセイレーンモンも不安げな顔をする。
「…テイマーさん」
違和感…じゃない異変に気づいた。
人が多過ぎる。…違う、通路の先で人が立ち往生している。またその先には通路全体がブルーシートで覆われていた。
嫌でも分かってしまう程に焦げ臭い。
……通り抜けできないのか。
何かの事件が起こったのか野次馬がざわめきたっていた。
なんとか写真を収めようと腕を伸ばしブルーシートの中を撮ろうと試みる者もいる。
「ブルーシートの中…人が黒焦げで…!」
「もしかしてニュースにもなってる未確認生命体とか…神隠しもきっとその未確認生命体のせいなのよ!」
ノイズのように人混みから聞こえる断片的な言葉。……二人の顔が曇る。俺も思わず顔を顰めた。
……幸い通り抜けることはなく電車に乗ることができる。
無視をしてそのまま見て見ぬふりが一番。
事なかれ主義だ。
全てのデジモンがテイルモンやセイレーンモンの様にはいかない。
はぁ……怖いのは人間とデジモンの対立。
勝敗は分かりきっている。全く、ままならないものだよ…な……?
視線を感じた。
思わず振り返る。
「テイマー? どうしたの」
…人混みがあるだけ……だが…地面には似つかわしくない
ちょっとすみません!
人混みに入り込みしゃがむ。人の罵声や足蹴り足踏みを受けながらなんとか掴み拾い上げた。
「テ、テイマー!」
「テイマーさん!? 大丈夫ですか!」
駆け寄る二人に人混みは避け輪を作る。
手を広げ出てきたのは…
ポケットに捻りこんで立ち上がる。
…………大丈夫だよ。
帰ろう、か。
服を払いホームに向かい電車に乗り込む。
車内でもあの事件の話が飛び交っていた。
寄り道はせずに自宅に帰る。
テイルモンは新作ゲームと周辺機器を設置しご満悦。セイレーンモンはヘッドフォンを使い貸したスマホで音楽を聴いている。
二人を見て頬を緩めながらポケットから赤い毛を取り出しテーブルに置いた。
……毛質から人間じゃない。
動物の毛なのは分かった。ただ赤い毛の動物は存在しないはず。
塗料の匂いもしないから元から赤いんだろう。……赤い…動物、のデジモン…か。
だとしたら…なんで………。
「テイマー! 一緒にゲームやろ!」
…だからコントローラーを買ったのか。
いいよ。一緒にやろう……。
セイレーンモンは…今はいいかな。
赤い毛をゴミ箱に捨ててテイルモンとゲームを楽しんだ。画面分割のシューティングゲーム、か。
こういうゲームは苦手なんだよな。
テイルモンは得意みたいだしコツを教えてもらおう。
今回のデジモン図鑑(仮)
名前/セイレーンモン
レベル/完全体
タイプ/神人型
属性/データ
デジタルワールドの歌姫。歌、楽器、音楽の話になると早口饒舌になる。おっちょこちょいのマイペースで電車路線間違えた挙句に寝過ごしやばーい村にたどり着き、そん中でも呑気に歌を歌うぐらいには無警戒で無防備。家事全般はお手の物。
身の回りで事件が起きすぎてやばくなりそうです