俺は今、使い魔を使って情報収集をしている。目立つ外見だといけないので昼はカラスの見た目をして、夜はコウモリの使い魔を使っている。
ん? さっそく使い魔が面白い物を見つけたようだ。
使い魔と視界を共有するとそこには、木に輪っかのロープを吊り下げて、物凄く暗い顔をした背中に羽根のある少女がいた。
まさしく、首を吊る一歩手前だった。
しかし、好都合だ。ちょうど普通の見た目をした
どうせ、捨てる命だし俺が貰ってもいいだろう。
そうと決まれば、さっそくあそこに転移をしよう。
◇
side榊スミレ
私は今、自分の人生は終わろうとしている。
自慢ではないが私の人生は幸せだった。そう、幸せだったのだ。普通の家庭に生まれて、親も私をちゃんと愛してくれた。
しかし、その幸せは高校に入ってから崩れ始めた。
親が私を良い高校に入ってほしいと、高い学費を払ってくれてトリニティに入学させてくれたのだ。
トリニティは有名なお嬢様学校だ。入学すればそのお嬢様学校の名に恥じない設備と教育を受けることができる。
当時の私はバカなことに、楽しい学園生活を送れると思っていた。
しかしその想像とは裏腹に私はクラスで浮いた。
いや、当たり前だったのだ。庶民の私とお金持ちの少女たちの話題が合うわけなかった。
そこから、私の地獄が始まった。
私はある日突然、イジメのターゲットにされたのだ。
最初は、物を隠されたり無視されたりした、軽い物だった。私は反応しなければ、いずれ飽きるだろうと思い、そのいじめに無反応を貫いていた。
しかし私の予想とは裏腹にいじめはどんどんエスカレートしていった。
教科書や体操着を破り捨てられ、わざと水をかけられたりするのは序の口だ。悪い日にはトイレや倉庫などの一目につかないような場所で暴力を振るわれる。
単純に殴られたり銃で撃たれたりする。キヴォトスの人間が頑丈なのを良いことに好き放題された。
流石にそうなると、耐えきれなくなった私は先生に相談した。
しかし、意味がなかった。イジメの主犯があらかじめ担任にお金を握らせていたのだ。もちろん、イジメの主犯に私が先生にチクったことが伝わった。
その後は、酷かった。
放課後になると、無理やり倉庫に連れて行かれて殴る蹴るの暴行を受けた。腹や背中などの見えない部分をひたすらにやられて、私の意識が朦朧とするまで暴行された。あの時は、何度吐いたか分からない。
最後の方には涙を流しながら謝罪をしていたと思う。全く、やめてくれなかったが。
それが、毎日続いた。
親は、キヴォトスの外にいる。それに高い学費を払って貰っているのに、今更帰りたいと言えるわけがなかった。
頼れる人がいなかった私の心は毎日のいじめに、着実に擦り切れていった。
ある日、私はいじめの主犯に何故私をイジメるのかを聞いてみた。
『別に、誰でも良かったんだけど、ストレス発散の道具が欲しかったんだよね』
そんな返答が返ってきた。
つまり、私が苦しんでいるのは暇つぶしのような物だったんだ。怒りを抱くほどの気力は私にはなかった。
そこからの私の行動は早かった。
ホームセンターでロープを買って、家族への遺書を書き終えて自殺できそうな人のいない場所を見つけた。良さそうな木にロープを括りつけた。
ロープの前に用意した台に乗り、吊るされたロープに手をかける。
「ごきげんよう! お嬢さん!!」
後ろから声をかけられた。古いラジオのようなノイズ混じりの声が辺りに響く。
その声の主を確かめようと振り向く。
そこには、赤い目、黄色い歯を持ち、口は耳まで裂けている赤いスーツを纏い、変なステッキを持った人間ではない何かがいた。
「悪魔?」
「いかにも!! はじめまして、私の名はアラスター。あなたのお名前はお嬢さん?」
そいつの姿を見た率直な感想が口から溢れたが、どうやら正解だったらしい。
「私に何の用、アラスターさん? 私、今から死ぬ所なんだけど」
「見れば分かります!!」
目の前の悪魔は、私の憔悴している様子を見て面白そうに笑っている。クソ、死ぬ直前にもこんなやつを相手にしないといけないのか。ついてない。
「だったら放っておいてくれない」
「復讐に興味はありませんか?」
私にお構いなしに投げかけられた、思いがけない言葉に私の体は止まる。
「復讐?」
「そうです! 復讐!! あなたをこんな目に遭わせた奴らに復讐したくはありませんか? その復讐の手助けをしてあげましょう!」
「本当にあいつらに復讐できるの? あいつらを酷い目に遭わせられる?」
擦り切れていた私の心に、復讐心という炎が現れ始める。目の前の理外の存在なら、本当にやってくれるかもしれない。
「もちろんです! 私と契約すれば、貴方の思うがまま!!」
「契約?」
「そう契約です。貴方の魂をいただきます」
魂か。少し尻込みしてしまう。しかし、私の内心などお見通しかのように目の前の悪魔は話を続ける。
「ああ、ご安心を。魂をいただくといっても私の部下みたいな物になるだけです。今から、貴方がしようとしているパフォーマンスより面白いですよ」
部下になるだけで、あいつらに復讐できるなら安い物だ。
「そうでしょう。どうせ捨てる命です。どうなったって良いではないですか」
「契約を結びたい。あいつらに復讐させて」
「それでは、取引をしましょう」
悪魔は、私に緑に淡く光る手を差し出して握手を求めてくる。
私はその手を恐る恐る握った。
その瞬間、辺りに緑色の光が散らばり、地面や木におかしな緑色の模様が現れはじめた。
そして、私の首には首輪が現れ、悪魔の握手していない手に私の首から伸びる鎖が握られている。
その光と鎖は、少しすれば跡形もなく消えていった。
「これで、取引完了です」
ニタニタと目の前で笑っている悪魔を見て、もう後戻りできないことを思い知った。