お昼寝したいのに主人公が爆散したからできません ~モブだけでも世界は救えるのか~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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58:来客みたいですね

 

「ねぇカーチェ。」

 

「なんですチロさん。」

 

「アンタ……、くつろぎ過ぎじゃない?」

 

 

私の眼の前にいるのは、『甚平』なる紺色の服を着て、『畳』の上に寝転がっているカーチェ。

 

なんか聞くところによると男性用の服らしいのだけれど、まぁ子供も着れるものらしい。浴衣とかよりも涼しくて楽だから、ということでそのチョイスみたいだけど……。だらけ切っている彼女の姿を見ていると、なんか色々と不安になって来る。なにせほんの数日前まで二カ月ほど寝室に籠り切って寝続けてた奴だ。

 

本音を言うと、今にでも叩き起こして何かしらの行動を起こさせたいのだけど……。

 

 

「里長」

 

「んぁ? あぁ米転がしですよね。そろそろ甲斐の方が妨害して来ると思うので、それを避ける感じにやってください。ちょうど越前の方が値下がりしてるはずです。」

 

「かーちぇ様」

 

「熱田の方の経済支援ですよねー、そろそろぶり返しが来ると思うので、全部回収~。」

 

「風魔サマ」

 

「駿府はノータッチです。もう旨味はない感じなので。城下の様子軽く探り終えたら全部撤収しちゃってください。」

 

 

そう、コイツ。寝ながら仕事してやがるのである。

 

ことはクソカーチェが城を爆散させたときから始まるんだけど……。

 

彼女が言っていたように、どうやらこの『風魔の里』は実力主義的なところがあるらしく、カーチェの存在というものはかなり早い段階で受け入れられていた。たった一人で里の勢力全てを制圧し、ついでに困りごとだったホクジョウ氏なるものとのイザコザも物理的に解決。信頼や信用を得たわけではなかったが、里の忍者たちが受け入れる選択をしたのは、確かだった。

 

 

(まぁこの人たちにとっての宝奪われてるし、力関係的にどう足掻いても逆らえないからかもしれないけど。)

 

 

んで里長に収まったカーチェだったが……。何と今回は珍しく、自分から仕事をし始めたのだ。

 

明らかな天変地異、当初はもう世界は終焉を迎えるのかと発狂しそうになってしまったが、本人によると『こっちの方が効率がいいので』とのこと。別に明日世界が終わるわけじゃないし、仕事終わらせてからたっぷりお昼寝する方が精神的に良いと言われれば、まさにカーチェが言いそうなこと。ということでやり過ぎないよう一応その動向を眺めることにしたんだけど……。

 

なんと彼女。王墓から奪った金銀財宝、ホクジョウ氏が溜め込んでいた大判小判。

 

この両者を、ドカドカとこの里につぎ込み始めたのだ。

 

 

『人間どれだけ反発していたとしても、利益が出るとなれば従いますからね。既に一生ごろごろして暮らせるだけのお金はあつめちゃいましたし、余ってすらいます。折角里長に成れて動かせるものが増えたのですから……、私だけの最強のおひるね空間、もとい対辺境伯のための準備をここでやり切っちゃいましょう。』

 

 

そう言った彼女は、分身を併用しながらどんどんと配下の忍者たちに指示出しをしていった。

 

自分用の別荘の建築を命じたり、町の鍜治場などの整備改革をやらせたり、昼寝に最適な畳と布団の研究開発を命じたり、なんか隣国のお米を買い占めて市場を崩壊させたり、味噌と醤油という調味料の新しい味の開発を命じてたり、私にはわからないことも多々あったが、まぁかなりの数の仕事を熟していた。

 

途中から本人が飽きてしまったのか、今のように畳の上でゴロゴロ寝転がっているだけになってしまったが……。この里の忍者からすれば、劇的だったのだろう。

 

 

(金払いは良いし、指示は的確、命じられたとおりに動けば全部彼女の掌の上で、実力は里全てより上。私からすれば『でもこいつ、カーチェよ?』と言いたいところではあるんだけど……。刺さっちゃったみたいなのよねぇ。)

 

 

聞いた話によると彼らの始祖である『風魔』も似たような感じの人だったらしくて、普段は何でもない自堕落な人だけどひとたび動き出せば神算鬼謀で一騎当千。始祖しか使えなかった忍術をカーチェが使えることから、もう始祖の生まれ変わりじゃないかという噂までたつ始末。

 

カチコミして全員ぶちのめした幼女が、いつの間にか『最高の里長』に成りつつあるのは……。なんかもう、アンタら頭大丈夫か? としか言えない。カーチェよ?

 

 

(まぁ一回焼き溶かしながら揺さぶって聞き出した感じ、そう悪いことはしていないっぽいので放置してたんだけど……。)

 

 

ちょっと視線を窓の方、今いるカーチェの別荘の外へと向けてみると……。明らかに発展しまくった町がそこに。

 

この里に来た時も十分に活気があって発展した町ではあったのだが、今はその5倍くらいの活気がある。里の端の方に見えたはずの空き地は全部建物に変わっているし、道を歩く人はもう大量。かといって何か問題が起きているわけでなく、カーチェによって完璧に整理された町がそこに。

 

まだこっち来て一月も経ってないはずなのに、この忍者の里であったはずの場所は、今では『小京都』、こちらでいう王都並み、いやそれ以上に発展した町になっちゃったそうだ。

 

 

「あ、あんたほんとに何したのよ……。」

 

「バグで発展度弄って最大にした後、投資しまくって強化しました。町の規模も、商店のレベルも、鍜治場のレベルも最大です。DLCでの追加武装の製作及び強化までやってもらえます。無論あの朧月も……。」

 

「風魔様」

 

「どもー。はい、この通り最大強化です。うんうん、良い出来です。」

 

 

急に現れた忍者から彼女が受け取るのは、妖刀としての精神が崩壊しただの刀に成り下がっちゃったらしい『朧月』。

 

この町に連れてこられた職人によってより強化され、特殊効果である『二回攻撃』そのままに、攻撃力を向上させたようだ。その出来に頷きながら軽く振るってみるその姿はいっぱしの剣士っぽいんだけど……、寝ながら振るってるせいで子供が遊んでいるようにしか見えない。あぶないからせめて立ってやりなさい馬鹿。

 

ちなみにだが、現在朧月の鞘と柄はカーチェによって魔改造を受けており、両者ともにボブになっているらしい。勝手に朧月を持って行ったり、奪われそうになった瞬間ボブ達が膨張して敵対者の肉体を乗っ取ろうと動き出すらしいのだが……。そっちの方が妖刀じゃない?

 

 

「セキュリティは大切なので。……にしても、やはりいい出来です。ゲームシステムの都合なのか、いい職人って町の発展度が低いとPOPしてくれないんですよね。だから無理矢理引き上げたんですけど、上手くいって良かった良かった。あ、チロさんも注文出しておいてくださいねー。こっちじゃゲームと違って完成するまで時間かかりますから。」

 

「解ってるわよそんなもん。」

 

 

彼女に言われるまでもなく、私も注文を出している。

 

ちょっと難航しているらしいが、まぁカーチェの言う通り腕のいい職人さんたちばかりだ。何故か私に『なんか朝起きたら知らない場所に家族諸共連れてこられて働かされてるんです。なんか待遇いいし町も良い所ですけど怖いです。助けてください』みたいな愚痴零されるけど、私にはどうすることも出来ない。

 

だって一回逃がしてあげたら、町から出ようとした瞬間に消えて、町の中に戻ってたんだもの。カーチェが言う所によると、『システムの都合上、そういうキャラは出現位置が固定されているので外に出たら初期位置に戻ります』ってことらしいが……。

 

うん、もうわたし関わらない。怖いし、踏み込み過ぎたら絶対壊れるもん。

 

 

「……にしてもカーチェ、なんでここだけ静かなの? この里というか街、何処でも凄い活気なのにこの屋敷の周辺だけ不気味なほど静かじゃない。人も全く通らないし。」

 

「簡単な話ですよ? お触れとして『この周辺で騒いだ奴殺す』ってお触れを出してるだけです。お昼寝の邪魔されるの嫌なので、一番破損の激しいボブをお触れの前に置いときました。『こうなりたくなかったら近寄るなー』ってやつですねぇ。」

 

「あぁ道理で……。」

 

『ご歓談中失礼します。』

 

 

そんな会話を交わしていると、障子の外から声。

 

どうやらあのお婆ちゃん、元里長の奥様が面会しに来たそうだ。……ちなみに彼女もカーチェに心酔し始めちゃった一人で、虚空を体験した後に圧倒的な攻城戦を見せられたせいか脳が焼けちゃっている。おそらく強烈な恐怖を味わわせた後に攻城戦を見せちゃったせいで、吊り橋効果的なことが起こっちゃったのだろう。

 

何度も言うが、虚空は本当に危険な場所だ。なんか私が耐えれちゃってるからカーチェもマヒし始めているが、常人があんなとこ放り込まれたら正気でいられるわけがない。いまだ元里長さんが寝込んじゃってるのを良いことに、カーチェに実権を渡したお婆ちゃんだけど……。本当に大丈夫なのだろうか。いや里の問題は無くなってるし、里自体の発展もしてるから英断ではあったんだろうけど。

 

 

「失礼します、里長。いかかですか、ご用意した屋敷は。」

 

「快適です、お昼寝も快適ですし静かにしたので気に入りました。それに、温泉も引いてもらえたのでいつでもお湯につかれるのもいいですよねぇ。……まぁそれに関してはチロさんの方が気に入ってますが。」

 

「ちょ、カーチェ!?」

 

 

い、いいじゃないいつでも入れるんだしッ!? そ、それにお湯なんてぜいたく品が毎日使えるのって王侯貴族ぐらいなんだからね! ……い、いやなんか私のこと愚民扱いするあの王女のせいで一応私も貴族身分になっちゃったらしいんだけど……、は、入らないともったいないじゃない!!!

 

 

「それはそれは、ようございました。」

 

「んで? どうしたんですお婆ちゃん。わざわざ来たってことは面倒ごとですか? チロさん。」

 

「速攻で投げつけようとするんじゃないわよ、燃やすわよ?」

 

「そ、その。実は先方が里長。カーチェ様とお会いしたいと……」

 

「私ですか? 誰でしょう…?」

 

 





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