たづな「経営難なのでトレーナーと一日デート券を発行します」   作:空見大

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アグネスタキオン「トレーナー君と一日デート券?」

 経営難を原因とした『トレーナーと一日デート券の販売』。

 この情報は学園の中を光よりも速く駆け巡り、ウマ娘達を走り回らせていた。

 あるウマ娘は己の夢を叶えんとするために。

またあるトレーナーは自分の今後の人生がどうなるかを察して逃げ回る。

 そんな中阿鼻叫喚のトレセン学園で、優雅に紅茶を飲む男性が一人。

 

「いやぁそれにしても突拍子もない事を思いつくもんだよな、全く。学園長らしいっていうかなんていうか……」

 

「私としては様々なウマ娘達のデータを取れる良い機会だ。ありがたく有効活用させていただくよ」

 

 ここはトレセン学園の校舎の一室。

 一流大学の化学室にすら匹敵するほどの設備が整った環境は、まさにこの部屋の主の知性に対する信頼感が感じられる。

 

 資金難を理由とした──まぁ実際の理由は少し違うが──トレーナーのほぼ人権を無視したチケット販売。

 少々突拍子もなく思えるソレだが、[[rb:学園長 > 上司]]がやれというのだから[[rb:トレーナー > 従業員]]は逆らうことなどできはしない。

 

 金額で言えばこの部屋を作るのにだって、相当な金がかかっているだろう。

 そのたびに資金問題をなんとかやりくりしてきたであろう学園側の負担を思えば、多少のお手伝いくらいトレーナーにとってみればなんてことはなかった。

 実際どうやらタキオンも実験の機会が得られて随分と機嫌がよくなっているようであり、これから数週間は実験も相当にやりやすく成るだろうなんて幻想をトレーナーは抱く。

 

「まぁ俺には関係ない話だし、とりあえずいつも通り研究しようか」

 

「……関係のない話、というのは?」

 

「チケットの値段見たけどあんな馬鹿げた値段にポンと金を出せるのなんて、メジロとか見たいなお金持ちが遊び半分でやるか、恋愛対象として見られてるトレーナーだけだろ? どっちも俺には関係のない話だよ」

 

 彼が現在担当しているウマ娘は実に4名。

 アグネスタキオン、ジャングルポケット、マンハッタンカフェ、ダンツフレーム。

 早々たる面々を一人でサポートしている彼だが、少なくともこの中に彼が出したような条件に当てはまるウマ娘は()()()()()()存在していなかった。

 

 確かに金銭的な面で言えばレースでも数々の勝利を収めてきた彼女達なら何とかできるだろうが、それをするような理由もないだろうし、ましてや自分相手にそんなものが使われるはずがないと高をくくってしまったのだ。

 

「ふぅむ。まぁモルモット君がどう思うかはキミの自由だ。ところでコレはなんだと思う?」

 

そう言いながらタキオンが取り出したのは一枚のチケット。

書かれている内容は文字が小さくて読めないが、少なくとも彼女が用意したものでは無さそうである。

 

「映画のチケットか? タキオンが映画館で映画観るなんて珍し──」

 

 そこまで口にしてトレーナーは己の間違いに気が付く。

 映画のチケット程度の大きさのただの紙切れ、特別意味のないそれを見て、何なのだろうと理解できずにいたのが運の尽き。

 書かれていた文字は先程から話題に上がっている例の物であり、そして一度それを認識してしまった以上、もういまさらやっぱり知りませんでしたなどという話は通じない。

 

「そう。お察しの通りこれが一日デート券だ。キミが自分に使われることはないと、そう考えていたものだね」

 

 手の中に収めたチケットをふらふらと見せつけるように振りながら、タキオンは何とも言えない表情をするトレーナーを見て満足げに笑う。

 

「どうしたんだいモルモット君。なぜコレが私の手にあるのか、さしもの君も理解ができない様だね。ヒントは、これは私が購入したものではないという事だ」

 

 ここまで言ってしまっては答えかな?

 そう続けたタキオンの言葉を聞いて、トレーナーはなぜタキオンがチケットを持っているのかを理解する。

 仮に[[rb:後者の条件 > 恋愛対象]]を満たしていなくとも、[[rb:前者の条件 >金銭的な余裕]]であれば何も()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「──まさか! 他のウマ娘から?」

 

 誰にでもチケットを配っているわけではもちろんない。

 アグネスタキオンだからこそ他者から得たチケットを持てる理由が確かにあった。

 自分の担当トレーナーに対してデート券を渡すことは、担当に対して好意があると自白しているも同義だ。

 特にメジロのような家柄であれば遊び半分だとトレーナー側も解釈するかもしれないが、それ以外のウマ娘であればトレーナーだって人なのだから察する。

 

 デートはしたい、この機会に出来るだけ仲を深めたい。

 そう考えるウマ娘達が行った最初の一手こそ、チケットを使うための言い訳作りというわけだ。

 

「そう。このチケットは貰い物だ。キミは私がこの前散財したから、チケットを買えるだけの現金を保有していないだろうとそう考えていたのだろう?」

 

 学生の内から大金を手にすることで、生活習慣や金銭感覚がマヒするウマ娘は少なくない。

 大抵のウマ娘は担当トレーナーか学園に自分の給料を預けており、自分で自由に使えるお金はバイトなどをしてレースで得た賞金とは別に稼いでいる子もいる。

 タキオンは学園にお金の管理を任せているタイプのウマ娘であり、トレーナーは彼女がいま自由に使える金額がどれくらいなのかをなんとなくは知っていた。

 だからこその油断も確かにそこにはあっただろう。

 

「その推理は間違いではない。実際問題私の財布の中には、明日の昼食代すら怪しいくらいの金額しか入っていない」

 

「それはそれで大丈夫なのか? ご飯食べられそうか?」

 

 本気で心配そうな顔をするトレーナー。

やっていることが騙し討ちのような形になってしまっている手前、気まずさから空気を換えるためにタキオンは大きく一つ咳ばらいをする。

 

「――ごほん。話の腰を折らないで欲しいなモルモット君」

 

 ジロリと睨みを聞かせるタキオンは場の空気を整え、話を続ける。

 

「それで、このチケットが誰からの物なのか。正解はキミの想像通りトレーナーとデートをしたい全てのウマ娘達からの物だ」

 

 そんなバカな、そう口にするにはあまりにも心当たりのあるウマ娘が多すぎるのがここトレセン学園。

 寿退社していった同僚はいまのところ一人も居ない。

だが少なくともルドトレがここ数年で異動、ないしは辞職になるだろうという事はもはやトレーナー達の間で鉄板のネタである。

 

 さすがにいまは学生と管理する大人としての立場があるので恋愛対象にはならないが、卒業後一人の女性として迫られた場合、それにどう対処するかは各個人の判断によるもの。

 そしてその判断を左右するのはこの学園での生活であることは語るまでもない。

 トレーナーと担当バ、その関係性を越えるにはまさにいまが絶好の好機といえた。

 

「実に愛されているんだねぇ。このトレセン学園のトレーナーというのは」

 

 二足三文の値段ならばまだしも、結構ドン引きする様な料金設定になっているトレーナーと一日デート券。

 そんなものをさも安い買い物のように他人に驕ってまでも言い訳作りをするのだから、おそらくメジロを除けば生粋の恋愛下手ウマ娘達の仕業なのだろう。

 たかだか一日デートするだけ、買い物に付き合わされると思えばそれくらいなんてことはないいつもの日常である。

 そう自分に言い聞かせてトレーナーは腹をくくることにした。

 

「ま、まぁ別にデートくらいならいいか。どうせいつも通り手伝いするだけだろ?」

 

「ところがどっこい、そうでもない。チケットの裏面をよく確認したまえよ、モルモット君」

 

 確かにトレーナー達が聞かされている内容は、一日チケットを渡された子とデートをするというもの。

だがそれがもし本当にそうなのだとしたら、融資の条件としてトレーナーとの一日デート券が発売などされない。

 

 タキオンから渡されたチケットの裏面を確認し、そこに書かれていた内容をよく確認するトレーナー。

 長く難しい文章が羅列されているが、要約すれば以下のとおりである。

 1.24時間の間デートを拒否しないで行うこと。

 2.使用されたトレーナーは使用者を”恋人”として扱う事。

 3.このチケットはトレーナーが勤務している日に限って使用可能であり、再使用間隔として最低2日の間を置くこと。

また担当トレーナーがレースに関係する業務に従事する場合、特別措置として後日にチケット使用日をずらすことが出来る。

 

 ウマ娘のもっとも大切な行事であるレースに対しての取り組みだけはいままでどおりに行い、それ以外の時間全てを自由にできる(しかも彼女として)というあまりにも酷すぎる鬼札。

 残業時間週50時間とでも平気で言い出しかねない最悪の労働環境であり、今すぐにでも告訴したいが、残念ながらトレセン学園に法律は通じない。

 だって通じるのならこんな券がそもそも販売できるはずないのだから。

 

「こ、恋人!?」

 

「そう。恋人だよモルモット君。そしてこの券はレースに関係する状況でのみ拒否することが出来、君の担当しているウマ娘達はつい先日レースを終えたばかりで、この条件に誰も該当しない」

 

 場は整った。

 状況も完璧である。

 断るために考えたありとあらゆる言論は、正論という最強の言葉の暴力によってすべてが事前に沈められる。

 

 タキオンの口から語られているのは提案ではない。

 こうなるよ、という確定した未来のお話。

 実験が成功した時のような満面の笑みを浮かべて、声高らかにアグネスタキオンは宣言する。

 

「故に私はここでこのチケットの使用を宣言する! さぁ、恋人として私を甘やかしたまえモルモット君」

 

 科学者は心の底からの笑みを見せる。

 この先どうなったとしても彼女にとっては最高の結末になるだろうと確信して。

 

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△

 

 時間は少し経過して時刻は夜。

 トレセン学園の中で最も校舎から離れた場所に設置されている設備。

トレセン学園独身寮にあるトレーナーの自室にタキオンたちは訪れていた。

 

ウマ娘についての本や研究資料を抜きにすれば随分と物が少ない無骨な部屋だ。

 1人掛けのソファにやたらと大きなテレビ、あとはベッドがあるだけの部屋。

 少々面白みに欠けるが、無骨らしさが部屋の主らしさを醸し出してもいるそんな部屋の中で、タキオンはトレーナーの膝の上に座りながら映画を見ていた。

 

「た、タキタキこれ食べる?」

 

 顔を引きつらせ、喉から出る音をつっかえさせながらトレーナーはタキオンに言葉をかける。

 タキオンが今回のデートとして要望したのは見ての通りお家デート。

 そのデートの一環としてトレーナーはタキオンと共に映画を見て、トレーナーが用意した軽食を共に食べているのだ。

 

「ああ。頂くよ、モルモット君」

 

 タキオンは自分の当然の権利だと言わんばかりに口を大きく開け、それを見て状況を理解したトレーナーはだまって彼女の口の中にご飯を運ぶ。

 さながら餌をまつ雛のようだが、実際問題ご飯を食べさせることに関しては仕方がないと割り切るとして、問題は先程から喉に突っかかっているソレである。

 

「なぁ、せめてこの変な呼び方辞めないか?」

 

「恋人感を演出するためにやってみたが、確かにそうだ。コレは不要だねぇ」

 

 タキオンにとっていまこの状況も実験の一環なのだろう。

 どこからか取り出したメモ用紙に何かを記載すると、呼び方はやめてもいいとのお達しが出る。

 チラリと見えたメモの中身には、食べさせ合うだのポッキーゲームだの、不吉な文面が存在したことを意図的に無視し、その上で現状最も問いただすべきだろう事に疑問を投げかける。

 

「……なぁ、ちなみになんで外じゃなくて室内なんだ? それも俺の部屋」

 

「モルモット君は私との関係性を他者に見せたいと? 随分と積極的だね」

 

「そういう事じゃない!!!」

 

 見せつけたいわけではなく見てもらうことでとんでもない事をさせられないようにしたい。

 そんな思いから出したトレーナーの提案を良いように受け取ったタキオンに対して抗議の声を上げると、タキオンは自分の耳を抑えながら恨めしそうな表情で振り返る。

 

「大きな声を出すのは辞めたまえよ、耳に響く」

 

 耳元で突然大きな声で叫んだのだ。

彼女の非難もこの状況が彼女の所為だという点を除けば真っ当な意見である。

 

「あ、悪い。というよりこの体制にも問題があると思うんだが」

 

「キミはいま私の恋人だ。どんな問題が?」

 

そう言うとタキオンは先程までより一層体重をトレーナーに預ける。

もはや完全にもたれかかっており、ふわりと揺れた髪から漏れた彼女の甘くどこか爽やかな臭いが鼻孔を抜けていく。

 

「………………もういいよ好きにしてくれ」

 

 思いつく問題は星の数ほどあるが、それをいまのタキオンに言ったところでどうにもならない事が分からないほど短い付き合いではない。

 トレーナーが諦めたことを長い沈黙の後の言葉で理解したのか、タキオンは嬉しそうに鼻を鳴らすとそのまま再び映画に没頭し始める。

 

(……タキオンのやつ、意外とこういう映画観るんだな)

 

 意外にもお涙頂戴の青春系作品をタキオンは今回見る映画としてピックアップしたようで、ざっくりと映画のあらすじを説明するとこうである。

 中等部から高等部へと進学し、今まさにウマ娘としての絶頂期を迎えようとする主人公。

 しかし不慮の事故により彼女は足を負傷し、レースへの出場は絶望的に。

 

 なんとかもう一度走れないかとありとあらゆる手段を尽くした主人公は、どんな怪我でも直すことのできる神の手を持つ医者の存在を聞きつける。

 努力の末にその医者を見つけるが、医者はかつて自分が起こした医療ミスをきっかけに既に執刀を辞めてしまっていた――。

 トレーナー目線としては実際知識として知ってしまっているからこそ治るはずのない怪我に現実味は薄れるが、主役のウマ娘の演技が素晴らしく気が付けばそれなりの間黙って静かにその映画に魅入ってしまっていた。

 

 気が付けば映画もラストパート目前といったところ、食べていた軽食がいつの間にかなくなるころにふとタキオンが口を開く。

 

「……走ること以外の道か」

 

 先程までのこちらを馬鹿にする様な言動はなりを潜め、ぽつりとこぼれたのは彼女が持つ大きな悩みに直結する言葉だろう。

 いまは走る事が出来る程度には回復することが出来たが、そもそもアグネスタキオンというウマ娘は足が弱かった。

 光速を越え、誰も追いつけないほどの速さを魅せ付けた彼女の運動能力に対して、彼女の足はあまりにも非力だったのである。

 映画の中の主人公と自分を重ね合わせるのも無理はない話。

 むしろ彼女がこの映画を選んだ理由もそこにあるのではないかとトレーナーは思う。

 

「考えたことあるか?」

 

「ないと言えば嘘になるね。実際私のこの足はそうなってもおかしくはなかった」

 自分の足をさする彼女の目はどこか懐かしそうで。

 いまは怪我らしい怪我もなくやってこれているが、それは彼女の努力があっての物だ。

「どこかの誰かさんが親身になってくれなかったら、私の足は皐月賞にすら出れていなかっただろう」

 ――タキオンの言葉は続く。

 いつもは煙に巻くような態度の彼女が、いまだけは本心から言葉を伝えてくれているとどれだけ鈍いトレーナーでもさすがに理解ができる。

「……コレでも感謝しているんだ。実際、当時の私からしてみればキミの提案は地獄に垂らされた蜘蛛の糸そのものだったからね」

 

 退学一歩手前の問題児。

 走れば足が壊れ、走らなければ学園での居場所をなくす。

 遅かれ早かれ最悪の結末を招いていたことは間違いないだろう。

 タキオンの言葉はあまりにも真っすぐで、トレーナーはそんなタキオンの言葉になんだか顔が熱くなるような感覚を覚える。

 

「俺がしたのは手伝いだけだ。あとはタキオンが全部自分でやったことだろ?」

 

「キミ普段はお礼をせっついてくる癖にこういう時は奥手になるんだね」

 

「うるせぇ」

 

 そう言いながらも相変わらず顔を赤くしているトレーナーをしり目に、映画はエンドロールを迎えていた。

 視聴後の感覚としては意外と悪くなかったなと思えるような映画だ。

 

 ぼうっと画面を眺めながらなんとも言えない静かな空気にタキオンは心地よく身を浸していると、ふとトレーナーは何を思ったのかそんな彼女の頭を優しくなでる。

 ぴくぴくと耳を動かしながら一瞬押し黙るタキオンだったが、トレーナーの手が止まらないのを確認した後言葉を投げかける。

 

「ふむ、急にやけに積極的になったね?」

 

「一日恋人ってのは正直やりすぎだと思うけど、これくらいはな。それに普段言いづらい事を言ういい機会にもなったし」

 

 お互い普段から隠すようなこともせず言葉を交わしているつもりではあるが、他者とはどうしても何かが無ければ踏み込めない領域というものも存在する。

 今回の一件でその境界が少しだけ曖昧になったのはトレーナーにとっては行幸だった。

 チケットが無ければできない話というわけではないが、チケットが有ったからこそしようと思えた話でもある。

 

「そうだね。私もそう思うよ。いい実験の口実も出来たことだしね」

 

「あんまり他所様には迷惑かけるなよ?」

 

「善処はするよ。それにその口ぶりなら私に迷惑をかけられてもいいのだろう? 物は試しだ……こういうのはどうだい?」

 

 膝の上に座ったままのタキオンは、そのままトレーナーの方を振り返る。

 一瞬何をされるのかと警戒して体が固まった彼の隙を見逃さないように、するりと体を反転させたタキオンは妖艶な表情を見せながら少しずつその体重をトレーナーに預け始めた。

 トレーナーの視界からテレビの画面が消え、タキオンの顔だけが視界を埋め尽くしていた。

 互いの息遣いしか感じられないような状況で、トレーナーは必死になって自分を律しタキオンに言葉を投げかける。

 

「辞めとけよ、キャラじゃない」

 

「拒否はしないのだね?」

 

「冗談半分でも否定されたら悲しいモンだろ。本気ならそれはそれでまた別の話だしな」

 

 膝の上からタキオンを降ろし、自然な形で距離を取ったトレーナーに対して彼女は不満そうな顔をする。

 大人として毅然とした態度を取れればそれが一番よかったのだろうが、少なくとも近寄ってきた彼女にドキッとしたのは確かな事実である。

 彼女の行動に対して明確な拒否をできないのは、そんな自分の弱さを受け入れられないからだ。

 

「それもそうか。まぁ別にこのチケットも一度限りというわけではない。今日はこの程度の実証結果があれば十分だろう」

「……まて、一度限りじゃないってのはどういうことだ」

 

 聞き捨てならない言葉にトレーナーの動きが止まる。

 そんな彼に対してタキオンはその答えを示してやるとばかりに大量の紙の束をどこからともなく取り出した。

 

「言葉通りの意味だよ。キミに見せたこのチケットは確かに一度使用すればなくなるが、何も私にこのチケットを渡してきたウマ娘は一人だけではない。再使用間隔の2日という条件を加味せずとも、2か月間全て恋人として過ごせるだけのチケットが手元に揃っているのだよ」

 

タキオンが言っている悪夢のような言葉は、あのチケットが目の前に存在する限り確実に現実へと変わる。

制度がそうなっている以上、チケットが切られたその瞬間から一社会人としてトレーナーには彼女の恋人を担う必要性が発生するのだ。

それが自分の意志か、そうではないかはいったんおいておくとして。

 

「――っと危ない。チケットを無理やり破くのはルール違反だよトレーナー君!」

 

「うるさい!! 俺の平穏な日々を邪魔させるか!!!」

 

気が付けば体は駆けだし始め、タキオンの手からチケットを奪い取るためにトレーナーは彼女を追いかける。

だがウマ娘と人間以前に、日ごろをデスクワークで過ごす社会人とスポーツをメインとして活動している運動適齢期の女性。

軽やかな足取りでトレーナーの動きを避けるタキオンに対し、あまりにもその動きは鈍足である。

 

「ハハハッ捕まえてみなよトレーナー君」

 

かくしてトレーナーとタキオンの一日は特にこれといった山場もなく終わりを迎え、結局彼女を捕まえることもできぬままに一日は終わる。

だが次の日以降この話を聞きつけたウマ娘達が本格的に動き始めるのは言うまでもない事であった。

 

次回チケットを使用するウマ娘

  • トランセンド
  • テイエムオペラオー
  • ゴールドシップ
  • メジロマックイーン
  • ファインモーション
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