たづな「経営難なのでトレーナーと一日デート券を発行します」   作:空見大

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ジャングルポケット「トレーナーと一日デート券?」

「そうだよ。そしてこれがそのチケットだ」

 

それぞれのチーム専用に作られた部屋の一室。

ジャングルポケットとアグネスタキオンは、机を挟んで向かい合って椅子に座っていた。

タキオンの手には彼女が先ほど口にしたであろうチケットがあるものの、日頃何かと迷惑をかけられがちな彼女がこれ見よがしにそんな物を持ち出したことに、ポッケは警戒を隠さない。

 

「……どういう風の吹き回しだよ、お前がこんなもの渡してくるなんて」

 

「なぁに、常日頃からキミには実験に協力してもらっているからね。そのお礼も兼ねてだよ」

 

怪しい。

いつも通り胡散臭い笑みが顔に張り付いているのはいいとして、デート券なんて怪しげなものを出してくるのがさらに胡散臭さを増している。

走りのための実験に付き合ってくれと言うのであればポッケも頷くが、明らかにそうでない今回に関しては頭から拒否の構えだ。

そして長い付き合いのあるタキオンは、敏感にポッケのそんな感覚を察知していた。

 

「ただまぁ、どうしても! 君がどうしても気になってしまい私に何か返さなければならないとそう考えるのであれば、これを付けてデートに赴いてくれたまえよ」

 

取り出したのはタキオンが何度か自分に使ったことのある計測器だ。

これがあれば胡散臭いタキオンの行動はすべて、レースのためだと言い切ることができるようになる。

 

「結局それが理由かよ。そんで? それなんなんだよ、付けてるところは見るけどよ」

 

「これは心拍数などなどを計測し、君の体調管理をする便利な時計、そう思ってくれて差し支えない。実際、機能自体はそんなものだしね」

 

「分かった、とりあえずコレを付けとけば良いんだな?」

 

何の躊躇いもなく腕につけたポッケを満足げに眺めながら、タキオンはそんな彼女に優しく声をかける。

 

「ああ。友達として、キミの涙ぐましい努力を応援しているよ」

 

「煽りやがって……まぁいいや。あんがとなタキオン」

 

部屋を去っていくポッケの背中を眺めながら、タキオンはゆっくりと机の上に置いた紅茶を口に含む。

 

(私ばかりが良い思いをするのも、君に悪いからねぇ……)

 

ライバルに塩を送るのは今回くらいのものにしよう。

そう思いながらタキオンはゆったりとした時間を過ごすのであった。

 

//

 

「それで来たと」

 

場所は変わってトレーナー室。

時刻は既に夕方に差し掛かっており、練習などを一通り終えたジャングルポケットは書類仕事をしているトレーナーの前に立っていた。

何故ここに来たのかについてはチケットを見せながら既に軽く説明しており、トレーナーも状況を呑み込めているようである。

 

「オウ! 今日の練習は全部終わらせたし、アソビ行こうぜトレーナー!」

 

「学園の外はさすがに不味くないか? いくらなんでも世間の目が……」

 

誘われること自体には特に抵抗もないようだが、なにやら言い淀むトレーナー。

いつもであればそのような態度を取ることはないので何がダメなのかと怪訝に思いつつも、ポッケは断られるかもしれないと考え、少し強引な口ぶりで話を進める。

 

「そんなもん今さら気にすんなよ。それとも何か? オレと二人で外に行くのは嫌だってのかよ」

 

「そういうわけじゃない。まぁお前がそこまで覚悟を持っていくってんなら、俺も覚悟を決めるよ」

 

「それで良いんだよ。ほら行くぞ」

 

やたらと渋るトレーナーだが、ここまで言えばさすがに折れる。

ノートパソコンの画面を閉じ、上着を羽織るトレーナーの姿をポッケは満足げに見つめるのであった。

そうして学園の外へと移動する二人。

近くの商店街はいつにもまして人通りが多く、はぐれないようにと小さな子供相手にするように無意識でポッケが出した手をトレーナーが掴む。

初めは一体何事かと驚いていたポッケも、まぁデート券というくらいだしこのくらいはあるのかと無理やり納得して手をつなぎながら商店街を二人で歩く。

 

「それで? どこ行きたいんだ?」

 

「んー、まずは新しいシューズ見に行って、そんでその次はゲーセン。終わったらカラオケ行って、帰りにパフェ食って帰ろうぜ」

 

「ならあっちの道から行った方が近いか」

 

そう言って前を歩くトレーナー。

片方の歩調が速くなれば、必然的に手を繋いでいるもう片方は引っ張られる形になる。

強く握られた手の感覚に頬を染めるポッケは、前を歩くトレーナーも照れているのではないかと思いおずおずと顔を確認してみるが、その表情はいつものとそれと何ら変わりない。

 

(クソっ、トレーナーのやつ手ぇ繋いでんのに全然気にしてねぇな)

 

意識され過ぎても困るが、まったく意識されないというのはそれはそれでなんだか癪に障るものだ。

不満から握る手の力を強くするポッケだったが、トレーナーはそんな彼女の行動を甘んじて受け止めていた。

そうして商店街を歩く二人は、少しして最初の目的である靴屋に到着する。

 

「さてと。どのシューズにしようかね」

 

「これなんかどうだ? 最新作だぜ?」

 

店頭に置かれていたスポーツタイプの最新作をトレーナーに見せるポッケ。

値段はかなり高いが見た目もいいし、何より“最新作”という三文字がポッケの感性を刺激する。

だがそんなポッケとは対照的にトレーナーが見ているのは、少し古めのシューズたちだ。

 

「新しいから良いってもんでもないよ。ポッケの足と合ってるかどうか、一番大切なのはそこだ。最近足回りの強化トレーニングが多くて足首の負担も増えてるし、練習用でいい感じのだと……」

 

いくつかの棚を巡りながら、トレーナーはシューズを手に取っていく。

そのどれもが今のポッケに合った靴であることは、当の本人であるポッケが一番よくわかる。

その後、トレーナーの選別を終えられたシューズは最終的に三つ。

いつも使っているような紺色系の物に地味めな茶色の物、赤と黒を主調としたシューズが最後にそこに並ぶ。

 

「ここらへんかな。後はまぁデザインで決めるといいぞ」

 

「あー……ちなみに…………トレーナーはどれがいいと思う?」

 

「いつも通りいくなら紺色系のこれじゃないか? まぁ練習で使うようだし、それ考えたら汚れの目立たない茶色もいいと思うが」

 

勇気を出して聞いてはみたものの、どうやら相手にはうまく伝わっていないらしい。

それを理解したポッケは、一歩踏み込んだ質問をする。

 

「トレーナーはどれが似合うと思う?」

 

「俺は……いつも見てる靴も良いけど、たまには違う色のポッケも見てみたいな」

 

「そっか。じゃあそれ買ってくよ。おっちゃん悪いけどこれ!」

 

トレーナーにバレないように彼が手に持つシューズを奪い取るようにして取ったポッケは、すぐにレジに向かう。

真っ赤な耳は隠せていないが、少なくともそれを見て何か口にするほどトレーナーは子供ではない。

 

「あいよ。ポッケちゃん今日はトレーナーさんと一緒なんだねぇ」

 

店主の目線がトレーナーとポッケの間を行き交う。

先程までの会話を聞かれていたのだと思うと一層耳を赤くするポッケだが、既に隣にまでトレーナーが来てしまっているため、ここで動揺を見せるわけにはいかず気を強く保って言葉を返す。

 

「おう。この後ゲーセン行ったりカラオケ行ったり、いろいろ遊んでくんだ」

 

「そうかい。そしたらこの靴は学園の方に送っておくよ」

 

「わりぃな、おっちゃん」

 

「いいんだよ。貴重なデートの時間を邪魔しちゃ悪いからね」

 

「で、デートじゃ――」

 

突然何を言い出すのだと反射的に否定しそうになるポッケだが、実際この場所にはデート券を使った上で遊びに来ているのでデートではある。

なんとか堪えようとしていた恥ずかしさやらデートをしているのだという実感が胸中を満たし、ついにポッケは顔まで真っ赤になり俯いてしまう。

そんなポッケを見かねてトレーナーが横から助け舟を出す。

 

「ほらポッケ行くよ。門限に間に合わなかったらフジに怒られるだろ」

 

「そ、そうだった。ありがとう、おっちゃん! また来るよ!」

 

「ありがとうねぇ」

 

そうして店の外に出るとポッケは顔を真っ赤にしており、静かな時間がただ過ぎていく。

ちゃっかりと握られた手に込められているポッケの力は、先程よりも少し遠慮がちだ。

そうしてまた商店街を二人で歩いていくと、次の目的地であるゲームセンターにたどり着く。

 

「ゲームセン久々に来たな」

 

「と、トレーナーはゲーセンで普段何するんだ?」

 

店内の騒音で多少は気が紛れたのだろう。

なるべく普段通りを装ってポッケはトレーナーに声をかける。

 

「昔はメダルとか音ゲーやってたけど、いまは基本レースゲームかな」

 

「レースゲーすんのか!? オレも超得意でよ!! てっきりクレーンゲームとかばっかりしてるもんだと」

 

「どこからその印象ついたのか知らないけど、基本はレースだよ。一戦やる?」

 

「泣いても知らねぇぜ?」

 

ウマ娘として走りには一家言あるポッケ。

たとえ車を用いた走りであっても誰にも負けるつもりがない。

地元でも負け知らずだった彼女は、トレーナーの鼻を明かしてやろうと意気揚々とお金を入れ──

 

「か、勝てる気がしねぇ……いつの間に練習してたんだよ」

 

言い訳ができないほどの惨敗を喫した。

それはもうフルボッコである。

 

「たまの休日にちょっとな。実際の車でも結構やってたりするし」

 

「実際にドリフトできんのかトレーナー!?」

 

「みんながあんまりにも面白そうに走るから、俺も趣味で練習したんだよ。まぁ最近あんまできてないけど」

 

トレーナーとしてウマ娘たちの走りを見続けていれば、自分だって風を切って走りたくもなるものだ。

知らなかったトレーナーの意外な趣味を知ってポッケは目を輝かせる。

 

「今度の休日、アンタの走り魅せてくれよ」

 

「良いけど、あんまり想像してるよりは派手じゃないぞ? 怪我しない範囲でやってるしな」

 

「いんだよそれでも。走ってる時の楽しさをトレーナーと共有したいだけだし」

 

「そういう事ならまぁ、次の休みにな」

 

気が付けばいつの間にか新たにデートの約束までしてしまったポッケ。

だがそんなことにも気がつかないまま、次は別の遊びをしようとゲームセンター内を彷徨いていると、見知った顔にバッタリと出会う。

 

「――あ! ポッケ先輩」

 

「ウソウソ! ホントじゃん! ポッケせんぱーい」

 

手をブンブンと振りながら近付いてくるのはポッケが普段から可愛がっている後輩たち。

どうやら練習終わりらしく、鞄を持ったままゲームセンターに遊びに来ている。

 

「おう、お疲れさんお前ら。練習終わりか?」

 

「うっす。ポッケ先輩は例の奴っすか?」

 

「お、おう。まぁそんなところだ」

 

「ふーん……ちょっと待っててくださいねパイセン」

 

ちらりと視線を向ける後輩に一体何をする気だと言いたかったポッケだが、それよりも早く後輩たちがトレーナーを連れて少し離れた場所に行く。

明らかに秘密の話を目の前でされるというのは何とも気分の良いものではなかったが、とはいえ彼女たちも考えあっての行動だろうしとポッケはどぎまぎするしかない。

 

「パイセンのトレーナーお疲れ様っす」

 

「お疲れ様。ごめんね、俺が居ると気を遣うでしょ? 外そうか?」

 

「いえいえ、パイセンのトレーナーに逆にそんな気使わせられないっすよ。ところでチケット使っていまここに来てるんすよね?」

 

先程の会話の中でもあった例の奴についての会話は、ウマ娘たちの間では触れていい話題かどうか微妙なラインであった。

そもそもチケットの存在があることが公に知られたのはオグリキャップが食堂でチケットを出した時以降であり、それからもあまり他の生徒の前ではチケットの話をする生徒も教師もいなかった。

持ち出した時点で相手に対しての好意がバレ、ほとんど告白しているようなものなのだから、当たり前と言えば当たり前。

とはいえチケットの使用が事実なのだとしたら、二人の距離感は少々遠すぎるというのが後輩たちの率直な感想である。

 

「そ、そうだけどそれが? というかキミたちも知ってるんだね」

 

「知らないウマ娘の方が少ないっすよ。そういう事ならこっち来てくださいこっち」

 

「パイセンもこっち来るっすよ~」

 

「話はいいのか? っておい! ちょ、お前ら引っ張るなって」

 

ポッケとセットで連れ去られるトレーナー。

先程まで彼らがいたのはどちらかと言えばゲームセンターの中でも男子向けの部類に入るような筐体が置かれたエリアだったが、いまいるのはその逆。

どこを見てもなんとなく可愛いものがひしめくような場所に連れてこられた二人は、とある筐体の前まで連れてこられていた。

 

「そんでここは?」

 

「プリクラっすよ、見ての通り」

 

「俺一人で? 証明写真でも撮れと?」

 

確かこういった機器には証明写真として使えるようなものもあると一応トレーナーは知識として知っていたので聞いてみるが、帰ってくる言葉はそれを否定するものである。

 

「まさか、そんなわけないじゃないっすか。そこまでうちらも鬼じゃないっすよ」

 

「なら何を……」

 

「まぁまぁちょっと待つっすよ、女の子にはいろいろ準備が必要なんす」

 

気が付けばポッケもどこかにいなくなってしまっており、待っていろと言われたトレーナーは素直にその場で5分ほど待つ。

待っている間に普段のポッケについての話をして花を咲かせていると、遠くの方から喧騒に紛れてポッケの声が聞こえてくる。

顔を俯いたまま後輩に背中を押されている彼女はそのままトレーナーの方まで近づいて来ると、背中を押されてその胸の中に飛び込んだ形になる。

 

「ちょ、押すなって、オレにこんなのは似合ってな――」

 

「――っと。大丈夫かポッケ……って化粧してきたのか?」

 

戻ってきたポッケは頬が赤くなり、唇にはリップが塗られ、いつもとは違う少し大人びた可愛らしさに身を包んでいた。

化粧台は道中で見つけたが、それにしたって5分で完成させたとは思えない完成度。

いくら元がいいとはいえ一体どうやったのか、それよりも道具はどこにあったのか。

 

「練習終わりに崩れたメイクを直すために道具類は多少持ってたっすからね。パイセン素材が良いんで後はちょちょいとやればこの通り」

 

自慢げに胸を張る後輩の腕は、自信を持つのに十分値するほどのものだ。

賞賛から素直に拍手をすると嬉しそうに鼻を伸ばしており、ポッケの後輩らしいなとトレーナーが思っていると、ふとポッケが服を引っ張る。

 

「……変かよ」

 

「いや、可愛くていいと思うぞ」

 

「――っ! あんがとよ!」

 

ここでお礼の言葉を口にできる辺り何ともイイ子なポッケ。

そうして再び気まずい空気が流れるかとも思われたが、後輩たちがそんな空気にはさせないと手を回す。

 

「ささっ、恥ずかしくなる前に取っちまいましょう。お金は私たちからの奢りっす! それでは!!」

 

プリクラの中に押し込まれ、料金まで入れられて二人きりになるトレーナーとポッケ。

料金を入れられたプリクラ機はその役目を果たすため何やら案内を開始しており、人生で一度もプリクラを撮ったことがないトレーナーとポッケはあたふたするしかない。

 

「ちょ! これどうすりゃいいんだよ!!」

 

[使用するフレームを選んでね]

 

「い、言われた通りにやればなんとかなるだろ。どれにする?」

 

「そんなこと言われても分かんねぇよ! もうなんか適当に指が当たったやつだ!!」

 

画面を見ずに適当にどれでもいいから早く終われと押したポッケ。

幸か不幸か彼女が選択したのは画面いっぱいにハートがまき散らされたフレームであり、その中に二人で写っているだけでどこからどう見てもラブラブのカップルである。

 

「バっ!? 何――っ」

 

[それじゃあポーズを取ろう! まずは二人そろって一着のポーズ!]

 

「ほらやるよポッケ」

 

「なんで逆にそんな冷静なんだ、あとなんでゴルシのポーズがあるんだ!」

 

参考ポーズにゴールドシップのポーズがあることにツッコミを入れつつも、なんとかトレーナーと鏡合わせの状態で1着のポーズを披露するポッケ。

大慌てしている人物が傍にいると人というのはどうにも不思議な事に落ち着くもので、トレーナーはむしろこの状況を楽しみ始めていた。

 

[それじゃあ次はぎゅっと抱き合ってみよう!]

 

「だ、抱き合う!? こんなところで!?」

 

「ポッケ暴れないように。ここ狭いんだから」

 

「お、おう」

 

ポッケがどれだけ焦っていたとしても残酷なことにプリクラは止まってはくれない。

数枚の写真を撮り終わり、そうしてようやく最後の写真が訪れる。

 

[それじゃあ最後! お気に入りのポーズで撮ろう!!]

 

「そんなポーズなんかねぇよ!!」

 

「こういうのは体が動いた通りにやればいいんだよ」

 

[終了! 撮影の次は出て右側で可愛く編集しよう!]

 

トレーナーは学園長のモノマネを、ポッケは反射的にいつもレース終了後に取っている一着のポーズを取ってしまっていた。

気が付けば肩で息をするほどに疲れていたポッケだが、プリクラはむしろここからが本番である。

言われるがままに外に出ると液晶画面の前に椅子が置かれており、なにやらタッチペンのような物もある。

 

「ウソだろまだあんのかコレ」

 

「ちなみにこれ一回600円するらしいよ」

 

「マジかよ、あとコレ誰だよ」

 

画面に映る自分を見てみれば化粧をしていることを考えても自分だと認識できないほどの加工だ。

写真としての価値をこれに期待するべきではないのだろう。

 

「加工強すぎて誰か分からなくなってんな。ここいじれば加工の強さ変えられるっぽいぞ」

 

「どれどれ……おっ! 意外と面白いなコレ」

 

慣れてきたのかテキパキと加工を進めていくトレーナー。

そんな彼の様子を見ながらポッケも同じように様々な落書きを施していく。

 

[残り10秒……9秒]

 

「カウントダウンあんのかよこれ!」

 

「いそげいそげ」

 

10秒から数えたにしてはやたらと長い計測時間に焦らされながらも、なんとか落書きをこなしていく二人。

そうしてなんとかギリギリ満足のいくものが出来上がる。

 

[しゅ~りょ~。それじゃあ完成したプリを取ってネ]

 

「意外といいの出来たな」

 

「そうだな。半分こするか」

 

印刷されて出てきた写真を近くに置いてあったハサミで切り取り半分擦る二人。

手に持っているとなんだかこっぱずかしさがあるものの、それでもいい思い出になるだろうことは今でも分かる。

 

「どうするのがいいんだコレ」

 

「こういうのはスマホの裏に入れるのが流行ってるってこの前シチーのトレーナーが言ってたぞ」

 

そう言いながら自分のスマホの裏に写真を入れるトレーナー。

先にトレーナーがやってくれたのでポッケも少し照れながら同じようにスマホの裏に写真を入れる。

 

「な、ならそうするか。俺もそうするよ」

 

「それじゃあ最後はカラオケだな」

 

////

 

「ふぅ。食った食った、あそこ美味かったなぁ」

 

満足そうに伸びをするポッケ。

カラオケも終わり、その足でトレーナーおすすめのお店に二人で行ったポッケたちは、満杯になったお腹に満足しながら学園に向かい夜道を歩いていた。

 

「この前一人で行ったとき、ポッケも絶対気に入ると思ったんだよ。予想が的中してよかった」

 

「次は俺のおすすめの場所紹介するぜ」

 

「楽しみに待ってるよ」

 

言葉を返しながらポッケは今日一日を思い返す。

恥ずかしい思いやいい思いもしたが、なんだかんだと言って普段のソレとあまり変わりはなかったように思える。

もちろんトレーナーと一緒に外出することが出来るというのはポッケにとっても嬉しい事ではあるが、わざわざチケットなどというものまで作ってやる様な事かは少し疑問だ。

 

「なんかチケット使ったけど、あんまり普段連れてってもらってる時と変わんなかったな」

 

「まぁ自然体で良いんじゃないか? そのチケット使われてる間は恋人扱いしろって言われてるけど、それ以外は特に何か縛られてるわけでもないしな」

 

「……ちょい待て、このチケットってそんなアレなのか?」

 

ふとポッケの足が止まる。

冗談めかしたトレーナーの言葉が、思いがけず心の深い場所に刺さった。

 

「知らなくて使ってたのか?」

 

「うっぁゎ……てことはアイツらに恋人チケット切ったって言ってたことになるのかよ、トレーナーが朝一なんか渋ってたのもそれか」

 

頭を押さえながらポッケは恥ずかしさから叫びだしたくなるのをなんとか押さえつける。

今日一日やたらとトレーナーがいつもより少しだけ優しい目線を向けてきたのも、やたらと距離が近かったのも、すべては理由があったのだ。

 

「まぁなんか意外と周りも気にしてないっぽいし大丈夫、大丈夫」

 

「全然大丈夫じゃねぇよ。つうかそうなってくると今日一日ずっと恋人としてオレに接してたって事だろ?」

 

「まぁ一応。言ってもさすがに公序良俗は守ってたけどな」

 

「そっか。そういえば……そっか」

 

立ち込める静けさのなか、心臓の音だけがやたらと騒がしい。

少しでも気を抜けば口から心臓が漏れ出そうな緊張感にポッケはどうすればいいか分からなくなる。

 

「おーい、ポッケ?」

 

返す言葉が見つからずに俯くポッケを、トレーナーがちらりと覗き込む。

 

「……顔真っ赤だぞ?」

 

悪戯っ子のように少し嬉しそうな声音でそんな事を言って来るトレーナー。

恥ずかしさやら何やらでもうどうすればいいかも分からなくなってしまい、ポッケは恥ずかしさを誤魔化すように声をあげる。

 

「うるせぇ。寮まで競争な! 負けたら罰ゲームだから!!」

 

「勝てるわけねぇだろ、単車持ってこねぇと勝負にもなら――上等じゃねぇか社会人の走り見せてやんよ!」

 

駆け出す足音とともに、夜の風が二人の間を駆け抜けていく。

照れ隠しでも、逃げでもいい。

ただこうして何も考えず二人でいる時間が、どうにも心地よかった。




ストックがなくなりました……。
一週間以内に新作出せたらいいなぁとは思います。
アンケート機能の実験として次のウマ娘誰にするかのアンケートをおいてみるので、もしよければ回答していただけると嬉しいです。

次回チケットを使用するウマ娘

  • トランセンド
  • テイエムオペラオー
  • ゴールドシップ
  • メジロマックイーン
  • ファインモーション
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