お昼寝したいのに主人公が爆散したからできません ~モブだけでも世界は救えるのか~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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29:高いところですねぇ

 

「お嬢様。」

 

「えぇ、どうも。これは取っておいて。」

 

「お心遣いに感謝いたします。」

 

「ああああああの、かかか、カーチェ? いやカーチェ様???」

 

 

どうしましたチロさん。そんなに震えて。折角お店のご厚意でドレスだけでなくメイクまでしてもらったのに、色々と崩れてしまいますよ? あ、チップに金貨を使ってるのが気に入らない感じ? でも今は貴族として振舞っているのであまりケチケチするのは好ましくないんですよねぇ。

 

自論にはなりますが、貴種は金をばら撒くことで経済を回しています。使って使って使うからこそ、市民の懐にお金が巡っていくのです。今日は一度も“貴族”などと名乗ったことはございませんが、それを偽装しているのならばら撒いた方がいいでしょう。

 

そも既に必要な額は分割してアイテム欄に保管してますし、元々このお金は悪逆非道なマフィアなもの。お金に罪はありませんが地下の金庫で眠っているよりは、私達に楽しくパーッと使ってもらえる方がお金も誇らしいと思うものではないでしょうか?

 

……え、違う? じゃあ単純にコルセットがきつい感じですか?

 

 

「ち、ちちちちち」

 

 

あ、そう。ならいいんですけど。

 

そんな私達が身を包むのは、先程の貴族向けのお店で仕立て上げてもらったドレス。2着で2,000万も出したおかげか、かなり質の良いものを仕立て上げてくださりました。

 

私のものは黄緑でフリルが多く、幼さを可憐さに変えながらも無表情なことで感じさせる冷たさを“ミステリアス”にまで無理矢理押し上げる様なもので、チロさんのは赤い髪をより際立たせるように黒を基調としたもの。おそらく私との格を考え華やかさを落しながらも、綺麗に整ったドレスとなっています。うんうん、モブにも衣装とはよく言ったものです。

 

一応二人とも既製品を少し手直ししただけのようですが、普通にこのまま舞踏会にでも行けそうなレベルです。あの店は良い仕事をしましたね。

 

そんな感想を抱きながら少し歩くと、見えてくる格式高い建物。日が沈み始めたことで魔法のランプに火が灯り幻想的な雰囲気を醸し出しているそこは……。

 

 

「こここ、ここ。なににににに?」

 

「『ル・フェストン』、所謂貴種御用達の高級レストランです。折角部屋を取ることが出来たのです、デザートだけでなくコースを頂けるようですから、何も気にせず楽しんだ方がよいのではないですか?」

 

「そそそ、それはそう、だけどどどど。」

 

「ちなみに一食50万位するそうです。普段使いは流石にできませんねぇ。」

 

「ごじゅ!?!?」

 

 

先程のドレスの店の男性、話を聞くところによると店主だった彼と少し会話していたのですが、大体それぐらいの値段がするようです。まぁ食材の関係で値段がちょっと変動することもあるそうなので……、ヤバい時は7桁、100万ぐらいな時もあるそうです。そう考えるとかなりお得な時期に来れたみたいなんですよねぇ。

 

そんな話をすれば、なんか道路工事でよく見るアスファルト破砕する奴みたいに震えるチロさん。滑稽ですねぇ。まぁ彼女のおかげで『身分の高い幼女なお嬢様と、それに巻き込まれた一般出身の護衛』という形を演出できるので問題ないのですが。

 

っと、誰か近づいてきましたね。

 

 

「ご歓談中失礼いたします。本日お嬢様方の担当を拝命いたしました、コルクで御座います。」

 

「よしなに。」

 

 

店の外に出ていた給仕らしき男性、ずっと視線をこちらに向けていましたのでそうかと思っていましたが……、どうやら当たりのようです。

 

 

「連れが悪いわね。」

 

「いえいえ、お気になさらず。本日は個室でのご予約という事でしたから、ぜひお食事を楽しんで頂ければ。」

 

「それもそうね。案内してくれる?」

 

「どうぞこちらに。」

 

 

軽いやり取りを終え、彼に連れられながら店の中に入ります。

 

すると広がっているのは、チロさんの震えがより悪化する光景。

 

この世界では初めて見る全面に敷き詰められた落ち着いた赤の絨毯に、黒を基調とした落ち着きのある内装。わざわざ天井から魔法のランプを垂らして光源を確保していることから、とてもお金を賭けていることが見て取れます。

 

 

(……震えすぎて動けなくなってますね。女性の給仕さんもいらっしゃることですし、運んでもらいましょうか。)

 

 

そうこうしていると、ようやくたどり着いた個室。給仕の彼に手を引かれながら椅子に座ってみれば、対面には滅茶苦茶恐縮しながら2人のお運びさんに抱えられて座らされる娘が一人。……普段は頼りになる魔女なんですがねぇ?

 

 

「本日は当店、『ル・フェストン』にお越しいただき誠にありがとうございます。コースでのご予約と伺っておりますか、何か避けるべきものなどございますでしょうか?」

 

「チロ、何か食べて体調が悪く成ったりするようなものはある?」

 

「ななな、なかったと、おももも」

 

「ないみたい。」

 

「畏まりました。ではお飲み物はいかがいたしましょう。」

 

 

飲み物……、うーん、どうしましょうか。

 

前世でこのような機会があれば適当に料理に合うワインでも見繕ってもらったのでしょうが、今のこの身は幼女。アルコールなど飲めば一発でアウトです。試したことはありませんが、確実に分解できずに最悪死ぬでしょう。……異世界の王家御用達ワインとか滅茶苦茶気に成りはするんですけどねぇ?

 

あ、無論チロさんもまだ15なので飲ませませんからね? 異世界ではそう言った法など存在し無いでしょうが、未成年に酒飲ませるほど堕ちたつもりはありません。

 

 

「お酒以外で何か見繕ってくれる? 料理に合うのを適宜持って来てくれれば助かるわ。」

 

「でしたら……、まずは果実水はいかがでしょうか。檸檬の皮を削りまして、飲みやすくしたものであればすぐにご用意できます。」

 

「チロ。」

 

「そ、そそそそ」

 

「それを二つ。」

 

「畏まりました。では少々お待ちください。」

 

 

そう言いながら頭を下げゆっくりと下がろうとする彼に軽く手を上げ、呼び止めます。後は少し指を何度か曲げることで、こちらに寄るようなジェスチャーを1つ。すぐに伝わったようで、音を立てぬように駆け寄ってきてくれます。

 

 

(ちょっと緊張が酷いみたい、この子のだけ何か甘いのを用意してくれる?)

 

(でしたら貴腐葡萄のジュースがございます。よろしければお嬢様もそちらに致しましょうか。)

 

(そうねぇ……。なら果実水はそのままで、そのジュースをボトルで頂戴。)

 

(畏まりました、すぐにご用意します。)

 

 

ふぅ。とりあえずはこれで何とかなりますかね? さすがに緊張しすぎて味が解らないとか可哀想が過ぎますし、甘いものでも飲めば脳がリセットしてくれることでしょう。

 

にしても、貴腐葡萄ですか。

 

前々から思っていましたが、やはりこの世界の食は結構進んでいるようでありがたい限りです。まぁ元ネタであろう『天アバ』というゲームも、食事描写は結構手が込んでいました。異世界の食材を使いながら現代人が『食べてみたい』という風に調整されていたので……。ここの料理も、急に意味不明なゲテモノが出てくることはないでしょう。

 

 

「期待できそうですねぇ。」

 

「そそそそ」

 

「失礼します。お飲み物をお持ちました。」

 

 

チロさんが震えながら何とか言葉を紡ごうとしますが、それよりも先にウェイターさんが入ってきます。コルクと名乗ったさっきの男性ではなく、チロさんを運んでくれた女性。どうやらもう持って来てくれたようです。

 

 

「果実水はダムラムの雪解け水に現地で取れました檸檬の皮を絞ったものになります。後ほどお持ちします前菜と合わせてお楽しみください。」

 

「へぇ。」

 

 

ダムラム山と言えば、ゲームでも出て来た結構な危険地域だったはずです。まぁ中盤ぐらいの難易度でしたのでそこまで苦労した覚えはないのですが、王都からも距離がある場所です。そこからわざわざ運んでくるとなるとこれだけで結構な値段になってそうですねぇ。

 

……チロさんの震えがおかしくなるので値段のことは口にしませんが。

 

 

「そして、此方が霧葡萄のジュースでございます。」

 

「注いで頂戴。あぁ私のは軽く、ね?」

 

「畏まりました。」

 

 

そういえば、流れる様な手つきでグラスを用意してくれる彼女。チロさんも震えながら見ているようで、視線が十分にそのボトルに集まった瞬間……。芳醇な香りが周囲を包み込みます。

 

貴腐と聞いていましたのでそこまで驚きはありませんが、かなり良いものを用意してくれたようです。普段であればお会計が怖くなるところですが、今の懐は途轍もなく暖かいですからね。単純に香りを楽しむことに致しましょう。

 

 

「王国南部のキリハリで取れました貴腐葡萄を使用したものでございます。」

 

 

彼女がワインの説明を続けてようとするよりも早く、軽く首を動かしその視線をチロさんへと向けます。私もそうですが、庶民というものはあまり料理に対する説明は求めていません。というか庶民じゃなくても求めてない人もいるでしょう。料理の背景やそういった説明を楽しむ方もいるでしょうが……。あんまりやり過ぎるとチロさんがぶっ壊れてしまいます。

 

そう言う体で控えてくれる? と視線を送ればすぐに礼と共にグラスに注いでくれる彼女。チロさんには少し多め、私には一口程度のものが運ばれてきました。

 

 

「チロ、軽く匂いを楽しんでから飲んでみなさい。」

 

「ううう、うん。…………わぁ。」

 

 

恐る恐るという風にグラスに鼻を近づけるチロさんを眺めながら、私も同じようにしてみるとより強く香る花のような香り。しっかりと感じられますが、不快になるどころか心に落ち着きを与えてくれるような優しいものです。そして口に含んでみれば……。

 

 

「へぇ。」

 

「……甘ぃ。」

 

 

口の中を包み込む蜂蜜のような濃厚な甘み。前世の市販で手に入る様な単一な甘みではなく、より深く入り組んだようなもの。鼻孔で感じていたはずの香りが口の中で広がっていきます。まだ私の舌が幼いせいか、昔のように詳しく判別することは出来ませんが……。対面のチロさんの震えが止まり、一口一口惜しむように飲み進めているあたり、気に入ってくれたようです。

 

うん、大人になったらジュースじゃなくてワインを飲みに来ましょう。あるのかは知りませんが、フォアグラと一緒に食べたい。

 

 

「ご満足いただけたようで何よりでございます。すぐに前菜をお持ちしますので、もうしばらくお待ちください。」

 

 

此方の反応を確かめ、ほんの少し安堵したようなウェイターさんがそう言い、部屋から出ていきます。もし気に入らない様な感じだったら、他の持って来てくれたりしてたんですかね? そんなことを考えながら、一度果実水を口に運び、口内をリセットします。あ、これも美味しいですね。檸檬が良い味出してる。

 

 

「それで……、落ち着きました、チロさん。」

 

「う、うん。まだちょっと緊張してるけど……。」

 

「なら良かった。それで、どうですソレ。」

 

「葡萄のジュースって聞いてたけど、凄いわね。なんかよく解んないけどすごくすごいわ……。」

 

 

それはそれは良かったですねぇ。語彙が終わっているのがちょっと気になりますが、先ほどの緊張が一変。甘味に絆されホワホワした顔をしているので、安心しました。これで無事食事を楽しめそうですねぇ。

 

……確かに味も気になりますけど、こういった場での食事に全く耐性がないチロさんがどんな反応をするのか、結構楽しみなんですよね。

 

 

(やらねばならないことはまだ残っていますが……。今は忘れて彼女のリアクションを眺めることに致しましょうか。)

 

 





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