たづな「経営難なのでトレーナーと一日デート券を発行します」 作:空見大
晴れた昼下がりの午後。清々しいまでの晴天の下で、気持ちよさそうに大地を駆け回るウマ娘達。
ここは中央――日本国内に存在するウマ娘育成機関の頂点であり、数多の天才たちがその才能を開花させるための場所。
日本一の設備が整い、日本一の環境が作り上げられ、日本一のトレーナー達が集う、そんな最高の育成機関である。
そんなトレセン学園の一角にはトレーナー達が集うための会議室が存在し、そこには十数人のトレーナー達が一堂に会していた。
これはこの学園に存在するすべてのトレーナーが集まっていることを意味しており、呼ばれたメンバーたちは、なぜこんな時期に呼び出されたのかと頭をひねる。
新しいレースの開催か? また学園長が何か思い付きで始めるのか?
前者あればいいが、後者であった場合怖いのは、いままで出たどんなイベントでも、こうしてトレーナーが全員呼び出されるということはなかった。
不思議と意識が共有され肌寒さを感じてか静かになる会議室。
ふと会議室の扉の向こうから、確かな足取りで誰かが歩いてくるのを聞き取り、トレーナー達は背筋を伸ばす。
数秒もしないうちに扉は開け放たれ、足音の主はこの場にいるにしては異質なほどの幼さと、それを感じさせない威厳を身にまとい、部屋の中央へと移動する。
「諸君! 今日は忙しい中予定をつけて集まってもらい感謝している」
トレセン学園の学園長。
この学園において最も偉い人間であり、最も突拍子もないことをしようとする人間。
すべての行動をウマ娘の為に向けており、トレーナー達からの信頼も厚い彼女は、トレーナー達の顔を確認して話を続ける。
「今日は皆に知っておいて貰わなければならない重要事項があってきた」
「重要事項? 聞いておりませんが」
声を上げたのはルドルフのトレーナーだ。
生徒会長を務めるルドルフには、時にトレーナーより早くイベントの案内が来ることもある。
そのトレーナーの彼が知らないという事は、つまりルドルフの基にすら届いていない情報という事になる。
その事実が、トレーナー達の悪い予感を加速させた。
絶対にろくでもない事を思いついたのだろうと。
「必然! さっきほどこの問題は発生したばかりだ。とりあえずこれを見て欲しい。たづな」
「――失礼します」
気が付けば、いつの間にか用意されていたプロジェクター。
たづなが学園長の指示通りにテキパキと動くと、パワポで作られた企画書が画面に映し出される。
題名は
相変わらず突拍子もないことを考える学園長だが、今回はまた随分と規模感が大きそうだ。
「説明! この企画は――」
企画の内容としては大まかに2つ。
1つ目はいままで発掘できなかったウマ娘を発掘するために、全国津々浦々に今までよりもさらに設備の整ったレース場などを設置し、地方と中央の格差を是正。
生まれた場所がどこでも、その才能を十全に活かせる環境作りを行う。
2つ目に慢性的なトレーナー不足を補うため、全国にトレーナー育成所を設立。
この2つの連携によりいまよりもさらにウマ娘達の競争は活発化し、レースはよりよいものへと変わっていく。
中央で働くトレーナー達も肌感覚で感じていた地方と中央との格差、それを大幅に改善できる素晴らしい案を前にして歓喜の声を上げ会議室はよい雰囲気に包まれる。
「歓喜! 君達も私のこの構想に賛同してくれるか?」
「もちろん!」
「ウマ娘達がさらに熱く激しく戦うところが見たいだろう?」
「見たい!」
「そのためならどんな事だって協力――」
「する!!」
「――ちょそれは!!」
会場はまさにお祭り騒ぎ。随分となれたコールアンドレスポンスが行われ、場のノリで適当なことを口にするトレーナー達。
最後の言葉を言い終わると同時に、学園長とたづなの顔が不気味にニヤリと変化したのを見逃さなかったのは、ルドルフのトレーナーだけだ。
だが彼一人がどれだけ頑張ったところで、この熱狂するトレーナー達の前ではなんの役目も果たすことはできない。
ウマ娘ジャンキーである彼らの耳に届くのは、都合のいい話だけなのである。
「ならば! 諸君にはこれに協力してもらおう!!」
画面を渾身の力で学園長が叩くと、タイミングを合わせてたづなが次のページを見せる。
そこに書かれた内容を理解したトレーナー達は、興奮で真っ赤になった顔を、見る見る間に青くさせ、先ほどまでの熱狂がまるで嘘だったかのように静まり返った。
「初期投資の兼ね合いでトレセン各園が現在経営難なので、皆様には申し訳ありませんが
「構想の初期投資でお金がかかりすぎて経営が傾いた。ぜひ諸君には業務の一環として業務をこなしてもらおう!」
仕事だとそう言われれば納得しなければならないのが、社会人の辛い所。
会社が新しい事業に挑むので、そのために努力しろと言われれば、それ自体はなんら問題はない。
問題なのはデート券というあまりにも人権を無視した商品を学園が売りにかけること。
そしてその商品を売るのが一般ではなく、この学園に通うウマ娘達に対して――というところである。
「――ちょっと待った!」
声を張り上げたのは、メジロを一挙に請け負っているトレーナー。現金な話だが、メジロがお金持ち、という話はこの学園の中においても常識である。
だからこそ、そんなトレーナーが立ち上がったことに周囲のトレーナーは希望を感じていた。
「こんな事をしなくても金を集める方法はいくらでもあるはずだ! そもそもスポンサードして貰えばいいだけの話だろう!?」
もしかすれば、こんなバカげた計画をしなくても済むかもしれないと、最悪はあのメジロトレーナーだけ犠牲になってくれればそれで済むのではないかと。
全員が全員、本気でそんな事を考えてしまっていた。
やけに必死なメジロトレーナーだけは、心のどこかでもう真実にたどり着いてしまっていたのかもしれないが。
「肯定! 今回の一件には関係各所名だたるスポンサーが是非に! という声を上げてくれている」
会場が安堵の空気に包まれる。
残念ながら学園長の次の言葉が紡がれるまでは、という前置きは付くが。
「しかしスポンサードする企業からこのような意見が出た。トレーナー育成所を作るのはいいが、そこの校長や特別教員として現在中央に居るトレーナーたちを派遣するのは許されないと」
そんな話聞いてない。
全力で抗議の目線を向けるトレーナーたちに、そんな君たちの心配は織り込み済みだとばかりに学園長はそれらの反論を手で制する。
「キミ達の言いたいことは分かっている。トレーナーとウマ娘が一蓮托生であることなど私も百も承知、無理やりその仲を引き裂こうなどという事をするつもりはない」
学園長の言葉は続く。
「地方に行ってもらうのは担当ウマ娘が居ないトレーナーで、かつスカウトをしていない人材に限る。しかも最短で4年後からの運用予定だ」
それだけの期間があれば、現在学園にいるウマ娘達は全員入れ替わる。
中等部から高等部に上がってくるウマ娘達については話が別だが、条件自体がそもそもかなり厳しい。
暇を持て余している人材を地域に派遣するという点を考えれば都合もいい。
だが、そうなってくると分からないのは派遣が反対された理由である。
「私共としましても現状のウマ娘とトレーナーの関係性は何ら変わらず、人員をさらに有用に活用できる道筋を作り、それを説明したのです――が」
「驚愕! スポンサー各社のお偉い様方がぜんっぜん話を聞いてくれなかった!!!」
半泣きになっている学園長。説明の際に現場がどのような状況になっていたのかは、トレーナー達にもなんとなく想像は付いた。
「妥協! この条件を2ヶ月こなしきればスポンサードしてもらえることになった。皆には是非頑張ってもらいたい! ……やってくれたらボーナスもちょっと増やす」
かくしてトレーナー達は夏のボーナスゲットのため、どこに生まれてもウマ娘達が自分の実力を100%発揮して悔いの無い走りを出来るようにするため。
既に走り出した計画に無事乗せられることになるのだった。
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