お昼寝したいのに主人公が爆散したからできません ~モブだけでも世界は救えるのか~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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8:捕まっちゃった

 

 

(……はえー、これが本職。やっぱ現実で見ると違いますねぇ。)

 

 

そんなことを考えながら、チロと名乗った女性の後ろを付いて行きます。

 

丁寧な方でしたがまだ幼さが残る少女といった方がいいお方。雰囲気は優秀そうなのですがいささか若すぎるため、少しパパも『この人に任せて大丈夫かな?』みたいな表情してましたね。流石に本人にはバレてなかったようですが、毎日顔を合わしている私からすれば不安が顔に出ちゃってました。

 

多分アレ、村長としてはダメなんでしょうねぇ。

 

 

(ま、腹芸とかそういうの得意な人でもありませんから。)

 

 

パパは村人同士の仲裁や意見のとりまとめ、不満を溜め過ぎないようにする調整などを得意としている人です。しかしそれが発揮できるのは村の中。いわゆる身内だけの場だけです。お貴族様への対応はへたっぴでしたし、計算もお得意ではない。パパとしてはすごくいい人なんですけど、トップに据えるにはちょっと不安がある人なんですよ。

 

ま、それが逆に今の村を作れてる理由なのかもですが。ほら、支えてあげなきゃ、って感じの人ですし。

 

 

(とと、今は隠れて尾行してるわけですし。集中しませんと。……にしても、風下で良かったですねぇ。)

 

 

現在彼女は、村から出て盗賊が屯する拠点に移動中です。

 

父が考えていた予定では、一度村に腰を下ろしてもらい休憩してもらってから討伐をお願いするというものでした。けれどチロさんからすれば既に盗賊の密偵が村に潜んでいるかもしれない状況です。ご本人から『あちらに勘付かれても不味いですし、早急に動かせて頂きます。村の方で把握されてる情報をお教えいただけますか?』といわれ、即情報共有からの出立。という形になったんですよ。

 

んで不安プラス興味があった私も、急いでついて行ってるってわけです。

 

盗賊だけを急いで殲滅したい彼女と、魔物に襲われたくない私。両者ともに魔物避けのお香を焚いて移動中。こんなもの焚きながらだとすぐばれそうなものですが、運よく風下だから気が付かれてないって感じですね~。

 

 

(後、隠れるってのがちょっと上手くなっているのもあるかも。ほらお外でのお昼寝と称して、村の外にいる経験値おじさんの所に遊びにいってましたから。ちょっとだけ隠密行動が上手くなったんでしょう。確証は持てませんけど。)

 

 

完全な独学ですので若干不安になりながらも、どんどんと進んで行く彼女の後ろをこそこそと追いかけます。

 

……私の目的、『お昼寝ぬくぬくのんびり』を考えると、彼女の後を付けるのは全く意味がありません。そのまま二度寝を決めて勝手に戦ってきて頂戴、が正しい選択でしたでしょう。正直今でもUターンしてお布団ダイブしたいですし。

 

しかしながらその目的を達成するために必要な『世界の平和』、そしてその前の『自己の強化』を考えるとここで彼女に任せきりなのはちょっと不安なんです。

 

 

(せっかく呼び込めた王都への移動手段。そんな彼女が盗賊に負けて死んだら今度はいつ王都に行けるか……。)

 

 

私は思いっきり雑魚ですが、雑魚には雑魚なりの戦い方があります。

 

それに私一人では能力的に、そして人数的に不可能だった“裏技”も彼女が協力してくれれば使えるようになります。流石にあの“石埋まり経験プレゼント元盗賊おじさん”のような素晴らしい存在を量産するのは難しいですが、もし何か彼女に事故が起きたとしても、それに割って入り対処することは可能だと考えています。

 

しかもそこで恩を売れれば、無理矢理彼女について行き王都まで行く、という手段を取らずにも済むかもしれません。さっき考えてた自身の計画では利用する、半ば騙す様な形で向かおうとしていましたので、それを避けれるなら越したことはありません。

 

と。早い話、彼女が勝手に死なないように後ろからついて行ってるって感じですね。

 

 

(まぁ単純にゲームの中では見れなかった冒険者の戦い方とか、魔法とか眺めてみたいっていう気持ちもないわけではないですが。)

 

 

カメラとかあったら綺麗な魔法とかを撮影してクーラー効いた部屋でぼーっと眺めるのになぁ、なんてもう叶わない願望をしてみれば、前の方から聞こえていた足音が止まる。

 

一瞬バレたか? と思いましたが、どうやら違うようで。少し気を引き締めている彼女の顔が見えます。

 

その視線の先を見てみれば、この前お邪魔した時よりも幾分か拡大された盗賊たちの本拠地が一つ。崖を背にした彼らの拠点が広がっていました。どうやらチロさんは上手くやれたようで、敵に発見されるよりも早く木々の陰に隠れています。盗賊たちが暇そうに周囲を眺めていますし、大丈夫そうですね。

 

 

(奇襲をするにはちょうどいいタイミングと位置。さーって。チロさんはどんな戦い方を……。あ、動いた。)

 

 

近くで眺められるようコソコソ近寄ってみれば、行動を開始したチロさん。

 

すぐに彼女の掌に赤い魔法陣のようなものが生み出され、かなりの速度で突っ立っていた盗賊たちに突き進んでいきます。おそらく、プロ野球でもかなり良い線行きそうな速度。流石にそれが意識外から飛んでくるとなると相手も反応できないようで、何もできずに直撃し、発火。

 

しかも完全に顔に当ててますし……。あ、喉の奥まで火を回してますね。殺意高。

 

 

(なるほど、現実だとこういうこともできるんですねぇ。)

 

 

チロさん、彼女の職業であろう『魔法使い』という職は、文字通り様々な魔法を扱うことが出来ます。その属性や種類は個々人の素養に左右されるようですが、少なくとも修練を積めばかなり自由度を誇り、魔法で生み出したモノを操作できるという描写はゲームでもされていました。

 

彼女は一番簡単な魔法といえる『小火球』の火力を高めるため、操作することで顔から喉。そして肺を焼き尽くすようにしている様です。少ない魔力で確実に殺す、とっても効率的ですねぇ。……もだえ苦しみながら死んでるんで見た目はアレですけど。

 

 

「ッ!? なにが、敵ッ! 敵襲ー! 魔法使い、あがッ!?」

 

「……ち、気が付かれる前にもうちょっと削っておきたかったけど、仕方ないわねッ!!!」

 

 

あら、ちょっと口調が違う。

 

パパや村人さんたちの前で彼女、ネコ被ってたんだなぁと思いながら眺めていると再度展開される赤の魔法陣。しかし先ほどよりも数も大きさも上なソレ。

 

瞬きの間にそれらが火球へと変わって行き、どんどんと盗賊たちに降り注いでいきます。……しかも直線の動きじゃなく、ちゃんとホーミングしてる。はえー、すっごい便利。ゲームじゃたまに外れてましたけど、これなら全弾命中してくれますねぇ。

 

……にしても。たぶん彼女MP20以上ありますねコレ。最低1持って行く『小火球』を10個以上連打してますし。MPを3も要求される通常の『火球』も何度か放り投げてます。レベル上限が20の『魔法使い』でどれだけレベリングしてるかは解りませんが、まだ成長途上の15歳でこれだけのMP量。かなり魔法関連への伸びが良い感じの人みたいです。

 

ん? なんかよりおっきな魔法陣が。

 

 

「思ったより数多いわね……。そらッ!」

 

(大暴投……。じゃないですね。)

 

 

おそらく『火球』よりも上の魔法である『大火球』。MPを7も使用するそれを外したかと思えば、どうやら敢えて大きく後ろに逸らしている様子。少し着弾したところを眺めてみれば、地面に接した瞬間大きく炎が広がり逃げ道を塞ぐよう動いています。

 

周囲が森ってことで延焼しないよう気を付けてるみたいですし……。ほんとうまいですね。これが“優秀な冒険者”ってやつですか。

 

大丈夫かなーと思ってついてきましたけどいりませんでしたねぇ、コレ。

 

 

「ぎゃぁぁ! 火が、火がァ!」

 

「た、たかが魔法使い。近づいて殴っちまえばッ!」

 

「この私が距離管理間違えるわけないでしょうがッ! 燃え尽きろッ!」

 

 

走り寄って来る相手に対し後退しながら、『小火球』を放つ彼女。何度も仲間がやられれば盗賊も学ぶようで回避に動きますが……、チロさんの方が上手。火球を操作し寸分のズレなく口へと叩き込まれます。さすれば敵は声にならない絶叫を上げながらしめやかに焼死。

 

後はそれを淡々と繰り返せば……。

 

 

「……ふぅ、これで全員かしら。今回も上手くやれたわね。」

 

 

最小限の火力で確実に殲滅。おみそれいたし……、あれ?

 

そんなことを考えながらバレる前に家に帰ろうかなぁと思っていれば、何故か視線がグイっと上に。まるで何かに持ち上げられたかのようだと思いながら振り返ってみれば、私の首根っこを掴んだ盗賊が一人。焼死した奴と比べて服装や装備が良いので、おそらく盗賊のお頭という奴でしょう。

 

 

「おっと嬢ちゃん、ちーとばかし大人しくしとけよ? じゃなきゃその首軽くへし折っちまうからな。」

 

「あらら。」

 

 

捕まっちゃいましたねぇ。

 

 

 




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