“わからされたい”メスガキ   作:訥々

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奴隷市場襲撃

魔法学院の保管庫。そこは規律を重んじる学院の中でも、限られた生徒しか立ち入ることを許されない禁足の空間。

しかしメスガキはお構い無しである。

 

夜の帳が降り、学院内に静寂が訪れる頃。その厳重な結界をものともせず、ひとりの少女が滑り込むように侵入していた。

 

白銀の髪、赤紫の瞳、そして小柄な身体。そのあまりにも幼い外見は、どう見ても10歳前後の子供でしかない。

 

だがその少女こそ、かの魔法学院史上“最強”の異名を冠される存在であった。

 

「···この辺にあるはずなんだけど」

 

彼女は棚を漁りながら、小声で鼻歌混じりに笑う。

 

目的は二つ。 ひとつは、変装魔道具《アークイリュージア》。 そしてもうひとつは、他人になりすますための“幻影認証式の偽身分証”。

 

それらは本来、対テロ・対諜報任務などで使用される高等機密品だった。だがニーナにとって、それらの使用は“遊び”の一部に過ぎない。

教員も彼女の力と境遇には手を焼き、まともに対処できないでいる。

 

手に入れた道具を抱えて、ニーナはふわりと宙を舞う。足音ひとつ立てず、闇の中へと溶けていく。

 

「くふふっ、今度はちゃんとバレないように戻さなきゃ、ね♡」

 

 

 

偽名:ネリィ・ル・カーレン。

年齢:14歳。

所属:北方貴族領の名門、カーレン辺境伯の娘。

 

それがニーナの作り上げた新たな“仮面”だった。

変装魔道具(アークイリュージア)によって、彼女は年齢相応の少女──とはいえ、十分に可憐な見た目の“お嬢様”に姿を変えていた。

 

訪れたのは、エヴァリス国境地帯にある交易都市《カルゼル》。一見すれば、商人と旅人で賑わう開放的な都市だが、その地下には帝国と癒着した“奴隷市場”が存在している。

 

「ここなら、少しはマシな人もいるかな?」

 

彼女は胸の奥にゾクゾクとした期待を抱えていた。 あの無力感を、再び味わえるのではないか?

自分が抗って、足掻いて、それでも踏みにじられる──そんな“本物”の敗北を、もう一度。

 

もちろん事前に偵察は行った。

市場の構造、警備の数、使われている魔法結界。

可能な限り詳細に把握し、あえて最悪のタイミングで潜入する。

 

「変な人に絡まれたら、どうしよっかな〜♡」

 

楽しげに微笑むが、その瞳の奥には狂気めいた光が宿っていた。

 

 

 

奴隷市場の地下区画。 そこでは多種多様な奴隷が競りにかけられていた。 人間、獣人、エルフ──老若男女問わず。

 

ニーナ──いや、ネリィは見学者のひとりとして会場に入る。 変装魔道具の力もあり、誰も彼女の正体に気付かない。

 

「この子、“売り物”のくせに睨んでくるんだ」

 

檻に繋がれた、恐らく年下だろう少女と視線がぶつかる。

だがニーナは怯まない。むしろ笑みを深くする。

 

(あとで解放してあげよっかな♡)

 

そう思いつつも、彼女の関心は“敵”に向いていた。 市場を運営している裏組織。その背後には帝国がいる。 帝国の技術士官や軍人たちも、何人かこの場にいた。

 

──もし、ここで彼らを本気にさせられたら?

そう思ったのだが。

 

「···つまんないなぁ♡」

 

彼女は“わざと”目立つように振る舞ってみせた。

些細なミスを装って肩をぶつけ、男たちに笑顔で絡む。

 

しかし誰ひとり、彼女の挑発に乗らない。

「貴族様」だからか、それともか弱い少女にしか見えないからか。

誰も、本気で彼女を害そうとはしなかった。

 

──違う。 こんなんじゃない。

──これじゃ“ダメ”だ。

 

ニーナは笑みを消し、静かに息を吐く。

そして次の瞬間、右手で“檻”を指差した。

 

「開けて」

 

唐突な指示に、周囲がざわつく。

衛兵のひとりが慌てて駆け寄ってきた。

 

「お、お嬢様、そちらは──」

「開けろって言ってんの♡」

 

バチン、と。 瞬間、衛兵の頭上に稲妻が落ちた。

防御魔術回路を一瞬で焼き切る威力の雷魔法。

しかし彼女にしてみれば、殺さない程度に加減した一撃でしかない。

 

場が静まり返る。 全員の視線が彼女に集まった。

 

──やっと、始まる♡

 

 

 

そこからは一方的な蹂躙だった。

 

「射撃隊、配置につけ!」

「魔術部隊、魔法陣展開! 」

「相手は1人だ、囲んで弱らせれば──」

 

相手も単なるゴロツキでは無い。

ここはちょっとした地位を持つ者も集まる場所であり、警備する兵の練度も決して低くはない···しかし相手が悪すぎた。

 

次々に地を這い、倒れていく男たち。まるで時間すらも操るかのように、ニーナは高位の魔術を無詠唱かつ複数同時に発動する。

瞬く間に敵の兵士が倒れていく。

帝国の勲章を胸に付けた軍人が、歯ぎしりしながら叫んだ。

 

「何者だ貴様ッ!!」

 

ニーナは不敵に笑う。

 

「“ネリィ・ル・カーレン”だよ♡ 辺境伯のご令嬢♡」

 

明らかな虚言。

凄絶な笑顔に、その場の全員が背筋を凍らせた。

しかし帝国の士官は、それでも戦場用の補助装甲を展開しながら吠える。

 

「この襲撃、我が帝国への宣戦布告と見なす!」

 

ニーナは一拍置いて、くすりと微笑む。

 

「···“あたし一人”に負けちゃう程度のザコ国家が、何をイキってんの♡ 怖くなんかないし、今度は全員まとめて来い♡」

 

──昏倒魔法(スリープ)

 

奴隷市場はあっけなく崩壊した。

ニーナはその後、隠れていた奴隷たちを解放し、証拠物資と記録魔道具を回収。

前知識通り、市場の地下倉庫内で軍事転用するために、改造されかかっていた奴隷も解放した。

 

そして救出した全員が、王国に向けて避難し始めたタイミングで放火し、痕跡を焼き払い──彼女自身も姿を消した。

 

「···やっぱり、駄目だった」

 

市場から離れた丘の上で、ひとりつぶやく。

望んでいた成果はほとんど得られなかった。

まだまだ、この程度じゃ駄目だ。

 

でも──

 

「次こそは···きっと、ね♡」

 

燃え落ちるバラックの炎を背に。

“ネリィ・ル・カーレン”はくすりと笑った。

 

 

 

◆◆

 

 

 

その夜、帝国軍司令部。

ロストテクノロジーの再利用を推進するこの国の中枢に、ある報告が届く。

 

《カルゼル奴隷市場、全壊。目撃者によると、10代半ばの少女によって壊滅したとのこと》

 

「ルシフェルトの怪物が動いたか」

 

帝国の魔の手が迫る。

 

 

 

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