お昼寝したいのに主人公が爆散したからできません ~モブだけでも世界は救えるのか~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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21:地下ですよ地下

 

「ひぐ、えっぐ。」

 

 

さて、数百人を連れてヤクザの本拠地。……あぁ失礼、レースの賭け関連を牛耳っているマフィアの本拠地に攻め込んだわけですが、ここで私はとある裏技を使用しようとしています。

 

まぁ経験値おじさんやカジノでの乱数調整が出来たので、すでにもう『成立する』ことは疑っていません。しかし現実世界では起こり得ないはずことが成立しているので少々不安に思う所がないと言えば、嘘になりますが……、“使える”のであれば幾らでも利用するのが世の常というもの。

 

多少のズルやテクニックで私の貴重なお昼寝時間が守られるのならば、幾らでもやってやりますとも。

 

 

「ということで確認から。まず前提として制作側は、このような室内において“数百のキャラが一気に動き回る”こと、特に激しい動きを伴う“戦闘”を行うことを想定していません。」

 

「な、なんの話。ひぐっ。」

 

「独り言です。あとそろそろ泣き止んでもらえません?」

 

 

確かにすぐそばで数百人が一斉に『ぶっ殺してやる!』とか言いながら暴れ回っていたら怖いのは解りますが……。

 

さて、話を戻します。

 

無論このゲーム、『天アバ』にも巨大マップ。所謂数百や数千の兵たちが入り乱れ戦うマップなどが存在していました。まぁハードにかなりの負荷がかかるので、その戦闘に入る前はムービーなどを流し、その間に専用マップにキャラを移動させることで処理を楽にしていたのですが……。

 

ここで注目して頂きたいのは、『数百のキャラが一斉に動き始めると処理が遅くなる』ことと、『それを防止するために専用マップがある』と言うことです。

 

 

「悪知恵の働く諸兄諸姉たちは、この“処理落ち”に目を付けました。早い話、防止策として用意してある専用マップ以外での『大規模戦闘』を引き起こしちゃおう、というわけですね。」

 

 

製作陣もそのようなことをされないように幾つか防止策を組んでいたようですが……、そこから抜け穴を見つけるのがプレイヤーですし、穴がなければ作ってしまうのがプレイヤーです。早い話、通常通りの遊び方をすれば何をどうしても“十数人規模”で収まるはずの戦闘を“数百人規模”にしたのです。

 

無理矢理キャラクターを押し出して集めたり、他のバグを併用して集めたり、道端にオブジェクトを置いて通行人全員を一か所に集めたりして引き起こすのが、この裏技ですね。

 

 

「まぁ失敗すると経験値おじさんと同じ末路を迎えるので注意は必要ですが……。まぁそうそう失敗はしないでしょう。」

 

 

恐れず全力で振り抜けば、何も問題ないのですから。

 

さてさて、今現在攻め込んでいるのはヤクザ事務所。どうやらレースを牛耳っていた輩は私の知らないマフィアだったようで、内部状況を詳しく知っているわけではないのですが……。外から見た建物のサイズを確認するだけで、 『確実に大規模マップではない』ということが把握できます。

 

そんなどれだけ頑張っても十数人の戦闘が限度という所で、数百人を叩き込んだ戦闘を行えばどうなるか。そりゃもうカックカクという奴です。

 

そして処理が落ちてしまえば、こっちのもの。

 

 

「ではチロさん、別に泣き喚いてもいいですが私の身体をしっかりとつかみ、同時に戦闘準備だけしておいてください。」

 

「うん……。」

 

 

まだ隣というか、私達を追い越してヤクザ事務所にカチコミし、思いつく限りの罵声を上げながら殺し合いを始めちゃった人たちがいるので完全に回復しきってはいませんが……。ある程度の会話が出来るようになったチロさんにそう指示し、『アイテム欄』からおなじみの『木こりの斧』を取り出します。

 

今回使用する技は、処理落ちを利用した壁抜け。より正確に言うならば“地面抜け”になります。

 

本来この世界全て、『天アバ』に存在するオブジェクトには全て当たり判定が存在しており、今私達が立つ大地も例外ではありません。しかしながら“判定を識別する”が故に、数百人規模のキャラクターたちが同時に暴れ回るとゲームハードが悲鳴を上げてしまうという問題がありました。それを解決するための『専用大規模マップ』なのですが……、

 

そんなもの、今この場に存在するわけがありません。

 

 

「悪い奴は一番高い所か、一番深い所にいると相場が決まっているのです。もし地下があれば地面を抜けてそのまま直行。地下が存在せず最上階にいるのであれば、『地面に埋まった反発』で上空から襲撃してしまえばよいのです。」

 

 

では。

 

今の私、ゲームの中にいるかのような状態である自身にはカクツキなど視認できませんが……。過去の経験をもとに、今回連れて来た暴徒たちが完全に事務所の中に入り込み暴れ出したことを確認した後。全力で地面に向かって斧を叩き込みます。

 

すると、本来地面に突き刺さり大地を削るはずの攻撃が、“外れます”。

 

まるで最初から何もない所に攻撃を叩き込んだかのように、私とチロさん諸共吸い込まれていき……。

 

 

感じる、完全なる無。

 

 

物体と物体の間に存在する虚無の空間であり、ただ黒で埋め尽くされた空間。制作側の意図に沿ってお行儀よく遊ぶだけでは絶対に入り込めないソコ。

 

上下左右の方向感覚どころか、時間すら“設定されていない”世界。冷たさとも暖かさとも違う何かが私達を包み込んでいき、私に抱き着いているはずのチロさんの感覚すら消え失せます。まさに永遠にも感じられる暗闇の中、けれど一瞬だけ『ここで安全に過ごせればお昼寝スポットとしては最高では?』と思いかけた瞬間。空間の外へ斧が引っ張られていきます。

 

 

「……ぇ。」

 

「っと、抜けましたね。」

 

 

はい、と言うことで視界に光が戻って来て、地面ならぬ天井から落ちて来たので通り抜け成功。どうやら地下室を持っている感じのマフィアだったみたいですねぇ。まぁ地下室がなかった場合、あのまま沈むのではなく『本来この場にいないはずのキャラがここにいる』という判定が起こり、勢いよく上に弾き飛ばされていたので沈み続けていた時点で地下室があるのは解っていたのですが……。

 

ま、成功したので良かった、ということで。

 

 

「き、貴様らッ! 一体どこからッ!?」

 

 

とまぁそんなことを考えていると、此方に向かって声を荒げて来る男。

 

なんですか貴方? 私、今忙しいんですよ? 見たら解るでしょう。

 

何せ先ほどの空間のせいで心ここに在らずというチロさんを叩き起こさなければいけないですし、安全に先ほどの空間を行き来できるバグや裏技が無かったかと思い返す必要もあります。そして何よりも、どうせここに隠してあるだろうヤクザの金庫を奪って惰眠を貪らないといけないのです。

 

ほら帰って帰って? 邪魔だから。

 

 

「か、帰るのは貴様らだろうが! お、俺の組だぞ!? というかどこから入って来た!?」

 

「あぁ組長さんでしたか。それはそれは。ちょうどいいことで。……チロさん、はまだ無理そうだから私が対処しましょうか。酷く面倒ですけど。」

 

「ッ!? どこの組のもんだッ!」

 

「うるさいですね。」

 

 

おそらく地上にいる部下たち、暴徒となって突撃した市民たちを対処しているであろう配下に助けを求めるためか声を荒上げる組長さんですが……。正直ね、もう私かなり疲れてるんですよ。

 

だって朝からやる気出して乱数調整カジノした後、レース熟して予想的中させた後、戦闘の上に扇動。挙句の果てには壁抜けならぬ地面抜けしたんです。もうお昼寝したくてしたくてたまりません。そんな折に騒いで暴れて私の邪魔をする。

 

万死に値します。

 

手早く生まれて来たことを後悔してもらいましょう。

 

 

「まぁ幸いなことに1対1。わが身可愛さから、1人で地下室にでも逃げ込んだのでしょうが……。残念ながら条件が整ってしまいましたねぇ?」

 

 

 





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