ダンジョンに可愛いを求めるのは間違っているだろうか 作:霜降り
英雄になりたかった。
子供の頃は英雄に憧れていた。
父は英雄譚が好きな人で様々な英雄譚を俺に語ってくれる人だった。
大英雄アルバート、アルゴノゥト、そしてフィアナ騎士団。
父の口から紡がれる彼らは格好良く、面白く、美しく、そしてなにより、英雄だった。
今でも目をキラキラさせていた昔の自分は簡単に思い出せる。
そんなだから俺が英雄というものに憧れるのも必然と言えるだろう。
彼らのようにいつか世界を救ってみせるって、そう憧れてた。
そして、子供から青年と言える歳になった。
そして、憧れを捨てた。
英雄に憧れて
ダンジョンに潜る冒険者を目指して
オラリオ、世界の中心とも言えるこの土地を踏めば、現実なんてものを否応なく理解させられた。
何故、憧れを捨てたかなんて一言で説明できる。
俺は、
それだけ、それだけで英雄という憧れを捨てるのに十分であった。
オラリオにおいて
なぜかといえば、
子どものような体格は神様からすれば可愛いとのことだが、こと戦闘においてはデメリットにしかならない。
子どものような体ということは手足が短いということ。
それはつまりリーチ差であり、リーチというのは戦闘において強大な影響を誇る。
また、小さいということはそれだけ軽い。
どうしても一撃一撃が軽くなってしまう。
これが、
生まれ持ったどうしようもない差であった。
これでまだ俺が魔法の才能があるのならマシだった。
後衛職ならば、リーチ差も軽さもある程度は補える。
しかし、俺には魔法の才能もなかった。
それを理解して……させられて、俺は冒険者をやめた。
英雄どころか、まともな冒険者にすらなれない。
英雄に憧れていた、なんてあまりにも滑稽。
その憧れは、鶏が空を夢見るようなものだったのだ。
元から叶わないことが決定づけられた憧れに走って失敗する。
それを滑稽と言わずなんと言う。
そう、だから、俺は憧れを捨てたんだ。
サポーター。
それはその名の通りダンジョンにおいて冒険者をサポートする存在を指す。
その業務は多岐にわたる。
魔石および戦利品の回収、ポーション類などのアイテムの持ち運び、予備の装備の持ち運び……などなど、様々な仕事をこなす必要がある。
まあ、なんだ。
つまりは、雑用係である。
多義に渡るとかなんとか言ったところで、それをするのに何か特別な技能が必要な訳では無い。
だからこそ、俺のような落ちぶれたものには最適な職であった。
その硬い甲殻を力付くで叩き潰した結果、見るも無惨な姿で息絶えたキラーアントにボロボロのナイフを差し込む。
もう、手慣れた作業だ。少し中を弄り、姿を表した魔石を回収する。
それを終えたら次だ。
冒険者、それを諦めた俺はサポーターになった。
サポーターという職は前述の通り、特別な技能というのを要求しない。
強いて言えば魔石の回収にはある程度慣れというものがでるが、それくらいだ。
それ故に冒険者になりきれず、今更真っ当に働く気にもなれない俺にはサポーターというものはあまりにもお誂え向きだった。
「おい!カストル!早くしろ!」
後ろから罵声が飛んでくる。
声の主は巨人かと思うほどの巨体を持ったヒューマンの男。
そんなサポーターの地位は、低い。
オラリオにてサポーターを専門にするものは、ある意味では存在しない。
何故か?サポーターというのは、サポーターになるのではなく、サポーターにならざるおえないものがなるものだからだ。
冒険者を目指したものの一部、夢折れたものが辿り着く墓場。
それがサポーターだ。
だから、サポーターなんてのは存在しない。
みな、本来は冒険者だったのだから。
だから、差別される、嫌悪される。
夢を捨てたダサいやつ、と。
俺を見ながらわかりやすく苛つく男を無視して作業を進める。
彼と俺はほぼ同時期に冒険者を始めた。
つまりは、同期だった。
……いつ、こんな差がついてしまったのだろうか。
決まってる、産まれたときからだ。
蔑むような目線が飛んでくる。
しかし、反抗なんてしない。
そんなことしたって、なんの意味もない。
「もうルーガ!そんなこと言ってる暇あったら警戒しなさい!」
そんな中、大男に注意する少女が一人。
迷宮の中ですら美しい艶のある茶髪を一纏めにした活発そうな少女。
百五十とヒューマンの中でも小さい……それでも俺よりも大きい彼女は、大男相手と並ぶと尚更小さく見える。
しかし、それでも彼女はビビることなく大男を睨みつける。
それも当然、彼女は俺含めた四人パーティにおいて一番の実力者だ。
彼女はヘレネ、うちのファミリア唯一の魔術師であり、俺の先輩であり、そして俺達のファミリアである【レト・ファミリア】団長である。
彼女は魔術師が本職でありながら腕っぷしも強く、前衛の盾役であるルーガですら彼女には逆らえなかった。
「カストル大丈夫?別にそんな急がなくていいからね?」
そんな彼女は天使のような慈悲の笑みを浮かべ、こちらを心配してくれた。
その顔には、心配の顔が浮かんでいて……くそ
その顔が嫌だった。
これなら蔑んで足蹴にされたほうがマシだった。
俺はヘレネのことが好きだった。
きっかけは分からない。けれど、そのまっすぐな姿に引かれた。
英雄のように真っ直ぐな彼女に引かれたんだ。
だからこそ、彼女に庇われたという事実がつらい。
惨め、あまりにも惨めだった。
好きな人に庇われて、好きな人を心配させて、なにが英雄だ。そんなことを夢見てる暇があれば現実を見るべきだったんだ。
心の中でそう毒づく。
けど、そんな本音を彼女に見せるわけにはいかない。
「……あはは、大丈夫大丈夫。もう終わるよ」
内心を隠すように笑みを浮かべる自分が大っ嫌いだった。
「……けっ」
そんな俺を見てルーガは苛ついたように唾を吐き捨てた。
「更新は終わりですよ〜。お疲れ様〜」
「……ありがとうございます」
黒、露出が激しい、という扇情的な要素を強く持つドレスだというのにそれを清楚に着こなす神様から一枚の紙を受け取る。
そこに書かれた数値を見て俺は顔をしかめた。
数値は殆ど伸びていない。
当然だった。俺は戦闘せずパーティの後ろを金魚のフンのようについていっただけ。
どこに【経験値】があるというのか。
「ふふ、どうかしました?」
神様は柔和な笑みを浮かべ聞いてくる。
その目は透き通っていて、俺の濁った考えなんてお見通し、とでも言いたげだ。
いいや、実際この神様は見透かしてるのだろう。
床につくんじゃないかというほど長い、ふわりとした羽毛のような髪、全体的に軟らかそうという印象を抱かせる彼女はうちの主神であるレト様だ。
そんな彼女は常に笑みを浮かべていて、それ故に何を考えてるのかはちょっと分かりづらい。
田舎者の俺を拾ってくれるくらいには神格者だし、よく見る享楽主義の性悪な神とかではないのだけど。
まあ、結構ポンコツ……いや、抜けてるところがある神なのだが、それと同時に底が見えない神でもある。
人の心程度読めてもおかしくはないと思えるほどには。
「いえ……別に」
「ステータスですか〜?」
「…………」
やはり、そうだ。
彼女は当たり前のように心の底にしまった物を引き出す。
「別に気にしてなんていませんよ」
「ふふ、私は"ステータス"としか言ってないですよ〜」
やりづらい。
彼女の話術は巧みだ。
その雰囲気も合わせて、こちらを脱力させ、雁字搦めにして無理やり本音を吐かせる。
「ステータスが伸びてなくて残念でした〜?」
「まさか、サポーターですからステータスなんて関係ないですよ」
サポーターにおいて、ステータスは殆ど関係ない。
だって戦わないのだから、ステータスなんてあってないようなものだ。
「じゃあ、ステータスが伸びるようなことができなくて残念、ですかね〜?」
「…………」
彼女の言葉に俺は押し黙る。
「ふふ、図星☆ですね〜」
「そんなことは」
「神の前に嘘はむ・い・みですよ〜」
知っている。
神の前で嘘はつけない。
でも、
でも、俺は嘘なんてついていない。
俺は、冒険できなかったことを残念になんか……思っていない。
「今のカストルは可愛くありませんね〜」
「はあ」
「昔はあんなにギラギラしてた目つきをして可愛かったのに『英雄になりたいって』ふふっ」
「やめてください……」
過去の話を出されて俺はげんなりする。
過去の話をされるのは好きじゃない。
昔のアホな自分を思い出してしまう。
あと可愛いもやめてほしい……正直あまり好きじゃない言葉だ。かっこいいとかにしてほしい。
しかし、そんな俺に気づいてるだろうにレト様は楽しそうに昔の話を続ける。
「あのときのカストルは見てて微笑ましかったのですよ〜。ルーガと何度も喧嘩してましたね〜」
「まじでやめてください……」
黒歴史をほじくり回されるような気恥ずかしさ、頬がピクピクと震え、この場から逃げ出したくなる。
「今も思わないんですか〜?英雄になりたいって」
「……俺は
英雄になりたいかだって?そんなの
俺の返答にレト様は反論する。
「
そのことは否定しない。レト様が言う通りフィアナを始めとし、現代ならロキ・ファミリア団長の【
俺も昔はフィン・ディムナに憧れていた。
フィアナも好きではあったが、やはり昔の人よりも今の人のほうが気になるもので。
オラリオに来たのだって田舎にすら響く彼の名、フィン・ディムナに憧れたからだった。
だが、俺と彼らには大きな差がある。
「……才能がないですから」
相変わらず笑みのまま表情の動かないレト様からの質問を否定する。
無理なものは無理だ。俺には英雄の才能がない。
フィアナも、フィン・ディムナも才能があったのだろう。
けれど、俺にはない。
英雄というのは才能と運命に裏付けされたものなのだ。
例えば、ヘレネのように
「でも、あなたには
「……あれは」
確かに、俺はスキルを持っていた。
スキルとは希少なもので、持ってないのが大半、Lv.1でスキルを待っている冒険者はかなり少ない。
そんな中、俺はスキルを持っていた。
しかし、スキルが当人の望んだものであるとは限らない。
「すっごく特殊な効果で〜つまり、レアスキル!まあ、内容が内容ですから使いたくないのも仕方ないとは思いますけどね〜」
彼女は座ったままこちらに目を合わせる。
神特有のすべてを見通すかのような目。
その目からは何も神意は見えない。こちらの意思だけが奪われてくようだった。
「使えば冒険者だってなれるんじゃないですか〜?」
「使ったところでですよ」
俺は神様が言うところのレアスキルというものを持っている。
しかし、スキル一つでダンジョンがどうになるわけがない。
それに、スキル一つで才能を覆せるわけないのだ。
「ん〜、私はそうは思わないですけどね〜。私はカストルならできると思ってますよ〜?」
「そんなわけないですよ」
そう言う俺にレト様はえ〜と不満そうに声を上げる。
「カストルなら絶対いけますよ〜。もっと自信持ちましょうよ〜」
「いけるって……何を根拠に」
俺の言葉にレト様はふふっと柔和な笑みを浮かべた。
「だって」
そして、
「カストルは、『可愛い』ですから〜」
そう言った。
……はあ
「なんすかそれ」
「あっ、なんですかその呆れたような顔は〜」
「ようなじゃなくて実際に呆れてます」
ハムスターのように頬をふくらませるレト様、その姿には神の威厳なんてものは見当たらなかった。
この人……いや、神は本当に何を考えてるのかよくわからない。
それなのにどこかを人を惹きつけるのは神故なのか。
「もぉ〜、カストルは本当に可愛いのに〜」
「頬を触るのをやめてください」
「ぷにぷにしてますね〜」
「
隣に来てつんつんつんつん、楽しそうに俺の頬をぷにぷにしてくるレト様。
神様に手を上げるわけにもいかず、俺はされるがままだった。
そのまま、頭を掴まれるとレト様の膝に乗せられる。
所謂、膝枕。気恥ずかしいがやはり俺に抵抗は許されない。
レト様は俺の頭を優しくなでた。
「ねえ、カストル」
いつもゆるい雰囲気の彼女とはまた違う雰囲気。
少し違う口調、本来の彼女はこの姿なのだろうか。
強制的に心を落ち着かされる、例えるならば母のような雰囲気。
突如、名を呼ばれた俺はビクッと体を固めた。
彼女は心配を隠さずに俺の顔を覗き込む。
「ちゃんと、私を頼ってくださいね?私は、あなたの主神なのですから」
そう言って彼女はこちらに手を伸ばしてくる。
彼女は俺の頭を撫でた。まるで、母のように。
「子供はもっと素直でいいのですよ〜」
その視線にあるのは母が子供に抱くような慈悲。
事実彼女からすればそうなのかも知れない。神は時たま俺たちのことを子供たちということもある。
その包容感、神様だというのに魔性すら感じるその魅惑は何も考えずに身を委ねたくなるようなものだった。
それでも、俺はその手を握らない。
「冒険者の夢は……捨てました」
その言葉とともに俺は顔を持ち上げて部屋を出る。
それが嘘なのか本当なのかは神様しか知らない。
次の日。
今日はダンジョンに潜らない休みの日だった。
うちのファミリアでは週に一回か二回はそういう日を入れるようにとレト様が決めている。
レト様はファミリアの眷属が死ぬことを非常に嫌がっている。
なんでもかなり昔にレト様にとってトラウマになるようなことがあったらしい。
その話を聞いたときは神様にもそういうのがあるんだなと思った。
神というのはやはり敬うべきもので、本来俺達とは住む世界も違うような存在だ。
そんな存在がトラウマという人間臭い物を持ってるのは少し不思議だった。
そのトラウマに何があったのかはレト様も周りの神様も話したがらないので知らない。
ただ、
まあ、ともかく、そんなこともあり、【レト・ファミリア】は所謂福利厚生というものがしっかりしている。
休日がしっかりあるのもそういうことだ。
だから今日はファミリアの皆、思い思いに過ごしている。
俺と言えば
「おい、カストル。やるぞ」
ルーガの奴に呼びつけられていた。
いつものことだ、休みの日は朝食を食べ次第こうやって呼び出される。
何度も見つかる前にホームから逃げようとしているのだが、だいたい見つかる……今日は家事の当番だったため、そもそも逃げることすらできなかった。
抵抗する気はない。したところでこれは強制だ。
ため息を吐きながらルーガの後ろをついていく。
向かう場所は訓練場。
零細ファミリア故に小さい庭程度の広さしかない場所ではあるが、それでも模擬戦程度なら問題なくできる。
向かい合い、ルーガから木刀が投げ渡される。
まあ、つまりはそういうことだ。
ルーガのものより一回り小さい木刀を持ち上げる。
ルーガからすれば小さすぎて扱いづらいであろうこれですら俺からはかなり大きく感じられるのだから嫌なものだった。
木刀を構える。
「オルァッ!」
「ッ!」
スタートの合図はない。
手加減、模擬戦ならば普通するであろうことを全く感じさせない振り下ろしを大きく動いて避ける。
空を切り木剣が地面にぶつかると同時に、大量の砂埃が舞う。
当たれば間違いなく一発で俺は気絶だ。
ギリギリを狙うのはリスキーが過ぎる。
そも、俺の体とルーガの体格差は大きい。
だから、ギリギリを狙うと普通に食らってしまうことが多々あるのだ。
もう何度も模擬戦をさせられてきたんだ、戦いの選択肢は経験で紐解ける。
今度はこちらからしかける。
「シッ!」
ちょうど木刀を振り切ったルーガは隙だらけだ。そこに一撃を叩き込もうとする。
「遅えっ!!」
ガキンっ!
だが、俺の木刀よりも早くルーガの木刀がその行く手を阻む。
やはり、速い。筋肉ダルマみたいな見た目のくせに!
俺はそれにわざとはじかれる。スピードもそうだが力勝負はもはや自殺行為だ。ならば割り切って、自分から受け流すように飛んだほうがダメージは少ない。
くるりと空中で回って着地、再び対面。仕切り直しだ。
やはり、攻めてくるのはルーガの方からだった。
今度は横薙ぎ、ルーガの剣技はシンプルで、悪く言えば力任せなものが多い。
しかし、ルーガは恐るべき体格を誇る。
その体格は手足が長くなったドワーフのよう。つまり、とんでもない。
だからこそ、こういったシンプルな剣がもっとも活きる。
ただの横薙ぎが、超広範囲の斬撃に化ける。
彼本来の獲物は今使っている木刀の1.5倍近くはある。
これですら本領ではないというのが恐ろしい。
その攻撃範囲に回避は厳しい、そう判断した俺は木刀でガードをして受ける。
「ぐぅ!」
ボールのように弾かれて地面を転がるが、想定内。
わざと大きく飛ばされることで衝撃は減った。
先ほども言ったが体格と力の差もあって正面からぶつかるのは愚行でしか無いのだ。
受け身も取れてるしダメージは腕が少ししびれるだけ、格上相手なのだから上出来だ。
「らあああああああああああッッ!!」
雄叫びとともに再度ルーガが突進してくる。
斜めの切り払い。
腕がしびれてる今、もう一度バカ正直にこいつの攻撃に付き合うのは不可能。
軽く頭を下ろし攻撃を回避。
攻撃が当たる範囲が小さいのは数少ない
これを戦闘に活かさない手はない。
リーチ、体重、ただでさえデメリットだらけの
じゃあどう活かすか?一つ思いついていることがあった。
前回の模擬戦で気がついた方法。
どうしても俺が冒険者だったからこそ気付けなかった方法。
人間は体の構造的に、射程内であるものの攻撃しにくい場所がある。
そして、そこならばリーチ差は気にならない。
その場所は、懐。
そこに潜り込む。
モンスターには懐なんてものはない。
対人間だからできる戦い方。
それ故に今まで思いついていなかった。
「っ!」
走り出す俺にルーガが攻撃を警戒して、ガードを固めるが、俺は攻撃など考えていない。
体格差、ルーガは大きさゆえのリーチがあるが、それは同時に懐も大きくなるということである。
そして俺は小さいうえ力よりもスピードタイプのすばしっこいタイプ、潜り込むのは簡単だ。
速度で負けていてもすばしっこさでは負けてない。
これが数少ない
「てめっ!」
ルーガも俺の狙いに気づいて迎撃するために剣を振るうが手遅れだ。
するりと水が流れるように斬撃をすり抜ける。
ずっと、模擬戦をしてきたんだ。
対ルーガに限定すれば回避という行為だけは、気がつけば相当上手くなっていた。
いつまでも負けてるのはムカツク。
何度も何度も何度も何度も模擬戦という建前でボコボコにされてきたんだ。
その雪辱を今ここで!
そんな俺の決死の一撃は、
蹴りという実に原始的で合理的な方法で体を吹き飛ばされるという結果に終わった。
まあ、そうなんだよな。
地面に大の字に倒れ込み内心で呟く。
剣術という長い歴史があるものが、懐に入られるとかいう明確な弱点への回答を持ってないわけ無いのだ。
その後、蹴りで吹き飛ばされた俺はそのまま地面に叩きつけられ、再起不要。
俺の決死の一撃は無駄になったわけである。
はあ、昔はそれなりにやりあえてたんだけどな。
ルーガと俺は元々同期だった。
昔は、所謂ライバルみたいな関係だったんだ。
反りが合わず、何度何度も喧嘩していたが、同時に二人で切磋琢磨していた。
思い返せば、喧嘩するほど仲が良いというのもこういうことだったのだろう。
しかし、気がつけばこうなっていた。
いつの間にか、どうしようもないほど差が開いて。
それから、あいつとの関係はこんな感じだ。
「精がでるな」
「どこがだよ」
一体何をみたらそんな言葉が出てくるのか。
何時の間にか現れて模擬戦を観戦してたのか、巨大な狐の耳を持つ、女かと思うほど長い金髪を揺らす男、千秋の言葉に答える。
【レトファミリア】の一員、
名前で察せられる通り極東出身で、一応俺の後輩にあたる……強さはこいつのほうがとっくのとうに強いが。
こいつを形容するならばイケメンである。
整った顔立ちに、スラリとした長身。その鋭い目つきさえ除けば神とすら並ぶほどだ。
極東出身の珍しい種族……
誘蛾灯が如く女神すら引き寄せている。
それでいて女性に興味なさそうなのも、癪に障るところだった。
ゆらりとその太い尻尾を揺らし地面に倒れる俺を見つめるその目は変わらず鋭い。
「鍛錬に励んでいるのだから間違ってないだろう」
「ただの蹂躙の間違えだろ」
結局のとこ、模擬戦という形だからこそ勝負としてなんとか成り立っているだけである。
本気の殺し合いだったら傷をつけることすら許されずステータスの差で捻り潰されるだろう。
「そもそも、俺はやりたくてやってるわけじゃねーし」
起き上がり、視界の端で何度も何度も素振りを続けるルーガを見ながら呟く。
あいつ、強さへの向上心もだが、体力どうなってんだろ。
「サポーターが戦闘力鍛えてもなんの意味もない」
「自衛には必要だろう」
ああ、確かにそれは間違ってない。
しかし、サポーターが自衛する必要がある状況ってのはそもそもパーティが壊滅仕掛けてるときである。
まあ、つまりそんな状況でサポーターが自衛したところで結果はそう変わりないということだ。
「やりたくもないことやらされて……休日を無駄にさせられていい迷惑だよ」
「本気で勝ちに行ってるのにか?」
「…………」
千秋の言葉に反論をしようとして、口を閉じる。
それは、否定できない事実であった。
「あいつは、お前が勝とうとしてるから未だお前とやっている」
「……別に、負けるのは嫌ってだけだ」
「そうか、矜持は残っているようで何よりだ」
千秋の鋭い目つき、その視線が夢を捨てたことを非難してるかのように見えて俺はいたたまれなくなり目をそらした。
「お前は、優柔不断なやつだな」
「は?急に何だよ」
「そのままだ。お前のそれに振り回されるあいつにも同情してしまう」
よくわからないことを言う千秋に何も言えない。
この天然……というか言葉足らずめ、その回りくどい喋り方をやめてもっとわかりやすく喋れ。
「ふん、まあお前が決めることだ。助言をしてやる。強みというのは最大まで活かすべしだ」
「はあ?」
「では、私も鍛錬を積ませてもらう……ヘレネのやつが呼んでいた。待たせてやるな」
そういうと千秋はその腰に差していた刀を抜いて素振りを始めた。
集中し始めた彼にはなんの言葉も届かない。
ほんと、なんなんだよこの天然イケメン野郎は……
「やっほー!カストル」
「ああ、うん……おはよう」
うちのファミリアの紅一点、ヘレネは俺なんかと対照的に今日も今日とて元気であった。
ぶんぶんぶんと、手をこちらへ激しく振る彼女は可愛らしい。
「急に呼んでごめんねー?」
「暇してたしいいよ。休日特にすることないし」
謝る彼女に俺は気にするなと告げる。
好きな人に誘われたんだ、むしろこちらが感謝したいくらいである。言えるわけないが。
それに趣味といった趣味のない俺は休日をよく持て余している。
昔は鍛錬をしていたが……今はしていないしな。
「それで、どうしたの?」
「えっとねー、その前に『ぐぅ〜』……ご飯食べに言っていいかな……食べながら話そう?」
彼女が話す途中鳴ったほんのわずかな小さな音に、お腹を撫でながらそう言う彼女。
普段から自信満々な彼女が見せる頬を真っ赤に染めた恥ずかしがる顔は、それはもうとんでもない破壊力で、俺の心臓が大きく跳ねた。
そんな動揺を隠すために空を見れば太陽は結構もういい場所にあって。
もう、こんな時間だったのか。
俺は彼女のお腹の音には触れず提案に乗っかることにした。
「じゃが丸くん五つお願いしまーす!」
「五つ!?」
ヘレネの注文に長い黒髪をツインテールにしたじゃが丸くんの店員さんが悲鳴を上げる。
まあ、明らかに二人、しかも片方は女性で片方は
ヘレネはその見た目に反して結構な食いしん坊だ。
うちのファミリアで一番食べる……あの巨体を持つルーガよりも食べると言えばその胃の容量もわかりやすいだろう。
店員さんからじゃが丸くんを一つ、そしてヘレネはなんと四つ受け取りそこらへんのベンチに座る。
ヘレネに怪訝な目を向ける店員さんが少し面白かった。
食べられるのか疑問だったのだろう、まあ目の前の光景を見ればその疑問は愚問である。
「はふっはふっ……ん、どうしたの?」
食べながら聞いてくるヘレネ。
はしたない行為だが、彼女がするとそれはあざとさに変わる。
ちなみに、じゃが丸くん四個のうち一個はすでに彼女の胃の中である。
「どうしたの?」
「あー、相変わらずいっぱい食べるなって」
もう長い付き合いだ、彼女の食欲も食に対するこだわりもよく知っているが、やはり何度見ても凄いを超えて恐ろしい。
なにせ、ヘレネの胃の容量はレト様が『これが下界の未知ってやつなのですね〜〜〜』と遠くを見ながらいうほどのものである。
全知零能の神すら知らないその食欲におののいてしまうのも仕方あるまい。
「食べれる時に食べといた方が良いしー、それにたくさん食べる子って可愛いでしょ?」
「なるほど……?」
まあ、確かにいっぱい食べる女の子は可愛いのかもしれない。なにせ、目の前のヘレネがまさにその最たる例だ。
彼女の食べっぷりは見ていて心地が良い。
それに少食よりは、食べてくれる人の方が奢りがいというものもあるしな。
……ま、奢れてないんだけど。
ヘレネは何があっても奢りを受け入れてくれない。
逆に彼女が奢ろうとすることは多々あるのだけど。
その時は千秋やルーガすらも止める。
それは彼女の優しさなのだろうけど、俺……いや、俺達からすると少し寂しかった。
「それで、呼んだ理由なんだけどね。付き合って欲しいの!」
彼女はじゃが丸くんの二つ目を食べ終わるとそういった。
これがロマンチックな場所であれば告白と勘違いしていただろうが、流石にじゃが丸くんを口に含みながらである以上それがそういう意味でないのは深く考えずとも察せられた。
「付き合うって、何に?」
「服をね、買いたいの」
「服?」
珍しいな、と思った。
ヘレネが服を買うこと自体は珍しくない。
可愛いが大好きな彼女はよく服を買ってクローゼットをパンパンにしてるのはファミリアの中では周知の事実だ。
しかし、いつも彼女は誰も誘わず一人で服を買いに行く。
だから、これに付き合って欲しい、そう言われるのはかなり珍しいのだ。
不思議に思った俺に彼女は理由を説明する。
「やっぱり一人だと持てる量に限界があって、レト様ならいい案教えてくれるかも!って相談したら『カストルを誘ったらどうですか〜きっと来てくれますよ〜』って」
「なるほど……」
声質は似てないが抑揚の付け方などは完璧なヘレネのレト様の物真似に少し感嘆しつつ、俺は納得した。
まあ、つまりレト様が余計な御世話をしたということだろう。
俺はあの人の前でヘレネが好きなんて話をしたことないが、あの人なら気づいていてもおかしくない。
サムズアップするレト様が脳裏に浮かんでなんというか、凄まじくむず痒かった。
「あと、『ヘレネはもっと頼ることを覚えたほうがいいのですよ〜』って言われたんだよね」
「それは、まあ確かに」
ヘレネはあまり人に頼らない。
例えば、奢りを受け取ろうとしなかったりだ。
自分でできる限り片付けてしまう、そして彼女はそれができてしまう。
「そんな事ないと思うんだけどなぁ」
「ヘレネはもっと頼ってもいいと思うよ」
「そう?」
ヘレネは天才だ。
それはほんの少しでもヘレネの近くに立っていればわかる。彼女の才能は凄まじい。
それはあのレト様さえ認めている。
なにせ、レト様は一度彼女のことを
故に彼女に助けなんて、別にいらないのだろう。
「でも、私団長だからね。頼ってばっかじゃ駄目だもん」
彼女はそう言って笑う。
彼女は人一倍責任感が強い。だからこそ、【レト・ファミリア】全員、あのルーガでさえみな彼女を団長だと認めている。
人に頼らない、そして一人でやり切る、それは美徳なことだ。
しかし、俺からすれば頼ってほしいそんな気持ちもあった。
「私の都合に巻き込むから全然断ってくれてもいいんだけど……どう?」
「うん、大丈夫」
だからこそ、珍しい彼女の頼みを断るわけがなかった。
「ありがとっ!」
彼女は笑みを浮かべて喜ぶ。
……この顔を見られただけで十分すぎるな。
女性の買い物というものは長いと言うが、例に漏れずヘレネもかなり長い時間をかける。
「ん〜〜〜〜、こっちかなぁ……いや、でもこっちも……」
なんなら、可愛さというものに対して人一倍の情熱を持つ彼女はそこらの女性よりも時間をかけているのだろう。
それにうちのファミリアは零細ファミリア、給料はあまり多くなく好き勝手に服を買うことはできない。
特に女性の服装というのは高い、ふと横の服の値札を見ると軽く一万を超えていた。
うえっ、と思わず声が漏れる。恐ろしいものだ。
そんなものを彼女は見た目と値段その二つを天秤にかけてどちらが下に来るのか測っているのだ。
時間がかかるのも仕方あるまい。
「ねえカストル、どっちが似合うかな?」
まあ、そんなに悩めばこちらに意見を求めてくることもあるのだが……
一つはシンプルなワンピース、装飾も最低限なもの、だからこそ素材の味を引き立てる。ちょっとやんちゃな娘にはかなり似合いそうで、ヘレネにはばっちりだろう。
もう一つは打って変わってフリルなど装飾が沢山ついたもの、こちらはその可愛さで素材の味を昇華させる。
これは落ち着いた印象でヘレネとは真逆だが、真逆だからこそのギャップが見えてくる。
そんな二つを持ってこちらに聞いてくるヘレネに俺は答える。
「どっちもいいと思うよ」
「むぅ〜〜、それやめてほしいんだけどぉ」
眉をへの字にする彼女に俺は苦笑いを浮かべる。
しかし、仕方ないのだ。俺にはシンプルなワンピースを着たヘレネもフリフリのワンピースを着たヘレネというのもどちらも選びがたかった。
どちらがいいかと言われると、どちらもいいとしか言えない。千秋に言われたとおりだった。
その後もヘレネは悩みに悩んだ様子だったが、結局シンプルなワンピースを選んだようだ。
彼女から手渡されるワンピースを手に取る。
これで十着目。【
こういうときルーガのように手がでかいと助かったのだが。
「カストル?どうしたの?」
「……いや、なんでもないよ」
思ったことが表情に出ていたのだろうか、ヘレネにどうしたのかと聞かれ俺は誤魔化す。
そんな俺にヘレネは納得していないのか、むむむと眉をひそめた。
そして、彼女は自分の口の端に指を当てるとムニっと持ち上げる。
彼女の顔に笑みが浮かぶ。
「カストル……ほら笑おう!」
「え?」
「せっかく買い物に来たんだから楽しもうよ!」
彼女は指を離す、それでも彼女の顔から笑みは消えない。
「……ヘレネはいつも笑うね」
いつも、そうだ。
ヘレネはどんなどきだって笑顔を絶やさない。
朝から夜までダンジョンでだって、彼女は笑う。
そんな彼女がまるで物語の英雄のようで、そんな笑みに俺は惚れてしまったんだ。
「カストルはさ、可愛いで一番大切なのは何だと思う?」
「え?……うーん、服装とか?」
「それも大切だけど、私は笑顔だと思うの!」
彼女の笑みはまるで子供のような笑みだ。
まるで何もかもが楽しいかのような、そんな笑み。
そんな彼女の笑みが俺は好きで……彼女に惚れてしまったのだろう。
この笑みを見ていると不思議と自分も口角が上がってくる。
それを見てヘレネはさらに笑みを深めた。
「うん!カストルも可愛いね!」
「可愛いはやめてほしいなぁ……」
レト様にも言われたけど……いや、今更自分がかっこいいなんて言うつもりはない。
体格は子供並、顔つきも童顔というか、女顔だ。こういうと恨まれるかもしれないが無駄に二重だったりするのがたちが悪い。
髪を短くしてるのだって、一番の理由は変に長く伸ばしてると女に勘違いされることがあったからである。
こんなんなのだ。かっこいいと言われた経験なんてなかったし、言われるとももう思ってない。
とはいえ、だからといって可愛いと言われるのは複雑な気分だった。
「ねえ、カストル。少し思ったんだけど」
「ん?何?」
そんなことを思っていたら、ヘレネがなんだか楽しそうな笑みを浮かべていた。
それから彼女は提案した。
「カストルの服も買わない?」
「えっ、いや、いいよ。俺別に服とかあんま興味ないし……」
俺はあまりオシャレに興味がない……というか、ダンジョンに潜る人間というのはだいたいそんなもんだ。
まず、冒険者というのは血の気の多い職業だ、故にがさつな人間が多い。
そして、なによりもファッションにお金をかけてる余裕がない。
服装よりも防具。
オシャレに命はかけられない。
けれど防具には命をかけなければならない。
オシャレにお金を使うくらいなら装備に使う。
オシャレと命を天秤にかけてオシャレを取る人間は少ないだろう。
女性ですら冒険者はそんな考えのものが多い。
ならば男性なんて言うまでもないだろう。俺だってそうだ。
装備にすら可愛さを求め始めるヘレネは実はかなりおかしいのである。
そんな俺にヘレネは呆れ顔だ。
「もー、お洋服って結構大事なんだよ?」
「いや、でもなぁ……」
お金にそんな余裕あるわけじゃない。
あくまでサポーターでしかない俺はダンジョン探索の稼ぎの八分の一しか貰っていない。
これは、俺が自らそうしてくれと頼んだ。
サポーターでしかない俺が冒険者である彼らと同じ量貰いたくなかった。
ヘレネには反対されたが千秋とルーガは何も言わず、俺の説得にヘレネが折れた。
そんなわけで、俺はそんなに金を持ってない。
あと、単純にオシャレに興味がない。
が、しかしヘレネはそれでなお食い下がる。
「む、カストル。それはオシャレ舐め過ぎだよ!?ベロンベロンだよ!?」
「いや、そこまで舐めてはないけど」
「オシャレをすれば自信もつくし、いっぱいモテちゃうよ!カストルは素材がいいからなおさらだよ!」
力説するヘレネに押されて俺は思わず一歩下がる。
可愛いにうるさいヘレネなだけあって、やはりオシャレにも一家言あるらしい。
でも、確かに……モテるか。
ヘレネの言葉の中のその単語に俺は反応する。
ヘレネも、オシャレな男かオシャレじゃない男ならオシャレな男のほうがいいだろうし……
「ね?買っていこうよ!」
「まあ、そこまで言うなら……」
こんな仕方なくみたいな言い方してるけど。
正直に言えば彼女と過ごせる時間が少しでも長くなるのならと、結構乗り気だったりした。
「じゃあこれ着てみよう!」
「え゛?」
そして、ヘレネが先程まで買うか悩んでいた装飾多めなお姫様のようなワンピースを渡されて、俺はその選択を早くも後悔した。
「…………まじか」
試着室。
両手に持ったワンピースを眺めながら俺はそう呟いた。
何故、こうなってしまったのだろうか。思い返しても分からない。
ヘレネから渡されたワンピース……はサイズが合わないので(小さいからではなく大きいから)それよりも小さいワンピース。
可愛らしい服装だ。きっと女の子が着たらとても可愛らしいものになるだろう。
そう、
改めて、何故、こうなったのだろうか。
勿論、抵抗したさ。
いや、勘弁してくれと
ヘレネにそういった。
そしたらサイズが合わないことを言ってると思われて、店員から小さいサイズのを渡された。
ついでに店員もノリノリで、金髪ロングのウィッグも渡された。
なんでそんなもん持ってるんだよ。
それでも、当然断った。女装なんてしたらただでさえひび割れてる男としてのプライドが粉々に砕けると思ったから。
なにより好きな女性の前で女装は流石に勘弁願いたかった。
協力して俺を女装させようとするヘレネと店員、頑なに断り続ける俺。
そんな勝負はおおよそにして三十分ほど続いた。
最終的に、可愛いというものを完全に理解しているヘレネのお願いで俺が折れた。
……仕方ないだろう、好きな人にあんなお願いされて断れる男なんているわけがない。
「ぐぅ……」
しかし、折れたといって吹っ切れるわけじゃない。
金髪ロングのウィッグとフリフリのワンピースを睨み俺は唸る。
男に二言はない。やると言ってしまった以上、やらないのは男としてどうかと思う。
だからといって女装するというのは男としてどうかと思う。
……詰んだか?
……ああ、もう
どちらも駄目ならマシな方を選ぶしかない。
……なら、俺が選ぶのはヘレネが喜ぶ方に決まってる。
俺は、覚悟を決めた。
「……」
「……せ、せめて、な、なにか言ってほしいんだけど」
試着室の中で男のプライドと格闘すること五分。
ヘレネから手渡されたワンピースと、何故か店員が持ってた金髪のウィッグを身に着け、試着室から出るとヘレネはこちらを振り向き、いつも騒がしい彼女にしては珍しく動きを止めた。
石のように固まったヘレネはこちらを食い入るように見つめてくる。
好きな人にそんなに見つめられると恥ずかしく、俺は思わず目をそらした。
「っ……!す、すごいっ!カストル凄いよ!可愛い……えっ、可愛すぎない?」
十秒と少し、ようやくヘレネが復活する。
ぴょんぴょんと大興奮して、俺のことを可愛い可愛いと言ってくる。
「完っっ璧だよっ!凄い着こなせてる!物語のお姫様みたい!」
「もう脱いでいいかな!?」
ヘレネの嬉しくない褒め言葉にゴリゴリと削れていく男のプライドと赤くなる顔を感じつつ、これ以上はまずいと未だ飛んでくる褒め言葉を遮って試着室に戻ろうとする。
しかし、そんな俺をヘレネは逃さないと引き止めてくる。
「勿体ないよ!そんな可愛いのに!」
「からかうのはやめてくれ……」
男がこんなもの着たところで似合うわけもなし。
いくら女顔と言えど、物事には限界があるように、ここまで女々しい服が似合うとは思えなかった。
俺は経験則で知っている。女性が男性に言う"可愛い"が別に褒め言葉でもなんでもない碌でもないものであることを。
ヘレネの可愛いも同じ口だろう。
言われて嬉しいわけなかった
「……もしかして、カストル鏡みてない?」
「見れるわけ無いでしょ。こんな姿」
試着室に鏡があったが、女装してる自分の姿なんて恥ずかしかったし、見てしまうと決意が揺らぎそうだったから頑張って視界に入れないようわざと無視し続けたのだ。
なので、当然鏡なんて見ているわけもなかったし、見たくもなかった。
「カストルこれ見て」
ヘレネはバッグに入ったポーチを軽くあさるとあるものを取り出した。
彼女の手にあるのは片手サイズの手鏡、ヘレネが戦闘で崩れた髪を直すときによく使ってるいるものだ。
普段はヘレネの顔しか映さない手鏡、そこには金髪の異国の姫のような少女が映っていた。
誰だ、これ?
それを見て最初に思ったのはそんなことだった。
どこか見覚えのある顔で、照れてるのか頬を軽く赤に染め、どこか不安げな表情を浮かべる少女はとても可愛らし。
「これ、今のカストル」
まるで現実逃避のように思考する俺をヘレネは言葉で現実に引き戻した。
「いや、いやいやいや、これどう見ても女の子じゃ」
「うん、今のカストルはどう見ても女の子だよ?」
いや、ないだろう。
いくら俺が女顔でもだ、いくら俺が母親似の顔をしてるにしてもだ。
化粧もせず、ウィッグと服だけで女性に見えるわけがない。
しかし、顔を引きつらせる少女は鏡の中にいて
その姿は……どう見ても女の子
まさか、とは思うけど
「これが……俺?」
信じがたい、信じがたいが、しかし
鏡に写ってるということはヘレネの言う通り、このお姫様のような少女は俺、なのだろう。
理解はできるが、納得ができない。
「ね、可愛いでしょ?」
「あ、ああ……うん」
上の空で答える。
元々俺自身、女顔であることの自覚はあった。
しかし、だとしても、ウィッグだけでここまで様になるとは想像していなかった。
あどけなさの残るその顔つきは普段の俺と似ているはずなのに似ていない。
多分、不安げな表情を浮かべてるからそのせいだろう。
改めて鏡に映る自分を見ても、それが自分であると脳が認識できない。
自身を映し出すはずの鏡に知らない人間が映るのは不思議な感覚だった。
「前々から似合うんじゃないかなーって思ってたけど、想像以上だね!」
「ま、まあ、確かに似合ってるけど……」
前々から似合うと思われてたことに少しショックを受けつつ、しかしこれを見たらヘレネの言葉を否定はできなかった。
このお姫様のようなワンピースはウィッグをつけた俺にバッチリと似合っている。
我ながら……未だにこの姿が自分とは思えないからこそ言えるが、この可愛らしい外見で、一目見ただけでこれが女装した男と気付けるものはいないだろう。
鏡の中でパチパチと瞬きをする少女は自分の目から見ても可愛らしい。
そのくらい似合っているが……
似合ってるということが辛い……
だって、これが似合うということは顔が女顔であることの証明でしかないのだ。
この世界のどこに女装が似合うことを喜ぶ男がいるのか。いや、まあいるかも知れないが。最低でも俺は嬉しくない。
女顔に自覚はあったさ。でもまさか男物の服より女物の服のほうが着こなせるなんてことになってるとは思ってもいなかった。
これだったら悪ふざけのような、罰ゲームで着せられたような不格好な見た目になる方がマシだったかもしれないとすら思う。
「店員さーん!この服と、あとこの貰ったウィッグ買っていい?」
「大丈夫ですよ」
「ちょっ!?」
とかなんとか思いながら鏡とにらめっこしていると隣りにいたはずのヘレネがいない。
どこに行ったのかとあたりを見渡すといつの間にか会計をしていた。
そして当然のように今着ているワンピースとウィッグを買おうとしていた。
ヘレネは俺の言葉に振り向くと、ばちこーん☆とウインクをした。
「照れなくていいよ!付き合わせちゃったお礼にこれプレゼント!」
照れてないし、いらない!とそう俺が言うよりも早く会計は完了した。
嘘でしょ……と鏡に中の顔の青い少女に対して、ヘレネはふっふーんと可愛いドヤ顔を浮かべていた。
「新しい服買ったんだし、折角ならこのまま行こっか!」
「え」
グロッキーな俺に追い討ちをかけるような提案をするヘレネ。
それは流石に勘弁してくれと拒否しようとして気づく。
この洋服は一万を軽く超える。それを買ってもらってこの提案を受け入れないのは違うんじゃないか。
それにせっかくプレゼントしたものを目の前で脱がれたらどう思うだろうか?
もっと言えば、この洋服は物が物にしても初めての
「……わ、わかった」
そう思ってしまうと、それを否定するなんて俺にはできそうになかった。
「カストル、キョロキョロしてると変な目で見られるよ?」
ワンピースを着て、街中を歩く。
その行為は俺が想像していた以上に羞恥心を刺激するものだった。
「だっ、だって……」
いつもは気にもとめない視線がともかく気になる。
360度、どこからでも向けられる遠慮のない無数の視線が気になって仕方ない。
なんだか、やってはいけないことをして見られるわけにはいかない。そんな緊張感。
「なんかすごい見られてるし……」
明らかに普段より多い視線。
そんな視線を向けられるたび、もしかしたら女装がバレてるんじゃ?馬鹿にされてるんじゃ?
そんな不安が頭のなかをよぎって消えない。
なんだか、民衆がモンスターのような得体のしれない何かにすら感じた。
そして、それ故に周りの視線を警戒するようにキョロキョロとしてしまう。
少し横を見れば二人の神がこちらを見ながら会話しているのが見える。
『あの子可愛くねー?』
『お前ナンパしてこいよ!』
『いやいや、ここはお前が行くべきだろ?』
『はっ、へたれめ』
『んだと!?』
なんか喧嘩始まった……
あ、眷属っぽい人たちにつれてかれた。
なんだか気まずくて視線を別のところに向けると、また別の人と目が合う。
四方八方、どこからも視線が飛んでくる。
初めての体験だった。
「見られてるのはカストルが可愛いからだよ?そんな心配しなくても似合ってるから!」
確かに、自分でも自分だとわからなくなるほどには似合っているのだ。
初対面の人間にはまずバレない、そう思うほどではある。
しかし、だからって不安が消えるかなんて言えばそんな事まったくない。
視線が怖い、思わずヘレネの体を盾にしてしまう。
「ほら、普段みたいにもっと堂々としよう!」
「そんなこといわれても無理なもんは無理!」
無茶を言うヘレネに首をブンブンと横にふる。
普段通りにしようと最初は思ってたさ。
しかし、股下がスースーする感触に、大量の視線。普段とあまりにも違う状況でいつもどおりのパフォーマンスを発揮するのは俺には不可能だった。
まだ、ワンピースはいい。
これは結局慣れの問題だ、正直今はもうそこまで違和感はない。
しかし、視線、これは駄目だ。
気になるし、慣れる気がしない。
せめてこの視線がなくなれば、そう思わずにはいられない。
それに……
「ヘレネはさ、普段からこんな視線もらってるの?」
「いや、今のカストルほど貰ったことはないけど……って、ああ、そういうこと?」
沢山飛んでくる視線の中、その視線には大きく分けて二つの思考が見て取れた。
一つは興味本位、そしてもう一つが……色欲。
一つ目の視線は全身を軽く見てくることが多いが、もう一つのほうは顔と胸とお尻に多くて、なんというかねっとりしている。
男として女性のそういうところを見てしまうのはわかるが、いざ自分の身になると吐き気がするほど気持ち悪い。
というか、
あと顔はまだわかるけど、胸と尻を見てるやつ!平坦だぞ!小とかじゃなくて無だからな!これに興奮してるのかなりやばいからな!
「ん〜、まあそれにしてもここまでじゃないけどね」
「そんな、なんで。ヘレネの方が可愛いのに」
「ふふ、ありがとね。カストルはあれだよ、美味しそうだから」
「それどういう意味?」
「見られてるだけで文句言うわけにもいかないし、まあ、可愛い税だと思えばいいよ。それに見てくれてるってことはそれだけ可愛いってことだしね」
「ねぇさっきのどういう意味?」
ヘレネは笑うだけで答えない。
俺の質問は思いっきり無視され、少しムッとした。
「そういうとこだと思うけどなー」
「なにが……?というか、この視線どうにかならないの?きついんだけど……」
「ならせめてその挙動不審を辞めるべきだと思うけどなー。そんなことしてるとお上りさんみたいだよ?」
「うぐっ、それはそうなんだけど」
今の自分をできるだけ客観的に見るとすれば、初めてオラリオに来て興奮しつつも怖がってる辺境のお嬢様といったところか。
だとすれば隣りにいるヘレネは従者だろうか?俺よりも余裕でスタイリッシュなとこがある彼女は執事かもしれない。ははは、笑えねぇ……
「ほら、自信を持って、視線が来るってことはそれだけカストルが魅力的なんだから」
自信、自信と言われても。
そういえば、レト様にもそんな事言われたな。
まさか、自分の可愛さに対してではないと思うけど……そうですよね?レト様?
「まあ、今のカストルはそれはそれで可愛いけどね」
「…………」
ヘレネは少しはにかみながらそういう。
その目は……ああ、くそ。今の俺ほんとにだせぇ。
ヘレネの目にはどこか慈愛の色が見える。
それは彼女の優しさだ……でも、それは同時に彼女から庇護の対象として見られてるということだ。
そして、事実俺は彼女を盾にして、彼女に庇護されている。
これをダサいと言わずして何という。
ダンジョンで守られているというのに、日常ですら守られるつもりか?
それは、嫌だ。
戦闘は無理かもしれないけど、せめて、普段くらいは彼女と対等な関係でいたかった。
パチンッと頬を両の手で叩く。
「よしっ!」
「んっ?覚悟決まった?」
ヘレネの背から抜け出して、一歩自分から踏み出す。
すると、先程までも沢山あった視線がさらに増える。
それに少しビクッと体が震える。けれど、下がりたくなる気持ちを抑えた。
ヘレネの隣を歩くならこのくらい、耐えてみなきゃいけない。
軽くあたりを見渡すと、白髪に赤目の少年と目があった。
少年は俺と目があったからか顔を赤くして、目をそらす。しかし、気になるのかチラチラとこちらを見ていた。
そんな俺以上に慌てる彼を見るとなんだか、少し心が落ち着いた 。
視線もねっとりしてない純粋な好意の色で気持ち悪くない。
意図せず俺を落ち着かせてくれた彼にお礼に軽く手を振ってあげる。
少年はさらに顔を赤くするとどこかへと走っていった。
……あれ?
「……カストル、悪い子」
「え?」
「なんでもないよ。いこっか?」
「あ、うん」
彼女の隣を歩く。
なんだか、こうなってしまえば視線も気にならない。
少し気分が高揚して、足が弾んだ。これが自信を持つということなのか。
隣から見る彼女の顔は、可愛らしかった。
「とうちゃーく」
ヘレネにエスコートされて到着したのは人で賑わう酒場だった。
看板をみるとそこには『豊穣の女主人』と書かれている。
良い時間だからか店内は混み合って騒々しく、この酒場が人気であることを教えてくれる。
宴会でもしてるのだろうが、大人数で囲ってるテーブルにはとても美味しそうな料理が沢山積まれており、なるほど、ヘレネがオススメするだけはあった。
「いらっしゃいませ……あら……?」
忙しなく動く店内に入店した自分達を迎えたのは薄鈍色の髪の少女だった。
彼女は、こちらを一目見たあと少し興味深そうな目でじーっとこちらを……特に俺のことを見つめてくる。
「じぃーーーー」
「あの……?」
ずっと見つめてくる彼女に少し気後れした俺は少し後ろに下がる。
ま、まさか女装がバレている……?
彼女の瞳、どこかレト様と似たようなものを感じるその目は自分のことを赤裸々に暴かれてるような気分になる。
女装がバレてるんじゃないか、そう思うと少し怖い。
「シルさん?」
「あ、ごめんなさい。二名様ですね?」
「うん、そうだよ」
「お客様二名、入りまーす!」
そんな俺の不安をよそに常連だからか名前を知ってるらしいヘレネに名前を呼ばれた彼女は視線を外すとまるで何もなかったかのように接客を再開した。
取り敢えず何も言われなかったことに俺はほっとすることしかできなかった。
結局、彼女は何故俺を見つめてきたのかは分からずじまい。
気になる。とても気になるが、しかし、わざわざ聞いて墓穴を掘るわけにもいかず俺は何も聞けなかった。
少女に案内されたテーブルにつくとメニューが手渡された。
中身を見てみると中々強火な値段が書かれている。
ぎょっとする俺にヘレネは笑いかけた。
「あはは、ちょっと高いけどね。でも、ほんっとうに美味しいから!」
「そ、そうなんだ……」
ヘレネは食にこだわるタイプ、そんな彼女から太鼓判をもらってるわけだから値段相応の、いやそれ以上の味はあるのだろう。
しかし、だとしても値段は財布にくるものがあった。
結局、メニューの中の一番安いやつを頼む。
ヘレネも洋服を買ったばかりだからか普段の彼女と比べたら控えめな量を注文していた。それでも多いけど。
「いい雰囲気でしょ、ここ」
「うん、酒場って感じ」
騒々しい辺りを見渡せば酒をごくごくと一気飲みする男や、テーブルを囲ってみなで談笑する人達もいる。
英雄譚ででてくる酒場といえばこんな雰囲気だった。
「これ、みんな冒険者だよね?」
「昼は一般人が多いんだけど、夕方以降は冒険者達で賑わうの」
テーブルに座る人達をみると、みな体つきがしっかりとしていて荒事に慣れてるのが察せられ、中には明らかにダンジョン用の装備の者を着ている者もおり、むしろしっかりと着飾っている自分達が浮いてるように思えた。
まさに冒険者の酒場だ。
「ご飯も美味しいんだけど、この雰囲気がすごく好きなの。オラリオって感じがして。私の故郷じゃこういう場所はなかったから」
「確かに、オラリオって感じがする」
彼女の言葉に俺は頷く。
冒険者なんて他の国にはほとんどいない。
オラリオだからこその酒場。
ガヤガヤと騒がしくもどこか落ち着く、そんな雰囲気はここ、オラリオでしか味わえないものだ。
「ヘレネはさ、なんでオラリオに来たの?」
微笑む彼女に、ふと少し気になって聞いてみる。
世界の中心であるオラリオには様々な場所から人が集まる。かくいう俺もそうだ。
みながそれぞれ夢を持って訪れる。それがオラリオ。
ならば、ヘレネは何を持ってオラリオの地を踏んだのだろうか。
「んー、別にたいしたことじゃないの、正直に言っちゃうとお金」
「え、そうなの?」
だから、ヘレネの返答に俺は大きく驚いた。
ヘレネの性格だから、何かでっかい夢とかが出てくるんじゃないかと思っていたのに、なんだかとても現実的なものが帰ってきたから。
「うん、うちね、実は冬を超すのも大変なくらい結構な貧乏だったの」
「そ、そんなに……?」
「あはは、元々はそんなんじゃなかったんだけど、お父さんが死んじゃって……稼ぎが減っちゃって」
その時のことを思い出したのだろうか、ヘレネの顔は普段と変わらぬ笑みであるのにどこか寂しそうだった。
「妹が二人、まあ片方は双子なんだけど、お母さんだけじゃ流石に厳しいから私と双子の方の妹で手伝ってたんだけど、それでも厳しくて」
故郷か、それとも家族か、何かを見つめるように遠くに視線を向ける彼女は普段の爛漫な彼女と違いとどこか儚く、どこか神聖にも感じられた。
「お姉ちゃんとして頑張ったけど、やっぱり女手じゃ厳しいし……仕方ないから娼婦でもしようかなって思ってたんだけどお母さんに止められちゃった」
「……」
娼婦、そんな単語が彼女の口からでることも、彼女が娼婦になっていた可能性があったことも、あまりにも意外で、俺は何も言えない。
ヘレネは責任感が強い、そう思っていたけどそれは長女として家に関わってきたからなのかも知れない。
立派だな、素直にそう思った。
その頃の俺と言えばただ英雄に憧れているだけだったというのに。
「でも、このままじゃ駄目だと思ったの。だからオラリオで一攫千金しにきたわけよ」
「そっか、大変だったんだね……」
「まあね、でも楽しかったよ」
思ったよりも重い話に俺は月並みのことしか返せない。
そんな俺に彼女は気遣った……わけではないのだろう、きっと彼女は本気でそんな毎日を楽しんでいた、だからヘレネは笑う。
「そ・れ・に、可愛くなるためにはお金も必要だからね!だったらオラリオで頑張らないと!」
そんな境遇であろうと、ヘレネは笑い夢を語る。
なんだか差を突きつけられたような気がして、胸が少し苦しかった。
「可愛くなるため……ヘレネってほんとに可愛いが好きだね」
ヘレネは"可愛い"という言葉が好きだ。
それは、はたから見れば執着のようにすら見えたが、彼女はきっとそんなネガティブな感情は抱かないのだろう。
「なんで、そんな可愛くなろうとするの?」
「可愛いと色々お得なんだよ?」
ふふ、と小さく笑う彼女。
その笑みは純粋無垢を体現したかのような性格をしている普段のヘレネからするとだいぶ黒い笑みだった。
「……じょーだんだよ?」
「あ、うん、そうだね」
そういうヘレネ。
それは本心なのだろうけど、可愛いがお得と思っている事自体は別に冗談ではない気がした。
だって、たまにそういうのを利用してるのみるし。まあ、可愛らしいものだけど。
「あとはそうだなー、恋人探し?」
「ぶっ!?」
「わ!だ、大丈夫?」
水を飲んでる最中にぶち込まれたヘレネの爆弾に俺ははしたなく水を吹き出す。
咳き込みなどを抑える俺を心配するヘレネに、大丈夫と伝える。流石に恥ずかしかった。
「こ、恋人探し?」
「恋人探しというかね、王子様と出会いたいの」
困惑する俺をよそにヘレネは言葉を続けた。
その姿はまさに恋する乙女のようだった。
「英雄譚とかにさ、お姫様とかでてくるじゃない?彼女達が恋愛する様子がとっても好きなの。私もそんな恋愛がしたいんだー」
「……そう、なんだ」
彼女の言葉、その言葉に俺は空返事を返した。
だって、その夢はあまりにも夢物語。
夢破れた者が肯定するにはあまりに眩しすぎた。
そんな俺を彼女は見抜いていた。
「ふふ、無理って思ったでしょ?」
「え、あ、いや……ごめん」
虚を突かれて、建前を言おうとしてどもり……あまりに手遅れなので謝った。
しかし、彼女は笑って許した。
「まあ、そりゃそうなんだけどね、私もこれが夢物語だってわかってるもん。王子様なんてまず会えないしね」
ヘレネにしては、少しネガティブなことを言う。
しかし、彼女の言葉に反してその顔は笑みが浮かんでいた。
「でもそれで諦めるのはお断り」
「!」
「ほら、童話でさ、あるでしょ。王子様がいじめられてた子に恋する話」
確かに、有名な童話にそんな話がある。
虐められていた少女が魔女の手で着飾られて、王子様の心を射止める話。
そのタイトルがそのまま、成り上がりの意味を持つほどに有名な童話。
「あれってさ、なんで結局のところ王子様はお姫様が可愛かったから好きになってくれたんだと私は思うの」
「そう、かな」
「だって、そうでしょ?少女が可愛かったから王子様は好きになったの。少女が可愛くなかったら、きっと好きどころか興味すら抱かない」
それは、その通りかもしれない。
恋愛で中身を見るか外見を見るかは議論が分かれるところだけど。
結局のところ中身を見てもらうためには外見が良くないといけないのだ。
「だから、私は可愛くなりたい!いいや、なるの!じゃないと、王子様に会ったときに振り向いてもらえないもの」
「……ヘレネは十分魅力的だと思うよ」
笑顔でそういう彼女には、見たものを引き付ける
そんな彼女だから俺は惹かれたし、きっと王子様も彼女を見たらすぐに好きになることだろう。
それだけの可愛さが彼女には既にあった。
「ありがとね。でも、まだまだ、まだ私は可愛くなれるの」
それでもヘレネは満足しない。
「それでね、壊すの」
「壊す……?」
「夢なんて壊して現実にしてやるの。王子様を待つなんてお断り。私はもっと可愛くなって、夢物語、その壁を」
彼女は、強い。
「壊してやるの!」
まだ、その先を見ている。
……俺と、違って。
英雄を夢見て、現実を見て、諦めた俺と違う。
彼女は、現実を見て、夢を見て、そのうえで諦めない。
そんな彼女があまりにも、眩しくて。
自分が惨めで、自分が嫌で。
だから、これは妬みなんだと思う。
「……ヘレネは、凄いね」
「……凄い?」
「うん、そうやって無理だと思ってることにも努力できるの、凄いと思う」
その言葉は称賛でもあって、それ以上に妬みでもあったのだと思う。
ヘレネは凄い。
その精神も、その才能も。
そんな彼女に、少し嫉妬してしまっていた。彼女の夢に向かって努力していることが。
無理だと思っても諦めないところが。
俺はできなかったから。
折れてしまったから。
それをできる彼女を妬んでしまった。
なんて、薄汚い思いだろうか。
彼女は何も悪くない。悪いのは俺だ。それなのに八つ当たりで妬んだ。
そんな、俺の言葉を
「ありがとねカストル。ふふ、私、絶対王子様を捕まえてみせるから!」
彼女は笑顔で受け取った。
きっと、彼女は俺が言葉に込めた感情に気づいていないだろう。
彼女は眩しいから。
光の前に影はかき消される。
だから、今の俺は無様だった。
「……うん、頑張って」
ああ、なんて、釣り合わない。
彼女を好きであることすら、罪のように感じた。
ガヤガヤと騒がしい店の中で俺の周りだけ音が消えた気がした。
喧騒の中、僕とヘレネの合間だけは料理が来るまで無音だった。
普段のヘレネなら話しかけてくるはずだから、多分俺の気持ちまではわからないまでも何かを察したのだろう
気を使われている、こんなときすらも迷惑をかける自分が嫌だった。
注文した料理を
「多いな……」
テーブルの前に置かれた料理はとてもデカい。少しおののきつつお腹をなでる……まあ、なんとかはなるか。
口に運んでみれば……なるほど、ヘレネがオススメするだけはある。
「美味しいでしょ?」
「うん、想像以上」
そんな俺を見てヘレネが勝ち誇ったような笑みを浮かべながら聴いてくる。
今まで食べてきたものの中でも、上位に入り込む美味しさだ。ヘレネがここを気に入るのも納得だった。
「ねぇねぇ、私の家の話したし、カストルの家の話も聞かせてほしいな」
「俺の?」
料理の味に舌鼓を打っているとヘレネがそんなことを聞いてきた。
まあ、彼女の話を聞いたのだから俺も答えるのが筋というものだろう。
とはいえ、俺の家になんかあったりとかはないので退屈な話題になるだろうが。
「別に、普通の家だよ」
「家族は?カストルも妹いたりするのー?」
「妹は……あー」
どう答えればいいか、少し悩んで俺は口をどもらせる
妹は、いたといえばいた。しかし、いたとも言えないそんな複雑な事情があったのだ。
そんな様子の俺に、ヘレネは申し訳なさそうな顔をした。
「も、もしかして、私駄目なこと聞いちゃった?」
「ん?あ、いや違う違う」
一瞬、何を言ってるのか分からなかったが、彼女が誤解していることを理解した。
これは俺が悪いな。誤解されてもおかしくない言い方だった。
いや……妹が生きてないという意味では同じなのだが。
「元々俺は双子だったんだよ、妹がいたらしい。でも、産まれられなかったから」
「……そっか、残念だったね」
悲しげな表情を浮かべるヘレネ、それに俺は慌てて言葉を続ける。
これ以上彼女の顔を曇らせたくなかった。
「いや、そもそも顔も合わせたことも無いから気にしてないよ……むしろ、そういう反応のほうが困る」
妹と言っても顔を合わせたことすらない。なんだったら妹の存在を知ったのは物心がついた頃どころか、十歳になった時だ。親に教えられたのだが、正直悲しむべしなのか反応に困ったくらいなのだ。
悲壮感だとかそういうものは全く無い。
妹の存在なんて親が話さなければ、俺は知ることすらなかったのだ。
そんなわけだから、俺は特にそのことを気にしていなかった。
ヘレネも納得したのかそっか、と軽く笑った。
「じゃあほぼ一人っ子かぁ、私、物心がついたころには妹がいたからちょっと羨ましいかも」
「俺は兄妹がいる生活が気になるけど」
そういう俺にヘレネはそんな良いもんじゃないよと、楽しげに言う。
ワガママだし、言う事聞かないし、我慢しなきゃだし、と今まで貯めてきたであろう愚痴を言うヘレネだが、やはり顔は笑顔でなんやかんや言っても妹達のことは好きなようだ。
「俺に妹がいたら似たようなことになってたのかな」
もし、俺に妹がいたとして。
バタフライエフェクトやなんやかんやで、その俺は今の俺よりいい人生を送れているのだろうか。
……まあ、無理なんだろうな。
妹に抜かされてる姿がありありと想像できた。
「カストルの妹かぁ。今のカストルそっくりだったり?」
「やめてくれ……」
俺と妹は双子だ。
だからこそ、その可能性はとてもあり得そうな話であった。
というか、実は母親に似てるのだ今の姿。
金髪のロングとか、目つきとか、母親を若くしたら多分今の俺みたいになると思う。
だから、妹に似てるのかもしれないという話は嫌にリアリティがあった。
「カストルって面倒見いいし、いいお兄ちゃんになれるんじゃない?」
「そう、か?」
そんなこと言われても正直想像がつかなかった。
自分が面倒見がいいと感じたことはない。
俺のことだし、妹を適当に扱って親にぶん殴られてたりしてそうだが。
「ふふ、それもしてそう。でもなんやかんやいいお兄ちゃんしてると思うよ」
「だといいけ『ドンッ!!』わっ!?」
突如、何かを叩きつけるような音が店の中に響いた。
発生源は俺の真横。
何事かと、横を見ればそこには酒瓶を叩きつけ、顔を赤くした男がいた。
服装からしておそらく冒険者だろう。
男はヘレネの方を不躾ににやにやと見つめている。
その嫌らしい目線にはあのヘレネですらその笑みに少し陰りが見える。それでも笑みを崩さないのは流石だった。
「なあ、嬢ちゃん俺と飲まねぇか?」
男は嫌らしい笑みを浮かべながらそう言う。
分かってはいたが、やはりナンパか。
大層酒に酔ってヘレネの美貌に引かれてしまったのだろう。
最悪だ。せっかくヘレネと楽しく話せていたというのに、一気に空気が悪くなってしまった。
ヘレネもやはり苛ついてはいるのだろう、だがしかし同時になんだか心配そうな表情を浮かべていた。
「ごめんなさい、初対面の人と飲む気はないの」
それでもその苛立ちが伝わらないようにヘレネは男を軽くあしらう。
慣れてる対応だ。多分、過去何度もナンパにあってるのだろう。
しかし、男はそれでも引き下がらなかった。
「おいおい、そんなつれないこと言うなよ。今日の夜ぐらいいいだろ?」
「ん〜、駄目かな〜。ていうか
食い下がる男にヘレネも笑みを維持できなくなりそうになりながらもそれでも怒らず軽くあしらう。
だが、それでも男は止まらない。
ここまで明確に拒絶されれば、諦めそうなものだが酔っ払ってる故にブレーキが効いていないらしい。
そのとき、男の腕がヘレネの肩に伸びようとした。
「やめろ!」
それを見た瞬間、俺は思考するよりも早く叫んでいた。
男が、ヘレネの肩に伸ばそうとしいた手を止めてこちらを見る。
視線がこちらを向く、品定めするかのような気持ち悪い目だ。
少し体が震えた。
「ああ?
男は俺を見ると明らかに見下しそういった。
可愛い?そう言われてきたのは何度もあったが、ここまで不愉快な気持ちになったのは初めてだった。
ヘレネに対してと違い侮蔑の色を感じるのはこちらが
ここオラリオでは恩恵の影響で女性でも侮れない強さな事がある。
それに対して、
それ故の見下し、ムカつきはするが事実でもあった。
「はっ体付きはあれだが……目の保養にはなるな。どうだ?この嬢ちゃんと一緒に飲むか?」
「……っ、嫌に決まってるだろ。気持ち悪い」
ああ、気持ち悪い。
男の圧に少しビビりながらも、俺は強気に言い返した
ムカついていた、ヘレネに触ろうとしたことも
しかし、これはミスとしかいいようがない。
酔ってる相手に挑発のような言動をしたのだ。
「あ゛!?」
男は逆上する。
男はこちらへ体を寄せ、俺を見下ろす。
「てめぇ、俺は冒険者だぞ?あー、ムカついたわ酷い目にあいてぇみたいだな?」
「……やれるもんならやってみろ糞男」
目の前の男は一体どれほどのステータスだろうか。
分からないが、ほぼ確実に俺は勝てない。
言葉に乗った悪意が恐ろしい。
それでも、俺は引けなかった。
ヘレネの目の前でそんなダサいことをしたくなかった。
その言葉に、ついに男がキレた。
「舐めてんじゃねぇぞクソアマが!」
「っ!」
男が俺の腕をつかむ。
ゾクリ、背筋が震えた。
言葉の応酬をしていたときよりも激しい嫌悪感。
気持ち悪い!
「触んな!」
思わず俺は手を振り払った。
「うおっ!?」
男はまさか
ともかく男は驚き、目を見開いた。いい気味だ。
「てめえなにしやが──」
「うちのカストルに何してるの?」
しかし、あくまで振り払っただけ。
もう完全に怒ったのであろう男が俺の胸ぐらを掴もうとして、
そのときヘレネが動いた。
そう、男が動くよりも前にヘレネの怒りに限界が来たのである。
バキッッ!
やったことは単純、男の腕を鷲掴みにして……
あまりにも単純な行為。
しかし、力だけならうちのファミリア随一のヘレネの力だ。
その破壊力は言うまでもない。
それだけで木が力付くで折られるときのような、腕からは鳴ってはいけない音がした。
「あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?」
「カストル、大丈夫!?」
「あ、う、うん」
ヘレネからの制裁を食らった男が腕を抑えてうずくまりながら叫ぶ。
しかし、ヘレネはそれをまるでゴミを見るかのような目で一瞥したのち、こちらを心配していた。
その変わりよう、正直に言うとあの男より今のヘレネのほうが怖かった。
ヘレネは俺の腕を取って、掴まれたところを確認する。
別に腕を掴まれた程度で怪我するほどやわじゃない。
ヘレネの性格だから別にそういうわけじゃないと思うけど、やっぱり彼女にとって守る側、ということなのだろう。
多少赤くなっているが、怪我はなくヘレネはそれに安心したのか息をついた。
そのとき、
痛みに悶えていた男が突如として立ち上がる。
そいつの顔は怒りか、それとも痛みからか赤く染まり目は血走っている。
その視線が向く先には、こちらをみているヘレネ。
男は、ヘレネの後ろから拳を振り上げた。
「クソ女がぁ!」
「ヘレネっ危ない!」
男が絶叫しながらヘレネへと拳を下ろす。
ヘレネは俺の言葉で気が付くが、いくら彼女でもこの状況から避ける事は出来ない。
男の魔の手がヘレネに迫る。
その時だった。
「ぐぼぁっ!?」
「失礼、手が滑ってしまいました」
どこからともなく飛んできた銀のお盆が男の顔に直撃した。
飛んできた方を見ると、店員の制服を来た緑髪の女性でありながらとてもスタイリッシュで俺なんかよりよっぽどかっこいい
彼女の神速のお盆に男は一発ノックアウト。
数回バウンドすると、お店の端のほうまでぶっ飛んでいった。
「すみません。遅くなりました。お二人とも大丈夫ですか?」
「うん、リューさんありがと!」
男を反射して戻ってきたお盆を華麗にキャッチした彼女はこちらを心配してくる。
常連なだけあってヘレネは彼女の名前を知っているらしい。
リューと呼ばれた彼女はその返答に満足したのか、何もなかったかのように通常の接客に戻っていった。
「おバカ様一人はいりますにゃー」
「おバカ様は道端にポイ捨てにゃー」
ふと、ぶっ飛ばされた男をみると、二人の
彼女達は宣言通り男を道端にポイ捨てが如く雑に放り投げ財布を抜くと、リューさん同様に何もなかったように接客に戻っていった。
この一連の動作に俺は呆気にとられてることしかできなかった。
「ここの人たちみんな腕っぷしすごいから、こういうことすると追い出されるの……だから、やめたほうがいいって言ったのに」
「そ、そうなんだ」
思わずドン引きする俺にヘレネは笑って教えてくれた。
果たしてこれを腕っぷしの一言で片付けていいのだろうか。
あの男は掴まれたときの感覚からして多分、Lv.1だと思う。
それを一撃で吹き飛ばすということは最低ラインでもLv.2……いやLv.2でもお盆で人ひとりぶっ飛ばすのは厳しいはず。
ということはLv.3はあってもおかしくないんじゃないか?
そんな衝撃的な光景だったが、周りの人は全く気にしている様子を見せない。
どうやら、ヘレネの言う通り今の光景すらこのお店では日常のようだ。
「一応改めて聞くけどカストルは大丈夫?怖くなかった?」
「あ、うん。怖くないって言えば嘘になるけど……」
あの瞬間を思い出すと少し気持ち悪くなる。
もし、ヘレネが合間に入ってくれなかったらどうなっていただろうか。
最悪を想像すれば体が震えた。
「その、ありがとう。守ってくれて」
「いやいや、団長だし家族を守るのは当然でしょ?それにカストルも守ってくれたじゃん。お互い様お互い様」
「そう、かな……」
ヘレネはそう言うが、俺はとてもそうは思えなかった。
結局俺のやったことと言えば男をいたずらに挑発しただけ。
多分、ヘレネ一人だったらこんなことにならずもっと穏便に済ませられたはずだ。
それなのに俺が意味もなく場をかき乱した。
そして、その尻を拭くのすらヘレネにやってもらった。
結局、俺は守られていた。
そのことに俺は顔を曇らせた。
「ねぇねぇ、カストル」
「……なに?」
「笑おっか!」
そんな俺を見て彼女何を思ったのかそう言った。
「せっかくご飯食べてるんだから今は不安なことも何もかも忘れて笑おうよ!」
そ・れ・に、と彼女は続ける。
「可愛いに大切なのは笑顔だから!」
「……ふふ」
いつでも変わらないヘレネに思わず、俺も笑みを浮かべてしまった。
本当に、ヘレネは凄い。
言葉一つで簡単に俺を救ってくれたのだから。
「にひひっ、ほら見て可愛いでしょ?」
ヘレネは俺の前に手鏡を差し出す。
そこに映っている姿は、相変わらず俺には見えない。
けれど、この可愛らしい姿も俺、なのだろう。
「そうだね」
可愛い、なんて言葉苦手だったけどヘレネの言葉なら少しだけ受け入れられた。
軽いトラブルはあったものの、その後は雑談をして楽しい時間を過ごすことができた。
そのせいだろうか、好きな人とご飯を食べれてたのが嬉しくて浮かれていた俺は、浮かれている故にあることを失念していた。
「あら〜、あら〜、あら〜?」
「レ、ト様……」
まあ、つまり女装したまま家に帰ってしまったのである。
部屋に戻る直前の俺を発見したレト様は非常に楽しげな笑みを浮かべており、その表情に俺は顔を引きつらせる。
レト様はよくいる享楽主義の神とは違い、神格者の善良な神であるが、それはそれとして子供たちをイジるのは結構好きなタイプであった。
「これはこれはカストル〜、とっても可愛いですね〜?」
「いや、これは、違うんですよ」
「大丈夫ですよ〜、私はそういうのも否定しませんから〜」
「そうじゃなくてですね!」
いい笑顔でサムズアップするレト様にこうなった理由を話す。
必死に話す俺にレト様は終始やさしい笑みを浮かべていた。
「聞いてます?」
「はい、カストルの気持ちは分かってますよ〜」
「…………」
うんうんと、頷くレト様。
もう、いいや
この神のことだ。多分分かっててこういう言い方をしてるのだと思う。
この神には説明するだけ無駄である。わかってないのではなくわかったうえでやってるのだから。
デリカシーのない他の神様と違ってレト様はラインを分かっているし下手に墓穴を掘るよりは諦めたほうがいい。
「楽しめたようよかったです〜。ヘレネとのデ・エ・ト」
「やっぱりレト様の仕込みですか……」
わかってはいたが、やはり今回の主犯はレト様だったようだ。
親に恋愛事情を知られた気分で、少し気恥ずかしい。
「……そんな分かりやすかったですか、俺」
「んー、まあ、はい。多分千秋とかなら気づいてると思いますよ〜」
……まあ、あいつなら気づきそうだ。
ヘレネにバレてないだけマシと思おう。
「一応言っておきますけど〜、ヘレネのためでもあったんですよ〜」
「頼ることを覚えてもいい、でしたっけ」
「聞いていたのですね〜」
レト様はそれなら話が早いと言葉を続けた。
「あの子は、責任強いのは良いのですが、それ故に自分一人で抱え込んでしまうところがありますからね〜」
「そう、ですね」
本当に人をよく見る人だ。
レト様という立場からすればヘレネのそういうところは分かりづらいはずなのに、しっかりと気づいてる。
そのうえでしっかりと指摘してくれる。
「普通そうなる前に失敗して学ぶものですが〜。あの子は失敗しないですからね〜、才能があるというのも考えものです〜」
ヘレネの才能はすごい。
なにせ、レト様がここまで言うのだ。
それ故にこんな問題が生まれるのは皮肉な話だった。
天才であることが、いいこととは限らないということなのだろう。
「だから、カストル。しっかりヘレネに頼られるようになるのですよ〜?」
「……頑張ります」
「そこは嘘でもはいって言ってほしかったですね〜」
そうはいっても、正直ヘレネに頼られるような人間に成れる気がしない。
そのくらい彼女は凄いのだ。
「それにしても、本当に似合いますね〜。ぱっとみじゃカストルってわからなかったのですよ〜」
「自分でもそう思います……ええ、ほんとに」
レト様は改めて俺を見てそういう。
流石に自覚はあるのでレト様の言葉を肯定する。
本当は否定したかったが、ここまで似合っていると似合ってないと自己暗示することすらできなかった。
「初対面だったら私でも女の子と思っちゃうかもですね〜神の目を欺けるなんて凄いです〜」
「なんですかね。褒められてるのに全然嬉しくないです」
神様から女装にお墨付きを貰ってしまった。あれぇ、目から汗が出てきた。
「ふふ、それでカストルは冒険者に戻るんですか〜?」
「……急になんですか」
「とぼけなくても〜分かってるんでしょう?」
細くなった目の奥から見える彼女の瞳は見通してくる。
「発動してるんじゃないですか〜?あのスキル」
「…………」
思い出すのは、男に腕を掴まれたとき。
改めて考えると、あれはおかしいのだ。
なんで、冒険者の落ちこぼれが本物の冒険者相手に力で勝てた?
「まあ、物が物なので〜すぐに決めるのも難しいでしょうけど〜それでも、明日からの探索は持ってたほうがいいと思いますよ〜」
「っ、冒険者には」
「
……敵わない。本当にこの神には
彼女の言葉は言い返そうにも言い返せず、俺は黙りこくることしかできなかった。
「期待しちゃったでしょう?これがあればって」
「…………」
「それでも踏み出せないのは……不安、それとも恐怖?」
視線がぶつかる。
彼女の瞳は変わらず慈愛の色が浮かんでいる。
まるで、無垢な子供のように問いかけてくる彼女の言葉を俺は否定する。
「……違いますよ。女装なんて、したくない──」
「嘘」
しかし、レト様は俺の言葉を遮って告げる。
「あなたは女装にそこまで抵抗はないのでしょう?ふふ、まあないわけではないでしょうけど。それでもそこまで拒否するほどじゃない」
「そんなことない、ですよ」
「神の目を使うまでもないですね〜。
捻り出した言い訳、そんなその場しのぎがあのレト様に通用するわけがなかった。
そして、レト様は俺の中に踏み込んだ。
ドクン、と心臓が大きく震えた気がした。
鼓動が早くなって浮ついたときのように体が落ち着かない。
図星
そんな俺にレト様は言葉を重ねる。
「失敗するのが怖いのなら、やらなければいい。カストルはそう考えたのでしょう?」
心の中を踏み荒らすどころか、力付くで破壊されたような気分だった。
レト様は俺が隠そうとしていることすらも、当たり前のように覗き込む。
「失敗したら、カストルの限界が見えてしまう。それが嫌だからそもそも挑戦しない」
「…………」
「女装をしたくない、そう言い訳すれば納得できる」
「…………」
「自己暗示、ですかね〜。自分にもそう嘘をついた」
「…………」
「でも、それって〜」
レト様は告げる。
「
「……っ!」
自分にすらついていた嘘が引っ剥がされる。
「違いますっ、俺は女装がいやでっ」
それでも、そのメッキを剥がしたくなくて、そのメッキを守らないと駄目で。
自分でももう、無理筋なのは理解していても。
俺は嘘を吐いた。
けれど、神に嘘は通じない。
レト様はこちらによると、優しく話しかけてきた。
「ねぇ、カストル。たまには素直になってもいいんじゃないですか?」
「うあっ……」
「甘えてもいいのですよ〜」
「……………………っ、仕方ない、じゃないですかっ!」
レト様は俺を抱擁する。そうしたら、もう溢れだした。
恐怖と嗚咽が混ざったような、そんな声が溢れだした。
心臓が締め付けられてるかのようで苦しかった。
「これで、これで終わったら俺は、俺はどうすれば……っ、もうなにもないんですよっ!?俺にはもう、なにもっ……」
隠れていた……いや、隠していた感情が溢れ出す。
分かってる、分かってるんだ。今の自分の状態なんて。
自覚はずっと前からしていた。
「分かってます!分かってますよ俺だって!自分が逃げていることなんて分かってるんですよっ!」
もし、俺が、俺がスキルを使ったとしよう。
それで、上手くいくなら何も言うことはない。
だけど、上手くいかなかったら?そのとき、俺は本当の意味で冒険者を諦めなければならなくなる。
それが、怖い。
だってそれは今までの人生を否定することだ。
お前の人生は無駄だったと、叩きつけられる。
「そうなったら、俺は耐えられない……」
そして、俺の中には何が残る?
なにもない。
俺の中に何もなくなる。
ただ、無能の
それを想像すると、心の中が寒くなって落ち着かなくなる。
だから、わざと使わなかったのだ。
使わなければ、俺はこのスキルを心の拠り所にすることができる。
可能性に縋ることができる。
逃げることができる……
これを使わなければ俺はまだ夢を見ていられるのだ。
「そこまでわかってるなら、そのままだと後悔することもわかってるでしょう?」
「……っ」
その通りだ。
ずっと、逃げ続けられるわけがないんだ。
逃げ続けていたら、いずれ諦めることしかできなくなる。
そのとき、俺は後悔するのだろう。
なんであのとき挑戦しなかったって
なんであの時逃げてしまったって
その焦燥に今も苛まれている。
わかってる、わかってる、わかってるんだ。
「怖いんです……」
でも、
「また、諦めるのが怖い……」
分かっていても踏み出せない。
選択しようとすると、体がすくむ。嫌なんだ、終わってしまうのは。
どうせ失敗する。
負けるかもしれない、そんな戦いに挑む勇気が俺にはなかった。
「私はカストルなら平気だと思うのですが〜」
「やめてくださいよ……そんな、励まし。嬉しくないです」
レト様のその信頼が辛かった。
だって、俺は、その信頼を裏切ってしまうだろうから。
そんな俺にレト様は笑いかけた。
「カストル、オシャレってなんのためにすると思います〜?」
「……急に、なんですか?」
あまりにも唐突な話題転換に、俺は少しあっけに囚われてなんだと尋ねる。
オシャレはなんのため?
そんなことしたことないから分からない。
「私はですね〜。自信を持つためだと思っています〜」
レト様は俺の疑問にそう答えた。
「オシャレをすると自分に自信を持てるのです。ふふ、カストル今の自分を可愛いと思いますか〜?正直に、ね〜?」
「……まあ、可愛いと思います」
実に、実に遺憾であるが、今の自分が可愛らしいというのは客観的に見て事実ではあると思う。
だから、俺はそれを肯定した。
「じゃあ、普段のカストルは可愛いと思いますか〜?」
「可愛くないです」
即答だった。
女装してない俺なんて、ただの
そんな俺の答えをレト様は当然のように予測していてさらに続けた。
「ふふ、なんで今のカストルと普段のカストル、どうしてカストルの答えは変わったのでしょう?」
何がいいたいのかは流石に察しがついた。
「……オシャレしてるから」
俺の答えに何も言わずレト様は笑顔で正解と告げた。
「カストルに足りないのは自信です……だから、もっとオシャレするといいですよ〜?」
「……オシャレにしてもこの方向性は」
「ねぇ、カストル」
嫌だ、そう続けようとしてレト様に遮られた。
レト様は一歩前に踏み出す。
「
「……っ!?」
その言葉に俺は固まった。
俺の夢は、その程度なのか。
その言葉は俺の胸に突き刺さった。
「今すぐ決める必要はないのです。選択の時まで悩みなさい。悩んで悩んで悩みなさい」
俺は……俺は……
「いずれ、選択の時はくる。その時に間違えないようにするのですよ〜」
まるで神託のようにレト様は告げる。
「あなたは可愛いのですから、もっと自信を持つのです〜」
そう言ってレト様は呆然とする俺の横を通り過ぎ、自分の部屋へと戻っていった。
「はぁ……」
レト様と別れ部屋に帰った俺はバタンと扉を閉じると同時に崩れ落ちてため息を吐いた。
ヘレネとのお出かけは凄く嬉しかったし、楽しかったがそれ以上疲れた一日だった。
……分かってるさ、怯えてることも、こんなプライド邪魔でしかないことも。
でも、俺は、進むことができなかった。
「とっとと寝よ……」
少し早い時間だが、この疲れをとっとと取ってしまいたい。
取り敢えずこのワンピースから着替えよう。着ているだけでメンタルがゴリゴリと削れていくのだ。
それにこんな姿同じファミリアのあいつらに見られたら俺は死ぬ。
相部屋の千秋が使ってる立ち鏡にはお姫様のような少女が映っている、
・・・・・・
ちょっと、可愛い感じのポーズしてみたり
ガチャリ
「……何をしてるんだお前は」
千秋が扉を開けて入ってきた。
「……っ!わあああああ!!!」
「おいっ、急になん……なんだその力は!やめろ!首を絞めるな!」
「煩い!お前を殺して俺も死ぬぅぅぅ!」
「ヘレネに着せられて、それを見られたのが恥ずかしかった」
「はい」
「だからといって人の首を絞めるな」
「はい、すみませんでした」
全くもってその通りなので素直に頭を下げる。
千秋が頑張って俺を落ち着かせたあと、事情を説明した俺は自分達のベッドに座って向かい合って話していた。
零細ファミリアに個室なんてあるわけもなく。
というか多分個室をもってるファミリアの方が少ないが。
俺と千秋は同室である以上千秋がこの部屋に入ってくるのは当然であった。
その可能性を考えていなかった俺が完全に悪い。
……あと五分遅ければ見られなかったのに。
「はぁ……今日は厄日だ」
「それは私も同じだ」
首を抑えて顔を顰める千秋、その姿に流石に罪悪感を抱き俺は再度頭を下げる。
「そう言えば、このこと他のやつに言うなよ?」
「お前の話を聞く限り既にファミリアの過半数に知られているが」
【レト・ファミリア】はレト様も入れて五人。
当然一人は俺として、残り四人でこのことを知っているのはレト様、ヘレネ、そして眼の前のこいつ。
……知らないのルーガだけじゃねぇか。
その事実に落ち込んでいる俺を、千秋は何とも言えない目で見てきた。
「しかし、女にしか見えないな」
「やめてくれよ。気にしてんだから」
「……一応聞くがお前は男だよな」
「喧嘩売ってんのかお前!」
至極真面目な顔でとんでもないことを抜かす千秋に頭の上に青筋が立つ。
そこそこ長い付き合いなのでわかるが今こいつは冗談ではなく本気でいった。
こいつはときたま真顔でとんでもないことを言い出す癖がある。
「仕方ないだろう。正直、見分けがつかない。それどころか今までつきまとってきた女なんかよりよっぽどにすら感じる」
「……まあ、確かに……確かに、我ながら可愛いとは思うけどさ、そこまでではないだろ」
不服ながら、不服ながら、俺が女性にしか見えないのは認めよう。
しかし、いくら似合ってようが俺は男なのだから、本物の女性に敵うわけない……そもそもそんなとこで敵いたくないが。
だが、そんな俺に千秋は呆れた目を向けていた。
「お前は……」
「なんだよ?」
「前々から思っていたが……お前は異様に自己評価が低いな。もう少し自分を客観的に見るべきだ」
「んなこと……」
「ある、謙虚は美徳ではあるが、行き過ぎれば失礼にあたる、そして自分の身を滅ぼすぞ」
「……何が言いたいんだよ」
「襲われるぞ」
「は?」
今、こいつは、なんて、言った?
「聞こえなかったか?襲われると言った」
「聞こえてるわ!襲われる?俺がぁ!?」
「……一応言っておくが襲われるというのは犯さ──」
「うっさいうっさいうっさい!その無駄にいい顔でそういう事を言うのをやめろ!」
真顔でなんてこと言うんだこいつは!
くそ、想像しちまった。あのときのナンパ野郎のせいで無駄にリアリティがありやがる。
「どうやら身に覚えがあるようだな」
「……まあ、わかったけどよ」
「ならば、普段から警戒しておくことだな」
流石にあのようなことがあったのに千秋の言葉をいつもの天然の一言で片付けることはできなかった。
今後は気をつけたほうが……いや、まて別にこの服着てないならどうでもいいことだろ。
とっとと脱いでしまおう、そうホックに手をかけた。
千秋のやつが目を逸らしていた。
「……なに?お前男の着替えに興奮してんの?」
「…………」
千秋は答えない、しかし視線はそらしたままでそれが実質の答えになっていた。
それに俺はニヤニヤと笑みを隠せなかった。なにせいつもすかした顔のこいつの数少ない弱点のようなものを見つけられたからだ。
だから、だろうか。
俺は少しからかいたくなってしまった。
「ふ〜ん、お前って結構───」
こちらをみてないのを利用してゆっくりとあいつの耳元に近づいて。
言ってやった。
「へ・ん・た・い、なんだっ!?」
ドンッ!
腕を掴まれてそのままベッドへと叩きつけられた。
臀部に走る衝撃に思わず目を瞑ってしまった俺は、目の前に現れた千秋の顔に目を見開いた。
ち、近い!
至近距離、まつ毛が触れ合ってしまいそうなほどの近距離。
千秋の鋭い瞳と目が合う。
「私は言ったはずだ」
「な、なにがっ」
「襲われるぞ、と」
ビクッ!と思わず肩が震えた。
「待てお前なにするつもりだ!?」
「
まるで先ほどのお返しと言わんばかりに耳元でそう囁かれた。
み、身で知ってもらうって、な、なにするつもりだ!
なんだか顔が熱くなってきた。
というか、
「お、俺は男だぞ!?」
そう、俺は男だ。女じゃない男なんだ
だから、
そんな俺に千秋は無駄にかっこよく余裕の笑みを浮かべた。
「いいことを教えてやろう──極東では、一般性癖だ」
「お前の故郷それでいいのか!」
極東のことなんて俺はほとんど知らないから、俺の中の極東のイメージがそれになるがそれでもいいのか!?
「わかっただろう?正直に言ってやろうか?今のお前は……イケる」
「嘘だろお前!?」
「そのくらいお前は可愛らしい。だというのに、あんな煽るような行為……」
くそ、なんか小っ恥ずかしい!なんであの男だと気持ち悪いのに……顔か!?やっぱり顔なのか!?
なんだか熱くなる顔に、俺は耐えられず千秋から目を逸らした。
しかし、千秋は俺を逃さない。
顎を掴まれて、クイッと持ち上げられる。
目と目が向き合う。千秋の目は鋭く、逃さない。そんな意思を感じられた。
「お前がどれだけ迂闊か理解したか?」
「っ……」
視界が千秋の顔に固定された。
逃げることは許されず、正面には普段の彼の冷徹な目と違う、獣のような得物を見つめるような目。
蛇に睨まれた蛙のように俺は動けない。
この状況に俺はとんでもないくらい焦っていた。
「これでも理解できないなら、無理やりにでも──」
だから、だろうか
「あ、え……その、やさしく……」
何故か、そう言ってしまった。
「…………」
「…………」
無言だった。
そのときの千秋は、何かを耐えるような凄まじい顔で迫力のある顔つきだった。
そんな、千秋が一言。
「……チョロいな」
「死ね!」
俺は千秋の股間を全力で蹴り上げた。
「なぁ!?」
流石に応えたのか普段のクールさも投げ捨て股間を抑えてのたうち回る。
その姿は実に無様であった。
「誰がチョロいだアホ!」
「チョロいだろう!軽い脅しに何頷いている!男なら断われ!」
「煩い煩い煩いっ……!なんか頷いちゃったんだよ!元はと言えばお前がこんなことをしなければ!こんな……!」
あれ?改めて思うとなんで俺頷いちゃったんだ?
まさか、本気でされてもいいと思ったわけもないし。
確かにこいつはイケメンでかっこいいし、襲われてもいいとちょっと思った……わけないだろ!
何考えてるんだ俺は、何本気で惚れそうになってんだ。
そう、その場の空気に流されて……その場に空気に流されてなんだよ。
そうだ、そのはずだ。
自分の心を落ち着かせるように、何度も何度も心のなかで言い聞かせる。
そうでもしないと何かが崩れてしまいそうだった。
「うえっ……うぇぇぇぇ」
困惑、疑心、不安、なんやら色々と湧いてきて自分でも何がなんだかわからなくなって、視界が滲む。
「待て、その顔で泣くな。私がクズみたいになる」
「事実だろぉ……」
「カストルー?千秋ー?なんか変な声が……」
ガチャリ、と扉を開けたヘレネの視界には、はだけた服に涙を浮かべる俺とその眼の前に立つ千秋に視線を向けた。
それを見たヘレネは果たして何を考えたのだろうか。
それはエスパーでも神でもない俺にはわからない。
しかし、赤面を浮かべなんとも言えない表情の彼女が、
「……ご、ごゆっくり〜?」
「「待て!」」
ろくでもない勘違いをしてるのは間違いなかった。