個性【錠剤】で個性の薬をつくりながらヒーローになるアカデミア 作:黒鉄 玲
ただただムカつく、腹が立つ。
今の死柄木には薬錠に対してそんな感情を抱いていた。
雄英を襲撃したあの日、あの場に薬錠がいなければ確実に成功していた。なのに、あの男が邪魔した。しかも先生みたいにいろんな個性を使っていた。なんだよそれ、チートじゃねぇか。
あぁ、思い出すだけでムカつく。体育祭の時の映像でもそうだった。自分の個性を組み合わせて、相手を叩き潰す。その様子は楽しそうだった。それがまた、余計にムカつく。
「……はぁ。黒霧、少し空ける」
「はい、お気をつけて」
BARの扉を開けて、店を出る。黒霧は、死柄木の背中を、ただ黙って見守っていた。
真っ昼間の中、ただ目的もなく歩く。ふと、立ち止まる。そこはなんの変哲もない路地裏。そのはずなのに。
そして、ふと疑問を抱いた。
(あれ……?いつから俺は…、
今までそのことに関して疑問に思ったことはない。昔の記憶がないからだ。少なくとも親ではない。なら先生とはどこで会ったのだろうか?思い出そうとするも頭に霞がかかるかのように思い出せない。
「よう」
後ろが声がし、死柄木は振り返る。
そこには、俺が今最も嫌っている男、薬錠鎖がいた。
ー薬錠視点ー
体育祭が終わり、次の日が振替休日となった。
今、俺は本を買いに行くために出かけている。本というものは良いものだ。最近は学校の授業の難易度が徐々に上がっており、なかなか読む時間が取れないが、中学の頃は寝る前に必ず30分〜1時間は本読むということを繰り返していた。それくらいには本が好きだ。昔の本でも、その頃はこんなのが流行っていたという、時代背景を知ることが出来る。
ちなみに今は寝る前に予習をするようにしている。普段だったら勉強しなくてもそれなりの点数が取れたが、さすが雄英高校と言うべきか予習していないと普通に難しい。
そんな中、路地裏でポツリと立つ人が目に入った。それは紛れもない、あの死柄木弔だった。ただ、前見た様子と違く、なにか考え事をしているようだった。なんとなく話しかけてみる。
「よう」
死柄木は振り返り、目を見開く。そんなに驚くのか?
「なにか困り事か?」
「……オマエには関係ない」
そう言って死柄木は突き放す。まあそうだろうな。
「まあまあそう言わずにさ。そうだ、一緒にマック食おうぜ。奢ってやるよ。俺まだ昼飯食べてないんだ」
死柄木は少し考え、こう指摘する。
「……マックじゃなくマクドな」
俺はダブルチーズバーガーを、死柄木はビッグマックセットを頼んだ。
「……よかったのか?」
死柄木は俺にそう問いかける。まあヒーローと
「俺は仕事とプライベートは分けるタイプなんだ。よってオマエが俺と別れた後、オマエがなんかデッカい事件を起こしても、俺は一向に構わない」
別にヒーロー活動中は容赦なく捕まえるが、それ以外で会っても別になんとも思わない。それで人が死のうが、街が崩壊しようが知ったことではない。
「………
「成り行きでヒーローになった奴がヒーローのような心を持ってると思うか?」
別に善悪の区別がないわけではない。身内や知り合いが悲惨な死に遭ったら、可哀想にとお悔やみ申し上げる気持ちもあるし、それが人の手で起きたのなら、その人を恨むだろう。
ただ、その外側の人たちに関しては、申し訳ないがどんまいとしか思えない。
他人の死を悼める人は聖人と言えるだろう。だが、誰しもそんなことをできるわけじゃない……自分も含めて。
「……ほんと、俺にはヒーローは向いてない」
苦笑混じりのその笑みに死柄木は少し驚いた顔をする。まるでそんな顔するのかとでも言いたそうな顔だ。
「んで……何で悩んでたんだ?ほら、人に話してみたら何か変わるかもだぞ?」
本題に入る。死柄木は答える。
「…俺は、昔の記憶がなくて……そういえばいつ先生と会ったのか…思い出せないんだ」
まあそうだろうなと心の中で呟く。身内を不本意で、しかも幼少期に殺したのだ。軽くトラウマで思い出せなくなっても仕方ない。
「そうか。……もし良かったら俺の個性でオマエの記憶を思い出させること出来るが、どうする?」
「…!そんなこと出来るのか?」
「まあな。だが俺はあんまりオススメは出来ない。普通の子供の頃の記憶って思い出すとキッツいものがあるぞ」
しかも死柄木に関しては幼少期に身内を殺したトラウマもある。生半可の気持ちなら見ないことを薦めるレベルだ。
「覚悟が決まったら俺に教えてくれ。はいこれ」
ガラケーを取り出し、死柄木に渡す。
「……なにこれ?」
「連絡手段。会ったほうが良いだろ?」
「それよりなんでそんなモン持ってんだよ」
会計を済ませて死柄木といっしょに外へ出る。
「そうそう、死柄木」
「……なんだ?」
「俺は別にオマエの行動を否定も肯定もしない。だから、気軽に呼び出してくれて良いぜ。ヒーロー活動中以外なら対応してやる」
何故こんな言葉をかけたのかはわからない。ただ、伝えたかった。
「……アンタやっぱヒーロー向いてねぇな。そんな言葉、
「確かにな」
そう言って死柄木と俺は別れた。
この時の死柄木には、薬錠にムカつくという感情は湧いて来なかった。
ただ何故か、薬錠は自分と似ていると、そう感じていた。
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