“わからされたい”メスガキ   作:訥々

4 / 5
死の淵

帝国中央研究区画。

魔導による警戒網を潜り抜け、ニーナは最奥へと降り立った。

道中に警備兵は一人もおらず、帝国側が彼女の“来訪”を察知していたのは明白だったが、そんなことは気にも留めない。

 

彼女の目に映るのは、遺跡の記憶装置で目にした“それ”──《オメガ=レリクス》だけだ。

あの時の映像が今も脳裏に焼き付いている。

一撃で空を裂き、大地を砕く···“破壊の権化”。

 

「来てあげたよ···あたしを壊してくれるって、信じてるから♡」

 

ただし、そこに眠っているはずの《オメガ=レリクス》は未だ目覚めてはいなかった。

代わりに、塔の最深層で待ち構えていたのはもう一体の兵器──《アーク=ヘルヴィオン》。

 

《アーク=ヘルヴィオン》。

その名は記憶装置には現れなかった。

だが明らかに、ニーナの侵入に反応して起動した防衛用の兵器だ。

 

異様な威圧感。重い機械音。鋼の装甲に輝く魔導式の回路。半有機半機械のボディ。人の形を模した上位兵装。背中には展開型の魔導粒子砲──破城鎚の意匠。

 

ニーナは舌なめずりをした。

 

「こっちもいいじゃん···♡」

 

直後、空間が悲鳴を上げた。

 

アークが繰り出した開幕の一撃により、重力場が捻じ曲がる。

地面が超重力によって円形に抉り抜かれたが、ニーナは直前に地を蹴って飛翔し、風魔法を放って加速···既の所で脱出した。

 

「うわ、やっばぁ♡」

 

アークは即座に形態を切り替え、両腕を展開。

肩部の装甲が割れ、そこからは六本の“魔導杭”が打ち出される。

 

ニーナは空間転移で回避。

次の瞬間に敵の背後に現れ、アークの装甲へ全力の爆裂魔法を叩き込む。

 

腹の底まで響く衝撃と、立ち込める煙。

そこから現れたアークは、ほとんどダメージを負っていないようだった。

 

「···前座にしては結構やるじゃん♡」

 

ニーナの手が煌めき、今度は魔力障壁を展開。

防御用ではなく、超高密度で空間全体を圧壊させる代物だ。

アークの外殻に微細な亀裂が走る。

 

だがそれも一瞬。

アークは機体各所の“魔素分離機構”を起動し、障壁の干渉を逆流させることで、ニーナの術式を崩壊させた。

 

「は?何それ──ッ!」

 

続く反撃。

アークの右腕が瞬く間にブレードユニットへ変形し、その一閃がニーナの左肩を深く斬り裂いた。

受け流したが衝撃は大きい。

彼女の小さい体が宙を舞い、赤い血が弧を描く。

 

「っ···くはぁ♡」

 

学生であるニーナの実戦経験は少ない。

力を付けてからは傷を負うことも殆ど無かった。

それでも、ニーナは不敵な笑みを崩さない。

 

「やっと、やっと届いた♡」

 

血を拭い、肩の出血を魔力で強引に凝固。

魔力の循環を乱す傷の痛みすら、興奮状態にある彼女にとっては快感だった。

 

「でも、足りない♡ まだ足りないよ♡」

 

ニーナは戦場を走る。

足場の悪い瓦礫の上を跳ね、天井の反射を利用して敵の視界を乱し、重力場を逆流させて投影した魔力の鏡像を囮に突撃。

 

そして──

ついにアークの反応コアの位置を見切る。

ニーナは掌に魔力を集中させ、脆弱な一点に衝撃波を叩き込んだ。

 

「はい、おしまい♡」

 

一撃。

アーク=ヘルヴィオンは大破。

制御中枢が断絶し、機体が地鳴りとともに崩れ落ちる。

 

残骸が散乱する中、ニーナは膝に手をついて呼吸を整えた。

 

「ふーっ···ふふっ♡ なかなか良かったけど···やっぱり、“あれ”とはまるで違うなぁ」

 

記憶装置で見た“本命”を思い出し、ニーナの笑みが影を帯びる。

あの破壊劇···一撃ごとに命が削られ、意識が焼かれていくような──!

 

 

 

◆◆

 

 

 

「···《アーク=ヘルヴィオン》、沈黙。魔力中枢の断絶を確認」

 

報告が届いた瞬間、司令部は静寂に包まれた。

誰もがその名を“完璧な武力”と信じていた。たとえプロトタイプとはいえ、あれは帝国魔導兵装の中核を担うべく設計された“化け物”だったのだ。

 

「たった一人で、あれを···」

「問題ない。あの個体はハイエンドとはいえ試作品だった。むしろ単独であのガキに傷を与えたということは、数機作れば実戦でも十二分に使える···そのデータを入手できた時点で上出来だ」

 

総司令の目が映像に向く。

そこに写っていた少女の目は、明らかに“愉悦”に濡れていた。

 

「破滅願望···? まるで気狂いですね」

「ならば我々がその望みを叶えてやろう。《アーク=ヘルヴィオン》が時間を稼いでくれたおかげで、ちょうど準備も整った」

 

──最終兵装《オメガ=レリクス》

──超古代文明が遺した、自己進化型殲滅機構

──かつて一柱の神を殺しかけた、終末の叡智

 

「起動フェーズ最終段階。次元干渉制御、臨界へ到達します」

 

魔法陣が幾重にも重なり合い、ニーナの目の前で黒紅の光が収束していく。

 

 

 

◆◆

 

 

 

黒光りする硬質な巨躯。

浮遊する六枚の魔導翼。

溢れ出る魔力が空間を歪ませる。

 

ニーナの視界がブレる。呼吸が浅くなる。

 

「あはは、いいじゃん···♡」

 

左腕の傷は未だ癒えておらず、少し無茶な動きをしたせいで体全体の動きも鈍い。

···ああ、この感覚がたまらない。

あたしは今、死線に立っている──!

 

「うん···すっごく良い──」

 

思考を終える前に空間が爆ぜた。

 

オメガ=レリクスの魔導翼が輝き、全方位へ向けて斬撃を放つ。 空気の粒子は切り裂かれ、ニーナの周囲の瓦礫が一瞬にして霧散する。

 

「《展開》!!」

 

この領域に逃げ場は存在しない。

結界を体に貼り付けるように広げて防御を固めたが、数秒で罅が入り始める。

やがて、防ぎきれなかった斬撃が全身を浅く切り裂いた。

 

「痛ッ···ぅ」

 

廃都の中央に聳え立つオメガ。

その巨体がゆっくりと、ニーナに視線を向ける。

 

『確認──対象、排除』

 

それは神の声のように、無機質で絶対的だった。

ニーナはやはり微笑んだ。

 

「そう···それでこそ、だよ♡」

 

足場の悪い瓦礫の上を素早く跳ねながら、ニーナは天井の金属片や砕けた魔導水晶の反射面を利用して光線を乱反射させた。

突如、頭上に複数のニーナの像が現れる。

 

同時に、足元に展開した重力場を逆流させ、浮き上がった魔力粒子を利用して鏡像を形成。

その幻影が突進するのと入れ替わりに、本体は逆方向からオメガの死角へ滑り込む。

 

普段ならこんな“小細工”はしない。

それほどまでに強い相手なのだ──ニーナの感情はさらに高揚した。

 

次元転移。オメガの右側面に移動。

しかし反応速度が異常に速い。

ニーナの姿が現れるより先に魔導翼の一枚が対応し、衝撃波が炸裂。

 

(ウソ、読まれてた!?)

 

回避する間もなく吹き飛ばされた。

壁に叩きつけられ、骨が軋む。

 

「かはっ···」

 

視界が揺れる。受け身は成功したが、それでもダメージが大きすぎる。

両足に力が入らない。立ち上がれない。全身の骨に細かな亀裂が走っている。

それでも魔力だけはまだ残っていた。

 

「あはは···ほんとに死ぬやつ···」

 

全身の感覚が薄れていく中、両手をオメガに向けて翳し、魔力を溜める。

ここを死地と定め、後先を考えずに文字通り“死力”を振り絞る。

 

そうして放たれた一撃はオメガの核へ直撃。

爆発の余波が地下空間を揺らし、迸る閃光がニーナの見る全てを白に染めた。

 

あまりの眩しさに顔を背け──次に彼女が見たのは、核が半分抉れた敵の姿。

明らかに致命傷だ。

じきに機能を停止するだろう。

ただし···ニーナを殺したその後で。

 

「私と一緒に死んじゃえ、ざーこ···♡」

 

そう小さく吐き捨て、ニーナは目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

もうちっとだけ続くんじゃ

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。